様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「定時報告も異常なし。艦長、何もない海ばかりですな」

「そうだな、副長。だが古い記録によれば、西方には魔族の住まう国があるとか……」

「その情報、本当なのでしょうか?」

「わからない。だが、何もないという事はないのではないか?」

 穏やかな大海原を一隻の巨大魔導飛行船が航行している。
 艦名は『リンガイア』、我らが住む大陸の名前を冠した全長四百メートルにもなる巨大飛行船だ。
 現在この船は、王都から出発して西方海域の調査を行っている。
 リンガイアは大分昔に古代魔法文明時代の地下遺跡から発掘されたが、つい最近まで運用ができなかった。
 それは、動力源となる巨大魔晶石が確保できなかったからだ。
 他にも、この巨大な船体を支える装甲材なども不足していた。
 どうやら修理、整備途中だったようで、発掘時にはかなりの外部装甲が外されていたのだ。
 このままでは就役は不可能、そう思われていた時に奇跡が起こる。
 王都へと向かう魔導飛行船の航路上に半ば伝説扱いになっているアンデッド古代竜が出現、それを若干十二歳の少年たちが討伐し、回収された魔石からこの船の動力源となる巨大魔晶石が作られた。

 不足していた装甲材の材料もアンデッド古代竜の骨から十分な量が取れた。
 何とも都合のいい話に聞こえるが、私達はその少年たちがアンデッド古代竜を討つ現場に居合わせている。
 私と隣にいる副長は、ただ魔導飛行船で逃げ回っていただけだがね。

「あの時の少年たちが、今ではバウマイスター上級伯爵様とファブレ上級伯爵様ですか」

「あのアンデッド古代竜退治が終わりじゃなくて、始まりだったようだな」

 あの事件からバウマイスター上級伯爵様とファブレ上級伯爵様の大躍進が始まったわけだが、なぜか我々もその恩恵を受けているような。
 なぜなら、私コムゾ・フルガがリンガイアの艦長に、長年の相棒であるレオポルド・ベギムが副長に任命されていたからだ。
 魔導飛行船の船員は、元々空軍の軍人も兼ねている。
 あの事件で船を守った功績により、我々がリンガイアの船長と副長兼西方調査団の団長と副団長に任じられたのだ。

「逃げ回っていただけで、この巨大魔導飛行船の船長と副長ですからね。我々は」

 破壊されれば、現時点で建造が不可能な魔導飛行船を守った。
 功績といえば功績だが、それもバウマイスター上級伯爵様やファブレ上級伯爵様やブランターク様がいての事だからな。
 運の要素が大きいが、一応功績ではある。
 我々がリンガイアの船長と副長に任じられた時、他の艦長連中は羨ましがっていた。

 『運がいいだけじゃないか!』と言う奴もいたが、実際にその通りで反論のしようもない。

 他の艦長でもブランターク様の『魔法障壁』があったから無傷で逃げ回れただろう。
 本当にただ運がよかっただけさ、我々は。

「プラッテ伯爵家の御曹司が五月蝿かったですね」

「我々に言われてもな。人事担当に言えよって思うよな」

 空軍にも代々空軍軍人を生業とする貴族家が多い。
 ただ、空軍ってのは実力本位な世界だ。
 ヘボが貴重な魔導飛行船を運用して墜落でもさせると問題なので、平民でも実力があれば出世できる。
 我々がその最たる例だ。

「あの御曹司、我々がバウマイスター上級伯爵様やファブレ上級伯爵様の推薦でこの役職に就けたと思っているようですよ」

「被害妄想の類だな、それは」

 アンデッド古代竜を倒したバウマイスター上級伯爵様達が港に降りてから、我々は一度も顔を合せていないというのに。
 それにいくら空軍でも、現場は平民でも出世できるが、地上の管理職はお貴族様のほぼ独占となっている。
 船を任せられないお貴族様達は、そこで席を温めるというわけだ。
 書類を書き損じても魔導飛行船は落ちないからだ。
 つまり、我々をこの船の艦長と副長に任じたのは、バカな同朋が信用できない他のお貴族様というわけだ。
 見当違いも甚だしい。
 お貴族様という言い方は、空軍で我ら平民出身者達がよく使う暗語だ。
 空軍に所属している、鼻についたり、役に立たないお客様な貴族の事を差す。

「第一、バウマイスター上級伯爵様やファブレ上級伯爵様は空軍閥でもないのだから口を出せないだろう」

「領地開発利権の絡みで、口を出せると思っているようですよ」

 確かに、それはあるかもしれない。
 バウマイスター上級伯爵様やファブレ上級伯爵様の領地は、現在急速な勢いで発展している。

「アンデッド古代竜退治の後もパルケニア草原地下遺跡での戦果もあるじゃないですか」

「それもあったな」

 運用可能な魔導飛行船がほぼ倍に増えたし、地下遺跡は現在では空軍の本拠地兼大型魔導飛行船の改装工房になっているからな。
 空軍のポストは倍以上に増えて、魔導飛行船の運行ルートを増やして訓練も順調、輸送網の強化によって王国経済は上向いてる。

「空軍のお偉いさん達、バウマイスター上級伯爵様やファブレ上級伯爵様に頭が上がらないのと違うか?」

「でしょうね。それに、あの方々はあまり空軍の事に口も出さないようで」

「そうなのか?」

 副長、よく調べてきたな。
 そんな情報。

「『バウマイスター上級伯爵領への定期便をできる限り増やして』としか言わないそうです。人事に口なんて出しませんし。『俺は空軍の事なんて知らないから、プロであるそちらに任せる』だそうで」

「空軍の司令官、涙流して喜んだだろうな」

 世の中には、碌に勉強もしていない癖に知ったかぶりして口を出す身分の高い人がいるからな。
 あれは、本当に対応に困るのだ。
 しかし、バウマイスター上級伯爵様やファブレ上級伯爵様はお若いのに弁えているというか。
 アホな陳情を垂れ流す貴族連中は、あの人たちの爪の垢でも煎じて飲めばいい。

「何よりも大切なのは、重要な天下り先になるそうで……」

「天下り先?」

「ええ、バウマイスター上級伯爵領やファブレ上級伯爵領って未開地だったじゃないですか。未発見の遺跡が沢山あって、たまに出るらしいですよ」

 たまに中・小型の魔導飛行船が出土しているそうだ。

「一定数は王国政府というか空軍が買い取りですけど、認められた隻数は領内で運用可能でしょう?」

 大物貴族なら領内で運用している家も多いし、数名の小貴族が共同出資で運用しているケースも多い。
 この場合、船を動かす人材は元空軍の軍人を用いるケースが多い。
 各貴族家でも独自に教育もしているが、船乗りを育てるには時間とお金がかかるからな。
 経験者を雇ってしまった方が安くつく事が多いというわけだ。
 後進の教育もしてくれる。

「バウマイスター上級伯爵領でも王国政府から認められた隻数の小型魔導飛行船の運用を始める計画だとか」

 となるとゼロからの運用スタートか。
 最初は天下りの人材で人を揃えるしかないな。
 独自に船を動かす家臣家の創設もあって……余っている子供を送り出したい貴族は多いだろうな。

「空軍のお偉いさん達、ますますバウマイスター上級伯爵様に頭があがらないな」

「でしょうね」

「ファブレ上級伯爵様の方はどうなんだ?」

「あの方は小型・中型の魔導飛行船は、王家に売り払っていますよ。それに現在、ファブレ上級伯爵領で運用なされている中型魔導飛行船は50隻になりますね」

「よく知っているな」

「ええ・・・私の知人が船長に就任なさっていますからね」

「そこからの情報か。しかしよく王家がファブレ上級伯爵領の魔導飛行船の大量運用を認めたな」

「あの方、魔導飛行船製造出来ますからね」

「なに、そうなのか」

「ええ」

「その情報も知人から聞いたのか」

「ええ・・・空軍の人間にとって非常に重要な保護対象になりますね。それとアームストロング軍務卿やエドガー侯爵様が推薦した空軍の人間が送られているそうです」

「お二方とも軍務の人間ではないか」

「ファブレ上級伯爵様が知っておられる方々がたまたまそのお二方だという噂ですね。そのお二方も派閥が違うのでヴァイツ侯爵と相談してお二方あるいはヴァイツ侯爵に縁のある実力のある空軍の人間を送り込んでいるみたいですよ」

「そうか・・・俺は御三方と縁がある人間ではないからなんともいえぬよ」

「私も御三方と縁がありませんね」

「あれ? なら、どうしてプラッテ伯爵家の御曹司はご機嫌斜めなんだ?」

「それは、今の空軍司令がヴァイツ侯爵だからではないかと」

 空軍のトップである司令官職は、幾つかの侯爵家と伯爵家の持ち回りとなっている。
 数年で交替するのだが、たまたまヴァイツ侯爵が司令の時に美味しい話ばかりが舞い込んだ。
 プラッテ伯爵家からすれば、面白くないわけか。

「貴族ってのは本当に面倒だな。私は平民でよかったよ」

「ですよねぇ。心からそう思います」

 空軍で艦長と副長になれる人間は、下手な下級貴族よりも実入りがいいからな。
 勿論、総収入では負けるが、貴族じゃないから面倒な付き合いもないし、天下り先にも事欠かない。
 大型魔導飛行船の艦長は、五十になれば肩を叩かれる仕事だ。
 それだけ心身ともに激務だから仕方がないのだが、天下り先で小型魔導飛行船の艦長ならもう十年から十五年はやれる。
 船を降りても後進の指導ができるから、天下り先で若い連中に教えながら第二の人生をすごすのも悪くないというわけだ。
 特殊技術職だから、給料もいい。

「私も退役したら、バウマイスター上級伯爵家やファブレ上級伯爵家に厄介になろうかな?」

「それはいいですね」

 副長と随分長く話し込んでしまったが、今は何もないから問題はない。
 艦長という職は、基本的には二十四時間常に対応可能なようにしていないと駄目だからな。
 ずっと気張っていたら、神経がおかしくなってしまう。

「艦長、前方に大きな島が見えます」

「遂に来たな!」

 私と副長は話を止めて、首に下げた双眼鏡で前方を確認する。
 見張り員の報告通りに次第に海岸線が見えてきた。

「大きな島……、亜大陸くらいあるかもしれないな」

 昔の文献も案外あてになるものだな。
 記述どおりに島が見えてきたのだから。

「艦長! 前方から飛行物体が接近!」

「やはり人はいたのか……」

「魔族の国だと文献にはありました」

「少なくとも我々と同じレベルの技術力が……いや残念ながら負けだな……」

 こちらに向かってくる魔導飛行船だと思われる飛行物体は、全長五十メートルほどしかない。
 それでも二隻あり、我々の魔導飛行船とは形状が違う。
 表面はほぼ流線型で構成されていて、まるで卵のようだ。
 速度も確実にリンガイアの倍以上は出ているだろう。
 それと見た事もないような金属で表面が覆われている。

 念のために乗組員達に警戒命令を出す。
 魔法使いもいて、もしもの時には彼に魔法を撃たせる予定になっているのだが、あの硬そうな表面装甲には効きそうになかった。

「バウマイスター上級伯爵様やファブレ上級伯爵様がいれば、貫通するかな?」

「かもしれませんが、まだ戦闘になると決まったわけでは……」

「当たり前だ」

 私が話をしているのは、あくまでも仮定の話だ。
 まずは、向こうと連絡を取って交渉をするのが先であろう。

「その前に、あのバカが暴走しないようにしませんと」

「そうだな……」

 あのバカとは、プラッテ伯爵家の御曹司の事である。
 能力はそれほど低くないのだが、如何せん能力以上に自分を高く見せようとする部分があって扱いにくい。
 それでも貴族家の御曹司なので、二十代半ばで副長の地位にあった。
 これだけの巨大船なので、運用上副長は二名存在している。
 二人が同じ階位だと万が一私が指揮不能になると混乱するので、長年の相棒であるベキムの方をナンバー2格にして艦橋に詰めさせている。

 それもプラッテ伯爵家の御曹司からすれば気に入らないのであろう。
 不機嫌さを隠しもしないで船内で任務をこなし、他の乗組員達を困らせていた。

「先制攻撃でもされると困るからな」

「いくらなんでも艦長の命令に背いて勝手に攻撃するとは……一応気をつけておきます」

 副長が人を走らせると、さすがに命令違反を起こそうとは思わなかったようだ。
 ただ、俺は貴族なのだから俺に交渉させろと喚いていると報告が入ってきた。

「船長、頭が痛いですね」

「ああ……」

 だから、こういう時に備えて貴族を乗せておくべきだったんだ。
 伯爵でも乗せておけば、その人に交渉を任せられたのに。
 みんな、誰も知らない大地の探索なので尻込みしたのであろう。
 ならば、平民でも職責から見て私にその権利があるのだが、貴族であるプラッテ伯爵家の御曹司からすればそれが気に入らないというわけだ。

 あいつをトップに?

 冗談じゃない。
 あいつは外務閥の貴族ではなく空軍軍人だ。
 交渉権限を与えると、あいつを船長にしなければならず、それではリンガイアが遭難、墜落する確率が上がってしまう。
 これは、大きな運用上の欠点だな。
 もし無事に戻れたら、上に報告をあげておこう。

「船長、御曹司がうるさいのですが……」

「今は忙しい! 放置しておけ!」

 新しく見つかった魔族の国と彼らとのファーストコンタクト。
 私にはわかる。
 プラッテ伯爵家の御曹司は貴族である自分がトップとなって対応し、その功績で名をあげて出世を果たしたいわけだ。
 上長に平民である私と副長がいるが、これは船の統率ではなく外交交渉なのだから、貴族である自分が前に出ると思っているのか。
 一応、私がその権限を与えられているのだがな。

 なぜ無視しようとするのだろうか?

 直接私に言いに来ないのは、それでも階級と職責は私の方が上だとわかっているからであろうか。

「私に文句を言われてもな。貴族の船長もいるのだから、そいつに任せればこういう問題にはならなかったのに」

「世の中は、侭なりませんね」

「そうだな」

 このまま愚痴っていても、何も始まらない。
 まずは、対話のチャンネルを開くべきだ。
 と思ったら、リンガイアと対峙する魔族の魔導飛行船から声が聞こえる。

「こちらは、ゾヌターク共和国軍保安庁一等警備艦『アモル』艦長ロルイヌ・ケイオス二等佐です。貴殿の船は、共和国の領空を犯しています。これ以上の侵入は拿捕と撃墜の対象となりますので、速やかなる退去を願います」

「えらく丁寧な警告ですね」

「文明国なのだろうな」

 しまったな、少し奥に入りすぎたか。
 だが、領空の設定がかなり広いようだな。
 あの魔導飛行船のスピードから見て、領空を広めに設定しないとあっという間に侵入されると思っているのかもしれない。
 実際、我らの魔導飛行船はそこまで速くないが。

「こちらは、ヘルムート王国空軍リンガイア艦長兼西方調査団団長のコムゾ・フルガです。我々は東のリンガイア大陸から来ました。情報の交換と来たるべき外交交渉に備え、予備交渉を望んでいます」

 こちらも魔道具である拡声器で返答をする。
 王国政府の方針は、もし魔族の国が見つかったら交易などの促進と相互不可侵同盟の締結にあった。
 どういうルートか知らないが、王国政府はどういうわけか魔族の国の情報を持っているように感じる。
 だからこその条約交渉なのであろう。
 相変わらず、一部の貴族達は魔族の国への侵攻を提案する者もいたが、魔族は全員が魔法使いで、ご覧の通りに魔法技術でも上回っているようだ。

 戦っても勝てないのは、誰の目から見ても明らかだ。
 第一、帝国内乱の時でも統治効率が落ちると帝国に侵攻しなかったのに、こんな遠方の亜大陸をどうやって維持するというのだ。
 戦費の問題もあるし、距離が遠すぎて大軍を送るのにとてつもない手間がかかる。
 現在、王国領内で運用している大型魔導飛行船をすべて徴用しても間に合わない。
 もし苦労して大軍を送り出しても補給が難しいのは子供にでもわかった。
 向こうの食料事情もわからずに現地調達でもさせる気か。
 戦況が悪くてなっても撤退すらできない。
 貴族ってのは、名前を売りたい目立ちたがり屋ばかりいて困ってしまうな。
 先の事など碌に考えもしないで無茶を言うのだから。

「幸いにして、話し合いはできそうだな」

「お貴族様よりも理性的みたいですね」

 などと安堵した瞬間、突然ゾヌターク共和国軍の魔導飛行船から火の手があがった。

 私は、攻撃命令など出していないぞ!

「どういう事だ?」

「船長、あのバカ御曹司が!」

 火の手は、魔法使いが『ファイヤーボール』を放ったせいらしい。
 一瞬だけゾヌターク共和国軍の魔導飛行船の心配をするが、向こうの装甲が固いのと、こちらの『ファイヤーボール』の威力が低すぎて、まったくダメージを与えていなかった。

「よかったですね」

「よくない! ラーセンは何をやっているんだ!」

 ラーセンとは、リンガイアに詰めている魔法使い達を束ねている人物の名だ。
 自身も中級の魔法使いである。
 長年空軍に所属している癖に、あのバカ御曹司の命令など受け入れおって。

「いえ、ラーセンではないでしょう」

「臨時雇いの魔法使いか!」

 未知の領域への探索なので、空軍は自前の魔法使いを出し渋った。
 高額の報酬で冒険者である魔法使いを増やしたのだが、こいつがバカ御曹司の命令に従って『ファイヤーボール』を放ったらしい。

「冒険者なのが仇になったか!」

 空軍の者ならば、いくらバカ御曹司が攻撃命令を下してもまずは私に伺いを立てる。
 ところが、普段組織にいない冒険者ほど貴族に対して卑屈だったりする。
 命令系統に疑問を持たないで、攻撃してしまったのであろう。

「とにかく、あのバカを抑えろ! 向こうにも事情を説明して……」

 最後まで命令を言い終わる前に船体が大きく揺れた。

「攻撃……じゃないな……」

「接舷されました!」

「防戦準備!」

 結局、なし崩し的に戦闘になってしまった。
 願わくば、このまま両国が戦争にならない事を祈るのみである。
 これでも、私は愛国者なのだから。



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