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「えっ! そんな事があったのか!」

「トニー兄貴……」

 天地の森での依頼を終えた俺達は、その足で王都にあるザフト邸まで移動していた。

「アンディ兄さんに取次ぎを頼みたいのですが」

 すぐに只ならぬ状況である事を察し、アンディ兄さんが仕事から戻って来るまで、食事でもと屋敷の中に案内してくれた。
 そして、使用人達をグラムとリョウの元にも差し向けてくれたようだ。
 それから約二時間後、三人の兄さん達は俺から領地での出来事を聞き、深刻そうな表情を浮かべていた。

「アンディ兄さん?」

「ある程度、予想はしていたけど……。しかし、ここでヒルゼンか……」

 アンディ兄さんに言わせるとトニーの言動はある程度想定の範囲内であったらしい。
 予想よりも愚物度は上がっていたが、それでも父が抑えれば何とかなると思っていたようだ。
 あくまでも暫くはという条件付きではあったが。

「ところで、ヒルゼンの話は本当なんですか?」

「跡取り息子とレイナさんの婚約者の件かい? 事実だよ。ねえ、グラム兄さん?」

「ああ。俺も当時四歳だから、後で聞いたんだけどな」

 やはり、人の口に扉は立てられないらしい。
 父が緘口令を敷いたせいで、余計に領内に広がってしまったようだ。
 あんな碌に娯楽もない領地なので、真相を推理して楽しんだのかもしれない。

「ただ、二人が同時に崖から落ちて死んだのは事実でも、それに父が絡んでいた証拠は無い。噂は、本村落以外なら100%有罪判定だったね」

 被害者が、本村落の名主であるヒルゼンの息子達なので、あまり同情はしないが、領内の体制を強化するために領主様ならやりかねない。

 二の舞はゴメンなので、あまり表立っては言えないけど、と思っている領民達は多いそうだ。

「ルークも知っているだろう? あの崖では、岩茸が採れるのを」

 グラムの言う通りに、その崖では確かに岩茸という茸が採れるのだ。
 あの薄い塩スープに入れると良い出汁が取れるので、みんな競って採集していたはずだ。
 なかなか成長しないので貴重なのと崖の斜面に生えるので、採るには危険も存在していたのだ。

「はい、知ってます。ですが……」

 父と二人はあくまでも狩猟をしていたのであって、岩茸を目的にしていたわけではない。
 ところがその日に、父に忠実な本村落の村人数名が、岩茸採りでその岩場に行っていたらしいのだ。
 ヒルゼンが言っていた連中とは、彼らの事なのであろう。

「状況的に言うと父がその村人達に指示してという可能性がある。でも、彼らはヒルゼンの支持者でもあるんだよね」

「もう一つ、噂があったな」

 リョウは、もう一つ嫌な噂を聞いた事があるそうだ。

「レイナさんは、美人で男性に人気があった。自分の嫁に欲しいと願う村人達も多かったそうだ」

 つまり、岩茸採りの連中は、レイナさんの婚約者だけを亡き者にしようとしていて、何かのミスでヒルゼンの息子も殺してしまったのではないかという物だ。

「それだと父は無関係の可能性が」

「高いな」

「でも、真相は不明なんだ。父を拷問して吐かせるわけにもいかないしね」

 拷問は極端な意見だと思うが、結局証拠が無いので父から真相を聞くしかないのも事実であった。
 聞いたところで、父が事実を話す保障も無いわけなのだ。

「知っていたんですね」

「あくまでも、あらましだけだよ。真相は、ヒルゼンでもわからないだろうし」

 真相は不明だが、奇妙な事件で自分の愛する息子と娘の婚約者を失ったのだ。
 彼からすれば、父を恨む事で精神の均衡を保っている可能性があった。

「父の悪癖とレイナさんの件ですけど……」

「それもなぁ。本村落以外の連中は、有罪判定していると思う。でも、他の可能性もあってね」

 アンディ兄さんは、あくまでも自分の考えであると前置きしてから、その考えを述べる。

「本村落の名主であるヒルゼンは、跡取り息子と娘の婚約者を同時に失ったわけだ」

 そうなるとヒルゼンの跡を継ぐ次の本村落の名主は、レイナさんの新しい婿という事になる。

「残り二つの村落の名主達が、自分達の次男以下の息子を押し込もうとしたという噂があってね」

 もしそれが実現すれば、本村落優位の領内の体制に楔を打ち込める可能性が高い。
 皮肉にも、他の本村落の婿候補者達は、あの岩茸採集に出ていた連中なのだそうだ。

「レイナさんからすれば、彼らは嫌だと思うよ」

 自分の婚約者を殺した疑惑のある男達と結婚するなど、確かに誰でも嫌なはずだ。

「かと言って、他の村落出身者の婿だと。当然、本村落の連中から不満が出るよね。だから、父がそういう事にしたんじゃないのかな?」

 領主の庶子に継がせるのなら、他の村落の名主達も文句は言えないはず。
 だが、父が露骨に前に出ると彼らの不満が高まってしまう。
 だから、ヒルゼンから話しを切り出した事にして、徴税業務の独占が褒美であったと父からすれば、将来的に自分の子供が徴税業務に関われるのは得になるわけだ。
 情況的に仕方が無いとはいえ、息子達の喪も明けない内からの提案なので、ヒルゼンは内心では気に入らなかったはずだ。
 あまり話を先延ばしにすると、本村落以外の連中が五月蝿くなってしまうので仕方がなかったのだ。

「そう言う事なら、納得はいくかな?」

「でも、これも推論。結局、真実は父とヒルゼンしか知らないんだよね」

 かと言って、探偵みたいに調査などしても領内が騒ぎになるだけであろう。
 トニーからすれば、領内を掻き乱す迷惑者として、また嫌味でも言われるのは確実であった。
 二時間物の推理ドラマでもないので、俺達が調査したところで真相に辿り着ける可能性は低いのだ。

「それで、父の悪癖なんですけど……」

 俺は、実家時代はあの生活だったので、真相など知る由もない。 
 だが、兄さん達は何か知っている可能性があった。

「俺達以外に兄弟姉妹がいる? 絶対に無いとは言えないなぁ……」

「バウマイスター男爵やルークと揉めているルックナー会計監査長だって、相続でもめる要因になるから、ローデリヒさんを認知しなかったでしょう?」

 決して褒められたやりかたではないが、相続でもめるよりはマシだと非常に徹する。
 これも貴族なのだとアンディ兄さんは言う。

「普通なら、愛人を囲ってとか。貴族御用達のお店もあるしね」

 値段は高いが避妊薬もあるし、早ければ子供を下ろすという方法もある。
 だがそれが出来るのは、都市部の貴族や地方では大物貴族だけだそうだ。

「地方の零細貴族が、あまり家族計画とか考えないよね」

 田舎暮らしで自分にヘイコラする領民達しかおらず、狩猟くらいしか娯楽もない。 
 となると領内の綺麗な女に走る者も多いらしい。
 なので、絶対に無いとは言えないと兄さん達は言うのだ。
 まさか父とて本屋敷に女など連れ込まないであろうし、兄さん達に直接見られるようなドジもしないであろう。

「あと。うちは、他所から移民した連中の寄り合い所帯だろう?」

 グラムの話によると王都周辺や北方などは違うそうだが、南部寄りの田舎の農村とかだと住民が性にルーズだったりするそうだ。
 江戸時代の農村と似たような感じらしい。

「本村落以外の連中で、南部や西部寄りの農村部から来た連中だな」

 婚姻前の娘に手を出すのはご法度らしいが、結婚して跡取りが生まれると男も女も結構自由に浮気をする風習があるらしい。

「跡取りはいるから、それで浮気相手の子供が生まれても、『まあ、いいか』くらいの感覚なんだと。ファブレ領は他の地域の出身者も多いから、もうほとんど無い風習だけどな。ルパンの兄貴や俺が子供の頃には、ギリギリ残っていたかも」

 ちょうどその頃にようやく教会ができ、王都から一度引退した年寄りとはいえ司祭が赴任するようになると、そういう風習は鳴りを潜めたそうだ。

「教会は、不義密通を嫌うからな」

 そんな事をするなら、正式に奥さんと認めて囲えという教義なので、地球のキリスト教とは差異が存在しているのだ。
 移民初期には、それが当たり前の住民とそんな風習が無い住民とで良くトラブルになったらしい。
 それは、自分の奥さんに誘いをかける妻子ある間男の存在など容認できないであろう。

「その仲裁で、ヒルゼンは若い頃に苦労したんじゃないかな?」

「それで、父は?」

「若気の至り? 母が妊娠している時とかに?」

 名主のヒルゼンからすれば、本村落や他の村落でもそんな風習など無い人達に配慮しないといけないが父は、そういう風習のある人達に配慮したのかもしれない。

「特に女性から誘われたら断るのはご法度だったそうだ」

 老婆に誘われても断れないのであれば、それは拷問なのではないかと思ってしまう。

「父は、そういう女性達からの誘いを断らなかった。領主として、出来る限り陳情を受け入れるという趣旨と。実は、誘惑に抗えなかったと?」

 あとは、その後に相手の女性が妊娠した時にトラブルがあったのかもしれない。
 風習からすれば、その子はその女の家の子供。
 つまり、法的な旦那の子供という事になる。
 だが、領主の子供という事になれば、風習を無視して権利を主張する女性が居たのかもしれない。

「ここで問題なのは、浮気したからって100%父の子という保障もないからね」

 単純に本来の旦那の子供という可能性もあるのだ。

「旦那の方も、その子が父の子として優遇されるとなると良い思いが出来るかもと一緒に権利を主張したのかもしれない。それで、その後始末だけど……」

 そんな風習は、領内の秩序を乱すと考えて嫌っているヒルゼンの仕事だったのであろう。
 結局、その生まれた子供は、継承争いの元になりかねないので領外に出す羽目になった。
 人口的にも、生産力的にも、ヒルゼンからすれば、苦労ばかりさせられて『ふざけるな!』と思ったのであろう。

「ただ、これも推論なんだよね」

 どのみち、真相など調べようがないのだ。
 個人的には、『息子と娘の婚約者を失ったヒルゼンには同情するけれど……』という物になってしまう。
 父に関しては、『もっと、怪しまれないように行動しろよ!』としか言えなかった。

「アンディ兄さん?」

「もうルークが行ってみるしかないよ。何しろ、ルークはあの領地の情勢を左右する大物になっているわけだし」

 今までならどうにか現状維持でいけたファブレ領であったが、俺が再びあの領地に足を踏み入れた時点で、その箍が外れつつあるとアンディ兄さんは言うのだ。

「領民達だってバカじゃないんだ。ルークが、もう別家の当主だなんてとっくに理解している。でも、ルークが領主になれば滅多に来ない商隊を待ちわびる日々も終わる。未開地の開発が進んで、他の土地との交流も始まるかもしれない。そのためなら、混乱が起こる可能性も、それで死ぬ人が出る可能性があってもね。だから……」

「だから?」

「ルークが収めるしかない。これも青い血に生まれた宿命だと思って」

「それは・・・・」

「ルークがあの土地を引き継ぎたくないのは分かっている。だからといって、ルークは、あの領民たちに犠牲になってほしいわけじゃないよね」

「はい」

「混乱を収めることと領主になることは別だからね」

 もうこうなったら、俺が何とかするしかないとアンディ兄さんに言われてしまう。
 とはいえ、まだ何か実際に起きているわけでもないので、今はとにかくファブレ領に戻ってみるしかない。
 ただ、戻れば何かが起きる可能性があるのだと。

「今日は、もう泊って行くと良い。あと、リョウ兄さん」

「やっぱり、何か起こる可能性があるのか。アンディに言われて公休届けを出したけど、上司が文句一つ言わないどころか、『頑張れよ』だってさ」

 その上司には、多分エドガー軍務卿から私的に通達が来ているのであろう。
 ついでにとばかり、警備隊の同僚や部下で腕の良いのを数名押し付けられたそうだ。

「俺だけだと心許無いからな。ルークの今の立場を考えるに俺も含めて肉の盾だな。万が一にも死なれると、みんな物凄く困るわけだし」

 うちのパーティーの戦力を考えると、そう不覚は取らないはずであったが、不意を突かれないために護衛も必要であろうと。
 というか、うちの領地でトニーがバカなことをやっていることを知らないはずなのにエドガー軍務卿も導師並に勘がするどい。

「王都の警備隊は、俺がいなくても回るからな。追加の助っ人数名くらい、余裕で出せもする。そんなわけで、明日の朝に一緒に連れて行ってくれ」

「わかりました」

 予定では、リョウ兄さんと五名の助っ人が同伴するらしい。
 指揮能力よりも個人的な武芸に優れたメンバーを選んだそうだが、一人警備隊に所属していない人がいるらしい。

「うちの上司から連れて行くようにって言われたんだけど、間違いなくエドガー軍務卿の推薦らしい。戦斧の達人らしいぜ」
 
 俺たちは、誰か心当たりが浮かんだ。
 人数的に、こっそりと本屋敷裏の占有森に、二往復して移動する必要がありそうだ。

「では、明日の早朝にザフト邸の庭で」

「わかった。助っ人達には伝えておく」

「出来れば、何もおきないといいです」

「頭の悪い俺でも望み薄だと分かるけどな」

 一通り打ち合わせを終えた俺達は、明日に備えて早めに就寝してしまう。



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