様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「リングスタット殿。バウマイスター男爵とファブレ男爵達は、辛うじて地下遺跡を攻略したと?」

「まあ、そういう事になりますね」

 新規に結成された坊主たちの冒険者パーティーに指南役として付いて行った俺は、そこで死にそうになっていた。
 現役時代でも未経験だった『魔力吸収型魔法陣』による『逆さ縛り殺し』への強制移転に万を超えるゴーレム集団や二体ものドラゴンゴーレムとの死闘。

 まさか、ヴェルの坊主に魔力を全て渡すために魔力切れからくる気絶を経験するとは思わなかった。
 気絶など普通は駆け出しの魔法使いしかしない物だからだ。
 現役時代にもヤバイと思える事は何度かあったが、今回は老火竜を倒した時を超えるヤバさであったと思う。
 それでも何とか地下遺跡の攻略に成功したのだ。
 俺が先行して、王城や冒険者ギルド本部に報告に戻っていた。
 別に坊主達と一緒に戻っても良いのだが、今回の件は下手をすれば責任問題に発展する。
 坊主達も内心では相当頭にきているはずなので、少し冷却した方が良いであろう。
 ああ見えて、普段の坊主たちは王都の偉いさん達に表立って不満を言うような事はしない。
 いくら向こうが悪くても口に出してしまえば問題になるのがわかっているからなのであろう。
 ところが、今回は冒険者ギルドのトップや王国側への不満を珍しく言った。
 ここは俺が、大人として偉いさん達に坊主たちの心情を伝えるべきであろう。
 向こうも悪いと思っているからこそ、こうして非公式ながら関係者が集まって話し合いが始まるようであった。 

「いつもの謁見の間ではないのか……あんまり、大っぴらに話せないからな」

 そのためであろう。
 今、俺は王城の謁見の間ではなく、とある防諜装備の整った会議室にいる。
 室内に居るのは、陛下、アームストロング導師、ルックナー財務卿、ホーエンハイム枢機卿、冒険者ギルドの総帥、副総帥に最高幹部数名。

 俺は、ギルド本部の連中とは仲が悪いのだが、連中は俺に嫌味を言う余裕もないようだ。
 前に二組も優秀な合同パーティーを全滅させ、危うく坊主達すら全滅させるところであった。
 このクソったれな連中は、俺の参加が無ければ二流の剣士を一人だけ指南役に付けてお茶を濁す予定であったのを陛下に知られてしまったのだ。

 しかし、何でそんなバカな事をしようとしたのか?

 陛下と導師に心当たりがあるように見えるが、ギルド幹部達の話を聞くと違っていたらしい。
 二人ともなぜか首を傾げていた。

「つまり優秀な魔法使いが2人に、治癒魔法の名手である聖女とその弟子に、魔闘流の闘士もいたから、前の二組のパーティーよりは実力が上であろうと?」

「ギルドとしましては、先の損害で通常の業務に支障が……」

 一流の冒険者が二十名以上も死んだので、その穴埋めで大忙しなのだそうだ。

 オドオドした表情で説明をする幹部連中であったが、こいつらが一昔前までは、一流の冒険者達であったと誰が信じるであろうか?

 現役を退き、碌に鍛錬もしていないので腹が弛んで、保身のために陛下の前でオロオロとした表情で説明をする。 
 俺が早くに現役を退きたいと願う要因の一つであった。
 こういう連中を老害と言うのだ。

「それは、あんたらのミスのせいだよな? まあ、その件は良いさ。それよりも俺が強引に付いて行かなかったらバウマイスター男爵やファブレ男爵達も死んでいたぜ」

「その件に関しましては、陛下とブライヒレーダー辺境伯様に対してお詫びの言い様もなく」

「勿論、ブランターク殿へも」

 ペコペコと頭を下げる幹部連中であったが、本心では俺に頭を下げるなど、屈辱以外の何物でもないのであろう。
 心なしか、顔が少し赤いような気がする。

「ギルド側は、戦力不足から来る焦りが原因である必要戦力の算定ミスだと?」

「はい」

「そうであるか」

 陛下は未だに首を傾げているが、何か他の情報でも得ているのであろうか?

 同じく、アームストロング導師とルックナー財務卿も不思議そうな表情を浮かべていた。

「しかしながら、ギルドのみならず我らにも責任が……」

 続けて、アームストロング導師が発言をする。

「某も付いて行けば……この二年半で、バウマイスター男爵やファブレ男爵やルイーゼ嬢も強くなった。なので、大丈夫だと」

「それを言うと余にも責任があるの。アームストロングだけの意見を聞いて、ブランタークだけで十分だと判断した」

 全員に責任があるので、あまり個人を特定して追及という席にはなっていなかった。 
 かく言う俺にも追加で助っ人を頼まなかった責任がある。
 坊主たちの魔法使いとしての力量から冒険者としての実力を過大評価してしまったのであろう。
 そしてそのミスのせいで、俺自身も死に掛けたわけだ。

「ところで、ウェルナー総帥」

「はい、何でしょうか?」

 ここでようやく、ルックナー財務卿がギルドマスターに質問を開始していた。
 何か、聞きたい事があるようだ。

「指南役の人選、とある会計監査長が絡んではおるまいな?」

「いえ。冒険者ギルドの運営で、そのような口出しを認めるわけには……」

 ルックナー財務卿にしては、珍しくストレートに質問をしているようだ。
 この会議室に居る関係者も少なく、防諜も完璧だからであろう。
 しかし、驚いた。
 ここで、ルックナー財務卿と不仲の弟の話が出て来るとは、あの男の評判は、あまり宜しくはない。
 兄であるルックナー財務卿との不仲も有名で、兄とその派閥への攻撃のために坊主への指南役をわざと手薄にしようとしたという疑惑があるらしい。

 だが、さすがにそれは陰謀論であろう。

 なぜなら、ギルドは貴族や王国からの干渉をえらく嫌うからだ。
 もう冒険者を引退した俺が指南役になるのに、こいつらはえらく反発した。
 俺が、陛下とお館様の意向を受けていたからだ。
 本人達を目の前にするとこんな物であった。
 さすがに会計監査長の役付きとはいえ、男爵程度の圧力に屈するほど連中も軟弱ではないであろう。

「嘘はないと信じるが、嘘なら陛下も許さぬと仰せである」

「神に誓って」

 基本的にウェルナー総帥は小心者だ。 
 陛下相手に嘘までつくはずがない。 
 それと冒険者が小心者でも何の問題も無い。
 小心は慎重に繋がり、それは冒険者として得難き資質でもあるからだ。
 現役を引退すると途端に情けなく見えてしまうのだが、それは仕方のない事だ。

「あの男、ギャンブルが下手だな」

「ギャンブルが下手?」

 俺が思わず口に出した疑問にルックナー財務卿が答える。

「あの男は、ワシを財務卿の地位から追い落として自分が後釜に座りたいわけだ。なのに無茶をしない」

 自分の会計監査長の椅子を守りつつ余った物でセコいギャンブルを続けている。
 今の体制で、彼が兄を追い落として財務卿の椅子に座れる可能性は低い。
 ならば、時には大きな悪行に身を染めても賭けに出るべきであろうと。
 なのに、それが出来ないからギャンブルが下手なのだとルックナー財務卿は語っていた。

「あの男、ワシよりも優秀だと自認しておるのにな」

「さすがに、それはないかと……」

「兄弟だからわかるが、そんなに大差はないとワシも思うよ」

 ならば、既に地位が能力を作ってしまっている兄を蹴落とすなど不可能に近い。
 なのにポーズとしては敵対して財務卿の椅子に未練を見せる。
 俺からすると不可解な男でもあった。
 それと一見安全な場所から、さも自分は賢いとばかりにこういう事をしていると。
 いつか、予想外のしっぺ返しを喰らうのではないかと思ってしまうのだ。

「プライドが高いから、『やっぱり無理です』とは言えないのであろう。財務卿の椅子が目標ではなく、財務卿の椅子を目指していると周囲にポースを見せるのが目的になっておる」

「それで、派閥を維持していると?」

「貴族なんて、そんな生き物だからの」

 それで派閥を維持できれば、特に問題もないのであろう。
 それと本人は、まだ心のどこかで財務卿の椅子を狙えると思っている。
 そういう事のようだ。

「あの男のセコいギャンブルで、犠牲になる男たちもいるのだが……。まあ、それは後にしよう。ところで……」

 問題はあるが、取り敢えずはバウマイスター男爵とファブレ男爵は生き残った。
 そうなると次の問題が発生する。

「リングスタットよ。その地下遺跡にあった物の概要に間違いはないのか?」

「はい」

 実際に自分も見て回ったので、間違いは無い。
 魔導飛行船専用のドッグに、魔道具工房に、魔道具関連の研究資料など専門家に見て貰わないと正確な評価を出せない物も多いので、俺が先行して報告しているという理由もあったのだ。

「大発見だな」

 確かにルックナー財務卿の言う通りだ。
 普通の冒険者なら、引退するまで活動してもあのドラゴンゴーレムの足一本分も稼げない。
 そんな厳しい世界で、坊主達はとてつもない成果を挙げた。
 優秀な魔法使いである事を差し引いても、あの坊主たちには何か人とは違う運が付いているのかもしれない。
 ヴェルの坊主自身が、良く悪運だと言っている物だ。 

「(その悪運とやらに俺も良く巻き込まれるものだがな……)」

「しかし、困った……」

 同時に困る部分もあった。
 少し考えれば、王国の財政に詳しくない俺にでもわかる事だ。
 それだけの成果を査定した後に、その評価額を坊主達に支払わなければいけないのだ。

 王家は、大陸一の資産家である。

 その資産額は、東、西、南部を任されている辺境伯が謀反を起す気すら考えないレベルであり、唯一対抗可能な隣国アーカート神聖帝国の皇家ですら及ばない。

 あの国は、皇家の他に選帝侯に指定されている公爵家が七つもあり、次期皇帝を決める時にはそこからも候補者が出て、貴族や大商人が主体となっている貴族会議の投票が行われる。

 王家ほど、強固な中央集権国家ではないのだ。
 何を言いたいのかというと、その王家でも今回の成果に報酬が払えるのかという点にある。
 払えなくも無いし、買い取った物を王家が有効に活用すれば払った金は確実に取り戻せるであろう。
 いや、もっと資産が増えるかもしれない。

 だが、決済用の白金貨が大量に坊主たちの魔法の袋に入るのは、王国の経済上宜しくないとルックナー財務卿は考えているようだ。

 一時的にでも、王家が所持する現金資産が一気に減るのを容認できないのであろう。

「では、王権で取り上げますか?」

「それは、拙い……」

 その時点で、あの坊主たちは王国に未練など無くすであろう。 
 元々、無一文で荒野に放置しても生活可能だ。 
 それを逆に楽しみそうなくらい、あの坊主たちは逞しい根性をしている。
 でなければ、十二歳になるまで実家であの境遇なのに、あそこまで達観しているはずがない。

「まずは、専門家を派遣して評価額の算定ですか」

「防衛も必要だな」

 魔導飛行船の建造、整備ドッグに七隻の使えそうな魔導飛行船。
 特に前者は、場所が予想以上に王都から近い。
 ここを整備すれば、平時は空軍の重要拠点。
 王都に危機が迫った時には、臨時の王宮や政府すら移転可能であった。
 他にも、あの大量のゴーレムにその無人修理工房。
 ドラゴンゴーレムの現物もあるし、あのイシュルバーク伯爵の研究資料や工房には彼の試作品などもあるのだ。
 持ち出しを謀る輩が出ると困るので、早期に警備を強化する必要があった。

「あの、ただの台形岩山にか。盲点であったか」

 果たして、どれだけの評価額になるのか俺にも見当が付かないほどだ。

「(まさか、引退後に冒険者としての夢だと思うレベルのお宝に遭遇するとは……)」

 逆に凄過ぎて、こうして面倒な事にもなっているのだが。

「それで、ファブレ男爵とバウマイスター男爵達への報酬なんですけど……」

「うーーーん、困った……」

 払わないわけにはいかないが、その影響を考えるという事らしい。
 暫く唸った後にルックナー財務卿はウェルナー総帥に視線を送る。
 その視線で、ウェルナー総帥は冷や汗をかいていた。
 冒険者ギルドは王国や貴族からの干渉を嫌うが、ここはホームではないので、ウェルナー総帥もタジタジなのであろう。
 曲がりなりにも現役時代は高名な冒険者だったのに、その臆病ぶりに溜息が出る。
 現場では、『王族や貴族が何だってんだ! クソ喰らえ!』みたいな連中も多いのだが、現場から管理職になるとこうなる人は多い。
 素直に現実に気が付いたとも言えるのだが。 

「ファブレ男爵とバウマイスター男爵に渡す報酬の算定は、暫く時間がかかる。それが確定してからの事なのだが……」

 ルックナー財務卿は、ウェルナー総帥との相談に入る。
 冒険者ギルドのトップには、総帥などと言う大仰しい名称が付いている。
 まだ小規模で、海千山千のアウトロー達の溜まり場であった頃の名残りなのだ。
 今は、この体たらくであった。
 それでも、何とか王国や貴族の機嫌を損ねないようにギルドの独立性を保とうと努力はしている。
 それが感じられないと下から『辞めちまえ!』と突き上げを食うからなのだ。
 この連中は、俺に幹部の地位を奪われると思い、追い出し工作に必死だったようだが、こんな組織で上と下に板挟みになるくらいなら、まだお抱えの方がマシという物だ。

「ギルドは、冒険者が得た利益の二割を徴収するのが決まりであったと思うが……」

 そんな事をルックナー財務卿がいちいち確認すること自体がおかしい。
 そのくらい子供でも知っているからだ。
 冒険者ギルドは、その二割の上納金で運営されている。
 財政状況は、悪くない。
 他のギルドに比べると冒険者ギルドには自己責任の観念が強く、初心者への支援以外ではそれほど費用がかからないからだ。
 殉職した人間にだって雀の涙ほどの見舞金を渡すくらいで、あの見舞い金では、葬儀代の一部くらいが精々なのだから。

「上納金については、個別に相談したいものだな」

 ルックナー財務卿は相談とは言っているが、事実上の命令とも言える。

『碌にファブレ男爵とバウマイスター男爵達を支援してないのに高額になるであろう上納金をお前らがタダ取り? 勿論、遠慮するよな?』

 という趣旨の事を言いたいのであろう。

「特別な案件なので、条件によっては……」

 ここで王国側から冒険者ギルド責任論でも垂れ流されると困ったのであろう。
 ウェルナー総帥は、すぐにその条件を呑んでいた。
 こういう部分が、小役人的で現場から嫌われる要因なのだ。

「さすがにゼロだとギルド側も厳しいはず。固定の額を王宮からワシが責任を持って支払う」

 いくらなのかは知らないが、これでほぼ上納金の分は坊主達への支払いが減額できるわけだ。
 坊主達の手取りが減るわけでもないので、文句など出ようはずもない。
 弟と才能に差が無いとは言うが、そんなはずがないと思えるこの男の恐ろしさでもあった。
 ギルド側の責任を追求しない代わりに金は渡さない。
 王国政府だから出来る無茶ぶりとも言えたのだ。

「ギルド側が、受け入れてくれて良かった」

 この言葉で、この席におけるギルド関係者達の必要性は無くなったようだ。
 ルックナー財務卿に促され、連中は席を立って部屋の外に出て行く。

 責任が消えて喜んでいるのか?

 それとも莫大な額の上納金が無くなって落ち込んでいるのか?

 俺には、連中の詳しい心の内を理解できない。
 それでも安心して欲しい。 
 そんなクソったれな椅子、俺は死んでもゴメンだ。

「さて、これで本音を聞けるか。リングスタットよ」

 ギルド関係者が部屋を出ると、すぐに陛下は俺に声をかけてくる。
 本音とは、多分坊主たちが今回の件をどう思っているかであろう。

「『本気で死に掛けた。この王国強制依頼を出した奴と容認してブランタークさん以外に応援を寄越さなかったギルドの責任者は覚えてろ!』だそうです」

「だそうだ、アームストロング」

「反論できませんな。某でも、同じ事を言ったはずなので」

 誰でも、あの立場ならそのくらいは言うであろう。
 俺なら、もっとキツイ事を言うかもしれない。

「ところで、その王国から強制依頼を出した責任者とは?」

「余以外におると思うか?」

 いるとは思わない。 
 他の誰が出しても陛下が許可を出せば陛下自身が責任者となるからだ。

「余とて、万能の神ではないのだ。アームストロングが万端に仕上がったと言うから、大丈夫だと余が勝手に判断して許可を出した。陰謀論など存在せぬよ」

「まさか、あれほどの防衛戦力があるとは……」

 この世の歴史的な事件の真相など案外こんな物なのかもしれない。
 後世では、坊主たちを消すために色々と暗部が動いたとか歴史書に書く学者も複数現れるのであろう。

「あの某会計監査長は?」

「あの男は、そんな危険な橋など渡らんよ。ファブレ男爵とバウマイスター男爵の死の可能性に喜び、実家の長男にぬか喜びをさせているだけだ」

 その可能性は高いとか、証拠となる手紙にも逃げ道を用意しているのであろう。
 後で文句を言われても『確実にそうだとは書いていない』とか言って逃げる。
 ぬか喜びする長男が、良い面の皮とも言える。

「なるべく少ない投資で、ワシの庭を荒らす。この才能にかけては、あの男は天才じゃよ」

 ルックナー財務卿によると実家の長男に苦労して手紙を送ったそうだ。
 時間短縮のために魔導飛行船を使い、なのにブライヒブルクから山脈を冒険者単独で歩いて越えさせるとか。
 一ヶ月半もかけて短縮というのもおかしな話だが、あの領地ならば情報伝達速度は速い方だと言える。

「この時点で、また手紙は届いていない。でも、ファブレ男爵とバウマイスター男爵は生きている」

 そのタイムラグで、何かおかしな事にならなければ良いのだが。

「生きている以上は、ファブレ男爵とバウマイスター男爵家の爵位や遺産など請求しても良い面の皮だと思うがの」

「確かに……」

 おかしな事をしないで欲しいと神に祈るしかない。
 うちのお館様の健全な精神のためにもだ。
 ただ、うちのお館様も長男はあまり好きではないらしく、お互い様な部分もあるのだが。

「報酬額の算定で時間がかかるので、ファブレ男爵とバウマイスター男爵達は送り出した警備隊や調査団と交代で戻るように伝えて欲しい」

「わかりました」

 また地下遺跡にトンボ帰りであったが、これには別に不満などない。
 あの悪運が強い坊主たちと関わってしまった以上は、これも運命なのであろう。
 それと俺はもうひとつ伝えておかないといけないことがあるのだ。後で、呼ばれるより今のうちに伝えた方が心労が少なくてすむからだ。

「それとファブレ男爵ですが」

「ファブレ男爵が何かあったのか?」

「魔導飛行船などの魔道具の調査をしております」

 俺の言葉で少しざわつくが、予測の範囲内であったようだ。

「『魔導撮影機』や『魔導写真機』を新造させたファブレ男爵であれば可能性が高いと思われます」

 ルックナー財務卿が神妙に陛下に伝える。

「・・・ゴーレムは万は確実におるし、調査団や警備隊の編成には時間がかかるの」

 警備隊や調査団の編成に時間がかかるのは事実ではあるのだが、わざわざ言うということはルークの坊主に自主的に作らせる気の様だ。
 王国が命令して作らせるよりルークの坊主が自主的に作った方がいいと考えているようだ。それが成功しても失敗しても王国的にはどちらでも良いと考えているのであろう。ルークの坊主の前にも製造しようとして失敗した高名な魔道具職人はたくさんいるからな。
 王国が命令して作らせた場合、巨額な予算が必要になるし、失敗した時のリスクを考えるととても実行に移しきれないがルークの坊主が自主的に作る場合は、巨額な予算は必要なく、リスクを負えずに済むのだ。ルークの坊主は、広い土地と多数の職人達が必要になるが、ルークの坊主に職人や広い土地を紹介して、恩を売ることを王国が考えてもおかしくない。
 
 この直後に俺にはある不幸が襲うのだ。

「報酬は、分割払いにするしかないの。完全に払い終えるまでは、遺跡の所有権をファブレ男爵とバウマイスター男爵達のままにして、使用料名目で少々の色を付けて……」

 支払う報酬の計算で唸っているルックナー財務卿であったが、いきなり俺に顔を向けて話を始める。

「ところで、リングスタットよ。そなたは、大損だの」

「大損?」

 最初は何を言っているのかわからなかったが、すぐに恐ろしい事実を思い出す。
 それは、ギルドの規定にある指南役への報酬という事項であった。

「指南役は、行動を共にする新人冒険者パーティーの報酬分割に参加しない。ギルド本部から規定の報酬を貰う。あの地下遺跡の報酬は、ブランタークを除く12人で分割だな」

「そうだった……」

 実はこの規定、新人冒険者と指南役双方への優遇処置でもあった。 
 新人パーティーが、初陣で得られる報酬など高が知れているし、それを指南役も加えて分割となると厳しい側面がある。
 そこで、指南役の報酬はギルドが規定に基づいて出す事になっているのだ。

「詳しい規定は、ワシも知らんが」

「一日、銀板一枚です」

 一日一千セントを新人が稼ぐのは難しい。
 だが、優秀なベテランならそう難しくも無い。
 新人への指導はある種のボランティアではあるが、報酬を無料にするのは可哀想なので、ある程度の報酬はギルドが出す。
 こういう仕組みになっていたのだ。
 なお、ベテラン冒険者は新人への指南役を最低でも三回。
 合計で、一週間以上はこなす義務があった。

「現役時代に義務はもう履行しているんですけどね……」

 ヒヨっ子だらけのパーティーで、えらく苦労したのを思い出す。
 魔法使いなどいないので、適当に近くの領域で魔物と戦わせただけなのに坊主達のようなパーティーなど滅多に居るものではないのだ。 
「そうだな。ギルドが色を付けてくれるかなと」

「無いですね。それは」

 ルックナー財務卿も人が悪い。
 坊主達の手取りを減らさないように責任論をチラ付かせて冒険者ギルドに収める上納金を辞退させた癖に。

「リングスタットに七千セントの報酬は少な過ぎだな。予備費から少し出そう」

 一日一千セントで一週間拘束と考えると俺への報酬は間違ってはいない。
 間違ってはいないのだが、あの苦労を思うと溜息が出てくる思いだ。

「余も残っている年金からある程度は出そう。責任があるからの」

「はい、大変にありがたく……」

 やはり、あの坊主たちにはおかしな悪運が付いているらしい。
 本来、陛下が自由に使える年金(小遣い)を報酬の一部に出させてしまうなんて。
 この集まりの性質上、一部の金の出所は誤魔化されるのであろうが、知ってしまった俺の胃は痛い。

「のう、リングスタットよ。あまり若者に余計な負担はかけぬようにの」

 更に坊主達にこの事を言ってはいけないと釘まで刺されてしまう。

「(本当に不幸なのは、間違いなく俺だな)」

 受け入れる以外に道は無いのだ。
 お館様に報告はするにしても、そんな事は陛下は承知であろうし、お館様とて誰かに漏らすはずもない。

「(わかるか、坊主たち? お前たちは、こんな魔窟でこんな大人達と死ぬまで付き合うんだぞ)」

 とはいえ、あのヴェルの坊主の事だ。
 いくら大金を貰っても、使い道がないと言ってまた袋に仕舞ってしまうのであろう。
 ルークの坊主だけは、魔道具の開発に使っているようだから少し違うようだが、使い切れずに貯まるだろう。

「では、後でリングスタットも含めて公式に呼ぶのでな」

「わかりました」

 こうして、無駄にストレスばかり溜まる秘密の会合は終了する。
 後日、秘密の取り決め通りに俺に追加の報酬が出た。
 坊主達の取り分に比べれば少ないが、世間一般では大金に属する金額だ。
 ただ、この報酬が、国家予算の予備費と陛下の個人的な年金から出ていると考えると心が萎えてくる。
 柄でも無いと言われそうだが、女遊びとかには使ってはいけないような気がしてくるのだ。
 あと、冒険者ギルドからの報酬であったが

「決まり通りに一週間拘束で七千セント。死ね!」

 やはり、あの連中は小役人であった。
 多額の上納金を逃したとはいえ、あまりに杓子定規過ぎて乾いた笑いしか浮かばない。
 というか死ねば良いのに。
 ただ、連中が死んでも俺はギルドの幹部になるつもりはこれっぽっちも無いとだけ宣言はしておくのだが。

 更に、もう一つ。
 あの会合に顔を出しているのに一言も発しなかったホーエンハイム枢機卿の事だ。
 会合中、まるで能面のような表情で一言も発せずにいた。
 陛下達に受け答えをしているウェルナー総帥に付いて来た副総帥以下の幹部連中が顔を青ざめさせてご機嫌を取っていた。

 あの枢機卿を怒らせると神官冒険者の強制引き上げやギルドのサービスの一つである治癒魔法による治療が出来なくなる可能性があるからだ。

 それはもう少しで、可愛い孫娘とその婚約者まで失うところだったのだ。
 笑顔で連中に接するなど、出来ないのであろう。
 冒険者なのである程度は自己責任なのだが、今回はギルドの対応がお粗末過ぎて庇う余地もなかった。

『あのホーエンハイム枢機卿?』

『あのぅ……寄付金の増額をギルドとしましては……』

 結局、ホーエンハム枢機卿は会合中に一言も発しなかった。
 何も言わないので、逆に怖くなったくらいだ。
 しかもそんなホーエンハイム枢機卿に、陛下も、アームストロング導師も、ルックナー財務卿も一言も話しかけないのだから。

 そして、俺がギルドからのセコイ報酬に激怒してから一週間後、ウェルナー総帥以下の現最高幹部は全て、健康状態を理由に一斉に退職していた。

 後任の総帥や幹部とは俺も多少の縁があったので話を聞いたのだが、少しは組織の風通しも良くなったという事なのであろうと同時に、この件も坊主たちやエリーゼの嬢ちゃんには言えないなと思ってしまうのであった。



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