様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「はあ……。疲れた……」

 その日の夕方、アンディ兄さんの結婚披露パーティーは無事に終わっていた。
 花嫁さんも含めて、アンディ兄さんは役場の同僚や友人達から暖かい祝福を受け、ハクカ達もそれに混じって楽しい時間を過ごしていたようだ。

「大変だな。やっぱり、モンジェラ子爵がしつこかったのか?」

「いや、あの人は抑えに回ってくれたんだ。おかげで、アレでもマシだったんだから」

 一方の俺とヴェルはと言うと式の間中ずっと多くの参加者達に囲まれ続けていた。
 この時になって、俺はようやくアンディ兄さんの謝罪の意味を知ったのだ。
 俺たちが古代竜を退治した話は、ほぼ正確に僅かな時間で王都中に広まっていた。
 俺たちは、彼らパーティーの参加者達に新しい玩具の如く弄られ続けてしまう。
 まさか、今日、自分達が参加する結婚パーティーに噂の竜殺したちが参加しているとは思わなかったのであろう。
 更に花婿の実の弟と友達であったという事実もだ。
 目敏く気が付いた連中の中には、どうにかパーティーに参加して俺たちと接触をしたいと考えた貴族や商人もいたらしく、彼らの無理な懇願を上手く波風立てないように断ったのが、トガーさんとモンジェラ子爵であった。

 背は百九十センチほどで高いが、その体は細身で肌も白く、いかにも官僚と言った面持ちの四十歳ほどに見えるモンジェラ子爵は、大切な寄り子の結婚披露パーティーなのに俺たちが主役みたいな結果になるのを失礼だと感じたらしく、定期的に長時間俺たちに食い下がる連中を連れ出してくれたのだ。

 なるほど、そういう細かい配慮が代々官僚を務める家に相応しいようにも見えた。

「モンジェラ子爵様に感謝だな」

 式の間、酷い連中は、せっかくのアンディ兄さんの正装姿や花嫁さんのドレス姿に視線すら向けず、俺たちに一方的に話し続けていたのだ。
 家臣や使用人候補として、自分の知り合いや子供を紹介したり、妾でも良いからと自分の娘を紹介したり、酷いのになると怪しげな投資話や借金の申し込みだったりしていた。

「リッドたちは、楽しそうだったな」

「まあな」

 その後、パーティーは無事に終わり、俺はザフト家が用意した客室のベッドの上で寝そべりながらリッドと話していた。
 アンディ兄さんの計らいで、王都滞在中はこの部屋に泊まれる事になっていて、俺とリッド、ハクカとミュウとユメイで2つほど部屋が割り当てられていた。

「しかし、ルークもこれから大変だな」

「王都から離れれば……」

 突然、ドアがノックされたので開けると、そこにはアンディ兄さんとミュウとハクカとユメイと腰まで伸ばした青髪、青い瞳、青いローブを着用している柔らかそうな巨乳の美女がいた。

「ルーク、紹介するね。私のお姉ちゃん」

「初めまして、ファブレ準男爵。ミュウの姉のセイと申します」

 こちらにお辞儀をして自己紹介をしてきた。

「ルーク・フォン・ファブレです。ルークと呼び捨てで構いません。セイさん」

「私のことも呼び捨てで構わないわ。ルーク君」

「分かりました。セイ。それで、何か用事でも」

「ブライヒレーダー辺境伯様からお使いを頼まれたのよ」

「それで私が案内したわけさ」

 ブライヒレーダー辺境伯様の使いなので当主後継者でもあるアンディ兄さんが案内をしたようだ。

「それでお使いの内容は?」

「これからルーク君の争奪戦が始まるわ」

 突然、古代竜を討伐し、その功績でもらった勲章と準男爵位を与えられた若者たちがいる。
 更には、その若者たちは討ち取った古代竜の骨と魔石の売却で莫大な富を得た。
 ならば、この国の富と権力を司る貴族達の考える事は一つだ。

「押し掛け家臣に嫁・妾志望者もあるのだけど、まず、争いになる件があります」

「争いになる件ですか?」

 俺たちには何のことかわからなかった。
 俺、リッド、ミュウ、ハクカ、ユメイは、何のことか分からずお互い顔を見合わせ困惑した。

「誰の寄子になるかよ?」

 寄親と寄子。

 この制度がなぜあるのかというと王国でも管理が面倒な騎士爵と準男爵などを中央と地方の上級貴族に管理させる。
 王国側のこのような思惑もあって、この制度は王国の成立直後から続いていた。
 俺の実家であるファブレ家の寄親は、ブライヒレーダー辺境伯である。
 
 ブライヒレーダー辺境伯がファブレ家の寄親である理由は、南方の元締めだからである。普通は領地持ち貴族は近場で固まるし、中央の法衣貴族も世襲している役職などで固まっているのが普通だ。
 実際、アンディ兄さんが婿入りしたザフト家も代々財務関係の仕事に就く事が多く、寄親はルックナー財務卿の腹心であるモンジェラ子爵という事になっていた。

「ルークの寄親なら、ブライヒレーダー辺境伯様に優先権がないのか?」

 とリッドが聞いてきた。

「普通に考えるとそうよね。でも、そう考えない人がいるのよ。しかも、その考え方が間違っているわけでもありませんから」

 簡単に言うと俺はブライヒレーダー辺境伯の寄子であるファブレ家の出で、今は冒険者を目指してブライヒレーダー辺境伯領内にある予備校に通っている。
 卒業後は、ブライヒレーダー辺境伯領内を含む南部が活動エリアになるであろうし、となれば俺を寄子にする権利はブライヒレーダー辺境伯にあると考えるのが普通だ。

「ルーク君が誰の寄子になっても陛下は何も言わないと思うわ。万が一の時には、王家の方が優先権があるからよ」

 寄親の命令よりは、主君である王家の命令。
 まあ、当然であろう。

「じゃあ、ブライヒレーダー辺境伯様が寄親で決まりなのでは?」

「ところが、そういうわけでもないのよね」

 まず、俺が領地を持たない法衣貴族扱いなのが問題らしい。

「ルーク君のように過去にも功績を挙げて同じような形で叙勲された例は多いのよ」

 功績が大きいから、貴族にして年金とそれを子孫に継承させる権利を与えた。
 だが、領地は無いし、何かの役職に任命されたわけでもない。
 年に一度は年金を王都に貰いに行く必要性があるが、あとは基本的に何をしていても自由。
 俺のような立場の貴族は、実は結構な数存在しているらしい。

「領地があれば、その地方で顔役になっている中級貴族とかブライヒレーダー辺境伯様のような方面を統括する大物貴族の影響下からは逃れられないのよ」

「でも、俺の場合は、その選択肢が狭まらないと?」

「僕の立場で言うと出来ればルックナー侯爵の寄子になって欲しいかな?」

「あれ? モンジェラ子爵様なのでは?」

「モンジェラ子爵の寄親が、ルックナー侯爵なんだよね」

 ここが寄親・寄子の制度のややこしい部分なのだが、モンジェラ子爵はザフト家の寄親で、ルックナー侯爵の寄子でもあるのだ。
 ザフト家が、ルックナー侯爵の寄孫と言えば分かり易いのかもしれないが、さすがに寄孫という言葉は無いらしい。

「ルックナー侯爵ですか?」

「ルークは、陛下に謁見した時に会っているはずだよ。財務卿をしている人だから」

「ああ、あの骨と魔石の売却代金を値切ろうとした……」

「まあ、あの方はね……でも、財務卿ともなると色々と大変なんだよ。予算だって、無尽蔵じゃないからな。陛下がケチ臭い事を言うと民衆や貴族からの人気も落ちる。時には、陛下の代わりに嫌われる事を言うのも仕事なんだよ」

 アンディ兄さんは、あの謁見の際の骨と売却代金の値切りには、そのような裏があったのだと説明する。
 財務卿が値切って俺に嫌われ、それに陛下が助け舟を出す。
 そのお礼に陛下が、魔導飛行船予算の余り分を他の予算が不足している事業などに回す許可を財務卿に与える。
 完全にギブアンドテイクの関係らしい。

「ルックナー侯爵は優れた政治家だし、職権乱用をして財産を増やすような事もしないからね。陛下からの信用も厚いし」

「それは結構なんですけど、何かここ数日でお腹一杯です」

 正直、魔法なんていくら使えても、それで面倒の種が消えるわけでもないのだ。

「それで話を戻しますけど、ルーク君は、誰の寄子になりますか?」

「現状で、ブライヒレーダー辺境伯様しかいない気がするけど」

 今の俺は、ブライヒブルクにあるブライヒレーダー辺境伯が経営している冒険者予備校で特待生をしているのだ。
 ここで他の貴族の寄子になる意味がなかった。

「アンディ兄さんには悪いんですけど……」

 俺は、ルックナー侯爵の寄子にはなれない事を伝える。

「別に気にする必要は無いよ。もしそうなればラッキー程度にしか、ルックナー侯爵も思っていないだろうし」

 いくら中央で財務卿を世襲するルックナー侯爵家とはいえ、南部のまとめ役であるブライヒレーダー辺境伯家を敵に回すような愚は冒さないはずだ。
 それに俺は、自分の寄子であるアンディ兄さんの実の弟なのだ。
 もう十分に縁が繋げているので、これ以上欲をかいてもと思っている可能性が高いそうだ。

「本当、貴族の習性ってお腹一杯になるなぁ……」

「もう何千年も飯のタネにしているからね。僕も、その入り口につま先で立っていた程度なんだけどね。ルークに押されて、少し奥に入り込んだかな?」

 新しいザフト家の当主であるアンディ兄さんは、ルックナー侯爵の寄子の寄子という小物な立場にあるのだが、今回の件でルックナー侯爵の印象に大きく残った。

「結婚式は終わったから、後は」

 ハクカと一緒に広い王都の名所を観光したり、買い物をしたり、美味しい物を食べに行ったりしたい。

「ルーク、奥さんと一緒に私も付き合うから」

 さすがに今年で22歳となり結婚もしたアンディ兄さんなので、もう自分の事を僕とは言わなくなったようだ。

 それでも俺と話しをしていると昔に戻るのか?

 たまに僕が混じるようであったが。

「えっ、良いんですか?」

「三日ほどお休みを取ったからね。案内役の僕達も遊びなのさ」

 ようやく結婚パーティーも無事に終了し、明日以降は普通に夏休みを満喫しようと俺は固く決意したのであった。



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