様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 幸太とは高校の頃に親しくなった友人だ。
 幸太は曲がった事が嫌いでそのせいか、先走ってしまうところがある。

「またバスケやりたいな」

「この世界には遊びがないのか?」

 メファが食事を持ってきて視線が合う。

「口を挟んで悪いけどこの世界にも遊びはあるよ。ボールを蹴ったり石を投げたりね」

 幸太と俺は苦笑いする。
 並べられた料理は魚介類の煮物だ。
 久々に食べる食事に俺は少し笑みがこぼれる。

「頂きます」

 ルチェルがはあ? と首を傾げた。ちょっと絡まれると面倒なのでルチェルは放置気味だ。
 まずは飯を食えと言っておいた。

「そうだ、お前も眞鍋さんから言語理解のスキルを受けたのか?」

「何?」

「この世界に来たときここの連中何言ってるのかわからなかっただろ? モローハーとかなんとか言ってさ」

「いいや? 俺がこっちの世界に来たのは――」

 視線でルチェルを見る。全て説明し終えると幸太は納得したように口の前に手を持っていった。

「不思議なこともあるもんだな。俺たちは誰かに呼ばれたような感じは全くなかった。本当に気づいたらあの辺りにいた感じだ。変な力があるって気づいてから化け物に襲われたし、あれで完全にここが元の世界じゃないと思ったな」

 そうなのだ、幸太たちには明確な繋がりがない。

「俺も似たようなもんだよ。ルチェルにキスして貰わないと人間に戻ることすらできないんだぜ? しかも時間制限付きだ」

「困ってるみたいだな」

 一瞬ルチェルは食事を喉に詰まらせたようだ。

「キスはいいが「こほっ(けほっ」)、実体化がな……この世界を石の中から眺めるのは退屈だぞ?」

「メファ! 水持ってきて!」

「あいよ!」

 ルチェルが食事を喉に詰まらせたと幸太は思っているようだ。

「まあ俺たちと同じくらいおかしな状況なんだな、ハクも」

「ああ、コウや北島ほどじゃないがな」

 俺は間違っても愛の義賊を名乗ったりスパークジェネラルを名乗ったりはしない。ジュエルだったか? どうでもいいや。
 幸太は蒸かした芋で魚を掻き込みながら一息着いた。
 俺はスパークジェネラルだかジュエルだかエンジェルだかの北島の話をするか逡巡してた。

「なあコウ、北島がお前と別れてから何してるか知ってるか?」

「いや? あいつとは散々揉めたからなあ。やっぱり悪を裁いてこそ正義だと思うし?」

 なんだかキモい言葉尻の上げ方だ。幸太も少し変わったな。

「全裸でスパークジェルだかなんだかって名乗って雷撃ってたぞ」

「全裸で?」

「ああ」

 あいつらしいなと幸太は笑う。

「そうだハク、1つ教えておく。この世界で他人から何かを奪って咎める奴はいない。命、金、物、なんでもだ」

「そんな気はしてる」

 ただ奪われているのはルチェルだけだがな。
 俺のものなんてこの着ている制服と靴くらいだ。
 後の物なんか何もない。
 コウに至っては今や立派なこの世界の住人になっている。身ぐるみ剥がれたらしいから当然だが。

「飯も食ったし俺は寝る。明日はまた義賊の仕事があんだ。仲間になりたいってやつもいてな……楽しくなるぜ」

 その顔は笑ってるが俺にはどこか虚勢にも見えた。
 無理をしているような雰囲気が長い付き合いだからわかる。
 俺は幸太がメファと何か話してから2階の寝室に消えていくのを見てそれからルチェルを見た。
 顔色は良くなっている。眉が垂れ下がって少し気疲れが出ているようだ。
 不躾な視線をしてようやくルチェルは口を開くことにしたようだ。

「どうして私が魔女だってことは言わなかったの?」

「俺は幸太と話したかっただけだし、あいつはそれとなく気づいてるよ。俺を呼ぶ……召喚か? その時点でおかしいからな」

 ルチェルも席を立った。お手洗いかもしれない。

 メファが近づいてくる。

「今日は客も少ないんだ。昨日、団体客が出て行ったからね。これあんたのお嬢さんにやんな」

 そういって手渡してくれたのは服だった。

「ありがとうございます……」

 俺はメファのことを見て何となく信頼できる人だと思った。
 幸太もきっと同じ理由で気に入っているんだろう。
 ルチェルが帰ってきてきょとんとしている。俺とメファを交互に見てから少し不安げだ。

「あんたらももう寝な。部屋は2階を上がった突き当たりだよ」

 メファは二階に上がる俺を見送る。
 ところがルチェルだけは離さなかった。何か話すことでもあるのか?
 ああ、服のサイズとかかな。
 俺はそう思いながら部屋の突き当たりの部屋に入る。

 コウの部屋はどこなんだろうか?
 部屋を開けてコウがいたりしないだろうな。
 ……無用の心配だったようだ。
 部屋は簡素だが生活感がある。
 俺は石に戻るのも忘れて眠ることにした。

 朝起きてから久々にルチェルの胸でペンダントをしていない自分にはっとなった。
 半身を起こしてルチェルはまた攫われたと思ったら隣で大人しく寝ている。
 俺も少なからずあの経験に責任を感じているのかも知れない。

「もう少し、考えた方がいいのかもな」

 もしかしたらいつか自由に戻れるようにはなれるのかもしれない。
 しかしそんなものを期待して取り返しの付かないことになるのは賢明じゃないだろう。
 Eメーターが尽きるのを見ながら俺は心に決めた。


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