教室まで辿り着き、リュックから教科書やノートを取り出していると、右腕に水子の霊に取り憑かれたような重苦しさを覚える。
「間っち、おはよ」
「ッ! おぅん? お……おはよう」
振り返るってみると、クラス一の肉食系女子である中野洋子が俺の腕に掴まり胸を押し当てている。
ぽよん……ぽよん。
相坂ほどのボリュームはないが、それでもなかなかの破壊力。
中野は胸が当たっている事などお構いなしで、俺が振り向いたあとも、今にも濁流に飲み込まそうになっているカナヅチの人間のように、よりいっそう強く腕にしがみついて来る。俺もここぞとばかり右腕に全神経を集中すると、ムニュムニュと蠢(うごめ)く未知の感触を余すところなく味わう事に必死になった。
「ねえねえ……間っちって、週末とか何してんのぉ?」
「ん? 週末ならだいたい家で暇してるけど」
「へえ、そうなんだぁ。じゃあさ……じゃあさ、今度一緒に遊びに行こッ!」
「お……おう」
「ふふふ……約束だからねぇ、間っち。RINEのID教えるから交換しようよ」
まさか、これが人生に三度訪れるというモテ期というやつなのか?
「はいッ、これで良し、っと。じゃあ、またねぃ」
不意に幸せな感触が遠ざかっていく。もう少しこの感触を味わっていたかったが、ウィットに富んだ切り返しなんて俺に出来るはずもなく、早々に会話は終了。
三村と相坂の御入場だわ。二人揃って仲良く毎朝登校して来るが、こいつらこれで付き合ってないっていうんだから不思議だ。
「何かあったのか?」
「おおかた久美と喧嘩でもしたんだろ。ほっとけ、ほっとけ」
「くっ、昨日電話でちょっとやりあってな……」
相坂に図星をつかれた事にも動じず、木嶋が言葉を吐き捨てる。
まとめるとこうなる。
どうやら木嶋は出無精らしく、休日にどこかに出掛けようという気があまりないらしい。まあ、特待生の木嶋は土日に部活もあるし、相当マメな男でもない限りそんなものだよな。
しかし、久美としては休日はお洒落して二人で街に出て買い物をしたり、高校生の人気デートスポット巡りをしたいとの事。
そうこうくだらない話に聞き耳をたててるうちに担任の小早川が現れ、朝のショートホームルームの時間と相成った。
昼休み
「お……おい、栞。その、大丈夫か?」
「…………」
恐る恐る発した三村の問いに、相坂は無言のままだ。目をつぶったまま必死に呼吸を整え、気持ちを落ち着かせようとしているのか、鼻息が随分と荒くなっている。
時折、ぶるりと身体を震わせた。
「お前、昨日も飯食ってる時に体調おかしくなったし、病院行ったほうが……」
「はぁ……うっせーな! 何でもねーんだよ。お前はあたしのかーちゃんかよ」
「いや、タケの言う通りだ。無理しないで一度、病院で見て貰ったほうがいい。春日も心配そうにしてるしな」
「…………早退するわ」
食事を終え、ヨーグルト飲料の残りをこぼして捨ててきた相坂はそう言い放つと、荷物をまとめ教室から出て行った。
「栞のやつ、病院に行ったってよ」
帰り際、スマホを操作しながら三村がぽつりと喋る。
「そっか、どうだって?」
「いや、別段異常はないみたいだけど、血液検査もしたからそっちは後日分かるらしい」
次
「間っち、おはよ」
「ッ! おぅん? お……おはよう」
振り返るってみると、クラス一の肉食系女子である中野洋子が俺の腕に掴まり胸を押し当てている。
ぽよん……ぽよん。
相坂ほどのボリュームはないが、それでもなかなかの破壊力。
中野は胸が当たっている事などお構いなしで、俺が振り向いたあとも、今にも濁流に飲み込まそうになっているカナヅチの人間のように、よりいっそう強く腕にしがみついて来る。俺もここぞとばかり右腕に全神経を集中すると、ムニュムニュと蠢(うごめ)く未知の感触を余すところなく味わう事に必死になった。
「ねえねえ……間っちって、週末とか何してんのぉ?」
「ん? 週末ならだいたい家で暇してるけど」
「へえ、そうなんだぁ。じゃあさ……じゃあさ、今度一緒に遊びに行こッ!」
「お……おう」
「ふふふ……約束だからねぇ、間っち。RINEのID教えるから交換しようよ」
まさか、これが人生に三度訪れるというモテ期というやつなのか?
「はいッ、これで良し、っと。じゃあ、またねぃ」
不意に幸せな感触が遠ざかっていく。もう少しこの感触を味わっていたかったが、ウィットに富んだ切り返しなんて俺に出来るはずもなく、早々に会話は終了。
三村と相坂の御入場だわ。二人揃って仲良く毎朝登校して来るが、こいつらこれで付き合ってないっていうんだから不思議だ。
「何かあったのか?」
「おおかた久美と喧嘩でもしたんだろ。ほっとけ、ほっとけ」
「くっ、昨日電話でちょっとやりあってな……」
相坂に図星をつかれた事にも動じず、木嶋が言葉を吐き捨てる。
まとめるとこうなる。
どうやら木嶋は出無精らしく、休日にどこかに出掛けようという気があまりないらしい。まあ、特待生の木嶋は土日に部活もあるし、相当マメな男でもない限りそんなものだよな。
しかし、久美としては休日はお洒落して二人で街に出て買い物をしたり、高校生の人気デートスポット巡りをしたいとの事。
そうこうくだらない話に聞き耳をたててるうちに担任の小早川が現れ、朝のショートホームルームの時間と相成った。
昼休み
「お……おい、栞。その、大丈夫か?」
「…………」
恐る恐る発した三村の問いに、相坂は無言のままだ。目をつぶったまま必死に呼吸を整え、気持ちを落ち着かせようとしているのか、鼻息が随分と荒くなっている。
時折、ぶるりと身体を震わせた。
「お前、昨日も飯食ってる時に体調おかしくなったし、病院行ったほうが……」
「はぁ……うっせーな! 何でもねーんだよ。お前はあたしのかーちゃんかよ」
「いや、タケの言う通りだ。無理しないで一度、病院で見て貰ったほうがいい。春日も心配そうにしてるしな」
「…………早退するわ」
食事を終え、ヨーグルト飲料の残りをこぼして捨ててきた相坂はそう言い放つと、荷物をまとめ教室から出て行った。
「栞のやつ、病院に行ったってよ」
帰り際、スマホを操作しながら三村がぽつりと喋る。
「そっか、どうだって?」
「いや、別段異常はないみたいだけど、血液検査もしたからそっちは後日分かるらしい」
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