様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 ある朝目が覚めると教室にいた。
 学校の机と椅子。
 今になっては珍しい黒の学生服。

 詰襟があり首元が少し窮屈な学ランと言うやつかな?

 床は板張りのフローリング。表面に少し光沢があるのはワックスを塗っている為かな。
 そして、自分と同じように椅子に座る学生服のクラスメート。女子はセーラー服を着ている。
 これだけなら少し年代は古いが普通の学校の在り来りな光景だと思う。
 だけど、僕を含めたクラスメートは全員戸惑っている。

 ここは、どこ!?

 この広い教室は!

 少なくともクラスメートが百人以上いると思う!

 それに、この制服は何!

 僕が通っている学校は洋服なんだよ。 

 大声に出して叫んだつもりだったのだが、口がパクパクと開閉しているだけで声にならない。
 周りでも他のクラスメートも同様に取り乱し、何かを叫んでいるようなのだが唇が動いているだけだった。
 今更ながらに気づいたのだが、この教室には音が存在しない。机に拳を打ち付けようが、何の音も聞こえてくることがない。

「皆さーんお待たせしましたぁ」

 だだっ広い教室の扉を開けて入ってきたのは、紺色の女性用スーツを着込み眼鏡を掛けた美しい女性だった。
 艶やかな黒髪を後ろで縛り、胸元のボタンを外し大きく開け、スカートにはおかしいだろと突っ込みを入れたくなるぐらい深いスリットがある。
 全員がこの状況下にありながらも、その女性の怪しくも魅力的過ぎる容姿に引きつけられているようだ。

「はぁい、皆さん注目してくださーい。今、皆さんは色々と混乱してるようですから、先生からお話しますねー。と言っても、詳しい説明はいらないとおもいます。ここにいる皆さんは選ばれた存在です。この状況を直ぐに呑み込めるような人材を選びましたので」

 この女教師の話を聞き、ピンときたものがいるようで、大勢の――いや、ほぼ全員が不安そうな表情を一変させ、顔を輝かせ説明を聞く前から理解しているかのように見える。
 なら、続く言葉は。

「皆さんには異世界に転移してもらいまーす」

 僕に見える範囲のクラスメートが顔に浮かべる感情は歓喜。あまりの喜びに顔が崩れ、ニヤついている者も少なくない。
 正直、僕も嬉しくないと言えば嘘になる。

「喜んでもらえたようで、なによりですぅ。あ、そうそう。何故皆さんが選ばれたのか説明してなかったわ。ちょっとお話長くなるのだけどぉ、今年日本を取り仕切っている担当者、まあ神様みたいな存在が代わったのよ。今までは放任主義で日本に住む人のやりたいようにやらせていたのだけどぉ、新しい担当さんは、中々厳しい人でね。最近の日本の状況が気に入らないらしくて、日本に害を与える存在を一斉排除することに決定しましたぁー」

 両腕を上げ嬉しそうに話す女教師とは正反対のクラスメート達がいる。さっきまでの浮かれた表情が一変し、表情が暗い。僕と同様に彼女の言葉の意味を汲み取ったからだろう。

「つ、ま、り、皆さんは日本に害を与える存在だという訳です!」

 ちょっとまって!

「あ、でもぉ、勘違いしないでね。皆さんが直接悪人ってわけじゃないの。貴方たちは近い将来、日本に悪影響を与える人と関係を持つことになるの。例えばぁ、何十人もの幼児を殺すことになる青年が目覚めるきっかけとなった残虐なシーンが描写された漫画を貸した。例えばぁ、他国から金をもらい日本を陥れる政治家が、子供の頃に溺れているところを助けたとかね」

 そんなの僕たちに罪は無いよ!

「理不尽だ。そんなの当人を消せばいいと思ったでしょぉ。それが駄目なのよ。人は運命の糸を生まれつき持っているの。誰かと運命の糸が切れたところで、また別の人と繋がり同じような道を辿る。それはまさに運命。人が抗うことができない定め」

 テンションが無駄に高かった女教師の声が、すっと落ち着いた冷たい声になり、その言葉が鋭利な刃物の様に僕の胸に突き刺さる。
 つまり、この場にいる人たちは全員、日本に害を与える人と関わりを持つ運命だということなのか。

「でーも、それはあまりに酷いと私は怒ったのよ! 皆さんは性格も良いし、人として何も悪くないって。そしたら、特別処置として異世界転移が認められたってわけぇ」

 それが本当なら、この女教師は僕たちの救世主ということなのかな。
 教室内の何人かはまるで女神を崇めるかのような表情で、熱い視線を女教師に注いでいる。

「じゃあ、いきさつはここまでにして。今後の事についてぇ、簡単にですけどぉ、説明するわね」

 問題はここからだ。

「貴方たちが向かう世界は、レッカンテプニン大陸の何処かとなります。あー、皆さんは比較的近い場所に転移するようにするからぁ、一生懸命探せば転移者の二、三人ぐらいは簡単に会えるんじゃないかなぁ」

 覚えにくい大陸名だよ。それに何処かって……場所はランダムなのか。

「その世界で貴方たちは自由に暮らしてもらって構いません。あっん、勿論、冒険者という定番の職業もありますので安心してくださいねぇ」

 成すべき目的もないのか。それはありがたいな。目標が設定されていて、魔王を倒せとか言われたらどうしようかと思っていた。

「そして、皆さんを何もない状態で異世界に送ったりはしません。もう、わかってるわよね。そう、皆さんお待ちかねのスキル割り振りタイムですよぉ!日本の小説でかなり勉強したから、安心してねっ。皆さんなら直ぐに理解できるシ、ス、テ、ム、よぉ」

 女教師がそう告げると、何の変哲もない普通の机が光を放ち始める。白銀の光が机の表面を覆うと、そこには無数の文字が浮かび上がった。

「タッチパネル方式となっていますのでぇ、皆さんならわかるわよね。じゃあ、1000ポイント上げるからぁ、好きに割り振ってね。制限時間は二時間だから厳守よー。周りと相談したり、アドバイスはカンニング行為と同じだから厳禁よっ。そんなことした子はスキルポイント全部没収になるから気を付けてね。この注意事項ちゃーんと覚えておいてよ。じゃあ、みんなも黙っているのは疲れるだろうから、無声を解除します」

 その瞬間、教室内がざわつき始める。

「おっ、声が出るぞ!」

「マジでこんなことあるんだなっ。俺も異世界転移組か!」

「よっしゃー、何度も妄想したスキル取りまくるぜ」

「やっぱ、錬金術だろ。あと、武術の才能とか欲しいよな」

「私は見た目を変えたい! そういうのあるといいんだけど……」

 全員がこの展開を小説で何度も目にしてきたのだろう。簡単に状況を受け入れ、はしゃいでいる。

「はーい、皆さん先生に注目。みんな良い子だから、説明は不要よねっ」

 いやいや、説明不足だよ!

 僕は咄嗟に手を挙げて質問しようとしたのだが、腕も上がらなければ「質問いいですか」という言葉も口から出てこない。
 周囲の何名かも僕と同じことを考えていたようで、同様に歯を食いしばり懸命に腕を上げようとしている。
 そんな僕たちに女教師が目を向けた。その瞬間、血のように紅い唇が嫌な感じに歪んだように見えたのは――気のせいだとは思えない。
 意味深な笑みは何を意味しているのか。それを考える暇もなく、艶やかな唇は言葉を発する。

「では、今から二時間、お楽しみのスキル割り振りタイム開始よっ。時間をオーバーしたらその時点で打ち切るから、みんな注意だぞっ」

 異世界での生活の全てと言ってもいい、スキル選択が始まる。



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