様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 私の名前は、アマデウス・フライターク・フォン・ブライヒレーダーと言います。
 このリンガイア大陸南部にあるヘルムート王国の南部地方を統括するブライヒレーダー辺境伯家の当主を務めています。

 年齢は今年で三十四歳で、四人の妻に子供が息子ばかり六人います。
 世間では羨ましいと思う人も多いのでしょうが、これでも苦労はしている方だと思います。
 元々、次男坊で本来家を継ぐ立場に無かったのに突然、父と祖父が4千人もの諸侯軍を編成して遠征を行い、そのまま戻って来なかった。
 そのせいで、急遽、爵位を継ぐ事になったのですから。
 そもそもの遠征の目的は、広大な南端と東端の未開地を突っ切った先にある前人未到の魔物の領域で兄の病気を治す霊薬を手に入れること。

 ブライヒレーダー辺境伯家の次期当主であった兄は、優秀な頭脳を持ちながら生来病弱であり、しかもこの一年ほどで明日をも知れぬ死病に犯されていました。

『何を心配する事がある。俺が死んでもアマデウスが継げば良い。頭でっかちな俺なんかよりアマデウスの方が当主に相応しいのだ』

 兄自身は、自分のような病弱な男が貴族家の当主になるのは良くないと常々口にしていた。
 私に家を継ぐようにと言って、結婚すらしないで父を心配させていました。
 私から言わせると兄は頭が良過ぎたのだと思います。
 なまじ頭が良いから、病気を理由に当主の座を諦めて私に譲ると言ってしまう。
 御家騒動の元になるから、結婚すらしない。
 正しいのでしょうが、せめて他の貴族家の人達のようにもう少し欲を持ってくれれば。
 もし兄が若死にしたとしても、子供が居れば私が後見して当主を継がせるという選択肢もあったでしょうし。
 そんな兄を見て、父と祖父も不憫だと思って兵を出したのでしょう。
 急ぎ諸侯軍を編成し、未知の領域へと遠征に赴きます。
 その優しさは、最悪の結果となって返ってきたのです。

『父は?』

『アルフレッド様が奮闘して、大量の魔物を討ち果たすも。次々と沸く魔物の大群に囲まれ、あえないお最後を……』

 山脈を越えた麓にあるバウマイスター騎士爵家の援軍と共に魔の森に侵入した父達は、最初は大量の成果に士気を挙げたものの、すぐに魔物の大群に包囲され、暫くは、筆頭お抱え魔法使いであるアルフレッドが奮戦して戦線を支えたが、彼が力尽きて倒れると一気に軍勢は崩壊してしまったそうです。

 何とか戻って来た兵士達が私に報告を行いますが、彼らは目の焦点は虚ろだし、小さな音にも異常に反応して怖がるようになっていました。

 多分、この平和な世の中では珍しい。

 戦場に出た兵士がかかる精神の病だと思います。

『ご苦労様、今はゆっくりと休んでください』

 4千人が出兵して、生存者は100人といなかった。
 応援を無理強いしたバウマイスター家とファブレ家の犠牲者は約300名ほどだ。
 人口が800人と900人ほどの領地なので、人口比率に著しい不均衡が生じた。
 今頃は、当主もその対策に頭を悩ませているはずだ。

 ですが、今は寄子の事よりも当家に差し迫った危機の方が重要でした。
 父のせいで彼らも可哀想なのですが、我が家も現在大変な状態にあったからです。

『まずは、兄さんに相談しないと……』

 亡くなった父は、次期当主をまだ兄に定めていました。
 なので、この遠征の失敗を死病で床に伏している兄に伝える必要があったのです。
 例えそれが、兄の病状に大きなダメージを与えるとしてもだ。

『そうか……。次期当主の権限において命令する。アマデウス、俺はご覧の有様だからお前が対策に当たってくれ』

 真っ青な顔色の兄は、何とかベットの上で上半身を起こし、私に父亡き後のブライヒレーダー辺境伯家の舵取りを命令します。
 兄の顔には、苦悩の色が見えました。
 兄だって、私に全て任せてベッドの上で寝ているなどしたくないのでしょうから。

『父上は、愚かだ……俺の事なんて、見捨てれば良かったんだ……』

 翌日、メイドが朝食を持って兄の部屋に行くと既に兄は息を引き取っていました。
 世間では、兄は憤死したなどと噂されたようですが、実際にはこんな物だったのです。
 間違いなく心の中では兄は激高し、それが原因で残り少ない命を燃やし尽してしまったのでしょう。
 それからの私は、大変に苦労しました。
 まず最初に一族や分家に父と兄の死を伝えて、私が次期当主になる事を発表します。
 すると中には、自分こそが次期当主に相応しいなどと言う親戚もいました。
 若い私を傀儡にして、自分が実権をなどと考える者も複数存在していたからです。
 彼らに舐められてはいけない。
 ところが、そのための人材すら父は全てあの世に連れ去っていました。
 遠征に参加した4千人は、ブライヒレーダー辺境伯諸侯軍全体の中では一部でしたが、率いていた幹部達の質は高かったからです。
 更には、ようやく迎え入れた。
 最近、王都で王宮筆頭魔導師になったアームストロング導師に勝るとも劣らない魔法使いであったアルフレッドの死とアティの死。
 彼らの死は、新当主である私を更に追い込んでいたのです。

『(今はとにかく、出来る事を順番に……)』

 父と兄の葬式を遺漏無く行い。
 王都にブライヒレーダー辺境伯家継承の手続きと陛下から襲爵の儀を受けるために向かいます。
 戦死した兵士達の遺族に増額した見舞い金を送り、それはバウマイスター騎士爵家とファブレ騎士爵家も同じ条件に。
 特に後者は、さすがに相場通りにするわけにはいきませんでした。
 明らかにブライヒレーダー辺境伯家側が悪いのに涙を飲んで貰う必要がありましたから当然でしょう。
 なぜなら、父と兄の死後から続く混乱を突き、東部を統括するブロワ辺境伯家が、境界境で寄子の小領主達に扇動工作などを行わせていたからです。

 境界を接するうちの寄子達とブロワ辺境伯側の寄子達。
 どこの貴族でも同じなのですが、領地が接していれば何らかの争いは存在します。
 純粋に領地争いから、水利権、境を跨いでいる共有管理地である森や鉱山などの取り分などです。
 ブロワ側は、今うちを突けば良い条件で交渉可能だからと言って、彼らに動くように命じたのでしょう。
 この時期に実に嫌な事をしてくる男です。
 それでも私は、どうにかこれらの混乱を収めて次第に領内を安定させていきます。
 多分、間違ってしまった事なども多かったのでしょう。
 遠征で迷惑をかけてしまったバウマイスター家とファブレ家の仲は、今では完全に悪化してしまいました。
 ですが、ブライヒレーダー辺境伯家全体の利益から考えると瑣末な事。
 酷い言い方だとは思いますが、私だって万能の神ではないのです。
 商隊を派遣するなどの便宜は続けているので、最低限の義理は果たしていると思う事にします。
 向こうがもう少し歩み寄ってくれると、こちらとしても支援の手も差し伸べ易いのですが……聞けば、跡取りは私を嫌っているとか。
 せめて噂に聞く知性派である五男エーリッヒやアンディに継がせるか家臣として使ってくれれば、交渉も楽なのでしょうが。
 ところがそのエーリッヒとアンディは、継承のゴタゴタを嫌って王都に行って下級官吏になってしまいました。
 下級とはいえ、あの官吏登用試験に一発で受かるなんて、やはり、惜しい人材ではありましたか。
 私が欲しいくらいだったのですが、そのデメリットの多さから断られてしまいましたし。

『あんたの親父さんには、言いたい事が山ほどあるけどな。だが、その息子に言ってもしょうがねえな』

 それでも、得られた新しい優秀な家臣も存在しました。
 戦死したアルフレッドの魔法の師匠にして、竜殺しの称号まで持つ高名な冒険者であったブランタークの登用に成功したのです。

『アルフレッドの代わりというほど、優秀じゃないけどな』

 このブランターク、一番最初に会った時には口が悪い遊び人風な男にしか見えなくて、私は内心不安を感じていたものです。
 ですが、実際に雇うと魔法使いのしての実力はアルフレッドよりも劣るものの二十年以上も超一流の冒険者として活躍していただけの事はあり、社会経験と国内各地に魔法を教えた弟子などがいるためにそのツテで人脈も豊富。
 もしかしたら、貴族の家臣としてならアルフレッドよりも優秀かもしれない男でした。

『ところで、ブランターク。私の叔母で……』

『お館様、それだけは勘弁してください……』

 お抱えになった時点ですぐに最初のような口調を止める切り替えの速さを持っていたブランラークは、魔法使いとしても優秀なアドバイザーとしても私を支えてくれるようになりました。
 なぜか極端な独身主義を貫き、私の勧める縁談を全て断ってしまうという欠点があるにしてもです。
 他にも色々とあったのですが、何を言いたいのかと言えば、若かった私は、様々な人達から足を引っ張られたり、逆に助けられたりして今があるわけです。
 年齢も三十歳を超え、今の私は今度は困っている若い者達にアドバイスなどをしてあげる必要がある。
 私の優秀な寄り子であるバウマイスター男爵とファブレ騎士爵達による古代地下遺跡攻略終了報告から数日後。
 所用で王都へと瞬間移動魔法で来ていた私は、8人の若者達からとある相談を受けていたのです。

「いやあ、バウマイスター男爵の魔法は便利ですね」

 まずは、軽く世間話から始める事にします。
 ですが、本当にこの瞬間移動の魔法は便利です。
 本来なら、大金を払って魔導飛行船に乗るか、時間をかけて遠距離馬車で来ないといけない王都に一瞬で来れるのですから。

 私は、週に一度。
 決まった曜日の朝にバウマイスター男爵やファブレ男爵にブライヒブルクに迎えに来て貰い、別の決まった曜日の朝にブライヒブルクに送って貰う生活をこの二年半ほど続けていました。
 私が王都で週の半分くらい動けるというのは、実に都合が良いのです。
 私はただの大身の貴族ではなく、南部の貴族達の統括を行う身分ですから。
 今までは、王都との距離感のせいでそう頻繁に顔を出せなかったのですが。
 中央のロクデナシ貴族達と交渉する際に王都常駐の重臣だけではなく、自分が実際に顔を見せると有利な事も多く。
 新しい人脈作りや繋がりを強化するための付き合いなどにも顔も出し易いわけで。
 バウマイスター男爵とファブレ男爵に大金を払っても、十分に利益が出るわけです。

「ブライヒレーダー辺境伯様がヴェルやルークに運び屋を頼んでいるのは、俺達も知っていますけど……」

「おや、悩みは想像以上に深刻なようですね」

 私に相談のある悩める若い子羊達は8名。

 一人目は、まだ十五歳で、バウマイスター男爵の冒険者予備校時代からの友人にして、同じパーティーメンバーなうえに、一応バウマイスター男爵家の従士長でもあるエルヴィン君。
 彼も西部地方の小さな騎士爵家の五男で、バウマイスター男爵とそう生まれに違いは無いと聞いています。
 冒険者予備校なら西部に幾つも存在しているのに彼がわざわざ南部にあるブライフビルクの冒険者予備校を選んだ理由。
 それは、剣の才能が優れていたために兄達から疎まれてしまったからだそうで、こんな話は特に珍しくもありませんでした。
 代わりにバウマイスター男爵と知り合えたのだから。
 私などは、良しと考えた方がなどと思ってしまうのですが。

「イーナとルイーゼとは違って、俺は相談できる立場には無いんですけど……」

「それは俺たちもなんだけどね」

 それに便上するようにリッド君が言います。ユメイさんやミスミさんやキャロルさんやミュウさんも同意見のようですね。

「その辺は、気にしないでください。君たちは、バウマイスター男爵とファブレ男爵の家臣ですからね。寄子の家臣の相談ならば受けますよ。これでも、二十代は苦労の連続でしたから」

 今でも苦労の連続なんですけど、ある程度は慣れたという点が大きいですね。

「「「「「ありがとうございます」」」」」

 残りの2人は容易に想像が付くとは思いますが、イーナ・ズザネ・ヒレンブラントとルイーゼ・ヨランデ・アウレリア・オーフェルヴェークという十五歳の少女で、共に私の家臣の娘です。

 槍術指南役と剣術指南役と魔闘流指南役なので、家中では中堅といったところでしょうか?

 同じくバウマイスター男爵やファブレ男爵の冒険者予備校からの友人にして、今では、一家を立てた側室候補というわけです。
 家柄の問題で正妻は、ホーエンハイム枢機卿の孫娘とラングレー公爵家の娘に奪われましたけどね。
 私としては、何とか一番の寵愛を受けて欲しいとか願う次第でして、他の女性を押し付ける案は、うちの一族に適齢の女性がいなかったのとバウマイスター男爵やファブレ男爵から嫌がられる可能性があったので、止めていました。

「それで、イーナさんとルイーゼさんも同じ悩みがあると?」

「はい」

「物凄く深刻な悩みです」

 普段は能天気にしか見えないルイーゼさんが深刻と言うくらいなのですから、本当に深刻なのでしょう。
 というか、私にはどんな悩みかすぐにわかったしまったんですけど。

「重荷ですか?白金貨40億枚は?」

 私の問いに8人が一斉にうな垂れてしまいます。

「まあ、確かに多過ぎですよね」

「それよりも嫌がらせに近いと思います」

 確かにルイーゼさんの言う通りですね。

 白金貨40億枚なんて、今の私でも、いや、ブライヒレーダー辺境伯家の貨幣保有量から考えても、すぐに揃えるのは不可能です。勿論、領地も含めた総資産はその数倍はありますけどね。

「冒険者が、思わぬ発見をして大金を得る。夢ではありますけど、あまりに金額が……」

 普段は冷静なイーナさんも困っているようです。
 なるほど、一旗挙げるために冒険者になった者が思わぬ大金を得て周囲から羨ましがられる。
 冒険者ギルドとしても冒険者個人の成果は絶対に機密という法もないわけで、時間が経つにつれて、噂として世間に漏れるのを防げるわけではない。

 冒険者が一日に数万セントを得ると知己の連中は羨ましがって酒くらい奢れよと言う。
 数十万セントだと更に羨ましがられ、自分もそのくらい稼ぎたいなどと思われる。
 数百万セントだと、これは世間一般では『百万長者』と呼ばれ、お金持ちの最低条件と見なされる事が多い。
 ところが、それよりも上になると、数十万セントから増えますが、タカリに、借金の申し込みに、おかしな詐欺投資話とか。
 知人と友人も、なぜか異常に増えるんですよね。
 あと、下手をすると犯罪に巻き込まれるケースも。
 誰しも大金は得たいが、得れば面倒な事も増える。
 世の中、なかなか侭ならない物なのです。

「(白金貨40億枚を、今まで大金に縁など無かった少年少女にポンと渡す。なるほど、一種の嫌がらせに近いですね)」

 今はまだ世間に広がっていないものの、もし彼らが大金を得た事が世間に知られたら?

 額が額なので、もっと面倒な事が起こるのは容易に想像できるというもの。
 金目当ての縁談の押し付けにエルヴィン君の場合は実家が何か引き起こす可能性すらあります。

 イーナさんとルイーゼさんですら、実家が何かを企む可能性があるのです。

「実家が、金貸せとか寄越せとか言うくらいなら。まだマシだと」

 下手をするとエルヴィン君の遺産を相続しようと親族が暗殺者くらい送り込みかねない。
 そのくらい物凄い金額なのですから。
 特にエルヴィン君は、お兄さん達とあまり仲が良くなかったそうなので。

「ボク達も同じかな」

「私達の場合は、女性なのでもっと深刻です」

 女性は基本的に家を継げないのですから、エルヴィン君のように最悪金の力で貴族として独立するという選択肢すら使えません。

「うちの槍術道場を国中に広げるから、金出せとか。そういう話になりかねません」

「あれ? イーナさんの実家の槍術道場って、結構メジャーな流派だったような」

「先祖が、本部から免許皆伝と道場運営権を得たんですけど。このお金があれば、本部で運動してトップに立ってとか……」

「うちもありそうだなぁ……」

 なるほど、お金の力で王国中に広がる流派道場本部のトップの立場になれれば、うちではしがない指南役でも、外に出れば他の道場主達がペコペコ頭を下げるような身分になれる。
 家臣である彼らのある種の立身出世の方法でもあります。
 果たして、その誘惑に二人の親が耐えられるのかという事なのでしょう。

「大金過ぎて、デメリットしか感じられないんです」

「なるほど。ですが、辞退は出来ないでしょう」

 王国とて、今回はバウマイスター男爵とファブレ男爵達を危険に曝してしまったというお詫びを込めてこの大金を渡しているのです。

 いえ、違いますね。

 ブランタークからの報告書は読みましたが、別に王国は損などしていないのです。
 確かに大金は払いますが、代わりにその金額以上の資産は手に入っているわけですから。
 長い目で見れば、あのくらいの金額なら取り戻して黒字になると計算済みなのでしょう。
 あの財務卿なら、そのくらいは想定の範囲内でしょうし。

「ええっ! 駄目なんですか!」

 『王国に返すくらいなら、俺に全部寄越せ!』とか、『陛下にかえって失礼である』とか。

 後者の方は、あまりに王国が強力になり過ぎるとという貴族達の本音が出ているのでしょうけど。
 私も、ただ無条件で金を返すなんてして欲しくないのですから。

「はい、駄目ですね」

「そんなぁ……」

 ガックリと肩を落すエルヴィン君でしたが、他に策が無いわけでもないのです。
 ただ、その説明をするのは私ではありません。
 私が近くにある呼び鈴を鳴らすと室内に一人の男性が入ってきます。
 我が家が誇る、お抱え魔法使いであるブランタークです。

「よう、破産の心配は無かったんじゃないのか?」

「意地悪を言わないでくださいよ。本当に深刻なんですから」

「エルとリッドの坊主は剣が好きだろう?名剣が買い放題だぞ」

「今、欲しい剣を全部買っても白金貨40億枚の数百分の1も使いきれませんよ。それに剣ってただ買い集めれば嬉しいってものじゃないです」

「だよな」

 己の技量を高めつつ、自分の手に合う剣を必要に応じて買い入れるですか。
 私は剣が苦手ですけどそんな話は聞いたことがありますよ。

「イーナとルイーゼとユメイとキャロルとミスミの嬢ちゃんはどうなんだ?甘いものでも服でも化粧品でもアクセサリーでも自由に買えるぞ」

「そんなに買っても使い切れないわよ」

「そうです」

「限度がありますし」

 イーナさんが私を

 チラッ

 と見ましたが、さては我が叔母の噂を知っていますね。
 あの叔母なら、欲望の限り買い物でもするのでしょうが、それでも使いこなせる金額ではありません。

「すまんすまん。確かに大金過ぎるよな」

 バウマイスター男爵とファブレ男爵と同じパーティーに居たがために普通ならクリアすら出来ない地下遺跡を攻略して多くの成果を得た。

 一定以上の報酬を受ける権利はありますし、彼らもそれに相応しい活躍をしている。

 だが、白金貨40億枚は身の破滅の原因でしかない。

 では、どうするのか?

 相談を受けた私ではありますが、この答えは元は同じ冒険者であったブランタークに任せた方が良いでしょう。

 彼ならば、こういうケースも対応可能なはずですから。

「最初の登録時にギルド本部で貰った冊子は持っているな?」

「はい」

 ブランタークの問いに8人は首を縦に振りながら答えます。

「第二十七条の四項。分配金異議申し立て制度を利用する」

 私には冒険者をした経験が無いので知らないのですが、さすがは歴史のあるギルド。
 それなりに規則なども整備されているようですね。

「分配金異議申し立て制度ですか?」

「はい」

 ブランタークの話によると冒険者の報酬は人数で頭割りにされるのが基本。
 ですが、ある程度熟練したパーティーに新人を入れる場合、その新人は見習いとして扱われ暫く報酬が低くさせられる。
 逆に経験が少ないパーティーに熟練した経験者を入れ、アドバイスを貰いながら経験を積む場合、その間の熟練者の報酬を多くするなど。
 ケースバイケースで、条件を変える事は多いのだとか。
 ところが、それを悪用する冒険者も多いそうです。

「もう十分に戦力になっている新人を低い報酬のままで脱退も許さずに拘束する。もう指導も必要ないのに年配の冒険者がいつまでもそのパーティーに居座って多額の報酬を要求する。まあ、冒険者なんてピンキリですよ」

 生きるためというか人よりも多くの金を得たいがために他人を騙して搾取しようとする。
 その辺は、冒険者でも貴族でもそう違いは無いんですけどね。

「そういう被害を受けている冒険者が、ギルド本部に異議を申し立てるわけです。すると本部から人が来て事情聴取を行ってからケースによっては和解案を提示すると」

 強制力は無いので、役に立つかはその人次第だそうですが、分配金異議申し立て制度を喰らった冒険者とパーティーは記録に残るので、新人がまた悪徳冒険者やパーティーが騙されるケースが減る。

 この制度の本来の目的は、そういう部分にあるそうです。

「ですが、その制度は報酬が低いと文句を言うための物なのでしょう?」

「いえ、報酬に文句があるので異議を申し立てるための制度です。報酬が多過ぎると異議を申し立てるケースは今まで聞いた事が無いのですけど、してはいけないと規則に書かれてもいませんから」

「確かに書いてありませんね……」

 ブランタークが持っていた冊子を見ると確かに書いてありません。
 普通なら報酬が多過ぎると異議を申し立てる人もいないでしょうし。
 ある意味、規則の盲点を突いたとも言えます。

「お前ら、これを活用して坊主どもにみんな押し付けてしまえ」

「わかりました」

 8人は良い方策が見付かったと良い笑顔で冒険者ギルド本部へと出かけて行きました。
 間違いなく、異議を申し立てられたバウマイスター男爵とファブレ男爵は『寝耳に水』なんでしょうけどね。
 私としては、彼らにお金が集まるのは好都合なんですけど。

「もしや陛下や導師やルックナー財務卿などもこうなることを予想していたのでしょうか?」

「間違いなくそうでしょう。でなければ、こんな決定を下さないでしょうし」

 数日後に、再び8人から報告を受けますが、彼らは、一億セントを受け取ってあとは全てバウマイスター男爵とファブレ男爵の報酬に上乗せしてしまったそうです。

 異議申し立て後に事情を聞きに来た審議官は、再度8人から地下遺跡での戦闘に関する報告を聞き。

 もし二体目のドラゴンゴーレムをバウマイスター男爵とファブレ男爵が撃破していなかったら、8人はこの世に居なかったであろうと認定。

 報酬の大半は、バウマイスター男爵とファブレ男爵が受け取る権利があると彼らに対して、勧告案を出したようです。
 しかし、普通に報酬を分配したのに多過ぎるからと分配金異議申し立てを受けて記録に残るとは。
 やはりバウマイスター男爵とファブレ男爵は、数奇な星の元に生まれたのだと思います。
 理由はともわれ、分配金異議申し立てを受けた冒険者はマイナスイメージが付き纏います。
 多分、冒険者ギルド側も記録を残さない案も検討したのでしょうが、記録を残さないと8人は世間から白金貨40億枚を得たと永遠に思われてしまうわけで。

 仕方なく、記録に残したというところでしょうか?

 今更バウマイスター男爵とファブレ男爵にそんな記録が付いたくらいで、評価に何の影響も無いでしょうし。
 逆に地下遺跡における戦闘詳報が世間に広まって、余計に評価が上がるのでしょうけど。

 あの8人に天文学的な額の大金やら世間からの注目は厳しいのでしょうが、バウマイスター男爵やファブレ男爵に限っては、今更なので除外しますが、ここは、家臣と側室のために我慢して欲しいところですね。

 あの8人は、選択を誤らなかったわけですから。 

「ところで、エリーゼとハクカの嬢ちゃんは異議を申し立てなかったですな。いや、8人は相談すらしなかった?」

「それはですね。ブランターク」

 確かに、この国の女性は立場が低いわけで。
 そんな中で、イーナさんとルイーゼさんとキャロルさんとミスミさんとユメイさんとミュウさんが大金を持つと周囲の男の大人達が蠢動しそうで怖いのです。
 ところが、エリーゼさんはホーエンハイム枢機卿の孫娘で、ハクカさんは、ファブレ男爵の庇護化にあるわけでして。
 彼女たちに対して、いらぬちょっかいを出して来るバカはまず存在しないでしょう。

 それに、あのエリーゼさんとハクカさんの事ですから。
 そんなお金など、バウマイスター男爵やファブレ男爵に預けて終わりかもしれません。

 8人とは違って、そんな分配金異議申し立てをする必要が無いのですから。

「それもそうですね。それにしても、あまりにも大金が坊主達の所に集まってきてますね。いや・・・・今となっては最初の遺跡探索依頼の時から全て仕組まれていたのではという気がすら」

「ブランターク。それは私も否定しません」

 遺跡を潜って最初の相手がドラゴンゴーレムであることぐらい、確認だけなら出来たはずです。

「やはり・・・・となるとこれはどこぞの面倒事を坊主どもに丸投げしてその大金を使わせようってんじゃ」

 近年、停滞気味の王国経済に陛下やルックナー財務卿は頭を悩ませていた。
 特に次第に広がる王都郊外にあるスラム。
 これは、下手をすると王国衰退の原因にもなりかねず、そんな折、古代竜を撃破するとんでもない魔法使いたちが現れた。
 しかも、その実家は南部辺境と東南部辺境の貴族家で、更には、そこに隣接する開発可能な広大な未開地があった。

 王国単独で開発しようとすると、それに伴う巨額の予算が必要なのですが、失敗する可能性を考えるとルックナー財務卿もそう簡単に予算の執行には踏み切れない。何しろ彼には、弟という対抗勢力までいるのですから。

 いえ、これは正確ではありませんね。
 偉い人が何か新しい事を始めようとすると、そこに必ず対抗勢力が現れる。
 例えそれが良策だとしても反対する事で利益を得る連中の抵抗を受けるのです。
 失敗の可能性は、彼らからすると大変に美味しい武器なわけですね。
 成功して経済が良くなる方が多くの人を幸せにするのですが、彼らはそんな事に興味は無いわけです。
 話を戻しますが、突如現れた竜殺しの英雄バウマイスター男爵とファブレ男爵は、その後もパルケニア草原において二匹目の竜を倒してその解放に貢献した。

 そして、今回は、極めて利用価値の高い物が大量に眠っていた古代地下遺跡の攻略に成功。
 王国は、自ら損をする事なくバウマイスター男爵とファブレ男爵に資金を集積させる事に成功したわけです。
 こうなると後はもうあの可能性しかないわけです。

 広大な南端と東端未開地の開発を、かの地をバウマイスター男爵とファブレ男爵の領主にして任せてしまう。

 幸いにして、開発資金は十分過ぎるほどにあるのですから。
 しかも、もし失敗してもそれはバウマイスター男爵とファブレ男爵の財布でだ。
 成功すれば、払った財貨以上の資産を得られる算段というわけですか。
 だから、あの連中は怖いんですよね。

「なるほど。これですべて合点がいきましたよ」(スマン、坊主達)

「(となると次は実家の扱いですか……)」

 あそこは、私でも厄介だと感じる場所ですからね。
 騎士爵領に相応しい規模への領地の縮小。

 現状で全く開発もしていないので、王国で怠慢を理由に取り上げる?

 手続き的には、領地の分割命令にするつもりなのでしょうか?

 何にせよ、あそこの領主がどう反応するか。
 現当主は冷静なんですけど、あそこの跡取りは私にも理解不能なんですよね。
 今までに顔すら見た事が無いので、余計に不安を覚えるのは当たり前でしょう。
 噂によると貴族としての出来もあまり宜しくないみたいですし。

 分割命令だけだと反発は必至。王国側で、中央に近い適当な領地に転封とか考えているのでしょうか?

 唯一の懸念は、中央の王国政府と南部辺境との距離感ですかね?

 王国からすれば、吹けば飛ぶような騎士爵家への配慮など必要ないと感じている可能性もあるわけでして。
 それでも下手に怒らせて開発時にちょっかいでも出されると近場にいる寄親の私としては迷惑なんですよね。

 うちの足を引っ張るために、わざと放置する可能性もありますか

 広大な規模の領地の新規開発なわけです。
 しかも、バウマイスター男爵とファブレ男爵が現状で持っているのはお金と少数の家臣のみ。あの未開地の広さから考えて、最低でも伯爵領に私が居なければ、辺境伯領でも大身の部類に入る規模なのですから。

 全く新しい伯爵家が、一から立ち上がるのです。
 その手間から考えて、私に協力を頼まない可能性はゼロなわけでして、手助けをすれば、そのお礼が必要となるのはこの世の条理なわけです。この場合で言いますと、まずは伯爵家に相応しい家臣団に属する人材の斡旋。どの貴族も自分や家臣の縁戚で飼い殺しな連中にポストを与えたいわけです。教会も、あの規模の領地なら幾つ教会が必要になるか。全てに人を置くとなると、もうこれは一種の利権なわけです。

 一つ村が出来れば、教会が一つ増えてその分だけ聖職者が必要となる。
 あの規模の領地だと、かなり大きめの支部も必要なのでその幹部ポストも増えるはず。
 そんな事は、子供にでもわかる道理ですからね。

 次に開発で必要な人手の斡旋。
 自分の領内の商会や領民達が、新規の商いや出稼ぎで仕事を得るチャンスなのです。 
 そして彼らが、稼いだ金を故郷に持ち帰って領内で消費する。
 距離的に考えると実は南部貴族達にその恩恵が大きいわけでして。
 その私を含めた南部貴族達が得る利権を少しでも奪い取るために、あのコブのような実家への対処が適当になっている。

 『相手は小身なのだから』という理由にして。

 一度、あの連中を突いてみますか。ちょうど、バウマイスター男爵とファブレ男爵にしか頼めない冒険者向けの依頼もありますしね。

 あまり考え過ぎても意味がありませんし、実は王国側も何か変化を待ってから動く可能性もあるわけでして。
 私は、バウマイスター男爵とファブレ男爵に仕事を頼もうと考え、ブランタークと詳細な打ち合わせに入るのでした。

「また、付き添いですか?」

「今回は、そこまで危険じゃないですから」

「危険度で言えばそうですけど、面倒な交渉が……」

「交渉が面倒になるかは、相手次第ですよ」

「きっと騒動になりますから」

 それでも私は、ブライヒレーダー辺境伯として多くの領民達の生活を守る義務があるのです。
 なので、心を鬼にして状況を動かす決断をするのでした。 



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