様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 土屋さんたちが部屋から出てきた。

「土屋さん、春矢って桜姉さんが言ってた人か?」

「ああ、そうだ。ゴブリンジェネラルを倒したのが春矢だ」

「オークキングって、オークなのに異様に強いからね。爺ちゃんが言うにはお婆ちゃんたちが、この島に現れてから頭角を現したオークらしいよ」

 転移者を殺し、多くの経験値を手に入れ一気に力を得た可能性が高そうだな。

「ここの扉から裏庭へ繋がっているんだ。ここなら、思いっきり戦えるよ。あとは、対戦者が来るまで、寛いでいてー」

 一階に降り、中庭まで案内してくれたオウカが手を振りながら、屋敷へと戻っていった。
 中庭は僕が通っていた高校のグランドよりも一回り大きく、刈り込まれた芝生があるだけなので、手合せするには充分すぎるスペースを確保している。

「どうすっかなー。やっぱ、オウカに格好いいところ見せたいよな!」

 戦いが始まる前から意気込み過ぎている権蔵が、ストレッチを始めている。

「私はあっちで見ているわ」

 縁野は中庭の隅に生えている木の根元に座り込み、ぼーっと空を眺めている。

「冬になる前に、ちゃんと住む場所を確保できそうだな」

「どれだけの寒さになるか不明だったから、この村の存在はマジで助かるぜ」

「雪はどうなのだろうな」

「俺のとこじゃ滅多に雪が降らなかったから、ここでは降って欲しいぜ。その方が、雰囲気あるしよ!」

 権蔵がニヤついていた。

「おう、待たせてすまんな!」

 屋敷の扉を豪快に開け放って、現れたのはオーガマスターとオウカ。
 それに鉄製らしき棒を手にしたオーガにしては線の細い男が一人。それだけだった。

「まずは、どちらから戦う?」

 オーガマスターの問いかけに、権蔵がすっと手を挙げ裏庭の中心部へ進む。

「まずは、俺の実力を見てもらうぜ」

 格好をつけてそう言い放ち、ちらっと一瞬だがオウカへ視線を向ける。

「ほほう、結構結構。やる気のようだな。では、リオウ相手をせい」

「はっ」

 短く返事をすると、鉄の棒を持ったオーガが中庭へと歩み出る。
 身長は2メートルには達していないが長身だ。本来は肩まで伸びているであろう髪を紐で後ろに束ねている。
 目は閉じているのではないかと誤解してしまうぐらい細目だ。さっきも思ったが、マッチョタイプのオーガが多い中で、細く引き締まったサッカーや野球のスポーツ選手のような身体つきをしている。
 武器らしき鉄の棒はオーガの身長とほぼ同じ長さのようだ。槍の穂先を取ったような武器だが、あれは鉄製の棍なのか。

「ふっ、ここで良いところ見せて、オウカの心を鷲掴みだぜ」

 無表情のまま裏庭を進むリオウと呼ばれた男の動きが、急に止まった。

「リオウ、格好いいとこ見せてよねっ!」

 そう言って、リオウの腕に自分の胸を押し付けるようにして飛び付いてきたオウカが、リオウの頬にキスをした。

「恥ずかしいだろ。離れるんだ」

 そう言いながらも満更ではない顔をしているリオウ。
 権蔵は、顎が外れるのではないかと心配になるぐらい大口を開け、後頭部を叩いたらそのまま眼球が地面に落ちそうな程、目を見開き硬直している権蔵がいる。

「オウカ……その人は、お兄さんなの、か、な?」

 リアルの兄妹は胸押し付けて、キスなんてしない。

「ううん。リオウは私の一番大切な彼氏だよ!」

 うわー、良い笑顔だなぁ。太陽のように輝く笑みとでも言えばいいのだろうか。幸せな気持ちが見ているだけで伝わってくる。
 二人が恋人であることが確定した。
 それに対する権蔵の反応は――

「……異世界も……日本も……同じか……リア充爆発しろ……世界なんて滅べばいい……」

 膝を抱え座り込んだ権蔵が世界を呪いだした。

「二人はラブラブだもんねー。今日、いいとこ見せてくれたらぁ、夜、私も頑張っちゃう!」

「こ、こら、人前でやめないか」

 権蔵が、膝を抱えたまま前転をしているな。

「このまま転がり続けて、俺は丸い球になるんだ……」

 河原の石じゃないのだから、無理だ。

「権蔵とやらは面白い動きをしておるな。日本に伝わるという武術の技かっ!」

 オーガマスターが誤解しているが、突っ込む気すらしない。
 なまじ運動能力が高いおかげで、本来なら不可能な形の前転を、ずっとそれもかなりの速度で回り続けている権蔵。
 これは、戦う前から勝敗が決定している。
 転がり続けている権蔵を土屋さんが足で止めた。足の裏が権蔵の額に当たっているのだが、意にも介さずに、まだ回ろうとしている。

「権蔵。オーガの女性って強い男が好きらしいぞ」

 瞳から光が失われていた権蔵だったが、ほんの少しだが瞳に何か光るものがある。

「あのリオウというオーガはきっと、オーガマスターに次いで強いのだろうな。だから、その戦いを見て、オウカは好きになったって言っていたな」

 権蔵が額の足を払い、すくっとその場に立ち上がった。

「まあ、どっちにしろ、この戦いで権蔵が負けたら、あの二人、今晩激し――」

「刀の錆にしてくれようっ!」

 瞳に光が戻った権蔵は全身に闘気を漲らせ、居合の構えを取った。

「煽りすぎたか」

 額の第三の目が開いて、そこからどす黒い何かが噴き出しているが、見なかったことにしよう。

「オウカ下がれ、彼は本気のようだ」

 オウカを押しのけるとリオウは軽く腰を落とし鉄の棒を構える。

「ふむ、両者やる気のようだな。では、殺害は禁じるが、それ以外なら何でも構わんぞ。存分に戦え! 始めっ!」

 権蔵がじりじりとすり足で間合いを詰め、リオウは鉄の棒を構えたまま権蔵の周りをゆっくりと歩き始める。
 武器の間合いではリオウが有利。
 張り詰めた空気の中、権蔵が歩法を活かし予備動作のない踏み込みで、相手の懐に滑り込むと、剣の間合いから斬撃を放とうとする。
 その動きが見えていたリオウは、斬撃が放たれる前に鉄棒から手を放し、剣の柄尻を咄嗟に手で押さえ、鞘から剣が抜けないようにした。

 そこで、権蔵は斬撃を諦め、腰を少しかがめると、相手の顎先目掛けて頭を突き出す。
 リオウは残りの手で頭と顎の間に手を入れるが、それでは衝撃を完全に殺せずに、足裏が地面から少し離れる。
 宙に浮いた状態では避けることが不可能となる。それを見逃す権蔵ではない。
 追撃の為に一歩踏み込み、掌底を男の急所に叩き込もうとした。
 防御に両手を使っていたリオウに成す術は無いように思われたが、手放した鉄棒の下部に蹴りを入れ、先端部分が弧を描き権蔵が伸ばした手を上から迎撃する。

「面倒なっ」

 絶好のチャンスではあったが、権蔵は一度退くと、仕切り直したようだ。

「血が滾る、魂が燃える」

 糸のような細目がすっと開かれ、鋭い眼光が権蔵を射抜いている。
 二人とも好敵手の存在に心が躍るようで、真剣な表情でありながらも、何処かしら楽しそうだ。

「リオウ行くぞ」

「こい、権蔵」

 まるで長年の友人のように二人は言葉を交わすと、新しいおもちゃを前にした子供の様な、無邪気な笑みを浮かべた。
 二人は同時に踏み込むと――

「そこまでだ」

 二人の間に割って入ったオーガマスターは、鉄棒の先端を無造作に掴み、抜き身の刀身をその指で掴んでいる。

「なっ!」

「マスター!」

 権蔵は驚きの声を上げ、リオウは戦いに水を差されたことに憤りを隠せないでいる。

「これ以上やると、殺し合いになるであろう。お互いの腕は充分すぎる程に確認できた。もう十分だ」

 お互いの実力を測る為の手合せだったことが頭から抜けていたようで、二人とも顔を合わせると、苦笑いを浮かべ武器を収めた。

「リオウ、相変わらず見事な腕だ。これからも精進するがいい。権蔵、お主も見事なものであった。力を貸してくれるというのであれば、心強い」

 リオウは背筋を伸ばし、腰を折り深々と頭を下げる。
 素直な称賛の言葉に権蔵は頭を掻きながら、軽く頭を下げた。

「誠に良き戦いであった。これは次の戦いにも期待できそうだ」

 オーガマスターの視線は僕たちに向けられていた。

「次、誰がやる?僕それとも土屋さん」

「俺がやろう」

「オウカ任せたぞ!」

「うん、任せて、お爺ちゃん!」

 大きな胸を力強く叩き、オウカが歩み出る。
 どっちかが相手だとは思っていたが、オウカか。

「同じ刀を使う者同士、権蔵と戦いたかったけど、土屋も面白そうだよね!」

「お手柔らかに」



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