様々な小説の2次小説とオリジナル小説

『ハク様……お気づきですか』

 え、あれ……ここはあれか。死後の国か。
 琥珀色の天井に浮かぶ少女の顔。
 あどけなさを残して黄色い髪を垂らし俺を覗き込んでいる。
 翡翠のような瞳に俺はじっと見入っていた。

『大丈夫ですか? ここがどこか分かりますか?』

『ああ、この反響する感じは石の中だな』

 結局意識を失ってしまったらしい。
 カナリアの熱がまだ残っているみたいだ。
 あの感触、しばらくは忘れられそうにない。

「死人みたいな顔しやがって! 碑文魔石も見つかったしおめえも勇者の仲間なら少しは喜んだらどうだ?」

 おっと、カナリアがすぐそばにいるじゃないか。
 こちらには気がついていないようだが、何やら思い詰めたように椅子に腰掛けている。
 ん? よく見たらダンジョンじゃない。

「もう今日は遅いですし皆さん宿に戻って明日、王宮へ参りましょう」

 フレデリアの体もよく見ると気持ちよさそうだ……あれ、俺ってこんな事考えるようなやつだったっけ?

「マポル様もお手柄でした。あのような場所に碑文があったとしてもマポル様でなければ見つけられなかったでしょう」

 なぜかフレンがマポルをべた褒めしている。
 そうか、マポルの活躍の場はなかったもんな。

「僕にとっては当然だよ。これで僕もりょうしゅだ」

「マポル様は領主になりたかったのですか?」

 話が見えない。

 アリヤが見ていたところによるとダンジョンで俺が敵を殲滅した後、カナリアを残して俺は石に戻ったという。
 魔装している間アリヤがどこにいたかは……怖くて聞けない。

 結局190層まで進んだ一行は200層までの吹き抜け階段を見つけ最後の小部屋に辿り着いたらしい。
 別名ランカンと呼ばれるその10層はクリア直前によくある構造らしく、古の巨大ダンジョンは200層で終わったらしい。
 最後の小部屋にあったのは碑文魔石だった。
 内容は竜の降臨には2つの封印解除が必要という内容のものだった。

 つまり、封印がある限り破滅の竜は降臨しない。
 アウトブレイクはその封印を破壊するために起こる抵抗であり、竜の子供なのだとか。
 そんなよくわからない碑文だったらしいが、アリヤがいうにはその碑文は世界を安心させるに充分なようでこれから各地に碑文を持って旅することになったらしい。

「マポル様ももう強大な敵と戦うことはないでしょうし、明日にはルウニーネの加護をカナリアに託します」

「そう」

 魔女だとバレたカナリアは勇者と同行できない。
 加えてルウニーネの加護つきペンダントはマポルにただエロい知識をもたらしただけだ。
 フレデリアが手放したくなるのも分かる。

 銀髪の少女が脇を通る。

「その魔石は私が預かる」

 凄味のある美しい容姿は有無を言わせない強制力があった。

「なぜですか? この加護はクリストラの王から下賜されたものです。いかにあなたが高名なギルドの方でも――「魔女のものは魔女に返す」

 静まり返る。マポルだけは

「魔女のものってなんだよ?」

 と声を上げていた。

「その魔石は魔女の魔石。ただの加護じゃない。魔女協会に属するカナリアでは不安が残る」

「どういう意味ですか?」

 カナリアも不審な視線を向ける。

「その魔石は憎しみを体現している。それが魔女の魔石」

 マポルから魔石を引きちぎる銀髪の少女は躊躇うことなく俺にキスした。

「ぐはっ」

 背中から落ちた。

「だれ!?」

 集まる視線。やっぱりアリヤは出てこられないのか。

「ジュエル師匠!」

 マポルだけが俺を歓迎しているっぽい。
 俺はそっと仮面を着けた。もう若干遅いけど。

「魔装……人間の魔装」

 銀髪の少女は俺を見て驚いている。

「師匠はルウニーネの加護だったんだな」

 フレンが吹き出した。

「確かに、私も彼がどこから現れたのかは気になっていましたが、まさか魔石だったとは」

「ウィーラーは人間を魔石にすると? そんな話は聞いたことが……」

 フレデリアも俺を見ている。
 みんなで俺を見ないでくれっ。

「とにかく魔石は消えた。私は彼を保護する」

「そうね……そうですか、そんな気味の悪いアイテムはただの呪いです。クリストラの王にもこのことは報告します」

 なんてこった。
 今までありがとうの言葉もなくみんな去って行く。
 俺は魔石としてみんなを見ていただけだからこれが当たり前なんだろうけど。

「そうだ、ジュエル。女の子が逃げない方法教えてくれよ」

「……そう、だな」

 ジュエルももう終わりだな。

「女の子も楽しくなるように頑張れ!」

 俺はぐっとサムズアップしてみせるが、マポルの反応は薄かった。

「ふうん、案外普通だな」

 俺にも未練はないらしい。フレンが俺の仮面の前に来た。

「その仮面、わずかですが異質な魔力を感じますね」

「お前も充分異質だよ」

「そうですね、はあ……妹のために仕事を投げ出したなんて妻たちに知られたら殺されそうですよ」

 妻たちね……。

「それではお元気で……妹とのこと応援してくれますか?」

「しないよ」

 50人も子供作って何言ってるんだこの人。
 さて、残るカナリアは泥だらけの木床を眺めている。

「ねえ、あなた私の魔石知らない?」

 なんか金玉がしゅんってなった。

「それより自己紹介する。私はレイアーナ」

「待って、そんな事より私の魔石の方が大事よ」

 知らないな。

「俺はハク。ルチェルの魔石やってます」

 気持ちはナイトやってます。
 全然守れてないけどな……。

「ハク、あなたの魔装見させて貰った」

 カナリアを無視して話を進めるレイアーナ。

「ちょっと待ってって!」

 カナリアの体が間に入る。
 俺を指さしてカナリアは息巻いた。

「私この人に犯されたんだけど? 被害者である私がまず優先的に話を進められるはずじゃない?」

「名前は」

 全くペースを崩さないレイアーナ。流石です。

「カナリアよ」

「カナリア、あなたはあの時点で何処にも居なかった。推測するにハクと同じ魔石になっていたと考える。魔石が融合するのは当たり前」

 今何かさらっと重要なことを言ったような。

「なんで、いえどうして、そんなに詳しいの?」

「元魔女だから」

 レイアーナの瞳が碧く浮かぶ。

「魔女……レイアーナ……聞いたことない」

「元魔女と言った。数年前にランク1をやってた」

 ランク1!?
 確かにそれくらいの強さだったけど。

「そんな……今更関わらないで貰えません?」

「私も気になることがある。どうしてハクを自分の魔装にしたのか」

 確かにあれは不意打ちだった。
 あの時は確か、レイアーナが俺にキスしようとしていたはずだ。

「あれは……」

 言い淀むカナリアは何か深い理由があるのかもしれない。

「今は言えないならそれでもいい」

 今は、か。本当にどうしてカナリアは俺を魔装にしたのかな。

「あれ、狭間じゃないか」

 現れたのはクラスメイトの1人だった。

「やだな、忘れたわけじゃないだろ辰巳だよ」

 忘れるはずはない。
 クラスで一番浮いていて、一番目立つこいつを。

「覚えてる、ずいぶん感じ変わったな……」

 修学旅行前に見た辰巳重信(たつみしげのぶ)は前髪を揃えて目元を隠すようなヘルメット頭だった。
 岡崎やその他取り巻きにはよくたかられるし、たまにはカッターナイフを持ち出されたりして冗談半分に殺すと言われては反応を面白がられていた。
 要するにいじめられっ子だった辰巳が、自分からまさかこんなにはっきりした口調で話しかけてきたことに俺は戸惑いを隠せない。身長は低いままだが今じゃどこかの芸能プロダクションに所属してそうなイケメン風になっている。

「変わるよ、あれから何ヶ月経ったと思ってるの? みんなこっちに転移してきてるとは思ってたけど狭間も隅に置けないよな、そんな美人を2人も連れてさ」

 饒舌な辰巳は初めてだ。
 あいつが喋ることと言ったらうんとかいやくらいなものだった。
 いつも黒色の服や文房具を好み、昼食はぼっちめし。
 そんな男が俺に饒舌に話しかけている。

「俺もね、パーティに入ってるんだ。無畏施(むいせ)の法団っていう僧侶だけで固められたパーティなんだ。これでもSランクなんだよ」

「Sランク……」

「知り合いですか?」

 レイアーナが話しかけてきたので俺は頷く。
 そういえばレイアーナには俺たち日本人がチート集団になっていることを教えていない。

「他の奴らにも時々大きな街では会うことがあるけど、みんなギルドに入って怪物倒して稼ぐのは似てるね。不思議な力でうまくやってるみたいだ。でも俺なんか他の奴に会うまで翻訳してたからね」

 言語の問題を辰巳は何らかの方法で乗り越えたらしい。
 しかし、その方法はなんだ?

「そうだね、狭間には世話になったこともあるし見せようか」

 ぱんと手を叩くと辰巳の背後に怪しげな緑の光が輝く。
 その中から現れたのは見覚えのある……けれど、知らない女の子だった。
 黒髪黒目、顔の作りは日本人だがあまり類を見ないほど端正。
 とくに栗目の瞳は綺麗な二重になっており、引き込まれるような透明感があった。

「小学5年生のときのこと、覚えてるかい? 武藤香澄(むとうかすみ)――」

 俺はその瞬間に目の前の女性に思い至った。

 当時雑誌などのモデルとして活動していた武藤香澄は小学5年生のときに突如行方不明になっていた。
 後日近場の川辺で遺体となって発見されたが、クラスの誰もが容姿端麗、文武両道の彼女に一目置いていただけにショックは大きかった。
 武藤香澄といえば、誰とでも仲良くなる八方美人というだけでなくどこか少し大人びた人に頼られる性格でもあった。男子で彼女に話しかけられて気分を害するやつはいなかっただろう
 思えば武藤香澄が死んだあの日を境にクラスで何かが変わった気がする。

「俺はね、この世界では死霊術師と呼ばれるんだそうだ。よくある役職の1つだよね。狭間、ゲームしたことある?」

 長引くのでしたら先にルチェルに会いに行ってきますとカナリアがどこかに歩いて行く。
 転移するつもりなのかもしれない。

「ああ」

 辰巳との会話も目下最大時間を更新中だ。
 聞かれてもいないことをぺらぺらといつまでも喋る男っていうのはこうも見苦しいのか。

「死人を蘇らせる俺の力はただ蘇らせるだけじゃない。生前の記憶を持たせる事も出来るし、自分の思うように書き換えることもできるんだ。どう、すごくない?」

 すごい……そう思ってすぐにそれを打ち消す。
 辰巳なんかに嫉妬をわずかでも湧かせた自分が自分を許さなかった。
 こいつはオタクで根暗で何を考えているかわからない。
 だからこそ、いじめのターゲットになっていたわけもある。

 いじめはいじめられる側にも原因があるとはよく言うが、辰巳は間違いなくその例に当てはまる。
 こいつの猟奇的な側面は誰も好意など持たないのだから。
 大半のいじめはいじめられる側に何の落ち度もない場合がほとんどである。

「俺の力があれば世の中は俺のものになる。意味わかるかい?」

 俺はゾッとした。

「あはは! 冗談だよ、冗談! ほら、みんな行くよ!」

 無畏施の法団。そのパーティは辰巳がリーダーらしい。
 無表情のまま辰巳に着いていく一行。
 辰巳は去り際に「この話をしたクラスメイトは全員そんな顔をしたよ」なんて言葉を残して行った。


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