様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「ブラントー閣下! この新聞記事をご覧になりましたか?」

「まだ見ていないが。それが何か?」

 突如、大型魔導飛行船をこちらに送り出し、挙句に領空侵犯を警告した警備艦に魔法を放ったヘルムート王国との交渉が上手くいっていない。

 事件の一週間前に政権交代をしたばかりで政府が混乱しており、この事件が混乱に拍車をかけた形となった。
 それでも官僚達の力を借りて民権党の連中もどうにか交渉を始めたようだが、話は何も進んでいなかった。
 歯痒いが、今の我々は野党で何ら権限もない。
 世論とマスコミの受けを狙って編成された交渉団が、こちらの予想どおり別の方向に張り切ってヘルムート王国を怒らせ、これに今の魔族社会の停滞を解消するためリンガイア大陸への侵攻を唱えるおかしな連中も呼応し、これでは纏まる交渉も纏まるはずがない。

 民権党はリベラルを売りにする政党のはずなのだが、所詮は寄合所帯。
 今、私の目の前にいるようなおかしな連中もいる。
 野党に転落したとはいえ、我々国権党も暇じゃないのだがな。
 民権党が思った以上に素人の集まりで危機感を抱いた官僚連中と話し合いをしたり、無駄とはわかっていても民権党に政策を提案したりしているのだから。

 まあ、民権党の連中は無駄にプライドだけは高いから、こちらの政策提案はほぼ無視されているが、一部まともな議員達は危機感を抱いているが、彼らは少数派で目立たない。

 我ら国権党にもアホな議員は存在し、今、そのアホから会ってほしいと言われた人物と話をしている。
 彼の名はオットー・ハインツといい、病的なまでに痩せ型でロマンスグレーの髪を七三に分けている。
 とても神経質そうに見え、目がギョロっとしており、常にあちこちを見渡していた。
 人と目を合わせるのが苦手なようで、これで政治団体のトップだというのだから凄い。
 差し出したヨレヨレの名刺には『世界征服同盟』と書かれており、この時点で私の心の中に警報が鳴り響いた。
 聞いた事もない政治団体なので泡沫組織であろうが、こんな命名をしてしまう時点でちょっと近寄りがたい連中なのは確実だ。
 彼は先に『世界征服同盟』とやらの政治理論を説明したが、この男、話し始めると急に饒舌になる。
 だからといって演説が上手というわけでもなく、ただ単に自分が語る内容に酔ってしまうタイプのようだ。
 世界征服同盟なので、彼はリンガイア大陸への進出を目論んでいる。
 人間を征服して搾取すれば、無職の若者も待遇のいい仕事が得られるという至極簡単な理屈だ。
 確かに良心の呵責に苛まれなければいい政策だ。
 その前に、それが可能な軍備を整えなければいけないがな。
 無職の若者は、みんな軍人にしないといけない。
 魔族も人口減少で人手不足だからな。
 それで、どの程度の大陸領土が確保できるのかは未知数だが。
 組織名に相応しい主張だが、所詮は泡沫組織の戯言だ。
 大体、わざわざ野党である国権党所属議員の私の下に来たのは、民権党が多数連合を組んでいるリベラル系の労働団体、市民団体、政治団体、人権団体にハブられたからであろう。

 あの連中は、いまだに未開な封建主義で国を治めるヘルムート王国とアーカート神聖帝国を打倒しろと言っているから、考えが合わないのは明白だ。

 えっ? 同じじゃないかって?

 我ら魔族による侵略は悪でも、解放のための手助けなら正義だと言葉遊びができるのが、民権党と組んでいる連中なのだ。
 国権党にも彼らと協力している者がいるがね。
 実は民権党にも、この世界征服同盟と同じ事を主張している団体も複数存在する。
 こいつらがどういう理由で除外されたのかは不明だが、あの手の組織は内部対立が華みたいな部分もある。
 大方、極右団体同士の抗争で敗れたのであろう。
 それとこの世界征服同盟なのだが、富裕層による富の独占についても批判しており、完全な極右組織というわけでもないようだ。

 むしろ大資本家を批判しているから、極左勢力か?

 どちらにしても、あまりお付き合いしたくない類の連中だ。
 それでも、大きな組織なら嫌々付き合わねばならない事もあるのが政治家だ。
 だが、こんな泡沫組織に気を使う必要はない。
 なぜなら、こいつらでは選挙で票を稼げないからな。

「遂に魔王が古の独裁政治復活に向けて動き出しましたぞ!」

「どこにそんな記事が書いてあるのだ?」

「ここに書いてあるじゃないですか! 閣下!」

 オットーは、エブリディジャーナルの一記事を指差した。
 一応、政治面に記事が書かれている。
 記述記者の名が署名してあるが私は知らない名だ。
 ベテラン政治家ともなると大物記者の名前は把握しているし、記事に手心を加えてもらうためにつき合いもあるからな。新人なのであろう。

 記事の内容は、失業したり、今の効率第一の生活に嫌気を差した若者達が、いくつかの廃村で農村の再生運動を行っているというものだ。

 廃村のインフラを自分達で修理しながら、自給自足の生活を送っている。
 余った作物はこの活動に賛同している人達が購入し、生活費に当てているようだ。
 ここで結婚し子供が産まれる夫婦もいて、今の課題は子供達をどうやって学校に通わせるべきか……か。
 悪い話ではないな。

 いいじゃないか。

 無職の若者達が、新しい生き方を模索する。
 生活が軌道に乗れば生活保護を出さないで済むし、若い集団なので結婚して子供が産まれる者達もいる。
 学校は、国権党が与党なら相談に乗ってもよかったのだがな。

「何か問題なのかな?」

「閣下! この団体の代表はかつての魔王ですぞ!」

「魔王ねぇ……」

 魔王とその一族が政権と国家財産を返納してから、一体何年経っていると思うのだ。
 今の魔王に力などないではないか。
 この団体の代表になったのも、お飾りとしてなら有効だと団体の幹部達が判断したからであろう。
 今の魔王は幼い少女のようだな。
 写真を見ると将来美人になるであろうと予想できる。
 いつの世も組織のトップが美人だといい広告塔になるようだ。
 もし彼らの活動が上手く行ったら、国権党から選挙に出馬してもらうのもいい。
 少なくとも目の前のこいつよりはマシな政治家になるはずだ。

「彼らは危険です!」

「別に武装しているわけでもあるまい?」

 危険って……。
 間違いなく、お前よりはマシであろう。

「農機具は、武器になります!」

 そりゃあなるが、そんな装備で厳しい魔法訓練をしている警備隊に勝てるはずがない。

 こいつは何を言っているのだ?

「反乱を起こす可能性もあります! 魔王とバウマイスター上級伯爵が接触しました!」

 そうらしいな。 
 記事にそう書かれている。

「『今日の収穫をヘルムート王国からの客人であるバウマイスター上級伯爵とファブレ伯爵と奥さん達が手伝い、収穫後に調理された芋料理をみんなで楽しんだ』収穫祭に遊びに行っただけでは?」

 バウマイスター上級伯爵達は、ヘルムート王国に男女平等、民主主義の受け入れ、狩猟と捕鯨の禁止など。
 お花畑のような無茶な要求を出してくる我が国の政府に対抗すべく、送り出されたものと思われる。
 バウマイスター上級伯爵自身も、この国の政治状況などをよく理解しているようだ。
 奥さんや子供達も引き連れ、どうにか融和ムードを作ろうと懸命に努力していた。
 いい手だったとは思うが、バウマイスター上級伯爵は我が国の国民達の大半が外の世界にまったく興味を持っていない点を読み違えたようだな。

 すぐに飽きられ、話題にも昇らなくなった。
 おかしな興味を持っているのは、目の前のこいつと一部賛同者くらいであろう。

「彼らの意図は見えております! 魔王と結託して、この国で王政復古のクーデターを起こそうとしているのです!」

「はあ?」

 いや、バウマイスター上級伯爵には警備隊の護衛兼監視役がいるんだぞ。
 そんな事を企んでも一瞬で見破られてしまう。
 警備隊の連中が何も言ってこないという事は、バウマイスター上級伯爵と魔王一行がただ純粋に交流をしているだけとしか見ていないのだ。
 警備隊にもミスがないとは言えないが、ただ騒いでいるお前達よりは優秀だ。
 少なくとも胡散臭いお前らよりは信じられる。

「貴殿は、想像力が豊かなようだな」

「想像ではありません! この国に危機が訪れているのです!」

 泡沫組織の特徴だな。
 荒唐無稽な事を言い始め、目立つ事で国民から支持を得ようとする。

 というか、この連中に活動資金を与えているのは誰だ?

 リンガイア大陸での商売を目論む資本家連中か?

 駄犬に無駄な餌を与えるのはやめてほしいな。

「その可能性もゼロとは言わないが、まずは貿易や交流が始まってからの話だし、大分未来の事だと思うが……」

 我が国の魔道具が大陸で販売されるようになれば、人間もそれを真似し始め、徐々に技術力が上がるかもしれず、人間が増えすぎて無人の土地に移民が送られるようになると領土の蚕食が問題になるかもしれない。
 非常に難しい問題だが、双方が接触してしまった以上は落としどころを探らないといけない。

 クソッ!

 こんな時に民権党が政権を取ってしまうとは!

 現実的な対応ができないではないか!

「閣下の状況認識は少し甘いですな」

 失礼な奴だな。
 私はお前とは違って、少なくとも政治家という仕事はしてきたぞ。

 お前のような自称政治団体トップの無職と一緒にするな!

「念のために警告しておくが、もし貴殿らが実力行使に出ようとしても無駄だからな」

 警備隊に阻止されて捕まるだけであろう。
 今の政府はアレだが、基本的に警備隊の連中はまともだからな。
 魔王やバウマイスター上級伯爵一行に実力行使を行おうとしても防がれて逮捕されてしまうはずだ。

 この目の前のバカは、外国から来ている公的な使者とその家族を排除しようとして、お咎めなしで済むと本気で思っているのであろうか?

「閣下……あなたには失望した。ここまで先を見通す目がないとは……」

 先を見通す目?

 それが、いまだにまともな仕事すらした事がないお前にあるというのか?

「彼らは危険なのです。私はその政治生命をかけて、彼らを排除しなければいけないのです!」

 目の前のバカは、一人で自分の決意に酔っていた。
 これは無駄な時間を使ってしまったようだ。
 こいつを紹介したアホな同僚議員は切る事にしよう。

「あなたは、この選択を必ず後悔する事になる!」

 アホは勝手に怒って出て行ってしまった。
 無駄な時間を使ってしまった。
 野党に転落しても政治家は忙しいのに。

「そうだ。警備隊に連絡しておくか。バウマイスター上級伯爵へと攻撃を目論むアホがいると」

 今まで魔族のみで生活していた社会に人間という異種族が現れ、我らの生活が大きく変化しようとしている。
 その混乱の中では、あのような輩が出現してもおかしくないのか。

「世界征服同盟……構成員は十数名? 少ないなぁ……」

 ちゃんと警備隊に通報はしたので、私はすぐに彼らの事を忘れてしまった。
 人間への対応で色々と忙しかったからだ。
 あのような泡沫組織など、いちいち覚えておく必要がなかったともいえる。

「交渉がまったく進まない状況はまずい。交易と双方の移動に関する条件だけでも先に条約を締結すればいいのに……クソッ! 民権党め!」

 それよりも今は両国の交渉についての話だ。
 私は無駄になる事が確実でも、民権党に提案する政策の取り纏めに再び没頭するのであった。



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