様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 和弘がリーンさんに人体実験されているうちに、情勢が変化した。
 リーンさんがふと小首をかしげ、呪文の詠唱を中断する。

 使い魔でいろいろ監視していたっていうから、それ関係か?

「みなさんが最初に奪還した砦にモンスターが迫っているとのことです」

「思ったよりずっと早かったわね」

 呪文を食らいまくる和弘を見てにやにやしていた志木さんが、緊張した面持ちになる。
 リーンさんは、ちょっと厳しい表情をしていた。

 ひょっとして……結構、迫ってくる敵の数が多いのか?

 ぼくたちの奇襲から、まだ数時間も経っていない。
 まとまった数を砦の奪還に向かわせるのは、いくらなんでも難しいだろう。
 光の民が迅速な戦力の集中投入を可能としているのは、リーンさんの使い魔テレポート・ネットワークがあってのことである。

 となると……。

 もしかして、神兵級が複数、攻めてきちゃったりする?

「高速の混成部隊で、メキシュ・グラウが四体、確認されております。メキシュ・グラウのうち二体の背中に、レジェンド・アラクネの姿があります。メキシュ・グラウは飛行しているとのことです」

 メキシュ・グラウが四体、レジェンド・アラクネが二体。
 神兵級が合計で六体か。

 それだけじゃない。

「メキシュ・グラウが空を飛んでいるってどういうことですか」

 メキシュ・グラウは四本腕のケンタウロス型モンスターだ。

「翼があるようには見えませんが、空中に道があるかのように駆けています。そういう能力、なのかもしれません」

「ウィンド・ウォークかな」

 風魔法ランク5のウィンド・ウォークは、空中をまるで地面であるかのように踏みしめることができる魔法だ。
 持続時間は、ランクあたり二十分。
 いまのミアなら効果時間が三時間である。

 出撃前に、魔術師型モンスターの誰かにこれをかけてもらったのだろうか。
 ありうることだ。
 メキシュ・グラウの移動スピードで三時間も走れば、かなりの距離を移動できることだろう。

「ところで、一昨日あたりまであのあたりに神兵級は確認されてなかったんじゃ……」

「グロブスターで呼んだのかもしれないわ」

 志木さんがいった。

「で、本来は攻勢作戦に使うはずだった神兵級を慌てて砦の奪還に差し向けてきた?」

「あくまで可能性のひとつだけどね」

 なるほど、でも筋は通る。
 敵も、それだけ必死なのだろう。

「さて、んじゃ迎撃するとして……六体同時は、ぼくたちだけじゃ手に余るな」

「桜ちゃんたち第二チームとアキ君たちのチームも投入するわ。結城先輩と啓子さんにも助力を仰ぎましょう」

 向こうが神兵級だけで空を駆けて攻めてきたのは、最速で最大戦力を投入することで、こっちが態勢を立て直す暇なく砦ごと破壊するためか。ここで神兵級だけが護衛もなしの六体で攻めてくるというのは、いくらなんでも強引すぎるように思うのだ。

「また3パーティか。でも、あまり数を増やして欲しくないかな」

「ええ、14人ってところ。あなたたちを第一パーティにして、第二パーティは桜ちゃん、潮音ちゃん、百合子ちゃん、忍者ふたり。第3パーティは、アキ君たちのパーティ。こんな感じでどう?」

 潮音&百合子コンビは、火魔法のランクが9になっている。
 槍術9の長月桜と共に、育芸館組のエースチームを形成していた。
 昨日のアガ・スーとの戦いでも、その火魔法によって多数の雑魚を焼き殺し、露払いしてくれたのが彼女たちだ。

「では、志木のいう人員を集めます。カズと秋は少し残ってください。カノンの歌で、もう1つ守り札をつくってもらいましょう。カノン、できますか」

「はい。まだMPはあるみたいです」

 あ、歌音の音楽スキルって、MPを消費するのか……。
 当然か、これってもはや、一種の魔法だもんな。
 音楽関連って白い部屋のQ&Aでもさっぱり要領を得ないから、わからないことだらけなんだよなあ。

「カズさん、どんなお守りを作ればいいんですか」

「そうだな……」

「乱戦になったとき、レジェンド・アラクネの鋼糸が無数に飛んでくるのは……こっちの人数が多いほど、厄介かな」

「糸攻撃ですか……わかりました、では」

 志木さんが出ていったあと、安産祈願のお守りを14個、テーブルに置いて、歌音が歌い出す。
 教科書にも載っている、さくらさくらだった。

 なぜここで、その歌が出てくるのか……?

 そんな疑問が浮かんでくるのはともかく、素人のぼく的には、とても上手な歌に思えた。
 音楽スキルの効果だから、きっと歌の上手い、下手に関係はないんだろうけど……。
 歌音のさくらさくらは、ゆっくりと波打って、ぼくの心に沁みわたる。

 気づくと、ぼくは涙を流していた。
 あれ……なんで、こんな。
 横を見ると、リーンさんがちいさくうなずいた。

「カノンの歌は、ひとの心を動かします。それがスキルのせいなのか、それとも彼女特有のなにかなのかまでは、わたくしにはわかりかねますが……」

 光の民の指導者たる少女は、しみじみと呟く。

「よい、歌ですね」

「はい」

 ぼくは心から同意した。



 検証のときにわかったのだが、お守りを複数持っていてもあまり意味はないようだ。
 どうしてなのか、まだ詳しいことは不明なのだけど、リーンさんによれば「波の干渉が起き、動作不良を起こす」といった感じの現象が発生しているとのこと。
 ゲームでいうと、お守りスロットはひとつ、ってことなのかなあ。

 で、お守りは持っているだけで効果を発揮するけど、そのたびに劣化していく。
 最終的には壊れてしまうとのこと。
 回数制限の使い捨てアイテム、ますますゲーム的である。

 いやまあ、それをいったら白い部屋のシステムはすべて、どこかのゲームから持ってきたとしか思えないようなものばかりなんだけど。
 いったい、どういうことなんだか。

「がんばってください、カズさん、アキ君!」

 歌音は、そういって送り出してくれた。
 彼女の目には、ぼくに対する限りない信頼と尊敬の念がある。

「そうだった。出発前に渡しておくものがあった」

「なんですか?」

「これを指にはめて欲しい」

「・・え・・・これをですか」

 歌音が頬を赤く染めてそれを見た。

「白い部屋に行くための道具だ」

「・・・そうですか」

 歌音がしょんぼりとしていた。

「・・・・?」

 しょんぼりしている歌音。
 もしかして指輪まずかったか?
 僕は、歌音を抱きしめ

「・・・なんかごめん」

「・・・いえ・・・そんなこと」

 歌音の耳元でいう。
 志木さんは、なにやらニヤニヤとしていたが努めて無視した。
 僕が、事情を説明すると

「・・・では、ひとつだけお願いがあります」

「・・・いいけど」

「・・・・です」

「わかった」

 僕は、歌音から離れた。
 待ち合わせ場所となった世界樹近くの転移門の間には、すでに全員が集結していた。
 待たせたことを詫び、出撃する14人全員、安産祈願のお守りを首から下げてもらう。

 ルシアは

「このお守りの本来の加護は、どのようなものなのでしょう」

 と興味深そうだった。
 和弘が言葉を濁したところ、ミアが口もとに手を当て、下品に笑った。

「なるほど、ミアがこういう笑いをするようなものですか」

「ルシア、ミアのことをよく理解するようになったな……」

「ん。ちとワンパターンかのう、いけんのう」

 いけんのう、っておまえさんどこの人間だよ。

「でも、このワンパターンにこそわたしの生きる道がある」

「そんな生存ルートは燃え尽きてしまえ」

 呑気なことをいいあいながら、例によって使い魔の鷹のワープで砦の前につく。
 砦では、二百人ほどの兵士が忙しく働いていた。
 耳とか尻尾とか身体のどこかが動物っぽさを出しているから、皆が光の民のようだ。

 ここはもともと光の民の防衛拠点だったって話だから、それを光の民が守るのは当然か。
 土の精霊を使役する魔術師が、砦の壊れた部分を修復しようと土壁を盛り上げている。
 その横で、一般兵士たちが瓦礫を片づけていた。

 どのみち、メキシュ・グラウ相手にこんな石の壁なんてなんの意味もない。
 相手は、丘のひとつくらい、まとめて吹き飛ばすような存在だ。
 神兵というクラス分けは伊達ではない。

 というか、ぶっちゃけ彼ら、戦いの邪魔になりそうだなあ。
 どうせ戦力にはならないし、吹けば飛ぶような兵士を守って戦うのは面倒だ。

「リーン、彼らを退避させてもらえますか?」

 ルシアも同じことを思ったのか、頭の上に載せた鷹にそんなことを訊ねていた。

「彼らを囮として扱っても、いっこうに構いません」

「囮って……ああ、そうか。なにも気づかないフリで作業していれば、向こうも少しは油断するってことか……。で、奇襲、と」

 ぼくは少しだけ、頭のなかでその案をもてあそぶ。
 メキシュ・グラウもレジェンド・アラクネも、隠れている敵を感知する能力があることは確認済みだ。
 そしてメキシュ・グラウのその能力が、およそ半径百メートルに及ぶことも判明している。

 砦に敵がいれば、メキシュ・グラウたちはまず遠距離から、それを排除しようとするだろう。
 炎の矢、邪炎撃の有効射程は一キロ以上ある。
 挨拶がわりの一撃でも、砦は致命的な被害を被るに違いない。

 もし彼らを退避させた場合、どうか。
 敵は、この砦がもぬけのカラであることをすぐ見抜くだろう。
 警戒し、場合によっては引き返すかもしれない。

 いや、その場合でも砦を破壊くらいはするか?

 メキシュ・グラウの邪炎撃があれば、この程度の城塞、破壊することはたやすいように思える。
 敵としては、どのみち自分たちを逆包囲することになりかねない拠点を潰してしまえるわけで……。

 僕たちは、和弘を見た。

「彼らは砦の内部か、すぐ内部に避難できるところで作業してもらおう。ぼくたちは砦を守りつつ、メキシュ・グラウを引きつけて迎撃しよう」

 和弘は自信を持って、そう宣言した。



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