「ちょっと、ちょっと。なにコントをやってるわけ」
唐突に、木々のなかから声がした。
いや、樹上だ。
気づくと、五メートルくらい上の木の枝に、高等部のジャージを着た少女が立っていた。
ジャージのラインの色は、緑。
三年生ということだ。
手には弓を持っていて、腰のベルトに矢筒を差している。
ベルトは、ジャージをわざわざ改造して取りつけたもののようだ。
なるほど、ああすれば簡単に矢を取り出せるか……。
育芸館組には本格的な弓使いがいなかったから、いろいろ新鮮だなあ。
後ろ髪をポニーテールにした、結構、気の強そうなひとだ。
いまも結城先輩をジト目で睨んでいる。
って、あ、さっき結城先輩の耳を引っ張って叱ってたひとだ。
「はーい、朱里ちゃん」
啓子さんが呑気に手を振った。
朱里さんは、啓子さんを見て、眉をひそめる。
「決戦を前に、ずいぶんと余裕なんですね」
「ずっと気を張ってても、疲れちゃうわよー」
「啓子さんは、だらけすぎです。田上宮くん、あなたもそのノリを他人に押しつけるの、やめなさい」
朱里さんは木の枝を身軽に飛び降り、地面に降りてくる。
すたすたこちらに歩いてきて、結城先輩の頭をパン、とはたいた。
あ、結城先輩が嬉しそう。
「拙者の業界ではご褒……」
「ご褒美、っていったらもう一発、いくわよ」
結城先輩は黙った。
周囲に気まずい雰囲気が流れる。
朱里さんが、こちらを向いた。
和弘を見る。
「うちのバカリーダーがごめんなさいね。いままで自己紹介の機会がなかったけど、わたしは成宮朱里。高等部でサブリーダーをやらせてもらっているわ」
結城先輩のノリを拒絶して、きちんと軌道修正できる真面目さだ。
啓子さんは、結城先輩と一緒になって、ノリノリで忍者ごっこを始めるしなあ。
どうやら、朱里さんはなかなかに現実主義者のご様子である。
「なにかモメてたみたいだけど、ちょっとそういうの、後にしてもらっていいかしら。光の民の隊長さんと話し合ったんだけど、前面に出てくるオークの対処は わたしたちマレビトとア・ウル・ナアヴのえーと、『素子』チームだったかな。そこが担当することになったわ。一番の激戦区だけど、経験値の入りがいいから」
朱里さんは、そういって背後で文句をいいたげな男子に振りかえった。
「中等部の子たちにナメられたくないなら、いっぱい経験値を稼いでレベルアップしなさい。だからといって突っ込んで死ぬのはNGだけど」
「おい、死んだ奴を馬鹿にするのかよ!」
「報告は聞いたわ。アヤミはチームプレイを忘れたから、死んだ。彼女は馬鹿だったの。そこは認めなさい。認められないなら、次はあなたが死ぬわよ」
うわあ、ズバリといいきった。
これが彼女の役割なんだろう。
結城先輩や啓子さんじゃ、ここまではっきりといえないだろうからなあ。
彼女は、飴と鞭の鞭役か。
さぞや気苦労が多いだろう。
志木さんと気が合いそうだ。
「所で朱里さん」
「何かしら、確か狭間君だったわね」
「高等部の彼女を引き取って欲しいのだけどね」
僕におんぶされている少女を見て、誰か気づいたようだ。
「あら、アヤミ。どういうことかしら?」
僕は、朱里さんに説明した。
「なるほど、それはこちらが悪かったわね」
僕からアヤミを受け取った。
朱里さんが、高等部の人々を見渡して
「さあ、もうすぐ敵が来るわよ」
と宣言する。
「これから配置について、教えるわ。あ、志木さん。あなたたちは、こっちのメモを参考にして」
志木さんは、朱里さんからメモ帳の切れ端を受け取った。
一読し、うなずく。
メモの情報をもとに、手際よく班分けを開始する。
「カズくん。あなたたちは、ひとまずここで待機ね」
「予備兵力か」
「ええ。あまりMPを消耗させたくないし、なによりオークごときの経験値をあなたがたに奪って欲しくないもの。座って休んでいなさい。寝るなら、そこの木陰でね」
「あー、悪い。本気でそうする」
和弘が寝ているのを尻目に、スミレが班分けを行い、志木さんが承認した。
大は、斬りこみ隊長役らしい。
僕は、いざというときのために動いて欲しいそうだ。
オーク相手なら問題ないと思うだけどね。
次
唐突に、木々のなかから声がした。
いや、樹上だ。
気づくと、五メートルくらい上の木の枝に、高等部のジャージを着た少女が立っていた。
ジャージのラインの色は、緑。
三年生ということだ。
手には弓を持っていて、腰のベルトに矢筒を差している。
ベルトは、ジャージをわざわざ改造して取りつけたもののようだ。
なるほど、ああすれば簡単に矢を取り出せるか……。
育芸館組には本格的な弓使いがいなかったから、いろいろ新鮮だなあ。
後ろ髪をポニーテールにした、結構、気の強そうなひとだ。
いまも結城先輩をジト目で睨んでいる。
って、あ、さっき結城先輩の耳を引っ張って叱ってたひとだ。
「はーい、朱里ちゃん」
啓子さんが呑気に手を振った。
朱里さんは、啓子さんを見て、眉をひそめる。
「決戦を前に、ずいぶんと余裕なんですね」
「ずっと気を張ってても、疲れちゃうわよー」
「啓子さんは、だらけすぎです。田上宮くん、あなたもそのノリを他人に押しつけるの、やめなさい」
朱里さんは木の枝を身軽に飛び降り、地面に降りてくる。
すたすたこちらに歩いてきて、結城先輩の頭をパン、とはたいた。
あ、結城先輩が嬉しそう。
「拙者の業界ではご褒……」
「ご褒美、っていったらもう一発、いくわよ」
結城先輩は黙った。
周囲に気まずい雰囲気が流れる。
朱里さんが、こちらを向いた。
和弘を見る。
「うちのバカリーダーがごめんなさいね。いままで自己紹介の機会がなかったけど、わたしは成宮朱里。高等部でサブリーダーをやらせてもらっているわ」
結城先輩のノリを拒絶して、きちんと軌道修正できる真面目さだ。
啓子さんは、結城先輩と一緒になって、ノリノリで忍者ごっこを始めるしなあ。
どうやら、朱里さんはなかなかに現実主義者のご様子である。
「なにかモメてたみたいだけど、ちょっとそういうの、後にしてもらっていいかしら。光の民の隊長さんと話し合ったんだけど、前面に出てくるオークの対処は わたしたちマレビトとア・ウル・ナアヴのえーと、『素子』チームだったかな。そこが担当することになったわ。一番の激戦区だけど、経験値の入りがいいから」
朱里さんは、そういって背後で文句をいいたげな男子に振りかえった。
「中等部の子たちにナメられたくないなら、いっぱい経験値を稼いでレベルアップしなさい。だからといって突っ込んで死ぬのはNGだけど」
「おい、死んだ奴を馬鹿にするのかよ!」
「報告は聞いたわ。アヤミはチームプレイを忘れたから、死んだ。彼女は馬鹿だったの。そこは認めなさい。認められないなら、次はあなたが死ぬわよ」
うわあ、ズバリといいきった。
これが彼女の役割なんだろう。
結城先輩や啓子さんじゃ、ここまではっきりといえないだろうからなあ。
彼女は、飴と鞭の鞭役か。
さぞや気苦労が多いだろう。
志木さんと気が合いそうだ。
「所で朱里さん」
「何かしら、確か狭間君だったわね」
「高等部の彼女を引き取って欲しいのだけどね」
僕におんぶされている少女を見て、誰か気づいたようだ。
「あら、アヤミ。どういうことかしら?」
僕は、朱里さんに説明した。
「なるほど、それはこちらが悪かったわね」
僕からアヤミを受け取った。
朱里さんが、高等部の人々を見渡して
「さあ、もうすぐ敵が来るわよ」
と宣言する。
「これから配置について、教えるわ。あ、志木さん。あなたたちは、こっちのメモを参考にして」
志木さんは、朱里さんからメモ帳の切れ端を受け取った。
一読し、うなずく。
メモの情報をもとに、手際よく班分けを開始する。
「カズくん。あなたたちは、ひとまずここで待機ね」
「予備兵力か」
「ええ。あまりMPを消耗させたくないし、なによりオークごときの経験値をあなたがたに奪って欲しくないもの。座って休んでいなさい。寝るなら、そこの木陰でね」
「あー、悪い。本気でそうする」
和弘が寝ているのを尻目に、スミレが班分けを行い、志木さんが承認した。
大は、斬りこみ隊長役らしい。
僕は、いざというときのために動いて欲しいそうだ。
オーク相手なら問題ないと思うだけどね。
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