様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「では、始めるとしますか」

 反対のお誕生日席に俺が、右隣にセイ、ハクカ、ユメイ、ミュウの順で、左隣にリッド、キャロル、ユリア、アクアと座る。

「ところで、ブライヒレーダー辺境伯殿からの依頼とは?」

 いよいよ、話し合いが始まる。
 内容は、俺達が天地の森で遠征の犠牲者達のアンデッドを浄化するので、その過程で出た成果の何割を収めれば良いかという物であった。

「また兵を出せと?」

 父は静かに話を聞いていたが、トニーはセイの説明を遮り、底冷えのするような声でこちらを牽制してくる。
 また、十五年前の惨劇再びなどと思ったのかもしれない。

「いえ、浄化は私たちだけで行います。ファブレ男爵様なら、魔法で簡単に現地に行けますから、アンデッド二千体にしても、竜に比べれば危険ではありません」

 口調は丁寧であったが、セイの返答は挑発的であった。
 トニーの脅しなどは脅しの類にも入らないのであろうし。
 交渉相手はあくまでも領主である父なので、そこに余計な口を挟むなという事なのであろう。

「ファブレ男爵殿達だけで浄化を行うのであれば、うちからは何も言う事はありません。案内役を出そうにも地理に詳しい者もおりませんし」

 遠征に出た生き残りにしても、ただ何となく方向だけ気にしながら往復していたそうで。
 特に帰りなどは、生死と隣り合わせであったせいで未開地の地理に詳しくなる余裕などなかったそうだ。
 その前に、トラウマのせいで二度と未開地などには行きたくないであろうし。
 多分、10ヶ月かけて稚拙ながらも全土を回って地図を作った俺の方が、よっぽど地理には詳しいはずであった。
 瞬間移動用の簡単な地図を作った後に、時間をかけて内容の補強を行っていたのだ。

「父上……。じゃなくて、ファブレ騎士爵。浄化に関しましては、こちらで全て行います。あくまでも、その過程で得た成果の中からいかほどを上納するかという事でして」

 これは公式の交渉の席であり、俺と父は別の独立した貴族である。
 なので、敢えて言い直して父をファブレ騎士爵と呼ぶ俺であった。

「成果ですか」

「はい。まずは、二千体のアンデッドが装備している武器や防具ですね」

 親子なのに親子ではない二人の会話は続く。
 アンデッドは、生前の武器や防具を装備し続けている。
 碌に手入れもしないで十五年も経っているのだから、まず一部を除いてクズ鉄以外に使い道はないのだが、中には価値のある物や遺族に渡せそうな遺品という物も存在している。
 実はブライヒレーダー辺境伯から、持ち主を特定できそうな物は遺族に渡したいので、出来る限り持って帰って来て欲しいと頼まれていたのだ。

「遺品ですか。それは、確かに大切な物ですな」

「五割だ」

「えっ?」

 突然、割って入って妙な事を口走り始めた奴がいる。
 誰であろう、トニーであった。

「遺品を持ち帰れないのは辛いよな、ルーク。冒険者としての任務も達成できないわけだし」

「いくら何でも、五割は暴利だと思いますけど」

 普通、このようにギルドが存在しない領地において。
 領主が冒険者に課す上納金の率は、一割から三割が相場である。
 一概に全員がそうとは言えないが、中央に近い大物貴族ほど率は低く、地方の小領主ほど率が高い傾向にあるそうだ。
 大物貴族は、いち冒険者パーティーの上納金に過剰な期待などしないからである。更に大抵の大物貴族の領地には冒険者ギルドの支部があるので、交渉するケース自体が稀なのだ。
 逆に地方の小領主は、滅多に冒険者が交渉に来ないので、少ないチャンスで大金を得ようと、どうしても高くなってしまうのだ。

「トニー殿」

「確かに高いですが、何か文句でも?」

 トニーは、自分の名前を非難するように呼んだセイに好色そうな舐るような笑顔を向ける。

「(この野郎……)」

 セイが無表情になってしまうが、内心では不愉快なのであろう。
 それと五割の徴収が絶対に駄目だと言う法もないのだ。
 なぜなら、その領地においては領主の決定こそが法なのだから。

「ところで、ファブレ騎士爵とヒルゼン殿の意見はどのように?」

 小さい頃はわからなかったが、間違いなくトニーは俺の事が嫌いなのであろう。
 こうなると、もうまともに話をするだけ無駄とも言える。
 それに余計な口を差し挟んでくるが、今のトニーは次期当主にしか過ぎない。王国において貴族の爵位を持たない貴族家の子供の身分は、当主でもある親の1つ下の爵位に当たる。今のトニーの身分は、無官無爵である。
 さきほど、俺にぞんざいな口を利いたのは、今の俺が貴族としてよりも冒険者としての立場にあるので、問題ないと思っての事なのであろうが、立場が冒険者だとしても公式な場での社会的な立ち位置は変わらないのだ。俺の社会的な立ち位置は、男爵であるが『竜殺し』や
『双竜勲章』を得ているので、伯爵クラスの当主に匹敵するのである。ちなみに先ほどからトニーがセイに好色な目を向けているのだが、はっきりいってよくない。セイは、ブライヒレーダー辺境伯の名代である。社会的な立ち位置は、辺境伯と伯爵の間ぐらいである。

 俺は、不愉快な想いをするなら、トニーを無視することにしたのだ。

「あくまでも私の意見ですが。遺品になりそうな物は除いて、三割が適当かと」

 ヒルゼンの意見に父も無言で首を縦に振っていた。
 地方の零細貴族なので、上納金は三割。
 だが、遺品になる物の分は除いてなので、その分は遺族に配慮しているわけだ。 
 そして、父はそれに賛同した。
 ならば、これで決定だ。
 まだ爵位も持たないトニーに口を挟む権限などないのだ。

「では、遺品分を除く三割で」

 持ち主が特定できないような装備品に、まだ残っている可能性がある遠征軍の遺留品。

 そして、浄化の過程で倒した魔物の素材と言ったところであろうか?

「支払いは、現物ですか? それとも?」

「ブライヒブルクで換金して、その評価額の三割を現金でお願いします」

「わかりました」

 このように父と話すと話はスムーズに進むようだ。
 支払いが現金なのは、こんな僻地で錆びた鎧や魔物の素材を三割も貰っても仕方が無いからなのであろう。

「誤魔化すなよ」

 トニーの発言にリッドが睨みつけていた。
 セイを見ると無表情ながら睨んでいた。
 さすがにトニーの態度にリッドやセイやミュウやハクカやユメイやキャロルやユリアやアクアが腹を立てていたようだ。



「トニー兄貴!」

 そして、更に事態はややこしくなる。
 突然リビングに俺のもう一人の兄で、今は分家に婿入りしているルパン兄さんが飛び込んで来たからだ。

「お前は、呼んでいない!」

「なぜだ! おかしいだろうが! 義祖父や義父達の遺品に領民達の遺品もあるんだぞ!」

 どうやらルパン兄さんは、トニーが自分をこの交渉の席に呼ばなかった事が不満であったらしい。
 遺品の話をしているので、彼は婿入りした分家当主の立場として、遠征で戦死した父の叔父であった前従士長に、その息子達三人に従軍した兵士達の遺品を求めているようだ。

「遠征に参加したファブレ家側の遺品ね。集められる限りは集めますから、後で見て貰って判別して貰いましょう」

「いや、必要ない」

「え?今、何と言われましたか」

「だから、必要ないと言ったんだ」

「はあ?」

「戦死者の葬儀と供養は済んでいる。今更、遺品などいらん」

 トニーのまさかの発言にセイは思わず彼に二度も聞き直してしまう。
 冒険者であろうが、軍人であろうが。
 出先で遺体や遺品などを見付けたら、余裕があれば持ち帰って遺族の返そうとするのは常識だ。
 なのに、それを必要ないと言うのだから。
 ルパンは、一気に顔を真っ赤にさせていた。

「(ねえ、どういう事なの?)」

 いつの間にか、席を立って俺の傍にいたユリアがその理由を訪ねてくる。
 もし俺の想像が正しければ、俺達にファブレ諸侯軍戦死者の遺品を集めさせると、その手間賃で上納金が減ると思っているのであろう。
 俺は、ユリアに自分の考えをそっと呟く。

「(最低……)」

 確かに最低なのだが、トニーからすればもう死んでいる人間の錆びたり薄汚れた品など小銭以下の価値しかないと思っているのであろう。

 ブライヒレーダー辺境伯軍の戦死者なら、もしかすると高価な武具やアクセサリーなどを付けている可能性もあるが、ファブレ諸侯軍の面子に限ってそういう事は無い。

 つまり、そういう事だ。

「遺族の方に遺品を返してあげるのが、最大限の供養になると思います」

 ハクカが、自分の考えで言う。

「残念だが、ハクカ。うちのような貧乏領地で二度も供養を行う余裕なんて無いんだよ」

「そんな……」

 さすがのハクカも悲痛の声を上げていた。
 珍しく強めの口調で、遺品を遺族に返す事をトニーに進言するが、肝心のトニーの態度は『糠に釘』状態であった。

「トニー殿。もういい加減に無責任に言葉を吐き捨てるのを止めてください」

 と言うか、もういい加減にして欲しい物だ。
 俺は思わず父の方に視線を送るが、父も『処置無し』と言った表情をしている。
 ヒルゼンは、相変わらず無表情のままであったが。

「ルーク! 貴様! 兄に向かって!」

「そうですね。血統上は、俺はトニー殿の弟ではあります。ですが、公式の立場では、俺は独立した法衣男爵なのです。たかが騎士の跡取りの分際で、男爵に偉そうな口を利きますね」

「貴様ぁ!」

 本当は、こんな事を言うつもりはなかったのだが、気が付いたら口にしてしまっていた。
 多分、許容範囲を超えた怒りで、キレてしまったのであろう。

「そもそも、俺達の交渉相手はファブレ騎士爵なのですよ。なぜ、ここであなたが偉そうに口を出すのですか? 挙句に遺族の方に遺品を返そうとしないのはどういうことですか?」

 他にも言いたい事はあったが、これ以上言うと収まりが着かなくなる可能性があった。

「(ルークって、先日の件でストレスが溜まっていたの?)」

「(そうかな?)」

 俺が、暴発するとでも思ったのか?

 ミュウが、いつの間にか俺の腕を掴んで抑えに入っていたようだ。

「(酷いお兄さんだねぇ……)」

「(今、知ったさ)」

 家を出た弟達に抜かれると、それが悔しいので実際に会うと嫌味が口から出る。
 今度王都に行ったら、アンディ兄さん達に報告しておくべきであろう。
 嫌な思いをするので、なるべく行かない方が良いと。

「依頼を終えたら、一度ここに戻って来ます。その時に、ファブレ騎士家、ブライヒレーダー家双方の遺品を選別し。残りの売却益の三割を納めるという事で」

 もうこれ以上、ここに居たくなかったのだ。
 何か話せば、トニーが揚げ足を取ってくる。
 なので、条件だけ決めてとっとと仕事に戻るべきであろう。
 男同士の話し合いなので、母やフェイト義姉さんとまだ会っていなかったが。
 俺がこの屋敷に長時間居るのをトニーが認めるはずもない。
 残念だが、これ以上の滞在は双方に不幸しか呼ばないので、俺達はすぐに席を立って屋敷を出る事にする。

「ルーク様。今日は、お泊りにならないので?」

「いや、俺達は冒険者だから野宿でもするさ」

 アンデッドの浄化は、出来れば早朝の日が昇った直後から始めた方が効率が良いはず。
 今は昼なので、今日は魔の森の近くで野宿をする予定にしていたのだ。
 冒険者なのでその準備はしているし、野宿くらい出来ないと冒険者とは言えないのだから。

「せっかく戻られたのです。せめて一泊くらいは」

 早朝に起き、瞬間移動の魔法で飛べば同じ事だが。
 今までのトニーとのやり取りを見て、それを平気で言える蒜山がある意味凄いなと俺などは思ってしまう。

「しかしだな」

「大切なお仕事でございましょうから、ここは万全を期した方が宜しいかと。本屋敷でなく、ルパン様のお屋敷でお泊りになれば宜しいと」

 確かにヒルゼンの言う事にも一理はある。
 それに当主の息子が里帰りをしたのに一泊もしないで領地を出て行ってしまえば、それはファブレ騎士家側の面子を潰す事になるであろうと言わなくても気が付かせてくれるヒルゼンに、やはりこいつは油断がならないと感じていた。

「それで、宜しいでしょうか? ルパン様」

「ああ……」

 俺達とトニーの争いを見て絶句したままであったルパン兄さんだが、ヒルゼンに声をかけられて我に戻ったようだ。

「双方共に頭を冷やした方が良いか」

 こっちが先に喧嘩を売られたような気もするのだが、ここで変に反論してトニーがまた騒ぐと時間を無駄にしてしまう。
 俺達は、無言のままで首を縦にふっていた。

「ファブレ男爵、本日はルパン殿の屋敷でお世話になります」

「大したもてなしも出来ませんが。ルパン、任せるぞ」

「はい」

 何とか、交渉も無事に終わり。
 無事かどうかは微妙なところだが、上納金の件は形が付いたので良しとする事にする。
 あまり縁の無い家族ではあったが、リッド達にはとんでもない醜態を見せたというべきであろうか。
 とにかく、後味は悪かった。
 あとは、俺にとって、もうこの屋敷は全くの他人の屋敷なのだなと自覚させられる事になるのであった。



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