偵察に向かった志木さんは、数分で帰還し、この先に洞窟があると告げた。
そこが拠点……なんだろうか。
「洞窟ですか」
アリスが口もとに手を当て、思案する。
「このあたりに、そんなものが……聞いたこともなかったです」
「アリスとたまきは、このあたりも含めて、学校のまわりの森をあちこち探索してたんだっけ」
「はい。といっても隅から隅までというわけではありませんし、立ち入り禁止になっている奥の方にはいったことがありませんけど」
中等部と高等部が存在するこの山の裏側は、まるごと立ち入り禁止区域になっている。
昔はイノシシが出没して、銃による狩猟も行われていたらしい。
シバの持っていた猟銃も、そういったからみで理事が保管していたものかもしれない。
そういうわけもあって、学校ではあまり森の奥まで入らないよう指導されている。
こんな森のなかに学校をつくっておいていまさらな気もするけど、まあ生徒の安全とか保護者からの突き上げとかもあって、いろいろ建前が必要だったのだろう。
そんなわけで、アリスやたまきのように勝手な「探検」を行う生徒以外は、自分たちの住む山のことをほとんど知らないという現状がある。
「その洞窟がオークたちの拠点になってるのか」
「だと思うわ。洞窟の入り口に十体くらいのオークがたむろっていたから。結構、慌てていたわ。わたしたちの接近を知ったばかりみたい」
志木さんによるとオークのなかにはエリートが二体ほどいて、指揮を執っているとのことだった。
なるほど、たしかに拠点っぽいなあ。
「洞窟近くの樹の上にアーチャーが四体、あと周囲を二体のジャイアント・ワスプが飛びまわっているわ」
総戦力は、これまでに比べるとたいしたことがないように思える。
問題は、戦闘を開始したあと、洞窟のなかからどれほどの敵が出てくるかだろう。
今回ばかりは、迂闊な突撃をためらってしまう。
だが、ここまで来て引き返すわけにもいかない。
次は敵ももっと警戒するだろう。
その布陣を打ち破れるとも限らない。
「ミア、地魔法のクリエイト・ストーンで、洞窟の入り口を埋め立てられないかな」
ミアは少し迷ったすえ、「可能、だと思う」といった。
だけど「でも」と続ける。
「だったらいっそ、たまきちんが大盾を構えて洞窟の前に立って、その後ろからライトニングを連射するとか」
もっとえげつない意見が返ってきた。
攻撃的な提案だけど、でもアリだなあ。
とはいえ、もしジェネラルが出てきたら、たまきか僕が相手にするしかない。
大盾は、雑魚が飛び道具をたくさん撃ってくる場面では有効だけど、ジェネラルを相手にするときは重くて邪魔なだけだ。
そう考えると……。
「アイアン・ゴーレムを呼んで、大盾を持たせるか。たまきはそのそばにいてもらおう」
「それがよさそうね。カズくん、あなたのMPが心配だけど」
「いまよりいっそう、ただいるだけになる」
作戦は決定した。
和弘は召喚魔法ランク6の使い魔であるアイアン・ゴーレムを呼び出し、フィジカル・アップ、マイティ・アームをかけたあと、たまきが持っていた大盾を渡す。
見上げるほどの巨漢であるアイアン・ゴーレムは、大盾を左手だけで軽々と持ち上げてみせる。
「アイアン・ゴーレムを先頭にして突っ込む。まず洞窟の入り口を塞ぐから、邪魔するやつはたまき、アリス、きみたちが切り捨ててくれ」
ゴーサインを出す。
たまきとアリスはうなずいた。
アイアン・ゴーレムが、重い足音を立てて駆けだす。
いささか鈍重そうな外見にもかかわらず、歩幅がおおきいため、走る速度はそれほど遅くない。
木々をかきわけて出現したアイアン・ゴーレムに、敵の注意が集中する。
鋼鉄の巨人に、樹上のアーチャーたちが矢を放つ。
アイアン・ゴーレムは大盾を掲げて、すべての矢を弾き返す。
「いまだ、突撃!」
ゴーレムの背後からたまきとアリス、桜、茜の4人が飛びだす。
アリスと桜と茜がオークを蹴散らし、たまきは一直線に指揮を執るエリート・オークのもとへ駆け寄る。
「わたし、役に立ってみせるんだから!」
たまきは、エリートの一体の首を一撃のもとに刎ね飛ばしてみせる。
奇襲を受けたオークたちが、洞窟のなかに向かって警戒の声をあげる。
洞窟内部で、慌ただしく騒ぐ音がする。
「やっぱり、洞窟のなかにまだ敵がいるか」
「想定内よ。増援が来る前に、なるべくここの敵を減らしたいわね」
一方、ジャイアント・ワスプには、火魔法の使い手ふたりと志木さんが攻撃をかけていた。
強襲を受けて混乱する蜂のうち、二体を地面に叩き落とす。
ここで、ハクカのレベルが上がり、白い部屋に行った。
「・・・はぁ・・・・疲れたよ」
「・・・ええ」
ハクカとアカネが疲れたように腰を下ろしていた。
僕たちも腰を下ろした。
そして、少しだけ休憩した。
そして、椅子に座り、ノートPCを見ると
「増えてるな」
「アキ君、何が増えているの?」
ハクカがたずねた。
「スキルとスキルポイントが」
事情を説明した。
「あの何か特殊な能力でも習得しているんじゃないでしょうか?ノートPCに載っていませんか」
アカネの提案で、見てみると特殊能力と下のほうに書かれていた。
「あったな」
僕の言葉で全員がノートPCを見た。
特殊能力をクリックした。
特殊能力
魂喰らい:魂を喰らい、スキルに変換する。喰らった魂は、主の下にいく
精力増強(大):精力が増強される
能力複製:??することで能力が複製される。
商機姦起:???するほど運気が上がり商運が巡る。
剛欲無限:???すればするほど魅力値が上昇する
???:???????????????????????????????????
魔力増強(大):魔力を増強する
魔力回復(大):魔力が回復する
引き出す極:眷属した相手の能力を3段階だけ引き出すことが出来る
神の手:???????????????????????????????????
天界の雫:??????????????????????????????????
神の舌:???????????????????????????????????
「たくさんありますね」
「ああ・・・・ただわかってないやつもあるけどね」
「でも便利ですよね」
「ああ」
「ん、ハクカちん、精力増強ということは、アキっちの相手、一人じゃ大変なんじゃ」
「・・・え・・・あ・・・・その・・・・・」
ハクカがミアの言葉でたじたじになっていた。
「アキっちとH・・・」
「そこまで」
僕は、あわててミアを止めた。
「ちぇ」
ハクカが治療魔法のランクを上げた。
僕は、エンターキーを押して、白い部屋から出た。
アキ:レベル20 剣術7/射撃4/治療魔法6/付与魔法6/召喚魔法6(リード・ランゲージ)/肉体7/運動7/偵察3 スキルポイント52
ハクカ:レベル16 治療魔法6→7 スキルポイント11→4
ミア:レベル18 地魔法5/風魔法6 スキルポイント0
アカネ:レベル14 槍術5/付与魔法4 スキルポイント3
白い部屋から出るとミアは奇襲の利点を活かし、まだ大樹の陰に姿を隠す前のアーチャーの一体にスリーピング・ソングをかけ、これを樹上から落とす。
無防備に落下したアーチャーは、頭から落ちる。
肉が潰れるような音を立てて動かなくなる。
「ん。スリープは正義」
彼女がいう通り、この局面における睡眠魔法は強い。
ミアと敵のレベル差があるからか、それともぼくの付与魔法のおかげか、雑魚にはこれまで一度もレジストされていないし。
この魔法、エリートにも何度かかけたそうだけど、全部レジストされているとのこと。
雑魚にはやたらめったら強いけど、ちょっとでもランクが上な相手にはきかない類いの魔法ってことなんだろうなあ。
なお昆虫であるジャイアント・ワスプには、そもそも一度もかけていない。
Q&Aにより、昆虫のように頭の内部の構造が違う生命体にはきかない魔法だとすでに判明しているからだ。
さて、正面。
もう一体のエリートもたまきが切り伏せ、アイアン・ゴーレムが洞窟の前にとりつく。
洞窟の奥に向けて大盾を構える。
アーチャーが、そんなアイアン・ゴーレムの背中に矢を放っている。
多少、矢が突き刺さっているものの、まだまだ健在だ。
このままじゃマズいとは思うけど……。
ミアにはこの先、別の仕事がある。
「ミア、きみは洞窟のなかにライトニングを。アーチャーはこっちでやる」
「ん、任せる」
ミアが駆けだすと同時に、ぼくは自分たち後衛の護衛として残していた三体のウィンド・エレメンタルを、樹上のアーチャーのもとに突撃させる。
アーチャーも、さすがに自分めがけて飛んでくる敵を見ては、アイアン・ゴーレムどころではない。
ウィンド・エレメンタルに矢を射かけるが、一発、二発喰らったところで倒れるようなランク5使い魔ではない。
ウィンド・エレメンタルとアーチャーが、接近戦を始める。
このとき、アカネがオークを一体、片づけた。
もとの場所に戻ったところで、ジャイアント・ワスプ四体が、洞窟前から少し離れた場所にいるぼくたち後衛陣のもとに急降下してくる。
ある程度は覚悟していたとはいえ、巨大な針を持つ大きな蜂が迫ってくるのは恐怖だ。
だが、ここはぼくが身を呈すべきところだろう。
女性陣の一歩前に出る。
リフレクションをいつでも使えるようにして……。
「いまよ、バーニング・レインを!」
志木さんのかけ声で、火魔法使いの少女ふたりが一斉に魔法を使う。
炎の雨が、接近するジャイアント・ワスプのもとに降り注ぐ。
少し離れていたぼくのもとにすら焼けるような熱気が迫ってくる、灼熱の炎。
その地獄の業火に二重に羽根を焼かれ、四体のジャイアント・ワスプはあっさりと地面に墜落する。
なおも消えぬ炎が蜂たちの全身を包み、焼き殺す。
うわあ、えぐいなあ……。
ある程度想定していたこととはいえ、火魔法はランクが上がると凄い破壊力だ。
なお地面に延焼しかけていた炎は、ぼくがサモン・ウォーターで大量の水を出して鎮火させる。
ちなみにバーニング・レインは、火魔法のランク4である。
こちらがそんなことをしている間に、ウィンド・エレメンタルたちが、それぞれ相手にしていたアーチャーを風のカッターで切り刻み、倒している。
ほかのオークは逃げようとしたところを、桜とアリスが執拗に追いすがり、すべて始末していた。
今回は先に洞窟という逃げ道を塞いだおかげで、殲滅が楽だった。
とはいえ、本番はここからだ。
ミアが洞窟内部にライトニングを連射している。
苦悶の声が洞窟のなかから聞こえてきている。
同時に、なにかが倒れ伏す音も。
だが、それだけではない。
「なにか、出てくる」
ミアが叫び、少し後退する。
和弘はアイアン・ゴーレムに一度下がるよう促し……。
その前に、洞窟から飛び出してきた者がいる。
そいつの武器は、銀色に光る金属球がついた鎖とそれを振りまわすための柄としての棍。
いわゆるフレイルである。
そのフレイルという武器を構えた黒いオークが、アイアン・ゴーレムの胴にその金属球をぶつけ……。
ようとしたところで、それを遮るものがあった。
鋭い動きで割り込んだたまきの銀剣が、銀色の金属球を弾く。
「ジェネラル、あなたの相手は、わたしだわ!」
たまきに応えるように、ジェネラルが雄たけびをあげた。
衝撃波で、アイアン・ゴーレムが吹き飛ばされる。
さて、ここからが……決戦の本番か。
次
そこが拠点……なんだろうか。
「洞窟ですか」
アリスが口もとに手を当て、思案する。
「このあたりに、そんなものが……聞いたこともなかったです」
「アリスとたまきは、このあたりも含めて、学校のまわりの森をあちこち探索してたんだっけ」
「はい。といっても隅から隅までというわけではありませんし、立ち入り禁止になっている奥の方にはいったことがありませんけど」
中等部と高等部が存在するこの山の裏側は、まるごと立ち入り禁止区域になっている。
昔はイノシシが出没して、銃による狩猟も行われていたらしい。
シバの持っていた猟銃も、そういったからみで理事が保管していたものかもしれない。
そういうわけもあって、学校ではあまり森の奥まで入らないよう指導されている。
こんな森のなかに学校をつくっておいていまさらな気もするけど、まあ生徒の安全とか保護者からの突き上げとかもあって、いろいろ建前が必要だったのだろう。
そんなわけで、アリスやたまきのように勝手な「探検」を行う生徒以外は、自分たちの住む山のことをほとんど知らないという現状がある。
「その洞窟がオークたちの拠点になってるのか」
「だと思うわ。洞窟の入り口に十体くらいのオークがたむろっていたから。結構、慌てていたわ。わたしたちの接近を知ったばかりみたい」
志木さんによるとオークのなかにはエリートが二体ほどいて、指揮を執っているとのことだった。
なるほど、たしかに拠点っぽいなあ。
「洞窟近くの樹の上にアーチャーが四体、あと周囲を二体のジャイアント・ワスプが飛びまわっているわ」
総戦力は、これまでに比べるとたいしたことがないように思える。
問題は、戦闘を開始したあと、洞窟のなかからどれほどの敵が出てくるかだろう。
今回ばかりは、迂闊な突撃をためらってしまう。
だが、ここまで来て引き返すわけにもいかない。
次は敵ももっと警戒するだろう。
その布陣を打ち破れるとも限らない。
「ミア、地魔法のクリエイト・ストーンで、洞窟の入り口を埋め立てられないかな」
ミアは少し迷ったすえ、「可能、だと思う」といった。
だけど「でも」と続ける。
「だったらいっそ、たまきちんが大盾を構えて洞窟の前に立って、その後ろからライトニングを連射するとか」
もっとえげつない意見が返ってきた。
攻撃的な提案だけど、でもアリだなあ。
とはいえ、もしジェネラルが出てきたら、たまきか僕が相手にするしかない。
大盾は、雑魚が飛び道具をたくさん撃ってくる場面では有効だけど、ジェネラルを相手にするときは重くて邪魔なだけだ。
そう考えると……。
「アイアン・ゴーレムを呼んで、大盾を持たせるか。たまきはそのそばにいてもらおう」
「それがよさそうね。カズくん、あなたのMPが心配だけど」
「いまよりいっそう、ただいるだけになる」
作戦は決定した。
和弘は召喚魔法ランク6の使い魔であるアイアン・ゴーレムを呼び出し、フィジカル・アップ、マイティ・アームをかけたあと、たまきが持っていた大盾を渡す。
見上げるほどの巨漢であるアイアン・ゴーレムは、大盾を左手だけで軽々と持ち上げてみせる。
「アイアン・ゴーレムを先頭にして突っ込む。まず洞窟の入り口を塞ぐから、邪魔するやつはたまき、アリス、きみたちが切り捨ててくれ」
ゴーサインを出す。
たまきとアリスはうなずいた。
アイアン・ゴーレムが、重い足音を立てて駆けだす。
いささか鈍重そうな外見にもかかわらず、歩幅がおおきいため、走る速度はそれほど遅くない。
木々をかきわけて出現したアイアン・ゴーレムに、敵の注意が集中する。
鋼鉄の巨人に、樹上のアーチャーたちが矢を放つ。
アイアン・ゴーレムは大盾を掲げて、すべての矢を弾き返す。
「いまだ、突撃!」
ゴーレムの背後からたまきとアリス、桜、茜の4人が飛びだす。
アリスと桜と茜がオークを蹴散らし、たまきは一直線に指揮を執るエリート・オークのもとへ駆け寄る。
「わたし、役に立ってみせるんだから!」
たまきは、エリートの一体の首を一撃のもとに刎ね飛ばしてみせる。
奇襲を受けたオークたちが、洞窟のなかに向かって警戒の声をあげる。
洞窟内部で、慌ただしく騒ぐ音がする。
「やっぱり、洞窟のなかにまだ敵がいるか」
「想定内よ。増援が来る前に、なるべくここの敵を減らしたいわね」
一方、ジャイアント・ワスプには、火魔法の使い手ふたりと志木さんが攻撃をかけていた。
強襲を受けて混乱する蜂のうち、二体を地面に叩き落とす。
ここで、ハクカのレベルが上がり、白い部屋に行った。
「・・・はぁ・・・・疲れたよ」
「・・・ええ」
ハクカとアカネが疲れたように腰を下ろしていた。
僕たちも腰を下ろした。
そして、少しだけ休憩した。
そして、椅子に座り、ノートPCを見ると
「増えてるな」
「アキ君、何が増えているの?」
ハクカがたずねた。
「スキルとスキルポイントが」
事情を説明した。
「あの何か特殊な能力でも習得しているんじゃないでしょうか?ノートPCに載っていませんか」
アカネの提案で、見てみると特殊能力と下のほうに書かれていた。
「あったな」
僕の言葉で全員がノートPCを見た。
特殊能力をクリックした。
特殊能力
魂喰らい:魂を喰らい、スキルに変換する。喰らった魂は、主の下にいく
精力増強(大):精力が増強される
能力複製:??することで能力が複製される。
商機姦起:???するほど運気が上がり商運が巡る。
剛欲無限:???すればするほど魅力値が上昇する
???:???????????????????????????????????
魔力増強(大):魔力を増強する
魔力回復(大):魔力が回復する
引き出す極:眷属した相手の能力を3段階だけ引き出すことが出来る
神の手:???????????????????????????????????
天界の雫:??????????????????????????????????
神の舌:???????????????????????????????????
「たくさんありますね」
「ああ・・・・ただわかってないやつもあるけどね」
「でも便利ですよね」
「ああ」
「ん、ハクカちん、精力増強ということは、アキっちの相手、一人じゃ大変なんじゃ」
「・・・え・・・あ・・・・その・・・・・」
ハクカがミアの言葉でたじたじになっていた。
「アキっちとH・・・」
「そこまで」
僕は、あわててミアを止めた。
「ちぇ」
ハクカが治療魔法のランクを上げた。
僕は、エンターキーを押して、白い部屋から出た。
アキ:レベル20 剣術7/射撃4/治療魔法6/付与魔法6/召喚魔法6(リード・ランゲージ)/肉体7/運動7/偵察3 スキルポイント52
ハクカ:レベル16 治療魔法6→7 スキルポイント11→4
ミア:レベル18 地魔法5/風魔法6 スキルポイント0
アカネ:レベル14 槍術5/付与魔法4 スキルポイント3
白い部屋から出るとミアは奇襲の利点を活かし、まだ大樹の陰に姿を隠す前のアーチャーの一体にスリーピング・ソングをかけ、これを樹上から落とす。
無防備に落下したアーチャーは、頭から落ちる。
肉が潰れるような音を立てて動かなくなる。
「ん。スリープは正義」
彼女がいう通り、この局面における睡眠魔法は強い。
ミアと敵のレベル差があるからか、それともぼくの付与魔法のおかげか、雑魚にはこれまで一度もレジストされていないし。
この魔法、エリートにも何度かかけたそうだけど、全部レジストされているとのこと。
雑魚にはやたらめったら強いけど、ちょっとでもランクが上な相手にはきかない類いの魔法ってことなんだろうなあ。
なお昆虫であるジャイアント・ワスプには、そもそも一度もかけていない。
Q&Aにより、昆虫のように頭の内部の構造が違う生命体にはきかない魔法だとすでに判明しているからだ。
さて、正面。
もう一体のエリートもたまきが切り伏せ、アイアン・ゴーレムが洞窟の前にとりつく。
洞窟の奥に向けて大盾を構える。
アーチャーが、そんなアイアン・ゴーレムの背中に矢を放っている。
多少、矢が突き刺さっているものの、まだまだ健在だ。
このままじゃマズいとは思うけど……。
ミアにはこの先、別の仕事がある。
「ミア、きみは洞窟のなかにライトニングを。アーチャーはこっちでやる」
「ん、任せる」
ミアが駆けだすと同時に、ぼくは自分たち後衛の護衛として残していた三体のウィンド・エレメンタルを、樹上のアーチャーのもとに突撃させる。
アーチャーも、さすがに自分めがけて飛んでくる敵を見ては、アイアン・ゴーレムどころではない。
ウィンド・エレメンタルに矢を射かけるが、一発、二発喰らったところで倒れるようなランク5使い魔ではない。
ウィンド・エレメンタルとアーチャーが、接近戦を始める。
このとき、アカネがオークを一体、片づけた。
もとの場所に戻ったところで、ジャイアント・ワスプ四体が、洞窟前から少し離れた場所にいるぼくたち後衛陣のもとに急降下してくる。
ある程度は覚悟していたとはいえ、巨大な針を持つ大きな蜂が迫ってくるのは恐怖だ。
だが、ここはぼくが身を呈すべきところだろう。
女性陣の一歩前に出る。
リフレクションをいつでも使えるようにして……。
「いまよ、バーニング・レインを!」
志木さんのかけ声で、火魔法使いの少女ふたりが一斉に魔法を使う。
炎の雨が、接近するジャイアント・ワスプのもとに降り注ぐ。
少し離れていたぼくのもとにすら焼けるような熱気が迫ってくる、灼熱の炎。
その地獄の業火に二重に羽根を焼かれ、四体のジャイアント・ワスプはあっさりと地面に墜落する。
なおも消えぬ炎が蜂たちの全身を包み、焼き殺す。
うわあ、えぐいなあ……。
ある程度想定していたこととはいえ、火魔法はランクが上がると凄い破壊力だ。
なお地面に延焼しかけていた炎は、ぼくがサモン・ウォーターで大量の水を出して鎮火させる。
ちなみにバーニング・レインは、火魔法のランク4である。
こちらがそんなことをしている間に、ウィンド・エレメンタルたちが、それぞれ相手にしていたアーチャーを風のカッターで切り刻み、倒している。
ほかのオークは逃げようとしたところを、桜とアリスが執拗に追いすがり、すべて始末していた。
今回は先に洞窟という逃げ道を塞いだおかげで、殲滅が楽だった。
とはいえ、本番はここからだ。
ミアが洞窟内部にライトニングを連射している。
苦悶の声が洞窟のなかから聞こえてきている。
同時に、なにかが倒れ伏す音も。
だが、それだけではない。
「なにか、出てくる」
ミアが叫び、少し後退する。
和弘はアイアン・ゴーレムに一度下がるよう促し……。
その前に、洞窟から飛び出してきた者がいる。
そいつの武器は、銀色に光る金属球がついた鎖とそれを振りまわすための柄としての棍。
いわゆるフレイルである。
そのフレイルという武器を構えた黒いオークが、アイアン・ゴーレムの胴にその金属球をぶつけ……。
ようとしたところで、それを遮るものがあった。
鋭い動きで割り込んだたまきの銀剣が、銀色の金属球を弾く。
「ジェネラル、あなたの相手は、わたしだわ!」
たまきに応えるように、ジェネラルが雄たけびをあげた。
衝撃波で、アイアン・ゴーレムが吹き飛ばされる。
さて、ここからが……決戦の本番か。
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