様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 午後5時前
 育芸館前の広場に、五十人前後の高等部の男子が集まっていた。
 大部分が、オークから奪ったものだろう錆びた斧やら剣やらを握っている。

 そして、彼ら高等部の男子の主張は、僕たちの嫌悪をあおるのには十分であった。

「・・・アホか」

 僕は、二階の窓からそう言い放った。
 高等部の男子の主張は軍門に下っておとなしく性奴隷になれと身勝手きわまりないものであった。
 


 数分後
 会議室には、和弘たちが戻ってきた。
 和弘が、志木さんを小声で呼んだ。

「あなたたちの要求はわかったわ。一度、相談させてちょうだい。覚悟を決める時間くらい、もらってもいいでしょう」

 志木さんがしおらしくそんなことをいったあと、窓を閉める。
 ツカツカとおおきく足音を立てながら、入り口付近にいる和弘の方へやってきた。

「どうやって、いつの間に……それと、そちらの方は……。そもそも、言葉は通じるの?」

「さっき、ワープしてきた。そこの子は、ルシア。魔法で言葉の問題は解決。で、状況を整理しよう。やつらはなんで、いまさら?」

 志木さんはちらりとルシアを見たあと、ため息をついて「まあいいわ」と肩を落とした。
 そう、いま重要なのは、この事態にどう立ち向かうかだ。
 実力で排除するのか、言葉を使うのか、それとも……。

「馬鹿げた話よ。今朝から昼にかけて、高等部では、大規模な組織の再編が起こったわ。ミア、あなたのお兄さんである田上宮結城先輩が中心になってね」

 志木さんが聞いた話によれば、その結果、結城先輩は五十人前後の組織をつくりあげた。
 生き残った高等部の生徒のうち、これまではどちらかというと弱者に属していた者たちがその中心となった。

 だが、そういった動きに反発する者もいる。
 望んでもその組織に入れなかった者も多かった。

 端的にいって、反発していた者も結城先輩に拒絶された者もシバの配下で好き勝手にやっていたやつらだ。
 結城先輩は、昨夜まで、こっそりと生き残りの生徒たちの動向を調べ上げていた。
 誰がどんな思想を持ち、この世紀末ひゃっはー的な状況でどう行動したのか、詳細な調査を行っていた。

 ゆえに、一見、同じシバの組織に組み入れられた者たちでも嫌々行動していた者とそうでない者をはっきりと区別できたのだ。
 結城先輩は、自ら罪人を選別した。

 彼は、見捨てるべき者は見捨てると冷酷に宣言したという。
 ただし、それは弱者を見捨てるということではない。
 弱者を見捨てず、虐げていた者たちを切り捨てるという決断であると。

 結城先輩の言葉は、おおいに支持された。
 それはきっと彼の地味で細々とした行動が受け入れられた結果でもあるのだろう。
 彼自身は指導者になりたがらなかったけれど、でも彼こそが指導者にもっともふさわしい人物であると誰もが認めた。

 そういうわけで、ニンジャは影の存在になれなかった。
 日なたに出て、脚光を浴びる羽目になった。
 さぞや不本意だったことだろう。

 でも結城先輩は、それが必要だと理解していた。
 なまじ頭がいいだけに皆のため、己のため、そして中等部にいる妹のために己ができる最大限の努力をせざるを得なかった。
 結果的に彼の試みは上手くいった。

 上手くいきすぎたのかもしれないと志木さんはいう。
 彼はきっと最終的に組織が固まる前に一度くらいはいざこざが起き、それによって切り捨てた「かつての強者」たちの勢いをおおきく削ぐことができると計算していたに違いないと。

「でもそれって……。高等部のひとたちで旧シバ派の人間を殺すってことだよね」

「そうよ。じゃないと禍根を残すもの。たぶん、みんなで団結して、協力して、ある意味で通過儀礼にするつもりだったんだと思う」

 平然と怖いことをいう。
 無論、その有用性についてわからないわけじゃないけれど……。
 こういう果断な決断を下せるからこそ、志木さんや結城先輩は指導者向きなんだろう。

「あら、当然のことよ。文化祭の準備で、クラス一体となってがんばったりするとみんな仲良くなれるでしょう」

「いってることはとても正しいけどね」

「ごめんなさいね。あなたはボッチだったから、クラスと一体感なんてなかったかしら」

「こんちくしょう!」

「ま、カズくんいじめはこのくらいにしておいて……。真面目な話、わたしたちに手段を選んでいる余裕なんてない。そうでしょう?」

「そうね、なんせ下手したら、明日、世界が滅ぶかもしれないし」

 たまきがいった。
 ミアとルシアが額を手で押さえている。
 アリスはきょとんとしていた。
 志木さんは苦虫をかみつぶしたような表情で、和弘を睨んだ。

「は?」

 僕は、タマキの言葉に唖然とした。

「え、あれ、マズかった?」

「まあ……いずれみんなにも話すことだから……」

 周囲で話を聞いていた僕たちに志木さんが箝口令をいいわたした。
 彼女たちは、意味がよくわからず、コクコクうなずいている。
 憶測だけが勝手に広まるのは困るから、当然の判断といえる。

「いろいろ情報を手に入れてきたみたいだけど、すぐにわたしが聞く必要はあるかしら」

「あとでいい。それより、こっちの問題をさっさと片づけよう」

「桜さん……長月桜さんは?」

「彼女はいま、縛って三階の部屋に放り込まれているわね」

「なにがあった」

「高等部の男子が集まってきたとき、槍を持って飛び出そうとしたのよ。なにをいっても聞かなさそうだから、とりあえず潮音ちゃんにフレイム・バインドをかけてもらったあと、縛って放置」

 フレイム・バインドは火魔法ランク5、炎の輪を対象の周囲に呼び出し、それをロープのように用いて拘束する魔法だ。

「桜ちゃんは、自暴自棄になっているから。破滅型の彼女を追いこむようなことは、したくないの」

「お優しいことで」

「あら、わたしはいつだって、優しいのよ。カズくんには、わからないかしら」

 志木さんは、そういって笑う。
 腕組みして堂々と胸を張る。

「みんなにやさしくして、ぼくをいじめるんだな」

「いじめてなんかないわ。いじっているだけ」

 志木さんは、これみよがしに肩をすくめてみせる。

「しかし、そういうことになると……。あー、志木さん、ふたりだけで密会いい?」

「あら、ふたりきりでなにをしたいの?」

「悪だくみ」

「やっぱり、ルシア、きみも来て」

「構いませんが……。わたくしで、よろしいのですか」

「むしろルシアだから、いい。志木さんとふたりで、ブラックパワーを解放して欲しい」

 ルシアが怪訝そうな目で和弘を見る。
 志木さんが半眼で和弘を睨む。
 ついでにいえば、アリスもジト目で、頬をふくらませている。

「いやほんとルシアには期待している」

「カズくん、あなたねえ……。まあいいわ、よろしく、ルシアさん」

「はい、こちらこそ、志木……さん?」

 志木さんは、ほがらかに笑う。

「呼び捨てでいいわよ」

「では、志木と呼ばせていただきますね」

 ルシアは微笑む。
 あ、本当に嬉しいっぽい。

「カズくん、いやらしい笑いしてるわ」

「気のせいデスヨ?」

「なんでカタコトなのよ」

 志木さんにジトーッと睨まれていた。



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