様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 洞窟は、採掘した穴ではなく、自然にできた鍾乳洞のようだった。
 天井の鍾乳石から、ポトポトと水滴が垂れてくる。
 僕たちは、アリスが槍を振り回し、地面に転がったローブを着たオークの首をついて殺している場面に居合わせた。

『魂喰らいが発動しました。魂をスキルに変換します』

 奥から、鼻が曲がりそうなほどの、すえた臭いが漂ってくる。
 これは間違いなく、オークたちが長いことここに居座っていた証明だろう。

「火魔法の子たちと桜さんと茜さんには、外で見張りをしてもらいましょう」

 志木さんが提案する。
 うん、それがいいだろう。
 この先、狭い通路でヘルハウンドとかが出てきたら、ブレス一発で一網打尽にされかねない。

 いや、ヘルハウンドなら火魔法を使える子たちの火レジでなんとかなるからまだしも、だ。
 メイジが攻撃魔法を使ってきたら、ぼくたちくらいレベルが高くないとマズい。
 できれば志木さんも離れて欲しいところだけど……。

「わたしは、カズくんたちについていくわ。だいたい、あなたたちじゃ偵察もできないでしょう」

 そういわれては、ごもっともですと頭を下げるしかない。
 組織としてトップにいる志木さんが偵察に出るというのは、どうにもマズいのだけれど……。
 もうひとりメンバーを増やして、そのメンバーに偵察役を任せたいところだ。

「志木さん、とりあえずこっちのパーティに入って。いざというときにリフレクションくらいかけられるように。あと、もう少し経験値をもらって欲しい」

「そうね。わたしも死ぬのはごめんだし、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 志木さんが和弘たちのパーティに入った。
 五人パーティとなる。
 ユリコが、志木さんにレジスト・ファイアをかける。

 ディフレクション・スペルのあと、ナイトサイトを全員にかける。

 これで明かり魔法がいらなくなった。

「カズっち、この杖、貰っていい?」

 暗視能力を得たミアが、メイジの遺留品らしき杖を手に取る。
 ぼくの背丈より長い、木製の杖だ。
 先端に水晶のようなものがはまっている。

 ライトを当てると、水晶が青白い光を反射した。
 魔法の品……なんだろうか。

「いちおう、持っておきたい」

「別にいいけど……」

「邪魔になったら捨てる」

 ミアの身長からすると、かなりサイズのおおきな杖だ。
 そのうち持て余す気がする。
 まあ、持っていて特に問題がないなら、別にいいか。



 4人の居残り組と別れ、ぼくたちは洞窟の奥へと足を踏み入れる。
 少しいったところで立ち止まり、志木さんが先行する。
 一分ほどで戻ってきた彼女は、奥がY字路になっていることを告げた。

「右手の奥の方から、女の子の声が聞こえたような気がしたわ」

「……まだ生きている生徒がいるのかな」

「そうとも限らない。罠、という可能性もある。なにせオークに風魔法の使い手がいたわけだしね」

 風魔法のランク4には、クリエイト・サウンドという魔法がある。
 任意の音を出す魔法だ。
 これを使ってひとの声を自由につくり出すこともできる。

 さっきメイジ・オークは、ランク3のライトニングを主力攻撃魔法として使っていた。
 風魔法のランク4には、まともな攻撃魔法がない。
 ひょっとすると、メイジ・オークはランク4の風魔法も使えた可能性もある。

 もしメイジ・オークがもう一体、いるなら……。
 たしかに、これが罠である可能性というのも一考の余地がある。
 ならばどうするか。

「強襲しよう。志木さんは背後の警戒をお願い」

 結論は簡単だ。
 罠に飛びこんで食い破るのである。

 この作戦を取る場合、むしろ志木さんのレベルの低さが一番の弱点になりうる。
 だから彼女には後方待機してもらう。

 ひとまずY字路のところで周囲を警戒してもらおう。
 あそこで隠密していれば安全だと思う。

 突っ込むぼくらだって無謀な真似はしない。

「アイアン・ゴーレムにサイレント・フィールドをかけて先行させよう」

 罠や待ち伏せがあれば、和弘の使い魔が避雷針としての役割を受け持つ。
 単純な作戦だが、現状、これがもっとも有効だと思う。

 さて、作戦開始。

 ミアのサイレント・フィールドがかかったアイアン・ゴーレムが先頭を歩き、その十歩ほど後方を僕たちがついていく。
 サイレント・フィールドの効果範囲は洞窟の天井まで及んでいるから、ぼくたちの足音も向こう側には聞こえないはずだ。
 かわりにぼくたちも奥の状況もわからないけれど、そのあたりはアイアン・ゴーレムの様子から判断しよう。

 アイアン・ゴーレムは、右の曲がりくねった道をしばらく歩いたあと、唐突に立ち止った。
 広場に出たのだろう。
 その身が、ぐらりと揺らぐ。

 ぼくはそのときになって、気づく。
 地面に穴が空いているのだ。
 アイアン・ゴーレムは、その太い片足を落とし穴に突っ込ませてしまったのである。

 って、お、落とし穴!?

 ぼくはしばし、茫然として立ち尽くす。

 アイアン・ゴーレムのもとに無数の矢が飛来する。
 頑丈な鋼鉄の身体が大半を弾くが、何本かは関節に突き刺さったようで、もう片方の足もふんばりがきかなくなる。
 アイアン・ゴーレムは、そのまま穴に落ちていく。

 おかげで、奥が見えるようになる。
 アーチャーの姿が、複数。
 矢の数からして最低でも十体はいる。

 まずいな。
 ぼくは、はっと我にかえる。
 とっさに、ウィンド・エレメンタル三体に突撃の命令を出す。

「アリス、たまき。エレの後ろから突撃。ミア、竜巻!」

「ん。ワールウィンド」

 ミアの放った風魔法ランク4、ワールウィンドによって、落とし穴の向こう側、広場の奥の方におおきな竜巻が生まれる。
 アーチャーたちの矢を邪魔するためだ。
 ウィンド・エレメンタルたちが、その直後、広場に突入する。

 案の定、ウィンド・エレメンタルに矢が放たれる。
 二十本近くが前方と左右から。
 だがそのうち、前方の十本近くは、竜巻によって行く手を阻まれ、見当違いの方向へ飛んでいく。

「僕が右をやる」

「わかった。頼む」

 ぼくは、右にウィンド・エレメンタルをいかせる。

「アリス、たまき、ふたりは奥だ!」

「はい!」

「わかったわ!」

 その直後、広間に入ったアリスとたまきは、落とし穴を迂回して、奥のアーチャーめがけて走る。
 だが……。

「わっ、わわっ、熱っ、熱いわ、ナニコレ!」

 たまきが、慌てた様子で手にした銀剣を取り落とす。
 アリスがそれを見て、広間を見渡し……。

「右手奥、あそこに、ローブのオークが!」

「そうか、ヒート・メタル!」

 いまさらのように、ぼくはたまきになにが起きたか理解する。
 昨日、ミアが敵のエリートにさんざんやった作戦だ。
 武器の金属の柄を灼熱にして、武器を取り落とさせる。

 今度は地魔法を使うメイジ・オークがいるということだ。
 地魔法ランク2、ヒート・メタル。

 たまきがこれを喰らうのは、エリートのときよりもっとまずい。
 武器のないたまきは、スキルがほとんどない一般生徒も同然だ。

「ミア、視界を塞げ!」

「ん。ダーク・スフィア」

 広間の入り口まで駆け寄ったミアが、右手前方、たまきやアリスの姿をメイジから隠すように、漆黒の空間をつくりだす。
 風魔法ランク4のダーク・スフィアは、ランク1のスモッグ、煙をつくり出し視界を遮る魔法によく似ている。
 ダーク・スフィアがスモッグと違うのは、つくり出されるものが煙ではなく、漆黒に染まった方形の空間そのものであること。

 一辺のおおきさは調整可能だが、最大で一辺五メートルの立方体を包み込むことができる。
 内部はナイト・サイトですら視界がきかない真の闇だ。
 この空間は、煙のように風で吹き飛ばされないかわり、なにもしなくとも十分ほどで消える。

 ミアはたて続けにこの魔法を使い、右手のメイジを封じ込めようとしている。
 その間に僕たちはミアのところまで駆け寄る。
 広間の様子を見渡す。

 差し渡し三十メートルほどもあるだろう、広い空間だった。
 天井を支えるように何本か石柱が立っている。

 深部はよく見渡せないが、ぼくたちが入ってきたところ以外に通路はなさそうだ。
 分岐のこちら側は、ここで行き止まりなのだろう。

 右手奥の空間は、数個設置されたダーク・スフィアによって完全に漆黒に染まっている。
 前方では竜巻が荒れ狂って砂を巻き上げている。
 その向こう側、八体ほどいるアーチャーに突撃する、たまきとアリス。

 左側では、3体のウィンド・エレメンタルが五体のアーチャーを相手に接近戦を演じている。
 右手では、3体のウィンド・エレメンタル対四体のアーチャーだ。

 そして、戦いから外れた左手奥では……。
 アリスとたまきは、戦いに夢中で気づかなかったのだろう。
 だとしたら、幸いなことだ。

 そこでは、なにか不気味な肉塊が蠢いていた。
 高さ二、三メートル、横幅は五メートルほどもある巨大な肉の塊が、まるで人間の臓器のように脈動している。

「……なんだ、あれ」

 背筋に悪寒が走る。
 思わず、身を硬直させる。
 ミアも同様なのか、手を止めて、その肉塊を見つめ……。

「あ、あれ」

 ミアが手を伸ばす。
 彼女が指差した先、肉塊の中腹あたりで、ぼくはそれを見つける。

 人間の顔だ。
 うつろな瞳をした少女の顔が、肉塊から生えていた。
 少女の顔が、時折、悲鳴をあげる。

 ああ、なるほど。
 ぼくは納得する。
 この声を、志木さんはさっき聞いたのか。

 生贄。
 そんな言葉が思い浮かぶ。
 それが、この洞窟までさらわれてきた女子生徒の末路だった。



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