様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「まだ目覚めない筈だろ!」

 権蔵の叫ぶ声は、この場にいる全員の思いを代弁していた。
 安全を期すために、偵察部隊が常時ベヒモスに張り付いていたのだ。それなのに、この状況だ。
 何故、目覚めたのか疑問は尽きないが

「雑用部隊はこの場から退避しろ! 前衛は、ここで迎え撃つぞ!」

 オーガマスターは、ここで陣を張り戦うつもりか。
 足裏から伝わる振動が徐々に大きくなり、北の森の大木が次々と薙ぎ倒されていく。
 視界には大木が立ち並び、振動がする度に土砂が舞い上がっているので、相手の全身は目視できないが、その一部を見るだけでも巨大さは伝わってくる。

「あ、あれって、全長10メートルじゃないですよね……」

 放心状態の桜がぽつりと呟く。
 確かに、あれは全長10メートルですむ大きさじゃない。前足が地面に突いた状態から頭の天辺までの高さ――つまり体高が10メートルはある。
 頭の先から尻尾までなら倍は軽く超えるデカさだ。

「桜、早くここから逃げるんだ! サウワ、桜や非戦闘員の護衛を頼む!」

「わかった」

 驚きのあまり未だに動こうとしない桜の手を取り、サウワが引っ張っていく。
 ベヒモスは近づいてきている。
 まだ距離もあり木々が障害物になっているので相手の進行速度はそんなに速くない。見た感じ素早い動きは苦手なようなので、こちらに辿り着くには少し時間が残っているか。

 土屋さんが太めの縄を操り、ベヒモスの進路方向に張り巡らせておく。

 偵察兵は首元に当たる位置にある縄を確認し、軽く膝を曲げ潜り込みながら逃げている。
 縄が一本、二本と引き千切られていく。
 あと数歩で偵察兵を踏みつぶせる距離まで迫ったベヒモスが、突然前のめりに地面へ顔面を打ち付けた。土砂を撒き散らし木々を薙ぎ倒しながら地面を滑り、暫く進んだところでその動きが止まる。

「はあーっ、疲れたが……上手くいったか」

 光お姉ちゃんが風を操り、攻撃していた。

「何やってんだ! 遠距離部隊、攻撃を!」

 土屋さんが未だに動こうとしないリオウの部隊に怒声を飛ばし、攻撃を促す。
 はっとした表情になったリオウが兵に指示を出し、投げ槍と弓、そして投石がベヒモスに降り注ぐ。
 勢いよく無防備な状態で転び脳が揺れ、一時的に脳震とうになったようだ。ベヒモスは四肢を震わせ上手く立ち上がれないでいる。
 そこに攻撃が全弾命中したのだが、全て硬い皮膚に弾かれてしまう。あの様子ではダメージは皆無だろう。

「わしらも行くぞ!」

 主力部隊であるオーガマスター率いる精鋭部隊が飛び出していく。

「私たちも行くわよ!」

 それを見たオウカも一斉に飛び出していった。

「ちょっと、待てっ! くそっ!」

 まだ、接近するのは危険すぎるのだが、闘争本能に火が付いたオーガを止める術はない。
 距離があるので、このままでは彼らが辿り着く前に、ベヒモスが体勢を整えてしまう。

「・・・・僕も行こうかな」

「気をつけてね」

 風の弾丸を操作しつつ、光お姉ちゃんが心配そうに声を掛けてきた。

「いってくるよ」

 ベヒモスに近づくにつれその巨大さに圧倒されそうになる。常識を超えた巨大な生き物というだけで、恐怖を覚えてしまうのは生物としての本能なのだろうか。

 まだ、距離はあるがベヒモスは完全に立ち上がろうとしている。だが、あと一歩のところで、体勢を崩し前足が膝を突くような形となる。そこにオーガたちが己の武器を叩きつけているのだが、鉄を叩くような音が鳴り響くのみで、あの巨体は揺るぎもしない。

「皆の者、どけいっ!」

 オーガマスターの声を聞き、獲物に群がる蟻のように密集していたオーガたちが一斉に飛び退く。
 勢いよく飛び込んできたオーガマスターの手に握られているのは、歪な形状の岩だった。長さは2メートルを超え、先端の太さが直径一メートルはあるだろう。握る部分へ向けて細くなっていて、オーガマスターが握りしめている部分には滑り止めの革が巻き付けられている。

 それはただの岩ではない。ある日空から炎を纏わせながら落ちてきた岩だそうだ。多分隕石なのだろう。
 それが異様に硬く加工することすら不可能だったので、柄の部分に革を巻いただけの武器として扱っているそうだ。
 その隕石を肩に担ぎ、ベヒモスの脇腹目掛け跳び上がり、全力で振り下ろした。
 ベヒモスはその一撃に脅威を感じたのだろう。今まで一切防御していなかったというのに、オーガマスターとの間に巨大な岩盤が現れた。

「温いぞっ!」

 一振り。それだけで岩盤は砕け散り、圧倒的な破壊力により塵と化した。
 岩盤の向こうにいたベヒモスも大人しく待っていたわけではない、体を半回転させるとオーガマスターの側面に尻尾の先端をぶつけてきた。

「ちょこざいな!」

 手にした隕石で尻尾を防ぐが、踏ん張りの利かない空中だったので弾き飛ばされてしまう。
 木々に叩きつけられ、一本、二本、三本と面白いように木々を貫通していき、その数が六に達したところで、ようやく勢いが止まったようだ。

 オーガマスターは、その場にすくっと立ち上がり「中々やるわい」と何処か楽しそうに見える。深刻なダメージがあるようには見えない。

「今度は私よ!」

 身長より少し短いぐらいの大太刀を抜身で構えているオウカが声を上げ、ベヒモスの左足へと斬りつける。
 その刃はベヒモスの皮膚に潜り込むが、深々と切り裂くとまではいかなく、肉に達することなく皮膚だけを切り裂いた。
 オウカの怪力でも、それが限界か。これならば、オーガマスターの攻撃をどうにかして当てさせることのみに集中した方が良さそうだ。
 権蔵も中距離からの水月を飛ばしているが、皮膚に浅く傷がつく程度のようだ。
 リオウも何度か攻撃を加えているのだが、鉄の棒では威力が足りていない。

「・・・ハッ」

 接近して、攻撃するのだが

 ブッシュ

 さほど威力が出ないな。
 深々と皮膚のみ切り裂いた。
 鋼鉄の剣の限界かな。
 ベヒモスの左脚に縄が掛けられた。10名のオーガが縄を引っ張っている。
 鬱陶しそうに鼻を鳴らし、縄の先にいるオーガたちを土で攻撃しようとする度に、僕、光お姉ちゃん、オウカ、リオウ、権蔵の波状攻撃、そしてオーガマスターが飛びかかってくるので、土の操作は防御に手一杯のようだ。

 それでも、決定力のあるオーガマスターが封じこまれているので、こちらが相手にダメージを与えることができていない。
 チクチクと攻撃を続けるオーガと足を引っ張り続ける縄。それに、最も気を付けなければいけない相手オーガマスター。それに加え、縄が自分の足を捕ろうとしている。
 鬱陶しさが限界に達したのだろう、足裏を地面に着けておけば縄が纏わりつくことが無いと考えたようで、脚を一切動かさなくなった。

 そして、唯一の脅威であるオーガマスターには尻尾と土属性の攻撃で対応している。
 僕や光お姉ちゃんやオウカや権蔵、オーガたちの攻撃は無視して、先にオーガマスターを仕留める作戦のようだ。

 ザッシュ ブッシュ

 ギロ

 どうにか肉を薄く切り裂いたのだが、それがベヒモスの癪に触ったようだ。
 こちらをにらみつけるベヒモス。
 マグナム銃が耳をつんざくような音を響かせ、その弾丸はベヒモスの顔面に傷をつけることすらできなかったが、その発射時の爆音に驚いたのだろう。
 ベヒモスは目を見開き、顔を拳銃へと向けた。

『うっし!』

 そのタイミングで二つに分裂した赤い水球が上空からベヒモスの目に飛び込んでいく。

「ドウルグウアアアアアアアアアアアア!」

 今まで声の一つも上げなかったベヒモスが、天に向かい叫びながら前足で両目を擦っている。
 尋常ではない痛みに悶え苦しんでいる。
 暴れ狂うベヒモスに巻き込まれ何人ものオーガが吹き飛ばされていく。縄を握っていたオーガたちはその力に負け、縄を手放したようなので実害はないようだ。
 あまりに激しく暴れるので、オウカたちも近づけずに遠巻きに眺めているしかない。
 僕は剣に『気』を込めた。
 オーガマスターはいつでも一撃を叩き込めるように腰をかがめているが、周囲に漂う仄かな香りに気づいたようで、その視線が土屋に向けられた。

「友よ。あの樽の中身もしや、オーガ殺しか?」

「ご名答。純度が異様に高い村の名産使わせてもらいました」

 先の転移者たちが伝えた文化の一つ、酒造り。生産系の能力に長けた転移者が作り上げた酒造りの技術は、今も絶やされずにこの村に生きている。

「土屋さん、何したんだ……」

 権蔵が目を見開き見つめる先には、よろよろと完全に泥酔した飲み屋街のオッサンのような、千鳥足のベヒモスがいた。

「効果覿面だな。いや、酒だけじゃ心配だったから、酒に昏睡薬を大量に混ぜておいただけだよ」

 混ぜたら危険。酒と睡眠薬。
 睡眠薬の効果が過剰に発揮される場合があるので、医者から止められている組み合わせである。
 本来ならまだ眠っている状態で叩き起こされ、眠り足りない時に昏睡薬と酒のコラボ。ベヒモスは何とか立っているが、起きているだけで精一杯といった感じだ。

「良くわからんが、友のおかげで隙だらけのようだ。秋とワシが渾身の一撃を相手の心臓部分へ叩き込む。それで胸元の皮膚が弾け飛ぶはずだ。後はそこを全力で突け、よいな!」

「わかったよ、お爺ちゃん!」

 とうとう立っていられなくなり、横倒しになり胸元をさらけ出しているベヒモスに、オーガマスターは体の筋肉を膨張させ、足下が陥没する勢いで踏み込み、全身全霊を込めた一撃をベヒモスの心臓部に叩きつけ、僕は溜った『気』を剣に凝縮させ、ベヒモスの腹周辺に叩きつけると、爆音が続き、宙にかなり浮いたベヒモスの巨体だった。

 ベヒモスの胸部や腹部を覆っていた皮膚は完全に吹き飛び、肉もかなり抉れている。
 僕とオーガマスターは、視線をかわし、ベヒモスから離れた。
 ベヒモスの巨体が地面に着くより早く、弾丸のように飛び出していったオウカが、体ごとぶつかるように大太刀をベヒモスの胸部へ潜り込ませた。
 大量の鮮血が吹き出し、それを正面から浴びたオウカは真っ赤に染まっているが、そこで手を止めずに更に奥へと大太刀をめり込ませる。

「グルウオオオオオォォォォ……」

 四肢を小刻みに痙攣させ断末魔を上げると何かを掴むように空に向け前足を伸ばすが、直ぐに動かなくなる。



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