勇者は世界を救える力があったにも関わらず、女のために世界を見捨てた。
そんな吟遊詩人の詩が終末の世に語られる。
人々が飢餓と貧困と憎しみの渦中にあって魔女の勇者の詩は多少の慰めになっていた。
魔女は今も生まれ続けている。
この世界に憎しみを語る人間が居る限り――。
「北島君じゃないか」
北島は北を目指していた。
別に理由もなく、ただ自分が北島であるから北に島でも作ろうと思って北を目指していた。
そんなくだらない生き方が北島は好きだった。
否、他にすることはない。
幸太のように義賊に燃える人間に北島はなりそうになかった。
北島には通常の道徳観が欠如している。
それは北島の恰好を見れば誰でも判断がつくことだが……。
「あんた結局私の作った服をダメにしたわね」
「岡崎を追い詰めたときに服ごと消されたからな」
眞鍋立夏は今は北島大地のいいパートナーだった。
もっとも、眞鍋の悩みはいかに北島の服代を稼ぐかでもある。
「ルチェルとハクとシュレと綾芽は元気にしてるかな……」
「さあな……でもハクなら大丈夫だろう」
ハクの話を聞けばマキトとかいう老人が魔女を作り続けているとか。
ハクには旅のついでにいたら話し合って欲しいと言われたが、北島にとってはどうでもいいことだ。
クラスメイトの中には本気で帰る道を模索している連中もいるようだが、大半はチートに満足して日々を自由に過ごしている連中が多い。
「俺を無視するな」
なんでこんな奴がここにいるのか。
北島は眞鍋と並んで訝しむ表情を向けた。
「辰巳、お前と話すことなんかねえよ」
辰巳は目の間に皺を寄せて2人を睨め付ける。
「君たちってただの委員仲間だろ? なんで一緒にいるわけ?」
「関係ないだろ」
「まあね、クラスの連中には他のクラスメイトを服従させるような奴もいるしね」
「私達はそんな関係じゃない」
眞鍋の前に北島が片手を出して制する。
それを見た辰巳は口元を吊り上げた。
「別にいいさ。ただ、1つ断ろうと思ってたんだ。岡崎って奴が君たちに復讐したいって言うからさ。まあ、なんていうか……」
「嘘……」
「岡崎は死んだはずだ」
鼻から息を吐いて笑う辰巳に北島は苛立ちを隠さない。
「全部喋ってくれたよ、岡崎が眞鍋さんに何をしたのか」
「てめえ」
「勘違いしないでくれよ、俺はただ純粋に強い奴がほしかっただけだ」
襟元を捻り上げられて背の低い辰巳の体が浮き上がる。
それを見た後ろのフードの女は咄嗟に辰巳の間に割り込んだ。
「そ――嘘! かすみん!?」
「流石に気づいた?」
辰巳のにやにやした顔は眞鍋に向けられる。
かつて眞鍋と香澄は同じクラスだった。
それだけにその衝撃は大きかった。決して浅からぬ付き合いで、小学生の頃には仲が良かった2人である。
「どうしてよ! 香澄は、香澄は……」
「 力(チート)だな」
「俺だってバカじゃない。この力は死者を完全に元通りにするが、その人格までは完全には取り戻せない。いや、むしろ俺のいいなりなんだ。加えて岡崎、こいつは許せないからね。俺は死ぬのを待ってた」
そう言って手を叩くと岡崎を連れている一行が人垣を割った中から現れる。
「ひどい……」
岡崎は散々痛めつけられたのか、顔面は腫れ上がって両腕を背中に縛られていた。
「ひどい? 変なことを言うね。俺の方がもっと酷い目に遭わされた。みんな知っているはずだ、俺がこいつらにどんな目に遭わされていたか」
誰もは知らない。
いじめは別に公開処刑ばかりとは限らない。
それに人の記憶に残っているものもあれば、忘れ去れるものもある。
北島はそう思う。
なのに、辰巳はその矛先をクラス全員に向けるかのように言い放った。
「誰もお前をずっと見てなんかない」
「ははは! クラス委員長が何を言うかと思えば! みんなだッ! 俺を助けなかった奴、みんなが悪いッ」
そこで一旦怒りを収めた辰巳が片方の顔面だけ吊り上げて嗤う。
「フッ、俺は本当は狭間君に感謝してるんだ。岡崎を殺してくれた、俺が憎くて堪らない奴を殺してくれたんだからね」
「ハクがやりたくてやったとでも思ってるのか?」
綾芽を狙うことをやめていればそこで終わるはずだった。
北島が岡崎に勝てたのは狭間のおかげでもある。
ハクが岡崎の能力の弱点を見出したからこそ、北島は岡崎の弱点を突きハクの力を封じることが出来たのだ。
「どうでもいい。俺はとにかくこの借りを返しに来たんだ」
「なら失せろ」
辰巳は大勢のフード姿の教団を率いて去って行った。
無畏施の法団は今や世界を股に掛ける大教会だ。
もしかしたら辰巳は世界征服でもするつもりなのかもしれないと北島は思う。
ハクは、綾芽とルチェルとシュレと結婚をし、子供をもうけていた。
そんな吟遊詩人の詩が終末の世に語られる。
人々が飢餓と貧困と憎しみの渦中にあって魔女の勇者の詩は多少の慰めになっていた。
魔女は今も生まれ続けている。
この世界に憎しみを語る人間が居る限り――。
「北島君じゃないか」
北島は北を目指していた。
別に理由もなく、ただ自分が北島であるから北に島でも作ろうと思って北を目指していた。
そんなくだらない生き方が北島は好きだった。
否、他にすることはない。
幸太のように義賊に燃える人間に北島はなりそうになかった。
北島には通常の道徳観が欠如している。
それは北島の恰好を見れば誰でも判断がつくことだが……。
「あんた結局私の作った服をダメにしたわね」
「岡崎を追い詰めたときに服ごと消されたからな」
眞鍋立夏は今は北島大地のいいパートナーだった。
もっとも、眞鍋の悩みはいかに北島の服代を稼ぐかでもある。
「ルチェルとハクとシュレと綾芽は元気にしてるかな……」
「さあな……でもハクなら大丈夫だろう」
ハクの話を聞けばマキトとかいう老人が魔女を作り続けているとか。
ハクには旅のついでにいたら話し合って欲しいと言われたが、北島にとってはどうでもいいことだ。
クラスメイトの中には本気で帰る道を模索している連中もいるようだが、大半はチートに満足して日々を自由に過ごしている連中が多い。
「俺を無視するな」
なんでこんな奴がここにいるのか。
北島は眞鍋と並んで訝しむ表情を向けた。
「辰巳、お前と話すことなんかねえよ」
辰巳は目の間に皺を寄せて2人を睨め付ける。
「君たちってただの委員仲間だろ? なんで一緒にいるわけ?」
「関係ないだろ」
「まあね、クラスの連中には他のクラスメイトを服従させるような奴もいるしね」
「私達はそんな関係じゃない」
眞鍋の前に北島が片手を出して制する。
それを見た辰巳は口元を吊り上げた。
「別にいいさ。ただ、1つ断ろうと思ってたんだ。岡崎って奴が君たちに復讐したいって言うからさ。まあ、なんていうか……」
「嘘……」
「岡崎は死んだはずだ」
鼻から息を吐いて笑う辰巳に北島は苛立ちを隠さない。
「全部喋ってくれたよ、岡崎が眞鍋さんに何をしたのか」
「てめえ」
「勘違いしないでくれよ、俺はただ純粋に強い奴がほしかっただけだ」
襟元を捻り上げられて背の低い辰巳の体が浮き上がる。
それを見た後ろのフードの女は咄嗟に辰巳の間に割り込んだ。
「そ――嘘! かすみん!?」
「流石に気づいた?」
辰巳のにやにやした顔は眞鍋に向けられる。
かつて眞鍋と香澄は同じクラスだった。
それだけにその衝撃は大きかった。決して浅からぬ付き合いで、小学生の頃には仲が良かった2人である。
「どうしてよ! 香澄は、香澄は……」
「 力(チート)だな」
「俺だってバカじゃない。この力は死者を完全に元通りにするが、その人格までは完全には取り戻せない。いや、むしろ俺のいいなりなんだ。加えて岡崎、こいつは許せないからね。俺は死ぬのを待ってた」
そう言って手を叩くと岡崎を連れている一行が人垣を割った中から現れる。
「ひどい……」
岡崎は散々痛めつけられたのか、顔面は腫れ上がって両腕を背中に縛られていた。
「ひどい? 変なことを言うね。俺の方がもっと酷い目に遭わされた。みんな知っているはずだ、俺がこいつらにどんな目に遭わされていたか」
誰もは知らない。
いじめは別に公開処刑ばかりとは限らない。
それに人の記憶に残っているものもあれば、忘れ去れるものもある。
北島はそう思う。
なのに、辰巳はその矛先をクラス全員に向けるかのように言い放った。
「誰もお前をずっと見てなんかない」
「ははは! クラス委員長が何を言うかと思えば! みんなだッ! 俺を助けなかった奴、みんなが悪いッ」
そこで一旦怒りを収めた辰巳が片方の顔面だけ吊り上げて嗤う。
「フッ、俺は本当は狭間君に感謝してるんだ。岡崎を殺してくれた、俺が憎くて堪らない奴を殺してくれたんだからね」
「ハクがやりたくてやったとでも思ってるのか?」
綾芽を狙うことをやめていればそこで終わるはずだった。
北島が岡崎に勝てたのは狭間のおかげでもある。
ハクが岡崎の能力の弱点を見出したからこそ、北島は岡崎の弱点を突きハクの力を封じることが出来たのだ。
「どうでもいい。俺はとにかくこの借りを返しに来たんだ」
「なら失せろ」
辰巳は大勢のフード姿の教団を率いて去って行った。
無畏施の法団は今や世界を股に掛ける大教会だ。
もしかしたら辰巳は世界征服でもするつもりなのかもしれないと北島は思う。
ハクは、綾芽とルチェルとシュレと結婚をし、子供をもうけていた。
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