様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「お父様、森に行ってきます」

「熊や狼には気をつけるんだぞ」

 この前、採取をしてから一週間が経った。
 いつものように森へと出かける僕に、えらく上機嫌な父の姿があった。
 まだ六歳で役立たずだと思っていた末っ子が、家族の食卓を豊かにするのに貢献していたからだ。
 元々員数外で、開墾の手伝いもまだ無理だと思っていた僕が、毎日、野苺や山菜などを取ってきたからだ。
 食べられる食材を的確に採集して持ち帰るので、最近では家族の受けもよくなっていた。
 やはり、パンとチーズだけの食事には皆が辟易していたのだ。
 だが、この村の生活はさして余裕があるわけではない。

 5年前。

 魔物領域の解放名目にブライヒレーダー辺境伯家に利益の献上と引き換えに天地の森に領民の200名以上が出兵。実に領民の5分の1の成人男性が出兵に参加したのだ。
 天地の森に出兵した領民達の大半が死亡しながら何とか帰還した直後に疫病が発生し、領民の3分の1以上の死亡してしまった。疫病が治まるのに3年の月日が必要だったのである。疫病発生で畑が荒廃したので、畑の回復に現在までかかっている影響で、農作物の減少に加えて狩猟を行える人間が少なくなっていたからだ。

 子供を回すというのは危険かもしれないが、僕は所詮は末っ子で、もし死んでも大きな影響があるわけでもない。
 同じ子供でも、領民の子供たちは農作業や家事の手伝いに忙しい。
 さらにその貴重な労働力に死なれると困るので、現在子供で森に入っているのは僕だけであった。
 六歳の子供の稼ぎに期待する貴族ってどうなのかと思うが、これがこの世界の下級貴族家ばかりか、この世界の多くの人たちの現実なのであろう。

 僕が成人してから行く予定の都市部が、これよりもマシな状況であることに期待するのみであった。
 それでも僕は、己の食生活向上のために狩猟採集活動を続ける。
 パンと少量のチーズのみの生活から脱却するためである。
 他にも色々と手に入るものは多いし、なにしろ森の中ならば自由に魔法の練習ができるのだ。
 山菜やアゲビなどを採って背嚢に詰めていく。

「しかし、この森の生態系や植生が理解できないな……」

 日本の森ではないので当然とも言えたが、ここには前世では見たことがないような動植物に、松や杉や広葉樹に、ウサギに猪に熊に狼に、そして自然薯や山菜やアケビ、山苺など、様々な動植物が、まるでカオスのように混在していた。

 自然の恵みは、かなり多い方と言えよう。
 ただ、普段は人手の多くを農作業に従事させているので、頻繁に狩猟、採集に回す人手は、いないようであった。
 狩猟は、基本的には8人程度で1パーティを組んで複数の成人男性で森に入るのが普通らしいが、今のファブレ騎士爵領では、複数の大人の男性が集まること自体が労働環境的に難しかった。

「しかもその農民たちも、自分の家から近い別の森で狩りをしているらしい」

 そんなわけで、この森は秋の伐採時期や冬場の狩猟の時期を除いて、普段は滅多に人が入って来ないらしい。
 勿体ない話だが、収量が安定しない自然の恵みよりも税収になり、ある程度収量が計算できる農作物の方が最優先なのは、これは領主として当然の考え方とも言えるのだ。

 なにしろここは他の領地との交流がほとんどない僻地なので、自給自足ができないと飢え死にに直結してしまうからだ。
 魔法を使い、規定の収量を確保した僕は家路へと急ぐ。

「ご苦労様」

 母に収穫の成果を渡し、果物と野菜スープが増えた夕食を堪能していると父が突然とんでもないことを言い始めた。

「猟師のエスが、『語り死人』を目撃したらしい」

「本当ですか? 父上!」

 マリオが驚きの声をあげる。

 『語り死人』とは、それほどの存在……字面からしていい印象は受けないか。

「ああ、五年前の犠牲者だろうな」

 五年前。
 多くの魔物たち棲む天地の森の一部でも開放をと願った父は大きな犠牲を出してしまった。
 幸いと言おうか、二千人もの他領の軍勢を領内に入れたので治安維持のために忙しかった父は天地の森に行かずに済んだそうだ。
 だが、父の家臣であった大叔父が率いた軍勢263名は、僅か23名しか戻って来なかったらしい。

 そして生存者の中に、その大叔父もいなかった。

 せっかく人口が少しずつ増えていたファブレ騎士爵領において、240名もの成人男性の戦死と疫病発生により領民の3分の1の病死が大きかったことは想像に容易い。
 今の極端な農作業への人員の配分や僕が森で危険と隣り合わせで狩猟と採集を行ってもなにも言わないのは、その辺の事情が大きいのだからだ。

 なお当のブライヒレーダー辺境伯家諸侯軍も先々代当主を含めて千九百二十五名が戻って来なかったそうだ。
 誰に聞いても全滅したと答える犠牲者の数であり、軍人としては無能と言われても仕方のない犠牲者の数だな。
 その前に撤退しろよと言われるのが普通だ。

「これから暫くは、死霊系の魔物に悩まされますか……」

「まだ、語り死人なのでマシとも言えるな。ゾンビだと討伐が面倒だ」

 一切自分のテリトリーからは出てこないのが常識である魔物であったが、唯一の例外はこの死霊系の魔物であろう。
 元が人間なので、魔物になっても本能で故郷へと戻ろうとする個体がどうしても一定数発生してしまうからだ。
 図鑑によると本能のみで動くゾンビのような魔物は人間に害をなす厄介な存在らしい。
 これは早急に討伐が必要なようだ。
 ただ動きも鈍いし、もの凄く火に弱いので、油をかけて焼いてしまえばいいらしい。
 そして肝心の語り死人であったが、これは対応がケースバイケースになる。
 死の恐怖で凶暴化していてゾンビのように焼くしかないケースや普通の人間のように話しかけてきて、話しかけられた人がお願いを聞くと成仏してしまうケースなどだ。
 話しかけられるのは神父など聖職者が多いようだが、波長が合えば普通の人でもコンタクトは可能であり、願いを叶えれば成仏させることも可能なようだ。

「神父様に頼みますか?」

「スター殿は、お年で腰が悪いからな。どこにいるのかもわからない語り死人を探すことなど不可能だよ」

「そういうわけなので、ルークも森に入る時には気をつけるように。そのうち領地から出て行く可能性もあるしな」

「(そんなに都合よく行くのかな?)」 

 なんとも無責任な父の話を聞きながら、不謹慎にも僕は、その語り死人に対し興味を持ってしまうのであった。



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