育芸館組と高等部組の戦闘班、全部で六十名弱のメンバーが、揃って世界樹そばの木のうろにワープする。
まず気づいたのは、世界樹から出る音が変化していることだった。
以前は、鈴の音のような声で歌われる君が代のようなしっとりした曲だった気がする。
それが、ぼくたちの心をかき乱すような女の子がすすり泣くような声に変化していた。
うわあ、これ、結構心にクるものがあるなあ。
「こちらをお使いください」
ホールに待機していた女性が、葉っぱでできた輪っかを手渡してくれた。
彼女自身も、ネックレスのように首からかけている。
「世界樹の葉で編んだ魔除けの護符です」
真っ先に受け取った志木さんが、護符を首からかけた。
「これが、この結界の内部でわたしたちのちからを増幅してくれるブーストアイテム……」
ブーストアイテムいうな。
いやまあ、実際にそういうシロモノらしいんだけど。
世界樹の魔除けというらしい。
ゲーム的にいうと、おおよそHPそこそこ増加、MP+50%、攻撃力微増、防御力微増、魔法耐性微増。
ほかの数値はともかく、MPが50%増し、というのはガチである。
いまぼくはレベル38だから、世界樹の結界内部ではMPが540も増えていることになる。
実際は、MP消費が2/3になっているとのこと。
効果はあくまでこの世界樹周辺、結界内部オンリーである。
こんな壊れアイテムなのだから、それくらいの制限がかかって当然というところではあるけれど。
で、問題はそれだけの恩恵を受けてなお、今回の敵があまりにも強すぎるということ。
弱気になってもいられないんだけど……。
「わたくしも今回はここから指揮をとります」
ぼくたちについてきたリーンさんが、鷹を十体ばかり召喚した。
彼女の使い魔たちだ。
鷹が羽ばたき、結城先輩、志木さん、長月桜といった主要メンバーのもとに舞い降りる。
ぼくたちのところに来た鷹は……僕の伸ばした腕に着地する。
和弘たちのほうには、ルシアの腕に着地していた。
「むう。ルシア、ずるい」
「昨日の行いから考えて、当然の結果かと」
リーンさんが、そんなルシアとミアのやりとりを、温かい目で眺めている。
「この使い魔を通して連絡をとります。敵部隊のうち足が速いものたちは、すでにこの近くまで来ているそうです。迎撃をお願いします」
皆が目くばせをかわしあう。
誰に押しつけようか迷っている感じ……かと思ったら……。
「ん。経験値稼ぎ……オイシイ?」
「待つでござるよ、ミア。おぬしたちは決戦兵器、じっとしているでござる。ここは拙者たちのレベルアップを……」
「待って。わたしたちが、倒します」
ミアと結城先輩と長月桜が、互いに牽制しあっていた。
おいこら、きみら。
いや、足が速いってことは狼系とかだから、ある程度、手のうちも読めてるけどさ……。
でも、安心していい相手じゃない。
ヘルハウンドが混じっているなら、最低でも火レジは必要だ。
「啓子さん、うちの後衛部隊を数名連れて、先行していただけますか」
志木さんがいった。
なるほど、最年長の啓子さんを引率役として、彼女に部隊を仕切らせることで、くだらないつばぜり合いを回避するってことか。
啓子さんと育芸館組の少女五人が、さっさと木のうろを出ていく。
結城先輩は、高等部をグループわけするのに忙しそうだった。
志木さんの方は、すでにパーティ編成を終えている。
僕たちを中心とする第二精鋭パーティを後詰めとして送り出すとのことだ。
「桜ちゃんは、もうちょっと頑張れば槍術がランク9になれそうなのよ。優先的に経験値を稼がせてあげたいの」
とのことで、なるほど彼女がぼくたち以外で初のランク9に到達してくれれば、これはとても頼もしい。
ぼくは、育芸館組に付与魔法をかけた。
舌打ちも聞こえる。
和弘を見て、小声でなにかしゃべっているひともいる。
その様子に、育芸館組の子たちが静かな怒りを溜め込んでいるようだ。
「カズ殿、カズ殿」
結城先輩がこっちにきた。
「拙者たちは、一度、出撃するでござる。そちらも軽くひと当てするなら、いまのうちでござろう」
「ああ、ええと了解。……ってミア、どうした」
一度木のうろの外に出ていたミアが、てってってと駆け戻ってきた。
おまえなにやってんだ。
「ん。親衛隊のひとたち、作戦よりだいぶ、押されてる。一度、わたしらで押し返した方がいい」
「なんでわかる」
「風魔法で、ちょっと」
あー、ウィンド・サーチか。
ここなら自然たっぷりだから、環境としては最高だな。
で、さくっと偵察してしまったわけか。
「でかしたでござる、わが妹よ」
「ん。いえーい」
ミアは結城先輩と手を打ち合わせた。
きみら、やっぱり実は仲いいな……。
「だが兄、うざい」
「妹からの罵倒はご褒美でござるよ!」
「ほんと、うざい」
不気味に身をくねらせる忍者とそれをシッシッと手で払うミア。
こんな状況でじゃれあってやがる……。
この兄妹、ほんと平常運転だなあ。
高等部の面々が、馬鹿をやっているふたりを目の当たりにし、目が点となっていた。
あ、ひとりの女性が肩を怒らせながら進み出て、結城先輩の耳を引っ張った。
「ちょっと、田上宮くん! シスコンもいい加減にして! さっさと指示を出しなさい!」
「わ、わかったでござるよ! 短気はいかんでござる」
かなり痛そうなのに、結城先輩はなぜか嬉しそう。
ぼくたちは巨大な木のうろに出る。
すでに日は完全に落ちていた。
足場のあちこちで、かがり火が焚かれている。
正面には、炎に照らされた、まるで絶壁のごとき超巨大樹がある。
この森の中心にして楔のひとつ世界樹。
ぼくたちが守るべき、この大陸で最後の砦。
いまのうちに、全員にディフレクション・スペルからのナイトサイトをかけておく。
暗視のおかげで、真夜中の森も夕方くらいの明るさになっている。
アリハに聞いたところ、エルフの彼女はわりと夜目が利くらしい。
でもナイトサイトによる暗視の方がずっと性能は高いとのこと。
次
まず気づいたのは、世界樹から出る音が変化していることだった。
以前は、鈴の音のような声で歌われる君が代のようなしっとりした曲だった気がする。
それが、ぼくたちの心をかき乱すような女の子がすすり泣くような声に変化していた。
うわあ、これ、結構心にクるものがあるなあ。
「こちらをお使いください」
ホールに待機していた女性が、葉っぱでできた輪っかを手渡してくれた。
彼女自身も、ネックレスのように首からかけている。
「世界樹の葉で編んだ魔除けの護符です」
真っ先に受け取った志木さんが、護符を首からかけた。
「これが、この結界の内部でわたしたちのちからを増幅してくれるブーストアイテム……」
ブーストアイテムいうな。
いやまあ、実際にそういうシロモノらしいんだけど。
世界樹の魔除けというらしい。
ゲーム的にいうと、おおよそHPそこそこ増加、MP+50%、攻撃力微増、防御力微増、魔法耐性微増。
ほかの数値はともかく、MPが50%増し、というのはガチである。
いまぼくはレベル38だから、世界樹の結界内部ではMPが540も増えていることになる。
実際は、MP消費が2/3になっているとのこと。
効果はあくまでこの世界樹周辺、結界内部オンリーである。
こんな壊れアイテムなのだから、それくらいの制限がかかって当然というところではあるけれど。
で、問題はそれだけの恩恵を受けてなお、今回の敵があまりにも強すぎるということ。
弱気になってもいられないんだけど……。
「わたくしも今回はここから指揮をとります」
ぼくたちについてきたリーンさんが、鷹を十体ばかり召喚した。
彼女の使い魔たちだ。
鷹が羽ばたき、結城先輩、志木さん、長月桜といった主要メンバーのもとに舞い降りる。
ぼくたちのところに来た鷹は……僕の伸ばした腕に着地する。
和弘たちのほうには、ルシアの腕に着地していた。
「むう。ルシア、ずるい」
「昨日の行いから考えて、当然の結果かと」
リーンさんが、そんなルシアとミアのやりとりを、温かい目で眺めている。
「この使い魔を通して連絡をとります。敵部隊のうち足が速いものたちは、すでにこの近くまで来ているそうです。迎撃をお願いします」
皆が目くばせをかわしあう。
誰に押しつけようか迷っている感じ……かと思ったら……。
「ん。経験値稼ぎ……オイシイ?」
「待つでござるよ、ミア。おぬしたちは決戦兵器、じっとしているでござる。ここは拙者たちのレベルアップを……」
「待って。わたしたちが、倒します」
ミアと結城先輩と長月桜が、互いに牽制しあっていた。
おいこら、きみら。
いや、足が速いってことは狼系とかだから、ある程度、手のうちも読めてるけどさ……。
でも、安心していい相手じゃない。
ヘルハウンドが混じっているなら、最低でも火レジは必要だ。
「啓子さん、うちの後衛部隊を数名連れて、先行していただけますか」
志木さんがいった。
なるほど、最年長の啓子さんを引率役として、彼女に部隊を仕切らせることで、くだらないつばぜり合いを回避するってことか。
啓子さんと育芸館組の少女五人が、さっさと木のうろを出ていく。
結城先輩は、高等部をグループわけするのに忙しそうだった。
志木さんの方は、すでにパーティ編成を終えている。
僕たちを中心とする第二精鋭パーティを後詰めとして送り出すとのことだ。
「桜ちゃんは、もうちょっと頑張れば槍術がランク9になれそうなのよ。優先的に経験値を稼がせてあげたいの」
とのことで、なるほど彼女がぼくたち以外で初のランク9に到達してくれれば、これはとても頼もしい。
ぼくは、育芸館組に付与魔法をかけた。
舌打ちも聞こえる。
和弘を見て、小声でなにかしゃべっているひともいる。
その様子に、育芸館組の子たちが静かな怒りを溜め込んでいるようだ。
「カズ殿、カズ殿」
結城先輩がこっちにきた。
「拙者たちは、一度、出撃するでござる。そちらも軽くひと当てするなら、いまのうちでござろう」
「ああ、ええと了解。……ってミア、どうした」
一度木のうろの外に出ていたミアが、てってってと駆け戻ってきた。
おまえなにやってんだ。
「ん。親衛隊のひとたち、作戦よりだいぶ、押されてる。一度、わたしらで押し返した方がいい」
「なんでわかる」
「風魔法で、ちょっと」
あー、ウィンド・サーチか。
ここなら自然たっぷりだから、環境としては最高だな。
で、さくっと偵察してしまったわけか。
「でかしたでござる、わが妹よ」
「ん。いえーい」
ミアは結城先輩と手を打ち合わせた。
きみら、やっぱり実は仲いいな……。
「だが兄、うざい」
「妹からの罵倒はご褒美でござるよ!」
「ほんと、うざい」
不気味に身をくねらせる忍者とそれをシッシッと手で払うミア。
こんな状況でじゃれあってやがる……。
この兄妹、ほんと平常運転だなあ。
高等部の面々が、馬鹿をやっているふたりを目の当たりにし、目が点となっていた。
あ、ひとりの女性が肩を怒らせながら進み出て、結城先輩の耳を引っ張った。
「ちょっと、田上宮くん! シスコンもいい加減にして! さっさと指示を出しなさい!」
「わ、わかったでござるよ! 短気はいかんでござる」
かなり痛そうなのに、結城先輩はなぜか嬉しそう。
ぼくたちは巨大な木のうろに出る。
すでに日は完全に落ちていた。
足場のあちこちで、かがり火が焚かれている。
正面には、炎に照らされた、まるで絶壁のごとき超巨大樹がある。
この森の中心にして楔のひとつ世界樹。
ぼくたちが守るべき、この大陸で最後の砦。
いまのうちに、全員にディフレクション・スペルからのナイトサイトをかけておく。
暗視のおかげで、真夜中の森も夕方くらいの明るさになっている。
アリハに聞いたところ、エルフの彼女はわりと夜目が利くらしい。
でもナイトサイトによる暗視の方がずっと性能は高いとのこと。
次
最新コメント