様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「新年を祝って乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 『謝肉祭』が終わり、いよいよ、数日後、新年を迎える。

「新年あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます、お館様」

 改めて乾杯をしながら挨拶を交わし、年越しパーティーは夜中の二時くらいに解散となった。

「明日は挨拶があるんだよね?」

「明日は、私もお供します」

 幸いして、教会への初詣などはこの世界には存在しない。
 だが、その代わりに新年の挨拶回りがある。
 なぜか日本のようであったが、どこに挨拶に行くかとか、どの順番で挨拶に行くかは慣習で決まってるそうなので、ハヤテが付いて来てくれるそうだ。

「お館様、皆様方はお休みください」

 ハヤテに促されて就寝し、次の日の午前九時くらいに目を覚ます。
 少し遅い起床であったが、思ったよりも疲れていたのであろう。
 いつもの時間に目を覚まさなかった。

「では、出かけましょうか。お館様」

 朝食はなく、マテ茶のみを飲んでから新年の挨拶に出かける。
 ハクカ、ミュウ、キャロル、リッド、ユメイ、ヴィルマ、ハヤテの合計7名で、俺とスズネ以外は全員大きめの籠を持っている。
 籠の中には、紙に包まれた飴やクッキーが入っていた。
 これを何に使うのかというと……。

「あけましておめでとうございます」

「くーーーださいな。くださいな」

 屋敷を出ると他の貴族の使用人や家臣の子供達に商業街や富裕な平民の子供達が屋敷で待ち構えていた。
 彼らはこうやって貴族の屋敷の前で待ち、新年の挨拶に出かける貴族や大商人からお金やお菓子を貰うのだ。
 お年玉のような風習だと思う。
 準備するお金とお菓子の量は、その貴族家の家格や資産状況によって大体決まってるのだと、その慣習を教えてくれたハヤテが言っていた。

 お金は、お菓子を紙で包む時に銅貨を一枚入れる事になっているそうだ。
 勿論、教えてくれたのはハヤテである。

「ひい、ふう、みい、よ……。ほれ、受け取れ」

「俺みたいな新興貴族家でも、結構集まってくるものだな」

「ルークは、有名人だからねぇ」

 リッド、ハクカ、ミュウ、ユメイ、ヴィルマ、キャロルが、集まっていた百名近い子供達にお菓子を配っていく。

「「「「「ありがとう、お貴族様、お兄さん、お姉さん達」」」」」

 お菓子を貰った子供達は、お礼を言ってから駆け足で他の貴族を探しに向かう。

「なるほど、なるべく沢山の貴族や商人に会ってお菓子を貰うのか」

「はい、同じ人から何度も重複してお菓子を貰うのはマナー違反なのです。家に帰ってから、親御さんに見つかると怒られるのですよ」

「だから、包み紙に家名を書いたんだな」

 年末に、お菓子の包みを作る作業を手伝ったリッドが納得する。
 同じ家名が書かれた包み紙が二枚以上あれば、重複してお菓子を貰ってきたという事になるからだ。

「年末も貴族は物入りだな」

「そうですね。役職なしの法衣騎士ですと、それほどお菓子を準備しなくてもいいのですが、見栄で大量に準備する方もいます」

 包み紙に家名が書いてあるので一種の宣伝であるとハヤテは説明する。

「この貴族家は、こんなに沢山お菓子とお金をばら撒いたと思われるようにです」

 子供が家で包み紙を開けるのを家族が見れば、自然とその貴族の名が宣伝になるというわけだ。

「子供達は一つでも多くお菓子の包みを得ようと必死に貴族街を駆け回るわけか」

「子供は元気な方がいいという理由もあるそうですよ」

 お菓子が沢山欲しければ、自分の足で多くの貴族と会って稼ぐ。
 新年の挨拶に出かける時間を推測して、効率よく屋敷の前で待ち構えるなどのコツが必要のようだ。
 各貴族ごとに持っているお菓子の量も決まっているので、なるべく早くに出会ってお菓子を貰う必要がある。

「スズネも貰ったの?」

「いえ、貴族の子供はお菓子を貰いに行きませんので。あくまでも使用人や家臣の子供だけなのです」

 家臣でも、当主の一族に入っている子供は参加できなかったりと、あくまでも貴族でない子供向けの風習のようだ。
 その辺の身分差は、この世界では大きいようだ。

「その代わりに新年のお小遣いは渡したものね。ルークは」

「年末から新年にかけて、色々と物入りになるって理由がよくわかったよ」

 その代わりかは知らないが、使用人に一時金を出し、その子供達にも数十セント程度のお小遣いを渡す習慣もあった。
 これこそが、本物のお年玉かもしれない。

「お館様、最初はブライヒレーダー辺境伯家のお屋敷に向かいましょう」

 ハヤテが最初の挨拶先を教えてくれるが、寄親なので当然かもしれない。
 警備をしている門番に来訪目的を告げると、すぐにブランタークさんが顔を出した。

「ブランラークさん、新年あけましておめでとうございます」

「よう、あけましておめでとう。お館様は領地の方で忙しいからな。俺が名代で来客への対応をしているんだ」

 お抱え魔法使いであるブランタークさんは、俺たちへの魔法指導もあって王都に滞在している時間が長い。
 なので、ブライヒレーダー辺境伯家王都屋敷において責任者のような立場にされる事が多かった。

「もう何日かしたら、お館様が別途で新年パーティーを開くから、それに出てほしいそうだ」

「わかりました」

「お館様にルークの坊主達が来たって伝えておくよ」

 領内の屋敷と王都屋敷で共にパーティーを開く。
 大物貴族の正月とは忙しいものらしい。
 この世界では、『正月』ではなくて『新年』なんだけど。

「次は、ラングレー家か?」

「はい」

 俺の正妻になるスズネの実家なのだ。
 早い順番で訪問して当然であろう。

「大変だよな。訪問の順番を間違えるとヘソを曲げる貴族もいるからな。まあ、ハヤテがいるから問題ないんだろうけど」

 事実上、ファブレ男爵家の家宰扱いであるハヤテは、この手の仕事を間違いなくこなさないといけない。
 もし間違えると自分に咎がいくばかりでなく、ファブレ男爵家が他の貴族に攻撃される原因を作ってしまうからだ。

「まあ、今のファブレ男爵家は、そう多くの貴族家を訪問する必要もありませんので……」

 ブライヒレーダー辺境伯家、ラングレー公爵家、他はアンディ兄さんのザフト家、グラムのストラトス家、リョウとヘルムートとアリス姉さんのファブレ家くらいだ。
 ルックナー財務卿やアスガハン準男爵とかの屋敷に行くのは、彼らが寄親ではないから駄目らしい。
 あとで、ブライヒレーダー辺境伯が王都屋敷で主催するパーティーで顔を合わせて挨拶をする。
 それが正式な慣習なのだそうだ。

「聞いているだけで面倒な……」

「それが貴族という生き物だからな。俺は訪問客にあとで新年パーティーを開くという話をしないといけないから、今日はルークの坊主には付いていけないぜ」

「わかりました。では、ブライヒレーダー辺境伯に宜しくお伝えください」

「任せてくれ」

 新年の贈り物を渡してからブランタークさんに言付けをし、今度はスズネの実家であるラングレー家の屋敷へと向かう。

「くーーーださいな」

「くっださいな」

 途中、多くの子供達からお菓子を求められ、まだ残っているのでリッド達が一つずつ配っていく。

「ルーク様、到着しました」

 門番に来訪を告げると、屋敷の中からアスラン卿が顔を出す。

「新年あけましておめでとうございます」

「よく来てくれたな。新年あけましておめでとう」

 すぐに屋敷の中に案内され、軽くつまめる軽食に、お菓子とデザートを勧められる。

「(もてなしが洗練されている)」

 キャロルが、一人感心していた。
 新年の挨拶に出かける人達は、他にも複数の貴族家を訪問しないといけない。
 それなのに豪勢な食事などを出すとお腹が一杯で食べられないし、何も食べないと失礼にあたるので無理をして食べる事になる。
 それを避けるためにラングレー家では軽く食べられる物ばかりを準備してくれたようだ。
 ヴィルマは、余裕で食べているけどね。

 アスラン卿に挨拶と新年の贈り物をしてから、アンディ兄さんのザフト家、グラムのストラトス家、リョウの家、ヘルムートの家、アリス姉さんの家の順番に挨拶をする。

「赤ちゃん、可愛いよね」

「本当ね」

「抱っこすると温かい」

「うわぁ、本当だ」

 コクリ

 スズネ達は、ミリアリア義姉さんが産んだばかりの赤ん坊を順番に抱いて楽しそうに話をしている。
 父親であるアンディ兄さん、母親のミリアリア義姉さん、産まれたばかりの可愛い赤ん坊と一目でわかる幸せ一家である。

「ルークも、もう何年かすれば子供が産まれるさ」

 続いて、リョウのストラトス家に行くと共に奥さん達は妊娠中であった。
 年越しのパーティーにいたからとっくに知っているが、スズネ達は羨ましそうな顔を崩さない。

「赤ちゃん、本当に可愛いですね」

「うん」

「さてと、これで終わりか?」

 今は少ない訪問先を大体回り、お菓子をねだる子供達に用意していた物は全て配った。
 あとは家に戻るだけと思ったのだが、ハヤテが待ったをかける。

「あとは、導師様のお屋敷が残っていますが」

「導師の屋敷か」

「私たちが訪問して大丈夫なの?」

 これまた面倒な事に導師は軍部の重鎮アームストロング伯爵家から独立してその寄子になっている家だ。
 俺の寄親ではないので、訪問していいのか判断に困ってしまう。

「そのためにアンディ様達よりも訪問の順番を下げております。魔法の修練を受けておられるのですから、訪問しても問題はないかと」

 ラングレー家の直後に訪問をすると、これは親族を蔑ろにしていると問題になるかもしれない。
 だから、兄さん達のあとなら問題はないと。

「面倒な話」

 リッドが、心の底から面倒そうな顔をする。

「ご兄弟の訪問順位にしても単純な年齢差ではありませんから」

 兄弟で、アンディ兄さんのザフト家が一番だったのは、彼の寄親であるルックナー財務卿の家には訪問できないから配慮したという理由らしい。

 次がグラムなのは、ストラトス家の寄親であるエドガー軍務卿に配慮したからであった。

「理由と言い訳が混じって決まっているみたい……」

 自分がしなければいけない事ながら、ただ面倒臭さを感じてしまう。

「キャロル様、貴族の慣例とはそういうものですから」

 彼の屋敷を訪ねてみる。

「おう! 新年あけましておめでとうなのである!」

 これまた訪問を門番に告げると導師がまるで突進する猪のように駆け寄ってくる。

「中に入るのである!」

 屋敷の中に案内されると、そこにはテーブルに乗った大量の料理と酒の瓶が置かれていた。
 その上、ヴェルたちもいた。

「想像ついたけど……」

「エルヴィン少年! 乾杯なのである!」

 料理は肉料理が、それもガッツリ系のメニューが多い。
 中央のテーブルには、ワイバーンの丸焼きが置かれていた。
 飲み物も頼めばお茶やジュースも出てくるが、基本的には酒ばかりである。

「どうせ、某の所が最後であろう。夕食も兼ねて、腹が一杯になるまで飲み食いするのである!」

 断れるような雰囲気でもないし、夕食だと思えば豪勢な食事である。
 俺達は、導師の沢山いる子供達や既に三人もいる孫達にお年玉を渡してからパーティーに参加する。

「ワイバーンの丸焼きですか?」

「うむ、専門の大型オーブンを持っていて焼いてくれるお店があるのである! 材料は某が獲ってきたものである!」

 他の貴族なら材料費でとんでもない事になるが、導師なら調理費だけで高価なワイバーンの丸焼きが食べられるというわけだ。
 他の客達も滅多に食べられないからと集中して切り分けて貰っていた。

「お酒もキツイのが多いな」

 メインが蒸留酒という、とんでもない事になっている。
 ワインもあるが、導師の屋敷では食前酒やジュースの代わり程度の扱いのようだ。

「ブランタークさんが喜びそうなパーティーだな」

 あとで話すと俺も参加したかったと言うかもしれない。

「でも、私達って未成年よね?」

「イーナ嬢、新年くらいは気にする事は無いのである!」

 確かに未成年の飲酒は駄目なのだが、特に法的な罰則があるわけでもない。
 それに子供の年齢が二桁になると内輪の宴会やパーティーでは『今のうちに慣れておけ!』と親が飲ませてしまうケースも多かったりする。

 昔は、日本でもそんな感じだったと父が言っていた。
 ちなみに現在の日本の法律でも保護者が未成年の飲酒を見ているなら問題なく飲めるのである。

「エリーゼが怒るかも」

「色々と思うところはあるのですが、新年のお祝いの席ですから」

 イーナが気にしたのは、未成年の飲酒に一番厳しい教会関係者エリーゼの存在であった。
 彼女は真面目なので怒られると思ったようだが、一年に一度くらいなのでと己の心の中にいる神と折り合いをつけたようだ。

「私は、ジュースにしますけど」

 ただし、自分はあくまでも酒を飲まないようだ。

「じゃあ、乾杯をするか」

 俺、リッド、ユメイ、ハクカ、ミュウ。ヴィルマ、ヴェル、エル、イーナ、ルイーゼ、ミスミ、キャロルはワインを、ハヤテとローデリヒは焼酎に似た蒸留酒の水割りを、そしてエリーゼとスズネは柑橘系のジュースの入ったコップを手に取る。

「じゃあ、新年を祝って乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 ヴェルの音頭で乾杯をすると、みんなそれぞれのペースでグラスの中身を飲み始める。

「少し喉が渇きましたね」

 エリーゼは、ジュースを一気に飲み干した。

「はい」

 スズネもエリーゼにつられ、ジュースを飲み干した。
 とそこに他の客の相手をしていた導師が戻ってくる。

「エリーゼ、スズネ嬢、そこにあったグラスを飲み干したのであるか?」

「はい、伯父様。美味しいジュースでしたが……あれ?」「・・・・・・あういです」

 急にエリーゼとスズネの顔が赤くなってくる。

「導師、これはお酒だったのですか?」

「うむ。酒精が九十五パーセントの特上蒸留酒に、ほんの少しジュースを混ぜたものである」

「えっ?」

 ジュースだと思っていたものが、実は物凄く強烈なカクテルであった。
 そして、それを知らずに一気に飲み干してしまったエリーゼとスズネ。
 どうやら新年の挨拶は、最後の最後でとんだトラブルに巻き込まれるようであった。



「あはははっ! ヴェンデリン様、このジュースは美味しいれすね!」

「・・・なんぱい・・・でものめれそうです」

「それ、ジュースじゃなくてね……」

「エルさん! お代わり!」

 酔っぱらったエリーゼは、笑い上戸であった。
 理由はわからないがとても楽しいようで、エルにジュースのお代わりを頼んでいる。
 スズネは、俺のひざの上にのっていた。

「る・・−く・・さ・・ぁ・・・もっと・・・」

「スズネ・・・落ち着け」

「落ち着いて」

「はい、お代わり」

「エルさん……、さっきと味が違いますね。同じものを要求します!」

 先ほどの酒入りのカクテルがいいとエリーゼがエルに強めに要求した。
 いつもとは違う彼女の言動にエルは戸惑っている。

「(どうするよ? ヴェル)」

「(酒をなるべく薄くするんだ)」

 ヴェルはエルに、なるべくアルコール度数が低くなるようにカクテルを作れと命令する。
 だが、それに気がついたエリーゼはエルにケチをつけた。

「エルさん! ここは男らしく、わらしの言うとおりにお酒を多目にいれるのれす!」

「それって、男らしくと関係あるのか?」

「お酒の量をケチるとは、男としてみみっちいではないれすか!」

「はいはい、わかりましたよ……」

 お酒を薄くしようとしたエルは、それをエリーゼに見抜かれてしまい、仕方なしにという感じでお酒の量を増やす。
 酔っぱらったエリーゼはかなり強気で、エルはそれに逆らえなかったのだ。

「ううむ……。昔の悪夢再びである」

「何です? それ?」

 酔っぱらったエリーゼを見ながら呟く導師に俺たちは詳しい説明を求める。

「あれは、エリーゼが十歳くらいの頃、某が試しに少しお酒を飲ませてみたのだが……」

 『未成年者のお酒はいけません!』と今よりも真面目だったのでついジュースに混ぜて飲ませてしまったそうだ。

「それで、どうなったのですか?」

「エリーゼは、酒に酔うと笑い上戸に……」

「あははは! 楽しいパーティーれすね、ヴェンデリン様」

 何がそこまで面白いのかわからないけど、ヴェルの背中をバンバン叩きながら話しかけてくる。

「泣き上戸にも……」

「私だって、懸命に治療をしたのですよ。でも、あの子を私は救えなくて……。ヴェンデリン様、聞いていますか?」

「当然じゃないか。人間は神様じゃないんだから、怪我人や病人を全員救うなんて不可能さ」

「そうれすよね? なのに聖女の治癒も質が落ちたと言う人がいるのれす」

「自分では何もしない癖に無責任だよな」

「ヴェンデリン様なら、わかってくれると思っていました」

 今度は、突然過去の治療失敗例を思い出して泣き始め、それをヴェルが慰める羽目になった。
 しかし、酔っ払いとは恐ろしい。
 突然、話題がまったく別の方向に飛んでしまうのだから。

「あとは、説教であるか……」

「エルさん、この前ブランターク様に綺麗なお姉さんがいるお店に連れて行ってほしいと頼んでいましたね!」

 泣き止んだと思ったら、今度はエルの秘密が暴露されてしまう。

「なっ! なぜそれを?」

「る・・−く・・に・・いさまも・・・きれいな・・・ひとが・・・いいんれぇすか」

「エル、あなたは未成年なんだから……」

「そういうのは、成人してから自分の稼ぎで行きなよ……」

 事実だったようでエルは動揺してしまい、イーナとルイーゼにまで冷たい視線で見られてしまう。
 俺は、スズネに問いかけられ、困った。

「エルさんは、将来バウマイスター家において重要な地位に就くのれすから、そういう不謹慎な発言には気をつけていただきませんと」

「はい……」

 エルは説教魔と化したエリーゼに捕まり、こんこんと説かれて肩を落としている。
 完全なとばっちりで、自分の不運を嘆いているのであろう。

「エリーゼ、もうその辺で……」

「伯父様にも、いい機会なので言っておきます。伯父様は陛下の幼馴染ではありますが、王宮筆頭魔導師としての自覚に欠ける言動が多いと思うのれす!」

「……すまぬのである……」

 エルに助け舟を出そうとした導師であったが、今度は自分がエリーゼに説教を受ける羽目になる。
 その内容にある程度自覚はあったようで、導師は静かにエリーゼの説教を聞いて謝っていた。

「(ヴェルが、エリーゼにお酒なんて飲ませるから!)」

「(わざと飲ませたわけじゃないし、エリーゼの酒癖の悪さなんて知らなかったんだよ!)」

 今度はヴェルがイーナに怒られていた。

「ヴェル、治癒魔法で何とかならないの?」

「ええと……無理」

 人の体から溜まっているアルコールを抜く魔法は、今のところはエリーゼにしか使えない。
 『毒消し』とは似ているが系統が違うようで、俺も習得には苦労している状態だったからだ。

「そして、絡み酒もあるのである」

「イーナさん、いいなぁ」

 導師への説教を終えたエリーゼは、今度はイーナに絡んできた。

「えっ? 私?」

「わらし、背がもう少し欲しいんれす。イーナさん、いいなぁ」

 エリーゼは、イーナに抱き付いてしきりに彼女の頭を撫でている。

「エリーゼも平均くらいはあるじゃないの」

 この世界の女性の平均身長は百六十センチくらいである。
 エリーゼは、十分に平均の範疇にはいるはずだ。

「れも、背が高い女性って恰好いいじゃないれすか」

「身長と恰好いいって関係あるの?」

「あるんれす!」

 絶対の確信があるようで、エリーゼはイーナの頭に手を置きながら彼女の背の高さを羨ましがっていた。
 イーナは、酒臭いエリーゼに纏わりつかれて迷惑そうだ。

「ルイーゼさん」

「えっ? ボク? ボクは背も低いし、胸も小さいよ」

「足が速くていいなぁ」

 今度は、ルイーゼの足に縋りつく。
 そういえば、前にみんなで基礎訓練をした時、遊びでかけっこをしたのだが、

1位 ヴィルマ
2位 ルイーゼ、リッド、ミュウ、ユメイ
3位 俺
4位 イーナ、キャロル
6位 エル
7位 ヴェル
8位 ハクカ、エリーゼ

 であった事を思い出した。尚、スズネは参加していないのだが、実際の所、運動能力は年齢相応でエリーゼより下である。成長したらエリーゼやハクカと同レベルになるかもしれない。

 エリーゼの運動神経は人並みで、体力や持久力は平均よりも少し上で、駆け足は少し遅い。
 見た目少しおっとりしているので、見たままという感じであった。

「わらし、足が遅いんれす。いいなぁ……」

「エリーゼ、ボクの足をスリスリしないで!」

 更に酒が回ったエリーゼは、ルイーゼの素足を曝して頬をスリスリさせていた。

「少し危ない世界に行ってしまうから!」

 ルイーゼは、エリーゼのスリスリ攻撃に身を悶えさせていた。

「ルーク・・さま・・・きすしてくださ・・・い」

「え・・・ここで」

 スズネの言葉で俺は慌てた。

「ちょ・・・スズネちゃん」

「はくか・・・ちゃん・・・いいやすか・・・・るー・・・くさあに・・・・おなあじみ・・・で・・・」

「そうだよ」

 なぜかスズネの言葉にミュウが同調していた。

「ミュウ?」

「うーーーむ、普段は聖女と呼ばれ、それに相応しい言動をしている時の反動であるか……」

「導師、冷静に分析するのはいいんですけど、パーティーの席に酒しか置かないのは問題だと思わないのですか?」

「それを言うのであれば、飲む前に確認をしなかったバウマイスター男爵にも責任があるのである」

「うっ!」

 朝から相当酒を飲んでいるはずなのに導師は普段のままであった。
 ヴェルからの言いがかりに近い苦情を軽くスルーするのであった。

「他にいないんだよ」

「ええと次は……」

 ミュウがハクカに言う。ハクカは、その言葉に困り果てる。
 ルイーゼの素足を堪能したエリーゼは、今度はエルに視線を向ける。

「まずいぞ!」

 エルが危機感を募らせる。
 イーナとルイーゼはまだ女同士だからよかったが、酔っぱらっているとはいえエリーゼがエルに抱きついたりするとエルの方が色々とまずい立場に追い込まれてしまうからだ。

「はあ……新しい大人の世界だね」

「ルイーゼもわけのわからない事を言ってないでエリーゼを止めなさい!」

 素足をスリスリされて煌々とした表情を浮かべていたルイーゼにイーナが一緒にエリーゼを押さえるようにと命令する。
 だが、その心配は無用であったようだ。

「エリーゼ! 背も高く、鍛えられた肉体を持ち、剣の腕もなかなかなものになったこの俺に……」

「いえ、エルさんは特に羨ましいとは……」

 エリーゼは、エルに一言だけそう言うとそのまま寝てしまった。
 周囲に微妙な空気が広がる。
 何しろ、エルは自分で自分のいいところを先に口をにして予防線を張ったのに肝心のエリーゼには全て無視されてしまったからだ。

「スキャンダルを防げてよかったな、エル」

「エリーゼは、エルが男性だからそういう比べ方はしなかったのよ」

「でも、ちょっと恥ずかしい。自分で鍛えられた肉体とか……」

「この終わり方は、俺的には最悪の結末だ!」

 スズネは、俺にキスしようとした所で寝てしまった。

「恋人が欲しい」

「なんで?」

「うぅ・・・ハクカもスズネも楽しそうだよ」

 ミュウはハクカを相手に恋人が欲しいといった所で寝てしまった。
 酔っぱらったエリーゼの被害を一番受けたエルの叫び声が、新年のアームストロング子爵家中に木魂するのであった。



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