様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「ファブレ男爵! 今年も『謝肉祭』の季節である!」

 導師から、この時期に行われる面倒な行事への参加を強制された。

「面倒くさいなぁ……」

「本当だよなぁ……」

 リッドも俺と同じように愚痴るが、それもこの『謝肉祭』という行事のせいだ。
 実はこの風習というか行事は、王都周辺でしか行われていない。
 そういえば、子供の頃から獲物を卸しにブライヒブルクまで行っていたが、謝肉祭など聞いた事がなかった。
 俺の実家については言うまでもない。
 ファブレ騎士爵領では、結婚式と葬式と収穫祭以外の行事はほぼ存在しないのだ。

「教会の行事なのよね?」

 ブライヒブルク育ちであるキャロルやミュウも謝肉祭という行事は知らなかった。
 教会の行事なら、ブライヒブルクの教会でも行われているような気がするのだが、そういうわけでもないらしい。

「この行事はですね。今から五百年前、教会により聖人認定されたヴァレンティーン枢機卿が、孤児やスラムの方々にお肉を贈るために始めた行事だそうです」

「炊き出しみたいなもの?」

 教会は、孤児院やスラムで定期的に炊き出しを行っていた。
 それと類似する行事なのかとキャロルはこの度、家宰見習いになったハヤテに尋ねる。

「ほぼ同じですが、狩猟枢機卿と呼ばれたヴァレンティーン枢機卿の誕生日に行われ、振る舞われるのが獲物のお肉という点が特徴的ですね」

 狩猟が上手な枢機卿というのはどうかと思うのだが、この世界では俺以外誰も気にしない。
 彼の生まれた日が地球でいうクリスマスに近く神官である彼は貧しい人達に施しを与えるのに寄付を募るとかではなくて、自ら弓矢を持って狩猟に赴いたというわけだ。
 なかなかに逞しいというか、アグレッシブな人物であったようだ。

「ヴァレンティーン枢機卿は、狩猟の名人であったそうです」

「(金を出さずに、体を動かしたんだな……!)」

 ハヤテに聞こえないようにリッドが核心を突くツッコミを入れたので、俺は静かに肘打ちを加えておく。
 人間、それが事実でも口にしてはいけない事もあるのだ。

「謝肉祭という命名はどうなんだろう?」

 ヨーロッパでは、仮装パレードとお菓子の振る舞いが行われる祭りだと記憶しているが、この世界では、ボランティアが狩った獲物を調理して孤児と貧民に振る舞う行事である。
 ボランティアは、神官、貴族有志、冒険者、富裕な平民有志、時間のある狩りが出来る人達だけだ。
 これを始めたヴァレンティーン枢機卿の名前からして、バレンタインという事もなく時期はクリスマスだけど俺達が何か食べられるわけでもない。

 王都周辺でしか行われないのは、参加可能な人数が集めやすいのがここしかないからかもしれない。

「去年はこんな行事あったかしら?」

「勿論、毎年ありますよ」

「ルークならさ。寄付して終わりでいいんじゃないの?」

「いえ、これは謝肉祭ですから……」

 どんなに偉い貴族様でも、この謝肉祭だけは自ら狩猟を行って獲物を調理し、貧民達に振る舞う事が重要なのだという。

「ええと……パフォーマンス?」

「ミュウ、ストレートに言い過ぎ……」

 寄付でも金額が多ければありがたいような気もするのだが、謝肉祭への参加は一種の政治的パフォーマンスのようだ。
 持つ者が、持たざる者に自ら奉仕活動を行う。
 だから、自ら参加しないと意味がない。
 そういう事なら理解できる。
 日本でも周囲の目を気にしてそういう事を行う金持ちや政治家、芸能人が多かった。

「事情はわかったけど、導師だけ妙に嬉しそうだな」

 リッドは、俺達を誘いつつ狩猟の準備に余念がない導師を見て不思議そうな顔をする。
 何が楽しくて、こんな行事に参加するのであろうか。

「某は狩猟は好きなのである! 動物だろうと魔物だろうと沢山狩れれば嬉しいのは人間の本能なのである!」

「そうですか……」

 謝肉祭への参加準備に余念がない導師を見ながら、俺達は全員こう思ったはずだ。

「「「「「(ヴァレンティーン枢機卿と導師って、似た種類の人間だったんだろうな……)」」」」」

 それだけは確信する俺達であった。



「ルーク、沢山獲れたわね」

「沢山獲れても俺達は肉の欠片一つ食べられないけど」

「屋敷に戻ってからの食事を楽しみにしましょう」

「そうだな……」

 謝肉祭は早朝から行われる。
 この日のために普段は入猟料が獲られる狩猟場が無料開放されたり、普段は立ち入り禁止の猟場が解放される事もあって、獲物は大量に獲れた。

 夕方まで狩猟に勤しんだ俺、ハクカ、ミュウ、リッド、キャロル、ユメイ、導師はある種の達成感を得ていたが、実は謝肉祭はここからが本番だ。
 獲った獲物を調理して、孤児や貧民達に分け与えないといけないのだ。

「お館様、大猟のようですね」

「まあまあかな」

 俺達は、獲物の下処理を手伝った。
 血を抜き、毛皮をはぎ取る。
 切り分けた肉は煮たり焼かれたりして、集まって来た人達に無料で配られた。

「聖人ヴァレンティーン枢機卿により始められた全ての人々に血肉を分け与えるこの儀式を……」

 人々に肉料理を配っている横で、老いた枢機卿が挨拶なのか説話なのかよくわからない話をしているが、ほとんど誰も聞いていない。
 参加者達からすれば、無料で肉料理が貰える事の方が重要なのだから当たり前だ。

「そういえば、ブランタークさんは来なかったな」

「去年、ブライヒレーダー辺境伯様から命じられて強制参加だったらしいよ」

「今年はもういいって事かな?」

「だろうな」

 ブライヒレーダー辺境伯家は王都に屋敷があるので、毎年、家臣の誰かが謝肉祭に参加する事になっているそうだ。
 去年は、ブランラークさんの当番だったらしい。

「それはお気の毒に……!」

「料理も大量にあるけど、並んでいる人も多いわね」

「疲れたなぁ……」

「うん」

「そうね」

 ユメイとハクカとミュウとキャロルは、早朝から狩猟に調理に配膳にと大忙しで疲れたようだ。
 当然、俺とリッドもである。
 クリスマスに似ているというか時期が重なっている行事があると聞いて少しワクワクしていたのにタダ働きさせられて碌に飯も食えない。

 俺は、『こんなクリスマスモドキ、もう二度と参加したくないと!』と思うばかりであった。
 だが、導師が参加を促すので無理だろうな。

「これにて、料理の配膳を終了します」

 ようやく準備していた料理がなくなったのは、夜になってからであった。

「これで終わりか」

 俺たちは、教会の後夜祭に不参加を貫いた導師を習い、帰還することにした。俺たちの本能が導師を見習えといっているからだ、というか教会が豪勢な食事会なんてするはずもないのだ。
 後日、ヴェルたちから後夜祭について聞いたら、神官の大説法があり、ささやかな食事しかなかったそうだ。



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