様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 そして翌朝、魔王と宰相による独立宣言の詳細が明らかになった。
 ルミがエブリデイジャーナルの朝刊を持参したのだ。

「出てたっす。この記事っす」

「どれどれ」

 その記事は生活面にあった。
 王政国家が独立する話なのに、なぜか記事が生活面。

 この違和感は何なのだ?

「ええと……『歴史あるゾヌターク王国の女王陛下、新生ゾヌターク王国の国王に就任』。肝心な記事の内容は……」

 記事を読んでいくと、こういう風に記されている。
 彼ら魔族の住まう島は、現在四分の一ほどの領域しか人が住んでいない。
 昔は四分の三ほどまで人が住んでいたが、徐々に人口が減って放棄された。
 無人となった土地は荒れ果て、自然に戻り、古い放棄地には魔物の領域に戻ってしまった場所もある。
 これら放棄地を、職がなかったり、待遇が悪い暗黒企業を抜け出した若者達が再生する活動が始まっている。
 彼らは基本的に自給自足の生活を送り、生活に必要なインフラ設備も、放棄されたものを修理、維持している。
 彼らの主な収入源は生産した農作物の販売益などであり、その平均収入は総じて低いが、自給自足生活のおかげで困窮はしていない。
 むしろ、精神的に豊かな生活を送っていると言えよう。

 この挑戦が上手く行くのか?

 注目していきたいところである。

「……」

 この記事を読むと俺には既視感しか感じられなかった。
 これって、地球の国々でもあった活動だよな。
 若者が、廃村や耕作放棄地を利用して生活を始めるってやつ。

 確か、農村再生運動とか、ロハスとか言ったかな?

「ルミ、お前知らなかったのか?」

「そりゃあ記者っすから、こういう活動があるのは知っているっすよ。でも、担当が生活部だから担当外っす」

「お前、役人みたいな事を言うな」

「バウマイスター上級伯爵さん、魔族の社会を理解しすぎっす!」

「これ、独立なのか? 俺にはただの農村復興運動に見えるけど……」

「さあ? 俺にはさっぱりわからん」

 ヴェルの問いにエルは首を傾げた。
 新聞の記事を前にみんなで悩んでいると、そこに再び魔王様と宰相が姿を見せた。

「今日は略装で失礼するぞ」

「陛下は、今日は学校でして」

 今日の魔王様は、普通のワンピース姿であった。

 そして、ランドセル……。

 魔族の国の子供は、学校にランドセルを背負って行くようだ。

「これが独立運動ですか?」

 イーナが、二人に新聞の記事を見せた。

「然り! 共和国の連中が放棄した土地に、職がなかったり、今の生活に不満がある連中を集めて集団を形成する。千里の道も一歩から! こうやって臣民を増やし、最終的には王国の独立を目指すのだ!」

 臣民というよりも組合員や団員と呼ぶ方が適切かもしれない。
 王国を名乗っているが、これもどちらかというと団体名や社名に近かった。

「陛下は、この活動を行う非営利団体の会長に就任しております。私は、副会長兼会計役に専念する事になったのです。陛下は休日以外は学校がある身、普段は私がこの団体を取り纏める予定です」

 放棄地の各所にある農村を取り纏める非営利団体ねぇ……。
 共和国政府が無価値だと思っている土地で、魔王様と宰相が無職の若者を集めて自立の道を模索している。
 生活保護でなくなる者が増え、わずかではあるが税金も納めていれば、それをわざわざ妨害するのは不利益しかないわけだ。
 第一、魔王様達が武装しているとも思えない。
 それは警備隊が何も言わないわけだ。
 そもそも、魔王様達と共和国政府は対立すらしていないのだから。

「だが、それが甘い。余の生存中は難しいであろうが、子や孫の世代には我らの組織は大きく拡大していよう。武力闘争に頼る事なく分離独立が可能なのだ」

「さすがは陛下。非常にクレバーな作戦です」

「何のライラの献策のおかげではないか」

 それは独立したというよりも、ただ単に組織が拡大しただけのような……。
 非営利団体側も、そのための神輿として魔王様を選んだのであろうし……。
 少女魔王様なら軽い神輿でお上に警戒感も与えない。
 それに庶民って、実は王様とか王女様が好きだからな。
 独裁でもされて迷惑を蒙らなければ、この幼い魔王様を微笑ましく見ているだけであろう。

「陛下、そろそろ学校のお時間です」

「もうそんな時間か。余も皆に愛される魔王となるべく、よく勉強して努力せねばなるまい」

 魔王様は、宰相の送迎で学校へと向かった。
 学校は休まないでちゃんと勉強しているようだ。

「ちゃんと勉強しても職に就けない俺達みたいなのもいるけどね」

「本当、現実は残酷」

「「「ヴィルマちゃん! 酷いよ!」」」

「この方達、実は何か問題があるのでは?」

「「「カタリーナさんも酷い!」」」

 モール、そんな夢も希望もない話は聞きたくないぞ。

「あなた、問題にならなくてよかったですね」

「そうだな」

 そして放課後の時間になると再び魔王様は姿を見せた。
 エリーゼが淹れるお茶を飲み、今日は別の高級洋菓子店で購入したケーキを食べながら宿題をしている。
 というかこの魔王様、なぜか俺達の部屋に通うようになってしまったな。
 赤ん坊達がいるから、勉強には向かないと思うんだけど。

「バウマイスター上級伯爵の赤ん坊は可愛いな。子は国の宝だからな。次は、分数の割り算か……」

 魔王様は、宿題である計算ドリルを解きながら眠っている赤ん坊達を時おり見ていた。

「余も大人になったらよき後継者を産まねばな。問題なのはお見合い相手がいるかだが……」

「恋愛結婚すればいいじゃないですか。政略結婚なんて今どき流行りませんよ」

「何を言うかと思えば……我ら高貴な身分の者達はお家やお国のために結婚するのだ。恋愛結婚も結構だが、お主ら3名は結婚すらしておらぬではないか」

「陛下、言う事がキッツいわぁーーー」

 モール達は魔王様から独り者である事を指摘され、揃って凹んでいた。

「確かに貴族や王族の結婚にはそれが一番求められると思います。ですが、素晴らしい旦那様と出会える可能性もありますから」

「エリーゼは、よき旦那と出会えたわけか?」

「私は、まだ結婚しておりませんので」

「・・・そうなのか?」

「はい」

「余にも白馬の王子様が現れる可能性があるわけだな。少しは期待しておくか。ところで、バウマイスター上級伯爵。この計算がわからん」

 魔王様は、学校の宿題である計算ドリルをヴェルに見せた。
 どうやら、魔王だから宿題をサボるという選択肢は存在しないようだ。

「分数の割り算か……」

 魔王様が授業中にやったと思われる問題には、すべて×がついていた。
 なぜなら、割り算なのに分数の分子と分母をひっくり返さないで計算していたからだ。
 これでは、分数の掛け算と変わりがない。

「二分の一÷三分の二は、四分の三だ」

「バウマイスター上級伯爵、なぜ分数の割り算は分子と分母をひっくり返してからかけるのだ?」

「それは、そっちにインテリが沢山いるからそっちに聞いてください」

 モール達は、実はこの国で五本の指に入る大学を院まで出ており、宰相のライラもいい大学を出ていた。
 俺に聞くよりも確実というわけだ。

「ヴェル、凄いね!」

 小学生の算数の問題が解けただけなのに、なぜかヴェルはルイーゼからえらく尊敬されていた。
 ちなみにリンガイア大陸やゾヌターク共和国で生活するには、文字の読み書き、簡単な四則計算ができれば十分なのだ。
 分数の割り算とかは、アカデミーに行かないと必要ないと思う。
 あそこは、エリーゼですら引くくらいの学者バカが集まっているそうだ。
 ちなみに俺はアカデミーには行った事はなかった。
 
「まあ、簡単な問題くらいはね……」

「俺は文系だから」

「俺も!」

「算数は意外と難しいんだよ。数学ならなぁ……」

 ところが、モール達はヴェルの期待に応えられなかった。
 分数の割り算くらいはできると思うが、なぜ計算する時に分子と分母をひっくり返すかの説明ができないのであろう。俺も説明できないけどね。

「お前ら、ここで役に立たないでどうするんだよ!」

「俺達の仕事は、この国に滞在するバウマイスター上級伯爵達の補佐であって、分数の割り算の理論を説明する事じゃないし……」

「そうそう」

「俺、文系」

 モール達も駄目なので、ここは宰相家の血を引く才女ライラさんに説明をお願いする事にした。

「分数の割り算ですか……」

「はい。なぜ分子と分母をひっくり返すかです」

「それは、学校の先生にお聞きになってください。かの者は、そのために存在しているのですから。陛下は、仕える家臣の特性を理解し、得意な分野で用いる事が肝要ですので。ところで陛下、明日からのご視察ですが……」

 誤魔化したぁーーー!

 ライラさん、自分もわからないものだから、話題を切り替えて魔王様からの質問に答えなかった。
 それにしても上手いかわし方である。

「視察か。楽しみだな」

「はい、どの村の住民達も陛下の来訪を心待ちにしております」

「うむ。余の臣民候補達じゃな」

 ただの農村再生運動の神輿にされているような気もしなくもないが、下手に革命だとか言わないだけマシか。
 そんな事をしても、まず防衛隊相手に勝ち目がないからな。
 ライラさんは、現実主義者というわけだ。

「バウマイスター上級伯爵、一緒に来ぬか?」

「そうだなぁ……」

 今の今まで、肝心の交渉はまったく進んでおらず、このゾヌターク共和国では俺達の事が話題になる回数が大幅に減った。
 何でも、有名な歌手が結婚するとかで、そちらの方が話題になっていたのだ。
 俺達は歌手よりも下かと思ったら、テラハレス諸島で交渉を続けている両国の交渉団の事などほとんど記事になっていない。
 ルミからのリークによると洒落にならないくらい交渉が進んでいないので、民権党の支持率下落に繋がると政府から新聞社にあまり報道するなと圧力がかかっているそうだ。

「おい、民主主義!」

「バウマイスター上級伯爵さんにそう言われると耳が痛いっす! 民権党には新聞記者上がりが多いんすよ。元上役から書くなと言われると厳しいんす。ほんのちょっと政治欄に記事が出ているのは、若手の可能な限りの反乱なんす!」

「すばらしい、民主主義だな」

「それ皮肉っすよね」

「リンガイア大陸の新聞と大差ないよな」

「間違ってないだけ言い返せないす」

 酷い話だが、そういう事情もあって俺達は暇であった。
 農村に遊びに行くのもいいであろう。

「問題は、防衛隊が認めてくれるかだな」

 これが唯一の懸念であったが、防衛隊はあっさりと認めてくれた。

「ああ、例の農村再生運動ですね。いいですよ。変な運動家がいない分、護衛も楽ですから」

「えっ? いないの?」

「ほら、この運動は魔王様がお飾りとはいえトップでしょう? 変な左側の運動家は近寄りませんよ」

 そういう運動家は、王様なんて大嫌いな人種が多いからな。
 魔王様がトップの時点で近寄らないか。
 許可も出たので、翌日から俺達はゾヌターク共和国内を色々と巡る事にするのであった。



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