『それで、加護っていうのは何?』
俺がただの石でなくなっているのはアリヤがいるせいだろうと思って。
『ルウニーネの加護ですよね。えっと、それについては……毒とかが効かなくなる加護みたいです』
アリヤが説明するには本来この加護は勇者に譲渡するものだったらしい。
『譲渡の方法は?』
『え、もうそれはやったじゃないですか、やだ……』
アリヤが頬を染めている。
え、キスくらいしかしてなかったと思う。
『あんな簡単に渡せるもんなのか?』
両手の指先を胸の前で合わせて何度も頷くアリヤ。
『本当は私なんかが持ってちゃいけない加護なんです。それを神父様が目を付けてくださったおかげでこうして世の中のために役立てることが出来る予定だったんです……』
なるほどね。
でもその神父様も勇者様も俺の見た限りじゃろくな奴じゃない。
というか、だいたいその手の謳い文句はろくなことにならない気がするのは俺だけかな。
『アリヤに返せばいいのか?』
迫ってみるとアリヤは顔を真っ赤に首を振って拒否した。そんなに嫌なのかよ!
『加護の返還なんて出来ません! 私はあなたに全身全霊でき、口付けしたんです。もし返されたりしたら加護が消滅するって教わりましたっ』
それも何処まで本当か怪しいな。
『嘘じゃないです、信じて下さい』
譲渡だけは本当だろうけど、ふざけた譲渡方法だけに消滅もあながち嘘とは言い切れない。
『わかった、じゃあ俺が勇者にキスすれば移ったりするのか?』
『う、出来ないと思います。男性から男性に移すことは出来ないのと、二重に譲渡すると加護は消えるそうです』
なんだよこの加護ってのは……。
そんなに凄いのか?
チートの方が凄いと思うけど、この世界のことだからどんなチート加護なのかも気になる。
『そろそろウィプス神父様が謁見の間に入られますね』
アリヤは貧しい農村で生まれた娘の1人で姉妹が2人いたらしい。
巡回中の僧侶に神性を発見されて加護持ちだと分かったのだとか。
教会の資産として丁重に育てられたのか、村娘とは思えないほど品がある。
謁見の間は思った以上に広い。学校の体育館くらいあるんじゃないか?
こんなに広い意味もわからないけど。
「では、あちらでお待ちに」
神父は衛兵に軽く会釈して別れると赤い絨毯の上で立っている。
「ユグス=デル=サウリャ国王陛下のお成り!」
突然衛兵たちが叫ぶと奥の方から数人の男女が歩いているのが見えた。
『あ、あれが王様なんですね。私も初めて見ますっ』
荘厳な衣装はまさに王にふさわしい派手さがある。
そしてこの静けさはなんだろう。
「国王陛下は大変ご立腹なさっております!」
王の隣にいた侍従? そいつが男で王の言葉を耳打ちで聞いている。
なんとも遠回しで面倒臭い。
「そちらの献上の品を見せろと仰せです!」
「はっ、こちらに!」
ウィプス神父が俺の入った箱を両手で持ち上げると鑑定書と共に俺は王の下へと運ばれた。
『えっ!?』
近づいて行くに連れてまさかとは思ったがカナリアみたいなのがいる。
金髪碧目で腰まで伸びた髪。
王の脇に立っているその姿は間違いなくカナリアだ。髪型が変わったな。
「ほう」
王は感嘆しているが、カナリアは目を白黒させている。
そらそうだろう、ルチェルの魔石がこんなところにあるほうがおかしい。
「陛下、こちらの石は魔石にございます。出自を聞いた方がよろしいかと」
カナリアが冷静に注釈すると王はその通りにした。
「国王陛下はこの石の出所をお知りになりたがっている!」
これにはウィプス神父も答えに困窮するのが分かった。
考えていなかったのか?
まあ、汚名をそそぎたい一心でやってきたのかもしれない。
「そ、それは件の者が身につけていたアクセサリーでございます。恐らくそのために加護が移ったのではと――」
王はその答えに満足しなかったみたいだ。
首を振って手を払った。
「下がれとの仰せだ!」
「はっ、例の件、何卒お願い申し上げます」
入れ違いで勇者がずかずかと入ってくる。
あの偉そうなガキ。遠目からでもはっきりとわかるし、何より後ろの派手な女の子が目立ちすぎる。
「来いと言うから来てやったのに待たせやがって。王様って世界が滅びようとも玉座から動かないつもり?」
ウィプス神父に気がついたのだろう。
勇者は後ろを振り返って禿げた後頭部に女性とそう変わらない声で呼び止める。
「おい、待てよ。お前、昨日会ったよね」
顎を少し上げてこちらを睨め付ける視線はガキのそれじゃない。
「王様お前さぁ、まさかこの男から何か貰って僕をやり込めようとした?」
ガキの気配じゃない。
部屋全体が重くなるとカナリアが前に出た。
やめとけ。そいつなんかヤバいぞ。
「ま、いいや。お前、こっち来て」
ウィプス神父の様子がおかしい。
身体を震わせて苦悶の表情を浮かべている。
「い、嫌だ……私は、出て行かせて貰う」
「あははは! 僕に逆らえるならご自由に? さ、僕の前に来て全てを話すんだ」
「いやだぁあああああ――――!」
失禁してしまう神父。なんだあれ。俺はなんて茶番を見てるんだ?
漏らしながら勇者の前に来て座ってしまう神父は勇者から顔を反らして小刻みに身体を揺らしている。
「答えなよ、あそこのデブに何をお渡ししたのか」
「うっ、うっ、うくっ! ルウニーネの加護のついた……ペンダントを渡しました」
勇者の顔が醜悪に歪む。
「――おらぁあぁあぁあああ! ……ルウニーネの加護はないって聞いたぞ、何勝手に王如きに貢いでんだよ」
何度も神父の顔を殴りつける勇者。
拳が小さいし、威力も年相応のガキのものだ。
それでも神父のプライドがそれを許さないのか涙を流している。
「も、申し訳、ありません……っ」
「あるならさっさと寄越せってんだよ! わざわざ可愛い女の子をくれるっていうから行ってやったのに女もいない、加護もないじゃ無駄足じゃないかよぉ」
拳が痛くなったのか隣にいる女の子が勇者の手を魔法で回復している。
やっぱりあるのか、ヒーリング魔法。
「お前、僕を舐めすぎなんだよ……死刑だ」
勇者の突然冷えた声が部屋に響くと神父は目を見開いた。
「ぐちゃぐちゃになれ」
ウィプス神父がこちらにゆっくりを顔を向ける。俺の場所が分かったのかと思った。
しかしその瞳に映っていたのは絶望。
王様に何かを伝えようとしたのか、否、死に行く者が最期に見せる慈悲を乞う顔。
「おっ――ぶ、べ……ぁ――ッ」
その場でプラスチックを沸騰させたかのようにボコボコと沸きたち粘土のように捏ねられて人間の造形を失った何か。
『見るな』
口元を抑えて顔を真っ白にしているアリヤの目を覆う。
『うっ、おぇ……』
遅かったか。
それにしてもあの勇者。やっぱり何かのチート持ちだ。
人間1人を言葉だけで殺して見せた。
カナリアでさえあいつには畏怖の眼差しを向けている。
「さあて、王様。さっさとこいつから貰ったもの、渡してよ」
無邪気な少年を装ったって悪魔にしか見えない。
俺はそんなやつの元に運ばれていった。
しかもカナリアの手で。
「えへ、これがそうなの? ちっさ」
へえと手に取って眺められていた俺は不意に地面に叩き落とされる。
「割れろ」
まさかと思うより先に石全体に衝撃が走ったようだ。
『うそ……ハク様』
「面白いね、僕の力をはね除けるみたいだ」
カナリアと視線を合わせる勇者。
もちろんカナリアに出来ることなんかないのかただ勇者を見下ろしている。
「割れろ、割れろ、割れろ、割れろ、割れろ、割れろ、割れろ――」
ぐ……!? あっ!?
視線が一気に石の中に引き戻されて天井に亀裂が入ると同時、俺の肩から何かが吹き出した。
生温かいそれを手にしてみる。俺の血……血!?
『ハク様ッ――!』
『が亜アァアァ亜―――ッ!?』
激痛と呼吸の詰まり具合に地面をのたうち回る。
こいつは神か何かか? 言葉だけで俺を――。
「お、割れそうだ」
俺はアリヤに押さえ込まれるが肩の出血が酷くて息が出来ない。
『ハク様、私を感じてください。いいですか? いきますよ? ――ん……』
口元にアリヤの唇が押しつけられる。
こんなタイミングでキスする奴があるか。
それでも一瞬和らいだ痛覚をもう一度探るように俺はアリヤの唇に意識を集中する。
徐々に引いていく痛みを手繰るようにその唇の感触を求めてやがて俺の痛みは疼く程度に収まった。
『はぁっ……はぁっ』
どれだけ長い間そうしていたのか、酸欠になった俺たちは荒い息を繰り返している。
「割れ――「もう充分ではないしょうか」
カナリアが勇者を諫めるように声を上げた。
「そうだね、割れそうだったんだけどなあ。本当にルウニーネの加護があるみたいだね」
で? と勇者は王に振り返る。
侍従がやや挙動不審になりながら王に耳打ちされていた。
「国王陛下は役割を果たしたと仰せです」
「自分で話せないのかよ、たくっ……ま、加護さえ手に入ればこんな湿気た街なんか興味ないよ。それとお前、今日から僕のモノだ」
カナリアがびくっと身体を震わせる。
「行き掛けの駄賃だよ。それと僕を煩わせた責任として後3人王室からとびきり美人のお姫様出してね。不細工だったら殺すから」
こ、こいつ滅茶苦茶だ……!
王が涙目になりながら頷いている。
俺は勇者の胸元に新しいペンダントになって掛けられてしまう。前よりずっと豪華だけど嬉しくないわ。
最悪の人間に行き着いたぞ! ルチェル、シュレ、いや誰でもいいから助けに来てくれ! いや、来て下さい、マジでお願いします。
次
俺がただの石でなくなっているのはアリヤがいるせいだろうと思って。
『ルウニーネの加護ですよね。えっと、それについては……毒とかが効かなくなる加護みたいです』
アリヤが説明するには本来この加護は勇者に譲渡するものだったらしい。
『譲渡の方法は?』
『え、もうそれはやったじゃないですか、やだ……』
アリヤが頬を染めている。
え、キスくらいしかしてなかったと思う。
『あんな簡単に渡せるもんなのか?』
両手の指先を胸の前で合わせて何度も頷くアリヤ。
『本当は私なんかが持ってちゃいけない加護なんです。それを神父様が目を付けてくださったおかげでこうして世の中のために役立てることが出来る予定だったんです……』
なるほどね。
でもその神父様も勇者様も俺の見た限りじゃろくな奴じゃない。
というか、だいたいその手の謳い文句はろくなことにならない気がするのは俺だけかな。
『アリヤに返せばいいのか?』
迫ってみるとアリヤは顔を真っ赤に首を振って拒否した。そんなに嫌なのかよ!
『加護の返還なんて出来ません! 私はあなたに全身全霊でき、口付けしたんです。もし返されたりしたら加護が消滅するって教わりましたっ』
それも何処まで本当か怪しいな。
『嘘じゃないです、信じて下さい』
譲渡だけは本当だろうけど、ふざけた譲渡方法だけに消滅もあながち嘘とは言い切れない。
『わかった、じゃあ俺が勇者にキスすれば移ったりするのか?』
『う、出来ないと思います。男性から男性に移すことは出来ないのと、二重に譲渡すると加護は消えるそうです』
なんだよこの加護ってのは……。
そんなに凄いのか?
チートの方が凄いと思うけど、この世界のことだからどんなチート加護なのかも気になる。
『そろそろウィプス神父様が謁見の間に入られますね』
アリヤは貧しい農村で生まれた娘の1人で姉妹が2人いたらしい。
巡回中の僧侶に神性を発見されて加護持ちだと分かったのだとか。
教会の資産として丁重に育てられたのか、村娘とは思えないほど品がある。
謁見の間は思った以上に広い。学校の体育館くらいあるんじゃないか?
こんなに広い意味もわからないけど。
「では、あちらでお待ちに」
神父は衛兵に軽く会釈して別れると赤い絨毯の上で立っている。
「ユグス=デル=サウリャ国王陛下のお成り!」
突然衛兵たちが叫ぶと奥の方から数人の男女が歩いているのが見えた。
『あ、あれが王様なんですね。私も初めて見ますっ』
荘厳な衣装はまさに王にふさわしい派手さがある。
そしてこの静けさはなんだろう。
「国王陛下は大変ご立腹なさっております!」
王の隣にいた侍従? そいつが男で王の言葉を耳打ちで聞いている。
なんとも遠回しで面倒臭い。
「そちらの献上の品を見せろと仰せです!」
「はっ、こちらに!」
ウィプス神父が俺の入った箱を両手で持ち上げると鑑定書と共に俺は王の下へと運ばれた。
『えっ!?』
近づいて行くに連れてまさかとは思ったがカナリアみたいなのがいる。
金髪碧目で腰まで伸びた髪。
王の脇に立っているその姿は間違いなくカナリアだ。髪型が変わったな。
「ほう」
王は感嘆しているが、カナリアは目を白黒させている。
そらそうだろう、ルチェルの魔石がこんなところにあるほうがおかしい。
「陛下、こちらの石は魔石にございます。出自を聞いた方がよろしいかと」
カナリアが冷静に注釈すると王はその通りにした。
「国王陛下はこの石の出所をお知りになりたがっている!」
これにはウィプス神父も答えに困窮するのが分かった。
考えていなかったのか?
まあ、汚名をそそぎたい一心でやってきたのかもしれない。
「そ、それは件の者が身につけていたアクセサリーでございます。恐らくそのために加護が移ったのではと――」
王はその答えに満足しなかったみたいだ。
首を振って手を払った。
「下がれとの仰せだ!」
「はっ、例の件、何卒お願い申し上げます」
入れ違いで勇者がずかずかと入ってくる。
あの偉そうなガキ。遠目からでもはっきりとわかるし、何より後ろの派手な女の子が目立ちすぎる。
「来いと言うから来てやったのに待たせやがって。王様って世界が滅びようとも玉座から動かないつもり?」
ウィプス神父に気がついたのだろう。
勇者は後ろを振り返って禿げた後頭部に女性とそう変わらない声で呼び止める。
「おい、待てよ。お前、昨日会ったよね」
顎を少し上げてこちらを睨め付ける視線はガキのそれじゃない。
「王様お前さぁ、まさかこの男から何か貰って僕をやり込めようとした?」
ガキの気配じゃない。
部屋全体が重くなるとカナリアが前に出た。
やめとけ。そいつなんかヤバいぞ。
「ま、いいや。お前、こっち来て」
ウィプス神父の様子がおかしい。
身体を震わせて苦悶の表情を浮かべている。
「い、嫌だ……私は、出て行かせて貰う」
「あははは! 僕に逆らえるならご自由に? さ、僕の前に来て全てを話すんだ」
「いやだぁあああああ――――!」
失禁してしまう神父。なんだあれ。俺はなんて茶番を見てるんだ?
漏らしながら勇者の前に来て座ってしまう神父は勇者から顔を反らして小刻みに身体を揺らしている。
「答えなよ、あそこのデブに何をお渡ししたのか」
「うっ、うっ、うくっ! ルウニーネの加護のついた……ペンダントを渡しました」
勇者の顔が醜悪に歪む。
「――おらぁあぁあぁあああ! ……ルウニーネの加護はないって聞いたぞ、何勝手に王如きに貢いでんだよ」
何度も神父の顔を殴りつける勇者。
拳が小さいし、威力も年相応のガキのものだ。
それでも神父のプライドがそれを許さないのか涙を流している。
「も、申し訳、ありません……っ」
「あるならさっさと寄越せってんだよ! わざわざ可愛い女の子をくれるっていうから行ってやったのに女もいない、加護もないじゃ無駄足じゃないかよぉ」
拳が痛くなったのか隣にいる女の子が勇者の手を魔法で回復している。
やっぱりあるのか、ヒーリング魔法。
「お前、僕を舐めすぎなんだよ……死刑だ」
勇者の突然冷えた声が部屋に響くと神父は目を見開いた。
「ぐちゃぐちゃになれ」
ウィプス神父がこちらにゆっくりを顔を向ける。俺の場所が分かったのかと思った。
しかしその瞳に映っていたのは絶望。
王様に何かを伝えようとしたのか、否、死に行く者が最期に見せる慈悲を乞う顔。
「おっ――ぶ、べ……ぁ――ッ」
その場でプラスチックを沸騰させたかのようにボコボコと沸きたち粘土のように捏ねられて人間の造形を失った何か。
『見るな』
口元を抑えて顔を真っ白にしているアリヤの目を覆う。
『うっ、おぇ……』
遅かったか。
それにしてもあの勇者。やっぱり何かのチート持ちだ。
人間1人を言葉だけで殺して見せた。
カナリアでさえあいつには畏怖の眼差しを向けている。
「さあて、王様。さっさとこいつから貰ったもの、渡してよ」
無邪気な少年を装ったって悪魔にしか見えない。
俺はそんなやつの元に運ばれていった。
しかもカナリアの手で。
「えへ、これがそうなの? ちっさ」
へえと手に取って眺められていた俺は不意に地面に叩き落とされる。
「割れろ」
まさかと思うより先に石全体に衝撃が走ったようだ。
『うそ……ハク様』
「面白いね、僕の力をはね除けるみたいだ」
カナリアと視線を合わせる勇者。
もちろんカナリアに出来ることなんかないのかただ勇者を見下ろしている。
「割れろ、割れろ、割れろ、割れろ、割れろ、割れろ、割れろ――」
ぐ……!? あっ!?
視線が一気に石の中に引き戻されて天井に亀裂が入ると同時、俺の肩から何かが吹き出した。
生温かいそれを手にしてみる。俺の血……血!?
『ハク様ッ――!』
『が亜アァアァ亜―――ッ!?』
激痛と呼吸の詰まり具合に地面をのたうち回る。
こいつは神か何かか? 言葉だけで俺を――。
「お、割れそうだ」
俺はアリヤに押さえ込まれるが肩の出血が酷くて息が出来ない。
『ハク様、私を感じてください。いいですか? いきますよ? ――ん……』
口元にアリヤの唇が押しつけられる。
こんなタイミングでキスする奴があるか。
それでも一瞬和らいだ痛覚をもう一度探るように俺はアリヤの唇に意識を集中する。
徐々に引いていく痛みを手繰るようにその唇の感触を求めてやがて俺の痛みは疼く程度に収まった。
『はぁっ……はぁっ』
どれだけ長い間そうしていたのか、酸欠になった俺たちは荒い息を繰り返している。
「割れ――「もう充分ではないしょうか」
カナリアが勇者を諫めるように声を上げた。
「そうだね、割れそうだったんだけどなあ。本当にルウニーネの加護があるみたいだね」
で? と勇者は王に振り返る。
侍従がやや挙動不審になりながら王に耳打ちされていた。
「国王陛下は役割を果たしたと仰せです」
「自分で話せないのかよ、たくっ……ま、加護さえ手に入ればこんな湿気た街なんか興味ないよ。それとお前、今日から僕のモノだ」
カナリアがびくっと身体を震わせる。
「行き掛けの駄賃だよ。それと僕を煩わせた責任として後3人王室からとびきり美人のお姫様出してね。不細工だったら殺すから」
こ、こいつ滅茶苦茶だ……!
王が涙目になりながら頷いている。
俺は勇者の胸元に新しいペンダントになって掛けられてしまう。前よりずっと豪華だけど嬉しくないわ。
最悪の人間に行き着いたぞ! ルチェル、シュレ、いや誰でもいいから助けに来てくれ! いや、来て下さい、マジでお願いします。
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