様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「よう、久しぶりだな。坊主」

「久しぶり。ヴェル」

 俺が王都に到着し、陛下から古代竜討伐の件で貴族に叙されてから二日後、今日はブラント家においてエーリッヒ兄さんの結婚式が行われる事になっていた。

 この世界における結婚式とは、王族や大物貴族でなければ二人だけで教会に行き、そこで神父に報告に行い結婚を認めて貰い、あとは、役所に書類を提出するだけだ。

 実は、エーリッヒ兄さんとミリアム義姉さんが知り合ってからここまで三年ほど。

 十七歳で下級官吏の試験に受かったエーリッヒ兄さんの働き振りを二年間ほど見たルートガーさんが、安心して一人娘を任せられると判断して、その間に地盤固めに動いたそうだ。

 そんな面倒な事をした理由は、貴族間の複雑な人間関係や他の親族からの嫉妬から来ている。
 ブラント家には娘が一人しかおらず、跡は入り婿に継がせるしかない。
 そういう情報が流れると爵位と役職目当ての有象無象に、親族と自称親族に縁戚に、寄親であるモンジェラ子爵なども周囲からせっ突かれて、『こういう婿候補も居るんだけど……』とルートガーさんに持って行く事も多くなる。

 例えその候補者が駄目駄目で、推薦するに当たらない人物だとしてもだ。
 いきなり駄目と言うと角が立つので、一応は話を持って行かないといけない。
 寄親というのも、なかなかに大変なようだ。
 そんな中で、ルートガーさんはエーリッヒ兄さんを選んだ。
 当然、面白くないと思う連中は多い。
 正式な結婚が遅れたのも、そういう面倒な横槍を調整するのに時間がかかったからなのだ。

『もっとも、今は表立って文句を言う連中は減りましたけどね』

 ルートガーさんが言うには、竜を退治して双竜勲章と準男爵位を得た俺の存在が大きいようだ。
 以前は、散々にエーリッヒ兄さんを『水呑み貧乏騎士の五男風情』と批判していたのに、今では『竜殺しの英雄の兄で、頭も切れる素晴らしい婿殿』だと掌を返す人も多いそうだ。

 嫌な話ではあるが、こんな俺でもエーリッヒ兄さんの援護が出来たのだから良しとする事にする。

『偶然とはいえ、ミリアム嬢の婿の件で強引に横槍を入れないで良かった……。私は、まだ運があるのだと思う』

『うちが、騎士爵家で良かったですな』

『これが男爵家とかだと、ルックナー財務卿も絡んで来る可能性があった』

『もしエーリッヒ以外の人を強引に送り込んでいても、あの方は平気で竜殺しの英雄と縁を結べなかった件で怒るでしょうしな』

『立場上怒らないと駄目なのだが、言われるこちらは堪らんよ』

 これが、寄親であるモンジェラ子爵の正直な感想だそうだ。
 式の前日にブラント邸に来て、ルートガーさんに愚痴を溢していたのをなぜか俺も聞く羽目になっている。
 『バウマイスター卿も、他人事ではないのだぞ』と、テンションが下がる教訓と共にだ。
 最終的に、婿の選定で決定権を持つのはブラント家当主であるルートガーさんである。
 だが、場合によっては、寄親の力で強引に婿を押し付けるケースも多々発生するらしい。
 今回は、運良くそれをしないで良かったと安堵の溜息をついていたのだ。

「今日は、絶好のパーティー日和だな」

「ブランタークさんの場合は、天候よりも酒のような気が……」

「言うようになったな。準男爵殿」

 パーティーはブラント家の屋敷と庭で行い、招待客は三百名ほど。
 この人数は、下級法衣貴族としては標準的な物らしい。
 親戚に友人や職場の同僚に上司。
 あとは、ブラント家にはモンジェラ子爵という寄親がいるので呼ばれているし、その寄親と同じ派閥からも数名の中級以上の貴族が呼ばれている。

 本人が来るケースと嫡男などを代理人として寄越すケースと半々なようだ。

 一時間後に始まるパーティーに備え、ブラント夫人や屋敷のメイド達が準備にてんてこ舞いな中、俺は庭に設置された会場でブランタークさんやルークたちに話しかけられていた。

 そういえば、ブライヒレーダー辺境伯は自分と同じく文官肌のエーリッヒ兄さんを気に入っている。
 ブランタークさんは、彼の代理人としてパーティーに参加しているようだ。

「久しぶりって、まだ二日くらいでは?」

「細かい事は良いじゃねえか。しかし、お前さんたちが準男爵ねえ」

「自分が、一番驚いていますけどね」

「だよな」

「それだけの功績を挙げたって事だな」

 ブランタークさんは、うんうんと一人で勝手に頷きながら納得していた。

「ブランタークさんも功労者なんですけど……」

「俺はほらよ、オマケの類だろう?」

「ですが、古代竜の骨と魔石の代金の一割を受け取る権利があります」

 ブランタークさんが魔道飛行船を守リ、ルークの参加がなければ、俺の功績は、片手落ちも甚だしい結果になっていたであろう。
 それに、アルテリオさんが陛下にブランタークさんが報酬の一割を受け取るのが妥当だと進言し、陛下もそれを是としている。
 なので、ブランタークさんには白金貨30000枚を受け取る権利があるのだ。

「というわけで、白金貨30000枚です。本当に、半分いらないんですか?」

「俺はもう四十八歳なんだぜ。老後の資金と酒代としては十分じゃねえか。それによ。俺自身にもそれなりに資産があるんだよ」

 そう言いながら、ブランタークさんは自分の資産額を口にしていたが、そのあまりの金額に俺は驚きを隠せないでいた。

「俺の冒険者時代のパーティーは、半端なく稼いだからな」

 超一流の魔法使いであるブランタークさんに、あの強かなアルテリオさんがいて属性竜まで倒しているのだ。
 さぞや稼いだのであろうと、俺は思ってしまう。
 更に、一時期はうちの師匠も新人教育の名目でパーティーに加わっていたらしい。
 きっと、物凄い戦闘能力を持ったパーティーだったのであろう。

「他のパーティーメンバーも適当に貴族様に仕えたりして第二の人生を歩んでいるのさ。だから、俺はこの分け前で文句は無いな」

 そう言いながら、ブランタークさんは俺とルークから白金貨15000枚の入った袋を受け取り、それを無造作に魔法の袋に放り込んでいた。

「良い飲み代が出来たぜ」

「酒蔵ごと買うつもりですか?」

「それだと、同じ種類の酒ばかりになるからな」

 そんな話をしている間に、パーティー開始の時間は着々と迫っていた。
 屋敷に庭にはテーブルが置かれ、そこには沢山の豪華な料理や酒が並ぶ。
 さすがは貴族の結婚披露パーティーとでも言うべきか、寄り親でもある中級以上の貴族も招待しているので当然ではあるのだが。

「貴族って、大変ですね」

「冠婚葬祭でケチる貴族なんて、バカにされるからな」

 普段は質素な生活を送り、懸命に貯めたお金でここぞという時で使って、貴族として相応しい振る舞いをする。
 中級以下の貴族は、概ねそんな感じのようだ。

「招待される側も大変なんだよ」

 ブランタークさんの視線の先には、庭に繋がる部屋の奥に積まれたご祝儀が山と積まれていた。
 さすがに現金の入った袋は無かったが、品質の良い夫婦が生活に使いそうな品々や、衣服や宝飾品など。
 確かに、寄子から招待されて寄親が手ぶらで来るわけにもいかず、安いお祝いだと恥をかいてしまうわけで、金銭面での苦労は大きいのであろう。

 長年の慣習で相場が決まっていて、それに合わせて手痛い出費を迫られるのだそうだ。

「しかし、無いなぁ……」

「何が無いんですか?」

「無いと大問題になるやつが」

 ブランタークさんの発言に首を傾げていると、そこに正装に着替え終えたエーリッヒ兄さんが現れる。

「お久しぶりです。ブランタークさん」

「おう。うちのお館様も、本当は来たがっていたんだがな」

「ブライヒレーダー辺境伯様は、仕方が無いですよ」

「まあ、ブラント家の寄親とのバランスもあるからな」

 確かに、今回の結婚式はブラント家側が主役なのに、その寄親を超える辺境伯が婿養子の客として来るのはバランスが悪い。
 理解は出来るのだが、俺は余計に貴族の面倒臭さを実感していた。

「初めまして、ファブレ準男爵。バウマイスター準男爵の兄のエーリッヒといいます」

「初めまして、ルークと呼び捨てで構いません」

「うん、ヴェルと同じでいいと」

「はい」

 エーリッヒ兄さんがルークを相手にそつなく挨拶を交わしていた。

「ところでよ。バウマイスター家側からの祝儀は来てないのか?」

「それが、手紙で何度も催促したんですけど……」

「おいおい、本当なのかよ。こんな事が、うちのお館様に知れたら……」

 いつもは飄々としているブランタークさんが、この時ばかりは不安そうな表情を浮かべていた。

「あの、どういう事なんです?」

「エーリッヒと坊主の父親が、持参金を送って来ないんだとよ」

 貴族同士の結婚の場合、普通は嫁を受け入れる家が嫁の実家に結納金を支払い、嫁も実家から持参金や結婚生活に必要な家具や衣服などを持参する。

 その相場は双方の家柄によって大体決まっているのだが、細かくて面倒なので今は説明はしないでおく。

 あと、エーリッヒ兄さんのように婿入りする際にも、婿を受け入れる家は婿の実家に持参金を持って行くし、当然婿の実家もそのお返しで祝儀を送るのは当たり前の風習になっていた。

 ところが、なぜかまだバウマイスター家側から祝儀が送られて来ていないらしい。

「拙いんですよね?」

「当たり前だ。こんな無礼が許されるはずがない」

 エーリッヒ兄さんも大恥をかいてしまうし、ブランタークさんの態度を見ればわかるが、寄親のブライヒレーダー辺境伯まで大恥をかいてしまうのだ。

 しかし、ここまでバウマイスター家の連中が空気を読めないとは思わなかった。

 さすがは、王国最南端のボッチ貧乏貴族家とでも言うべきなのであろうか?

「遠方ですからね。荷が届かないとか?」

「いや、それはありえん」

 こういう場合、遠方なので嵩張る物は送らないので、金貨や宝石などを一族の誰かが持参するのが当たり前らしい。
 父が直接来るという可能性は低いが、家臣か、エーリッヒ兄さん以外で独立していない兄弟の誰かが来るのが普通なようであった。
 普通なのに、まだ来てはいなかったのだが。

「困りましたね」

 まさかこんな事態になるとは、エーリッヒ兄さんでも想像がつかなかったらしい。
 それに、バウマイスター家は普段は貧しくても貴族なので、こういう儀礼的な物に金を惜しまないはずなのだ。

 一体、どうしてしまったのであろうか?

 そんな事を考えていると俺達の元に二人の若い男性が現れる。
 エーリッヒ兄さんが招待した、バウマイスター家の三男パウルと四男のヘルムートであった。
 二人は既にバウマイスター家の継承権を放棄し、この王都で警備隊に勤めている。
 年齢はそれぞれに二十六歳と二十四歳であったが、共にまだ独身のようであった。
 奥さんがいれば、当然一緒に来るのが当たり前だからだ。

「結婚おめでとう。エーリッヒ」

「おめでとう」

「ありがとうございます。パウル兄さん、ヘルムート兄さん」

 俺はほとんど話した事が無い二人の兄達は、エーリッヒ兄さんにおめでとうを言っていたが、その表情にはどこか優れない物があった。

「どうかしたのですか? 兄上達」

「ヴェンデリンか。実は、困った事になってな……」

「今、王都はお前の話題で持ちきりだが、それを興味本位で聞いている余裕すら吹き飛ぶほどな」

 正直、今まで碌に話をした事が無いので声をかけるのが不安だったのだが、二人の兄達は俺に特に隔意を抱いているわけでもないらしい。

 実家にいた頃は、あまりに年が離れていたので話をするタイミングが難しかったようだ。
 そして二人には、ある懸念が存在していた。

「実は、こんな手紙が実家から届いてな」

 三男パウルが取り出した手紙を、エーリッヒ兄さんが読み始める。
 暫く紙面を真剣に眺めていたが、すぐに溜息をついていた。

「エーリッヒ兄さん」

「困った……」

 エーリッヒ兄さんは俺にも手紙を見せるが、そこにはとんでもない内容が書かれていた。
 要約すると、まさかエーリッヒ兄さんが同格の騎士爵家に婿入りするとは思わず、しかも今まで貯めていたお金は長男クルトが結婚する時にほとんど使ってしまっていて、正直なところ出すお金が無い。

 更には、王都まで祝い金を持っていける人間もいない。
 そこで、お前達で立て替えておいてくれと書かれていたのだ。
 加えて、そもそもお前達に独立準備金を出したから金が無いわけで、立替えくらい当たり前とまで書かれていて、かなりイラっと来る手紙だ。

 しかも、紙面はひらがなとカタカナだけなので異常に読み難い。
 筆跡からすると、どうやら長男のクルトが書いたようだ。
 ちなみにお前達とは、パウルとヘルムートの事である。

「無茶にも程がある」

 あまりの無責任な文面に、俺はただ呆れるばかりであった。
 そもそも、兄達が勤める警備隊の給料などたかが知れているのだ。
 年に金貨が三枚から四枚で、この金額だと地方では普通に暮らせるが、大都市で物価の高い王都ではギリギリの生活を強いられる。
 更に、その中で結婚資金まで貯めるのだ。
 祝儀の立て替えなど、まず不可能であった。

「クルト兄さんと親父は、王都で警備隊員風情の俺達に何を期待しているんだろうな?」

「知らん」

 更に言えば、兄達は成人して実家を出る時に継承権を放棄する条件として、父から幾ばくかの独立準備金名目の侘び金を貰っている。
 つまりもう縁は切れているので、バウマイスター家のために金を出す必要など全くないのだ。

「クルト兄貴の結婚式で、金を使い過ぎたんだろうな」

 そこで、彼らにとっては予想外のエーリッヒ兄さんの婿入りだ。
 出せる金など無いのであろう。

「エーリッヒ兄さんも実家を出る時に継承権の放棄を条件に準備金を貰っていましたよね? だから、これで終わりと考えているのでは?」

「いや、そんな理屈は通用しない」

 俺に考えに、ブランタークさんがすぐに反論する。

「貴族家の継承をしない結婚なら、わざわざ祝いなんて必要ないんだよ。だが、エーリッヒはブラント家の次期当主になるんだぞ。言わば、家を譲って貰うんだ。普通なら借金をしてでも祝儀は出す」

「その借金を、ブライヒレーダー辺境伯様が断ったとか?」

「それはねえよ。頼まれれば絶対に貸すさ。貸さないでバウマイスター家が祝儀を出さなかったら、お館様も恥をかくからな」

「なるほど」

 ブランタークさんの意見に多くの人が賛同していたが、今はそんな話をしている場合ではない。
 バウマイスター家の、おバカな行動を咎めている時間が惜しいのだ。
 とにかく、あのご祝儀置き場にエーリッヒ兄さんが恥をかかないくらいのお祝いを置かなければいけないのだ。

「エーリッヒさん自身が持参金を出すのは不可能ですよね」

「そんなお金はないね」

 通常、持参金は、実家が用意するか、本人が持参金をためて出すなら問題ないのだ。

「あの、俺が出します」

「・・・無理だな」

「え・・・無理なのか」

 ルークが俺が出すといったら無理だと言ってきた。

「ヴェルがバウマイスター騎士家に属していたら可能だが、籍が外れているからな」

「あ・・・そうよね」

 イーナも頷いていた。

「父親がヴェル宛に祝儀の立替を頼んでいたら可能だけどな。手紙あるのか」

「持ってないな」

 御家騒動を避けるためになるべく家族を避けたりしていたからな。

「どうかなされたので?」

 俺達が困っていた所をブラント家の当主が声をかけてきた。

「じつは・・・」

 エーリッヒ兄さんがすべてを説明した。

「それは困りましたね。向こうとはそれで話がついたと思っていたのですが」

「手紙を見ると今回の結婚式の対応を父上ではなく、クルト兄さんに任せているみたいですね」

「エーリッヒさんがヴェルに借りるのはダメなの?」

「・・・ブラント家がエーリッヒさんに持参金を支払うような物だからね」

「エーリッヒさん個人が持参金分まで貯めれるなら話は別だけどね」

「厳しいかな」

「せめてファブレ騎士家がブライヒレーダー辺境伯家に祝儀を頼んでいたら可能だったのですが、婚約を破棄するしかないでしょう」

 エーリッヒ兄さんとミリヤムさんの結婚は破棄され、代わりに俺の古代竜浄化と準男爵就任パーティに変更になったのだ。



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