様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 翌日の早朝。
 ヴィルマをブライヒブルクに『瞬間移動』で送り届けた。

「ユダンはダメ」

「分かっている。昨日はありがとう」

「平気」

 俺は、ファブレ領に戻るとハクカ達と合流して『瞬間移動』で未開地にある天地の森へと飛んでいた。
 俺は幼少の頃から広大な未開地の探索を魔法の訓練と平行して行っている。
 おかげで、未開地のほぼ全ての場所に『瞬間移動』で移動可能になっていた。

 当時はまだ未成年だったので天地の森に入って万が一の事があったら大変なので森の中には入っていなかったが、その周囲のポイントは全て把握済みとなっている。

 例の遠征軍の侵入ルートも大分前から把握はしていた。
 さすがに当時遠征軍が切り開いた木々や下草などは、その旺盛な繁殖力によって既に回復している。
 だがその地点は、大軍でも何とか侵入可能にはなっていた。
 侵入後の生命の保証は、遠征軍の最後を見ればわかると思うが、全く出来なかったのだ。

 俺は、侵入予定地点から内部を探知魔法で探索していた。

「うわっ! 物凄い数の気配……」

 ようやく天地の森へと入った俺達は、すぐに背筋がゾクっとする感覚に襲われる。
 特に魔闘流の使い手で、こういう気配に敏感なユリアは、その感覚に警戒感を露にしていた。
 十五年以上も前に、ほぼ同じ位置から遠征軍も入って行ったはずだが、彼らのそのほとんどが、この地で人生を終えていている。
 当然その未練は、彼らの死体をアンデッドにしてしまう。
 最初はゾンビになり、そこからまるで借金の利息のように怨念を募らせた個体からグール、リッチ、スケルトンなどへとジョブチェンジしていくのだ。

 ユリアの感じた大量の魔物の気配は、間違いなく彼らアンデッドの物であろう。

「では、作戦を開始します」

 一番の年長者であるセイの合図で作戦は始まるが、実はそんなに複雑な物でもない。
 最初にハクカが1辺が2メートルほどの布を一枚広げて敷く。
 この布には、教会で祈りを受けながら高司祭が描いた浄化の補助魔法陣が描かれていた。
 一種の魔道具といえた。

「そんな魔法陣があったんだな」

「うん・・・瑕疵物件の『浄化』の時に習ったんだよ」

「・・・あれか」

「ルークが使うかどうか分からないけど1枚ほどね。購入したんだ」

「いくらだ」

「えっと・・・私が購入したから・・・そのルークのプレゼントじゃダメ」

 ハクカが、上目遣いで俺を見て言う。

「分かった、ありがたく貰うよ。しかし瑕疵物件の『浄化』か」

「大変だったよね」

「そうだね」

「ああ」

 ミュウの一言で、俺とハクカは遠い目になりながらいう。
 報酬は、固定で白金貨3枚であるが、当時、未成年でもあった俺、ハクカ、ミュウ、スズネは、教会と王国の依頼で瑕疵物件の『浄化』に赴いたのだ。尚、今まで『浄化』した瑕疵物件の数は、1000件にも登っていた。
 ハクカが魔法陣の上に立ったのを確認するとハクカを除いた全員が俺の風魔法で声を拡散させるだけだ。
 そして、一斉に決められた言葉を叫び始めていた。

「やーーーい!戦下手!」

「お前なら、十分の一の戦力でも余裕で勝てるわ!」

「軍事的才能が、ゼロどころかマイナスなやつめ!」

 別に冗談でやっているわけではない。
 戦に破れた軍勢の戦死者達がアンデットになる場合、当然その知能などは低下するわけなのだが。

 生前からの本能なのか?

 こちらからの悪口などを、ある程度理解する事が多いのだ。
 バカにされている事に気が付くという程度の物らしいが。
 それと、もう一つ。
 集団化したアンデッドには、なぜか統率者が現れる。
 これも半ば本能なのであろうが、なぜかその統率者が決まる基準は生前準拠な事が多い。
 という事は、当然先代のブライヒレーダー辺境伯の腹心の一人が統率者になっている可能性が高かった。
 なので、それを狙った悪口作戦はかなり有効なはずであった。

「うわっ! 本当に来た!」

 悪口を言い始めてから数分後、遂に前方の藪から数体のゾンビの姿が見え始める。

「先行偵察部隊ですね?」

「嫌な偵察部隊だね」

「ハクカ、詠唱準備」

「うんっ!」

 俺の合図で、ハクカは、静かに祈りを始めてから浄化の魔法を発動させる。
 その浄化魔法の範囲は直径100メートルほどだ。
 悪口で呼び寄せてから、浄化魔法の範囲内に入れて浄化させる。
 まるで、ゴキブリホイホイのような作戦ではあった。

「うわっ、気持ち悪っ!」

 さすがは、十五年以上も前に死んだ死体である。 
 アンデットになると腐敗は遅延化するのだが、全く腐敗しないわけではない。
 魔物に体を食い千切られ、切り裂かれた部分から腐った内臓や骨が露出し、肌もドス黒いゾンビが、見た目からして良い印象を得られるはずもなかった。
 更に着ている鎧なども錆だらけで再利用は不可能なようだ。
 剣も錆びたていたり、死んだ時の魔物との戦闘で刃がボロボロだったり、先が折れていたりと。
 その大半が、遺品として遺族に渡すか、クズ鉄として再利用するしかないようであった。

「持ち物とかで、売れる物はあるのかな?」 

 もうゾンビになってから、十五年以上も経っているのだ。
 当時、所持していた食料は非常食でも腐っているはずで、その前にゾンビは知性を無くし本能でしか動いていない。
 グルメでもないので、集めていた魔物の素材ですら貪り食ってしまっているはずだ。
 アンデッドが、生前の本能に従って何かを齧っていても、それが栄養になるわけでもない。
 ただ噛み砕かれた物が、胃腸などを通って肛門から地面に落ちていく。
 要するに垂れ流しだ。
 当然、噛み砕かれた時点で、魔物の素材などは無価値に成り果てる。
 薬草などは、言うまでもないであろう。
 次第に集まって来るゾンビ達の中には、尻から何かを垂れ流しながら向かって来る個体もあった。
 中には、腹が切り裂かれているのでそこから何かが流れ出ている個体もあり、あまり見ていて気分の良い物ではない。
 王都で瑕疵物件を浄化した時よりも胃の中の物を吐き出したくなるようなアンデッドが多かったのだ。
 前世でゲーセンで遊んだゾンビを銃で撃つゲームよりもビジュアル面では最悪であった。
 更に彼らからすると生きている人間ですら餌でしかない。
 視界に入れば喰らおうとするので、退治は必須とも言えた。

「でも、弱いな」

 剣を構えて準備していたリッドであったが、ゾンビは次々とハクカの展開した聖魔法に触れると体ごと消滅していく。
 残ったのは、錆びて薄汚れた装備品のみであった。

「ゾンビは個々では弱いのよ。ただ、数が揃うと脅威になるからみんな気を付けて」

 冒険者であるセイの助言により、全員が再び気を引き締め直す。
 だが、やはりゾンビは、ハクカが展開を続ける浄化魔法障壁に触れると溶けるように消えてしまう。

「ルーク」

「わかってます」

 俺は予備の魔法の袋を取り出すと、その中に次々と持ち主であるゾンビが装備していた品や持っていた袋などを仕舞い込んでいく。
 錆びたり腐っている鎧や盾などの防具に同じく錆びたり折れたりしている剣や槍などの武器。
 持っていた袋には、薄汚れた銅貨や銀貨などが入っている。
 これらの物品は、集められる限り集めて持ち主の判断が付いた物は遺族に返す事になっていた。

「しかし、ワラワラ来るな」

 どこか緊張感が無いように見える俺達であったが、この一時間ほどが、全く戦闘もせずに遺品集めだったので仕方が無いのかもしれない。

 加えてゾンビは、目の前で同胞がハクカの浄化魔法障壁に触れて崩れ去っても、自分が退くという事をしない。
 強い統率者が攻撃を命令しているのと目の前にある人間という餌に近付くという本能のみで動いているからだ。

「セイ、何人分くらい集めました?」

「ええと……800人ほどね」

 確か、この静かな天地の森で骸になった兵士達は約2千人のはず。

「出て来ないわね?」

「そうすれば、俺が範囲を広げて一気に成仏させるんですけどね」

 セイが早く出て欲しいと思っているのは、これらゾンビの群れを統率していると思われる先代ブライヒレーダー辺境伯の腹心であった。

 しかし、ゾンビになってまで生前の人間関係を引き摺るとは。
 その話を聞いた時、俺は人間という動物の業の深さを感じてしまったのだが。

「エモノッ! クウッ!」

 更に十分ほどゾンビ退治を続けていると錆びた鎧を着た初老と思しき男性のゾンビが現れた。
 装備している物から見て、間違いなく彼は先代のブライヒレーダー辺境伯の腹心なのであろう。

 非常に稀なケースであったが、ゾンビの癖に言葉を話すのだ?

 本能に従って、『エモノッ! クウッ!』を繰り返しているだけにしてもだ。

「あれは、先々代のブライヒレーダー辺境伯様のはずよ」

「え・・・・なんでそんな人がここに?」

「二手に分かれて指揮を執る関係上だと思うわ」

 俺は、探知の魔法の範囲を広げる。
 すると半径500メートル以内に、残り約1200体のゾンビと思しき反応を察知していた。

「漏れは無いよな。じゃあ、一気にやるか」

 そう言うと俺はハクカの肩に手を置き、続けて広域拡散魔法を使う。
 念のために半径1kmまで広げた浄化魔法障壁は、容赦なくゾンビ達を溶かしながら成仏させていく。

 一番重要な先々代ブライヒレーダー辺境伯のゾンビも、やはり基本はゾンビなので簡単に崩れ去ってしまう。
 残された装備品が、彼の存在を証明する唯一の証拠となっていた。

「魔法を止めても良いわよ」

 そして数分後、セイも探知魔法で周囲に魔物の反応がない事を確認し、これでようやくゾンビ退治が終了するのであった。
 だが、ここで落ち着いてなどはいられないのであった。

「周辺の遺品捜索を急いで!」

 俺達は駆け足で、周辺の遺品探索と回収を再開する。
 今までは2000体のゾンビがいたので、このエリアには他の魔物が一切存在していなかった。
 それが一気に消えてしまったので、この空白エリアに魔物が大挙して押し掛ける可能性があったのだ。

「粗方回収したら撤退よ!」

 それから三十分ほどで、聖魔法で消滅したゾンビの装備品に彼らの最後の地であったと思われる野戦陣地跡地などで遺品を回収する。
 ところが、ここで一つの疑問にぶち当たっていた。

「元ファブレ家諸侯軍の連中がいないな」

「そう言われると、そうだな」

 リッドの指摘通りに、統一されたブライヒレーダー家諸侯軍の装備に身を包んだ兵士達に、高価な装備を着けた幹部らしき連中に、数名の元は魔法使いであると思われる連中のソンビは確認していた。

 皆、経済力に余裕があるブライヒレーダー辺境伯家でないと揃えられない物だ。

 ファブレ家諸侯軍は、兵士は粗末な統一されていない部分鎧を着けた農民で、幹部とは言っても先代従士長やその息子達が多少はマシな鎧を着けているくらい。

 魔法使いなど、初級レベルでも雇える財力などなかったからだ。
 言っては悪いが、ギリギリ軍隊と呼べるかどうかという集団であった。

「どうして、姿を見せないんだ?」

 俺は再び探知の魔法で周囲を探るが、五百メートル以内にアンデッドを含む魔物の反応はない。
 こちらが元ブライヒレーダー諸侯軍を全滅させた直後なので、まだその外縁部で様子を伺っているのだ。
 通常の魔物は、アンデッドを避ける傾向にある。
 魔物とて、アンデッドに殺されて仲間入りはゴメンであろうからだ。

「ブライヒレーダー家諸侯軍と別れたって事?」

「可能性はあるわ」

 セイは、俺の意見を否定しなかった。

「ゾンビは、生前の本能に引き摺られるのよ」

 寄親な上にブライヒレーダー家諸侯軍は先代当主直々の出陣で、ファブレ家諸侯軍は従士長が主将になっていた。
 なので、ブライヒレーダー辺境伯から家臣扱いされ、扱き使われていたのかもしれない。

 いくら小規模の軍勢とはいえ、ファブレ家諸侯軍は指揮系統が別の軍隊なのにだ。
 当主である父に主将を押し付けられ、長い行軍の後に魔物と戦わされる。
 大叔父である従士長は、色々と鬱憤が溜まっていたのであろう。

「その嫌悪感で、あの集団から離れた可能性があるわ」

「そんな事あるの」

「ミュウちゃん、相手は元は、人間よ」

「それで、他の可能性は?」

「規模が大きくなっている可能性があるわね」

 基本的に理性など無いゾンビなので、集団が分割しても時間が経つと共食いで吸収合併されてしまうケースが多く、滅多に長期間二つの集団が残っている事はないそうだ。

「悪霊系は、肉体がないからフットワークが軽いのよ。逆にゾンビ系は、自分達が死んだ地点から離れるケースは少ないわ」

「でも、いませんよ」

「離れないとは言っても、数キロ圏内は移動するわ。探知魔法の外ね」

 試しに探知魔法の範囲を広げてみると外縁部には多数の魔物の反応がある事にはある。
 数千体ほどは反応があるのだが、彼らが一斉に襲い掛かってくる事は無い。
 こちらが少数なのとアンデッドに支配されていた空間に慎重を期しながら戻るので、あまり長時間居残らなければそう危険でもないそうだ。

「その中にファブレ家諸侯軍のアンデッドもいる可能性がありませんか?」

「無いとは言えないわね。でも、数が合わないわね」

 ファブレ家諸侯軍は百人以下で、外縁の魔物達は数千にも及ぶ。
 確かに数は合わないが、どこか腑に落ちないのだ。

「じゃあ、数が増えた?」

「数が増えた?セイ。本当に、そんな事があるんですか?」

「ないこともないわ」

 リッドの疑問にセイが即答する。
 その小集団のボスが優れていて、アンデッドの仲間を増やすケースがあるらしい。
 その場合、アンデッドは彼らが死ぬ時に倒された魔物や、その後アンデッドの犠牲になった魔物が材料なのだそうだ。

「嫌な増え方だな……」

 確かにホラー映画みたいで嫌な増え方ではある。

「ただ……。その統治者に力が無いと……」

 生前の能力が、大きく左右されるらしい。
 つまり、軍人で言うなら数千人を率いれる大隊長から将軍クラスの実力を持つという事だ。
 同時に魔物相手なので冒険者としての技量。
 つまり、強かったのかなども基準になるそうだ。

「ファブレ家の従士長だもんな……」

 大叔父の能力を否定するのも失礼な気がするが、あのファブレ家なので、そんな能力があったとは思えないのだ。
 人口から考えても百人の諸侯軍ですら苦労して揃えたであろうに大叔父に数千人もの軍を率いる機会があったとは思えなかった。

「でもさ、才能があったのかもしれない」

「と言うと?」

「あの領地だから、半農民な従士長で止まっていたかもしれないけど。ブライヒレーダー辺境伯家なら、大幹部になれる才能があったのかもって事」

 才能はあっても、それが生かされる環境や機会がなかった。
 リッドは、こんな世の中なのでそんな人もいるだろうと自分の意見を述べていた。

「それだと?」

「この探知エリアの端に居る連中はルークの大叔父さんのアンデッドに率いられている連中で、私達を虎視眈々と狙っているって事だよね」

「ねえ、それって危なくない?」

「物凄くヤバいかも……」

 全員に緊張が走る。
 そして……。

「全員! 戦闘準備!」

 セイが叫ぶのと同時に中心部に居る俺達に向かって外部の反応が一斉に移動を開始する。
 俺達を殺そうと攻撃を仕掛けてきたのであった。

「一体、何匹いるんだよ?」

「わからないわね!」

 それからまた数時間後。
 俺達は、またハクカが展開した浄化魔法障壁の中で次々と迫り来るゾンビ達と対峙していた。
 やはり、その大半が魔物がアンデッド化した物である。
 たまにそれに混じって、粗末な鎧に錆びた槍などを持つ人間のゾンビも存在している。
 彼らはその姿格好からして、間違いなく旧ファブレ家諸侯軍の連中であろう。

「ハクカがいなかったら、大苦戦だった」

 魔法展開で一歩も動けず、ハクカのおかげで、旧ファブレ諸侯軍の時には直接戦闘はゼロ。
 今も浄化の光に当たっても消え失せない、ワイバーンなどのアンデッドと戦うだけで済んでいる。
 リッド、ユメイ、イーナが直接攻撃で、ミュウが

『レイ』

 光の光線でワイバーンアンデットを『浄化』していく。
 俺とセイとアクアは、高集束の火矢魔法でワイバーンアンデッドの頭部を破壊していく。
 活動が停止したワイバーンアンデッドは、浄化魔法によって消毒され、魔石と骨を残す。
 他の魔物は魔石だけだが、さすがは小型でも竜というべきであろう。
 素材となる骨が残されていたのだ。
 アンデッドの時にはドス黒かった骨が、浄化されると綺麗な白色になる。
 見ていると実に不思議な光景であった。
 魔闘流の使い手のユリアには、ハクカの護衛を頼んだのだ。さすがに素手での攻撃は嫌そうな顔をしたうえに俺も申し訳ないと思い、ハクカの護衛に回したのだ。

「ちっ! 飛竜のアンデッドって!」

 大叔父に統率力はあったのかもしれない。
 だが、普通の人間や魔物のアンデッド如きが、ワイバーンや飛竜相手に何とか出来るはずもない。

 ならばなぜ、彼らが一定数混じっているのか?

「アティさんですね」

「あ・・・」

 セイのつぶやきに俺がようやく気づいた。

「師匠が1万体以上の魔物を倒したって言っていましたね。ならこの数は必然か」

 力尽きるまで数万体の魔物を倒していく。
 俺にやれといわれたら出来なくもないが、周辺の森を全滅させれば可能である。
 だが、当時の師匠には、先々代ブライヒレーダー辺境伯以下2000人以上の守るべき者達がいた。
 その条件でやれといわれたら相当難しいはずである。
 少なくとも今の俺には出来ない芸当である。

「アティさんのせいで私たちが大変だよ」

 ミュウが飛竜の頭の上まで跳び、剣に聖属性の魔力を付与させて切り裂く。

「ハッ」

 頭部を失った飛竜は、すぐにその動きを止めた。

「そうね・・・『後衝波』」

 ユリアがワイバーンを吹き飛ばしながら答えた。

「せい」

 リッドがユリアが吹き飛ばしたワイバーンに向けて剣に無属性の魔力を付与して切りつけた。
 前回の反省を活かし、魔力補充用の『魔晶石』を増量させたこともあって、第二陣のアンデッド軍団も数時間ほどで全滅させる事に成功していた。
 いや、最後に残った個体があった。

 錆びたハーフプレートに同じく赤茶けたロングソードを構えた若い男性が俺達の目の前に立っていたのだ。
 普通のゾンビであれば、ハクカの浄化障壁を突破して何とも無い事などあり得ない。
 つまり、その上位種なのであろう。

「相当に恨みが深いみたいです」

「それはそうでしょう」

「で・・・誰だ?」

 剣を構えながらも、こちらを攻撃して来なかった。

「リッチにまで、こんな短い期間で!」

 ゾンビがここまで理性的なはずがなく、良くて先ほどの先代ブライヒレーダ辺境伯の父くらいで、それすら滅多にいないのだ。

「ミンナ、シンダ……」

「十五年以上も前にな。今は、浄化しているだけだ」

「ムスメ……」

「・・・え・・・娘?」

 この男は、とても悲しそうな目をしていた。
 そして、ハクカに視線を合わせていたのだ。

「ハクカの父親か」

「おとうさん」

 ハクカが呆然とした顔をして、『浄化』を解いていた。

「・・・マユ・・ハ」

「おかあさんなら・・・げんきだよ」

「・・サイゴニ・・・アエテ・・・ヨカッタ・・・・シアワセニ・・・・タノム」

 最後にそう言うとハクカの父親のリッチは剣を地面に下ろし、そのまま動かなくなってしまう。
 攻撃はしないので、そのまま『浄化』しろという事のようだ。

「怒りが凄くてこの短期間にリッチにまでなったけど、ハクカに会えて満足したのかな?」

「かもしれません」

 俺の聖光魔法により、父親のリッチも完全に『浄化』され、あとにはその装備品だけが残される。

「お母さんの元に返してあげないとな……」

 ハクカが父親の剣を持ちながら言う。
 同時に分家の事もだ。
 もしリッチにまでなったハクカの父親と戦闘をしていれば、勝てなくは無いがかなりの労力を要したはずだ。
 だが、ハクカの父親は俺達と戦わなかった。
 湧き上がる恨みが原因の殺戮衝動に耐えながら、ハクカの無事を知ると俺に『タノム』とまで言った。

「まさか、リッチがあそこまで殺戮衝動を抑えるとは思わなかったわ」

 ハクカの父親を攻撃するために強力な火炎魔法の詠唱を準備していたセイも初めての経験に驚いているようだ。

「『タノム』か……」

 彼の頼むは、家族を頼むという事であろう。
 というか他にはあり得ない。

「仕事も終わったし、ファブレ領に戻るか……」

 ハクカの父親の装備品を全て回収した俺達は、なるべく早くにファブレ領に戻ろうとする。
 朝から天地の森に侵入し、食事も取らずに二つのアンデッド集団と戦闘をしていたせいでお腹も減っている。
 木々の間から見える空の色は、時刻がもう夕方前である事を示していた。

「そうだな。早く森を出て戻ろう」

 このエリアを占領していた数万体ものアンデッドが消えたので、その空白を埋めるように普通の魔物達が押し寄せるのも時間の問題であったからだ。

「いえ、その前に寄る所があるわ」

「寄る所? ああ、アンディ兄さんか!」

 ファブレ領の問題に関しては、俺達では知らない事が多過ぎる。
 もしかするとアンディ兄さん達が何かを知っている可能性もあり、セイはそれを確認してから戻っても遅くはないと意見したのだ。

「困った時のアンディ兄さんか。年齢の関係で、グラム兄さんやリョウ兄さんも何か知っている可能性がある」

 セイの案を受け入れた俺は、その場で全員を呼び寄せると一気に王都のザフト邸まで『瞬間移動』で飛ぶのであった。



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