様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「ベヒモスを倒したぞー!」

「うおおおおおおおおおおおっ!」

 血に染まった大太刀を掲げたオウカに応えるように、オーガたちが歓声を上げる。
 ベヒモスの死体は未だに健在だが、少しずつ体から光の粒子が漏れ出ている。いずれ、完全に消滅するだろう。

「よっしゃあ! やったな!」

「ばっちぐー」

 草の塊からはみ出したゴルホの手に権蔵が手を打ち合わせる。
 
「凄い凄い! やりましたね、紅さん!」

「お肉、何十人前……」

 桜もサウワも戦場からそんなに離れていなかったようで、ベヒモスが倒されたのを確認して駆け寄ってきたようだ。
 桜は心底嬉しそうに弾んだ声を出し、土屋さんの背中をばんばんと叩いていた。
 サウワは光の粒子となり、少しずつ消えていくベヒモスの死体を見つめ指をくわえている。

「被害も少なそうだし、思ったより上手くいって安心したよ。皆ご苦労様」

 何人か目潰し後の大暴れに巻き込まれたようだが、全員が仲間の肩を借り、なんとか立ち上がった。
 肩を抱き合い喝采を続けるオーガたちから少し距離を置く。

「・・・・・」

「秋君・・・どうかしたの」

「・・・う〜ん、いやな予感が強まってきている」

「・・・え・・・」

 今も歓声を上げ、オーガマスターとオウカを褒め称えているオーガの人垣に急いで近づいていく。

 浮かれすぎて僕たちの存在が頭から抜けているオーガの輪の中心にいるのは、止めを刺したオウカ。満面の笑みを浮かべ、陽気にみんなの称賛に応えている。
 直ぐ隣に立つリオウの首に腕を回して、元気にはしゃぐ彼女をリオウは黙って優しい目で見つめていた。
 少し離れた場所に立つオーガマスターは腕を組み「はっはっは!」と大声で笑っている。

 この戦いでオウカが急激なレベルアップをしたことだろう。僕たちも協力したので少しはレベルアップが見込める。戦力がかなり強化されたのは間違いない。これで、オークキングとの戦いを有利に運べる。

「光お姉ちゃんは・・・ここにいて」

 僕は、早足でオウカたちの元に向かう。
 いやな予感が強まってきているからだ。
 一歩遅く、目の前で笑顔で見つめ合う顔が――宙に舞った。
 頭が、鮮血を撒き散らしながら吹き飛び、地面に転がる。

「えっ」

 誰の声なのか判断もできない。自分の漏らした声だったかもしれない。
 勝利に酔い幸せの絶頂にいたオウカとリオウの頭を失った体が、その場に崩れ落ちた。

『いやー、素晴らしい戦いだった! 我も手を焼いていたベヒモスを倒してくれて感謝の言葉もない。おまけに経験値までいただけるとは……礼を言うぞ。オーガにも使い道があるようで何よりだ』

 オウカの後ろに何者かが立っている。
 頭に直接響いてくる声。上から目線の威圧的な態度。そいつの真っ直ぐ横に伸びた手の指先から、赤黒い液体が滴っている……オウカとリオウの血か。
 緑がかった肌に口からチラリと見える二本の牙。革の鎧と簡素なズボンはオーガの兵が身に着けていたモノと同じだ。あの顔は・・・あの時の

「お前は――」

「オークキング貴様あああああっ!」

【魂喰らいがはつどうしました。スキルやスキルポイントを入手します。一部の魂を死を司る神に献上します。ベヒモスを倒したことでレベルの上限が上がります】

 土屋さんが言い切るより先にオーガマスターが激昂して、瞬時に間合いを詰めると巨大な隕石を振り下ろした。
 それをオークキングが手の平で受け止めると体が一気に下へと落ち、地面がすり鉢状に陥没する。
 攻撃の余波により周囲にいたオーガと僕たちは吹き飛ばされながら、光お姉ちゃんをとっさに抱き寄せながらも何とか体勢を整えた。
 爆心地の中心へ視線を向けるとニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたオークキングが平然と隕石の武器を受け止めている。
 オーガマスターは全身の筋肉が膨張し、今の一撃に全身全霊の力を込めたのが見て取れる。今も武器を押し込み続け、みしみしと空間が軋みを上げる音が耳に届く。

『相変わらず、せっかちなご老人だ。何故ここにいるのだ、やら、質問はしないでいいのかね?』

「貴様を今ここで殺せば済む話だ!」

 両手で握りしめていた柄から左手を外し、握り拳をオークキングの顔面へ突きつける。
 怒りの鉄拳は相手の顔に届くことなく、空いているもう片方の手にいとも簡単に止められてしまう。

『やれやれ、昔は手も足も出なかったというのに、今は力関係が逆転してしまったようだ。老いとは惨めなものだ。いや、それとも我が強くなりすぎたのか』

「キサマ、キサマァァァッ!」

 歯を食いしばり全身の力を込めているようだが、オークキングはまるで子供の相手をしているかのように、大して力を込めていないように見える。

『やれやれ、聞く耳を持たぬか。どのような手を尽くし、ここにいるのか語りたいのだが。結構苦労したのでな。誰かに話したくてうずうずしているのだ……よっ!』

 オークキングは武器と拳を掴んだ状態から、オーガマスターの腹を膝で蹴り上げる。

「ぐおっ!」

 苦悶の表情を浮かべたオーガマスターの足が地面から離れた。そこで、オークキングは両手を放すと、その場で回転をし、オーガマスターの腹に回し蹴りを叩き込む。

 まるで、この世界には重力が存在しないかのように、地面と水平にオーガマスターの体が飛んでいき、遠くで何か重い物が地面にぶつかった音がした。

『まあまあの飛距離のようだ。都合よく気を失ってくれたか。そこの人間、久方ぶりだな。仲間の男にはかなり楽しませてもらった。さて、どれだけ警戒をしようと万全の準備を整えようと敵わぬ、圧倒的な力を前にした気分はどうだ?』

 視線を向けられただけだというのに、冷汗が体から吹き出しているのがわかる。光お姉ちゃんの様子を確認すると光お姉ちゃんは地面に倒れ伏し、ガタガタとその身を震わせていた。

「くそっ! 動けっ! 動きやがれっ、俺の足!」

 権蔵は歯を食いしばり、体の束縛から逃れようと必死になって足掻いているが、脚が小刻みに震え、力が入っていない。
 オーガたちは片膝を突いた状態で睨みつけているが、体の自由は完全に奪われてしまっているようだ。

『では、何故、我がこのタイミングでここにいるのか語らせてもらおう。貴様らがベヒモス討伐に向かうことも転移者どもがオーガの村に移住したことも全て知っておった。それは何故か、わかるかね』

「仲間が……オーガの村に潜んでいた」

『惜しい、実に惜しいぞ。正解は連れ去られた……いや、連れ去ってもらった転移者二人の目と耳を通じて、全ての情報を手に入れていた。もちろん、スキルを使ってだが。これが正しい答えだ』

 そんなスキルが存在すると――いや、そのスキル一つ心当たりがある。
 島の北西にいる転移者のリーダーが所有しているスキル『契約』なら同じことができるか。

『糸使いよ、わかっているではないか。我も契約のスキルを所有しておる。精神を操り、無理やり契約を結ばせたのだよ。当人たちは覚えておらぬだろうがな。そういえば、この島の西にもいたな、同じスキルの所有者が。まあ、そういうことだ。そう悲観することは無いぞ。我の力を以てしても、貴様だけは心の奥底が覗けぬ。それは誇るべきだとは思わんかね。ふむ、それはまあよい。話を続けるぞ。そやつらから情報を手に入れた我は、貴様らを遠くから鑑賞し、ベヒモス戦の終盤に差し掛かったところで、オーガの一人を殺し入れ替わっておいたのだよ。そして、隙だらけのこやつらをばっさりとな』

 地面に置かれた生首を視線の隅に捉えると鼻で笑う。
 大切な仲間になれたであろうオウカとリオウを侮辱する言葉に、はらわたが煮えくり返りそうになる。

『結構、結構。今は耐えて隙を探す。良いと思うぞ。そこの小僧のように力の差を理解せず、立ち向かおうとする者よりはな』

「殺す……はぁはぁ……絶対にてめえは殺すっ!」

「よくもオウカを・・・・」

 権蔵は食いしばった歯から血が流れ、怒りに目が充血し、荒い呼吸と共に殺意が口から漏れ出ている。

「権蔵、今は抑えろ。立ち向かってどうこうなる相手じゃない!」

「こいつは!オウカを殺したんだぞ! 許せる訳がないだろっ!」

「俺だって許せない……だが、今じゃない。敵を討つのも戦うのも今じゃないっ」

『ふむ、まだ話し足りぬからな、それまでは安心していたまえ。しかし、敵意や殺意を向けられるというのは心地よいものだな。あの醜い緑豚どもは従順な態度か怯えるばかりで、新鮮な感覚だ』

 自分もオークの癖によく言う。

『お、そうであった。貴様らは我をオークだと信じていたな。すまん、すまん。本当の姿をまだ見せていなかった』

 ……今、何を口走った。オークキングは今、何て言った。

『心の声を聞き逃すことは無いと思うが、もう一度言おう。我はオークではない。お、糸使い。貴様は中々鋭い。この姿はスキルにより変化したものだ。我は元々……人間だ。それも、転移者だ』

 そう、か。
 通りで違和感があったはずだよ。
 70年前、転移者がこの島に現れてから頭角を現したオークキング。それが転移者の化けた姿であり、転移者として力を蓄えたのなら、このような強さを得るのも不思議ではない。

『あの春矢に会った時は、思わず笑ってしまったぞ。我と同じく奪取のスキルを所有しているのだからな。尤も70年前も奪取使いと遭遇したことはあったが。やはり、狙うスキルは似てくるものだ』

 『奪取』スキルを持っているのか。いや、ここまでの強さを得て、多彩なスキルを使いこなしているのだ。奪取を所持しているのは必然か。

『糸使いよ、その言葉は耳に痛いぞ。昔の我はまさにそうであった。自分が特別な存在だと信じ、奪取を使い同郷である転移者を殺しまくり、幾つものスキルを手に入れた。契約スキルも他の転移者から奪ったスキルだ。生き残りの転移者は全てこの手で狩るつもりだったのだが……オーガの村に転移者が逃げ込んだという事実は得ていたが、オーガマスターという目の上の瘤がいてな、どうにもならなかったのだよ』

 そして、力を得る為にベヒモスを殺した直後のオウカを襲い、更なる力を手にした。

『急激なレベルアップ直後というのは、力に翻弄され体が上手く動かせぬ。転移者のように生徒手帳で能力をいじれるならまだしも、魔物であるオーガたちには馴染む時間が必要となる。少々卑怯ではあったが、これも島を統一するという野望の為だ』

「統一してどうなる。その後は? 圧倒的な力を得て、何がしたい」

 オークキングは小首を傾げて目を見開くと、じっと土屋さんを凝視した。

『強くなり、弱きものを蹂躙するというのはオスの本能だ。日本の法や無駄な理性で欲望を抑え込む。この島でそんなモノは無意味だと、貴様も理解しているだろう』

「お前とは一生分かり合えないようだな」

『残念ながらそのようだ。さて、これからどうするか。予想を超えた能力の上昇を達成してしまったな。流石にベヒモスと言うべきか。それとも、このオウカのレベルが高いのか。圧倒的な力というものは、存外虚しいものなのだな。このまま蹂躙してやってもよいのだが、興をそがれてしまった。後は豚共に好きにさせ、見物といくか』

 オークキングは小さくため息を吐くと、すっと右腕を上げパチンと指を鳴らした。
 その瞬間、さっきまでは全くなかった魔物の気配が周辺に発生する。それも、尋常ではない数が。

「何だこの数は……100いや、もう一桁上かっ!」

『そちらが戦争を仕掛けてくると言っていたのでな、先に全てのオークを連れてきた。ずっと控えさせたのだが気が付かなかったようだな。まあ、高レベルの隠蔽を貴様らごときが見抜けるとは思っておらぬが』

 隠蔽スキルを上げれば、こんなに大人数の気配すら隠せるというのか。
 前にはオークキング、周辺には2000を超えるオークの群れ。

『おーすまん。足掻くにしても今のままでは戦うことすらできぬな』

 体にのしかかっていた重圧が一瞬にして解けた。手を握り締め感覚を確かめるが、違和感はない。

「何すんだ、土屋さん!」

「権蔵、この状況だ一度しか言わない。俺たち仲間を見捨てて自殺したいのなら勝手にしろ」

「すまねえ、皆。今は、何としても生き延びる場面だよな!」

「絶対に脱出してみせるぞ!」

「仲間の仇!」

「許さんぞ、オークキング!」

「リオウ、オウカ、見ていてくれ!」

 体の自由を取り戻したオーガ数名が無謀にもオークキングに立ち向かっている。
 こちらが止める間もなく、接近したオーガたちが武器を振り下ろすより早く、首から上が吹き飛ぶ。
 その場から一歩も動かず、軽く腕を振るっただけで、オーガたちの頭は粉々に砕け散った。

『やれやれ。我は手を出さぬと言っておるのだがな。歯向かうようなら、容赦はせんぞ』

 続いて何人ものオーガが襲い掛かろうとしていたのだが、ひと睨みでその動きを封じられている。

「馬鹿者どもがっ! 貴様らは村に戻り、この現状を伝えよ!」

 周囲を取り囲んでいたオークの群れの一角から怒声と共に、オーガマスターが姿を現す。
 目の前にいるオークなど気にも留めず、雑草を刈るように無造作に振られた一撃で、上半身と下半身が分断されたオークの死体が幾つも散乱している。
 土と血にまみれたオーガマスターは、オークキングとオーガたちの間に立ち、巨大な隕石の武器を突きつけた。

「キサマの相手はわしだ! 聞け我が子供たちよ! この場は何としても生き延び、力を蓄え、復讐の時を待つのだ!」

 大気を震わせる大声に全身の筋肉が硬直する。だがそれは、オークキングの威圧のように不快な感覚ではなく、全身が引き締まるような思いにさせられた。

「友、土屋よ。お主らは、何処かに身を潜め生き延びてくれ。無事、この島を脱出できる日を祈っておるぞ!」

「オーガマスター……」

 その大きな背に守られ、僕は何も掛ける言葉が思い浮かばなかった。

「皆、出来るだけ、わしから離れろ……もう、怒りが抑えられぬ。わしの大事な可愛い子供たちや孫を殺し、奪おうとするキサマを……憤怒に呑み込まれようと! この命が尽きようと! キサマだけは許さんっ!」
 
「皆、オーガマスターから離れろ! あの手薄になった場所から逃げるぞ!」

『ほおおおう、これはこれは。あの男と同じか……いいぞ、いいぞ!』

 歓喜の声を上げるオークキングの声が背後から響いてくる。

 オーガマスターが敵を蹴散らして飛び込んできたルートを逆走していく。後方からはオーガマスターへ何度も振り返りながらも、ついてくるオーガたちが見えた。



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