様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 4月初頭。
 ブランタークさんと共に『瞬間移動』で王都に向かう事にする。
 講師など初体験だ。
 屋敷の庭まで、ハクカ達が見送りに来てくれた。

『妊婦に『瞬間移動』は駄目』

 昔からそういう事になっているそうだ。
 理由は、流産と赤ん坊の奇形が増えるかららしい。
 『瞬間移動』とは、地味に怖い魔法である。
 というわけで、スズネ、ハクカ、セイ、ヴィルマ、アスナは見送りだ。

「ルーク、行ってらっしゃい」

「ああ」

「頑張ってくださいね、先生」

「・・・ぁぁ・・・・・・・」

 コハクの声を聞いてから、俺は案内役のブランタークさんと護衛役のカルラと共に王都へと飛んだ。
 数回しか行った事がなかったが、場所は覚えていたので冒険者予備校の裏庭へと『瞬間移動』で飛ぶ。前方にヴェルを発見した。

「ヴェル」

「ルーク・・・お前もなのか」

 どうやら、ヴェルも臨時講師のようだ。
 時刻は朝なので、外から見える教室の中では多くの冒険者見習いの少年少女たちが講義を受ける準備をしていた。

「みんな、初々しいな」

 実は、俺達よりも年上の人は意外と多いけど。
 三十歳を過ぎても新しく始める商売の資金稼ぎなどで冒険者を目指す人もいるからだ。
 それでも半数以上は未成年であった。

「上級伯爵様たちと、そんなに年齢も変わらないじゃないか」

「いや、十代の数歳差は大きいのです」

 王都の冒険者予備校も他の地域の予備校と大差はない。
 入学希望者が多く、王国から直接資金援助を受けているので、ブライヒブルクの予備校よりも敷地と建物が広大で講師や職員が多いくらいだ。

 入学は十二歳からで、成績優秀者には学費の免除がある、十五歳にならないと魔物の領域には入れないので近場の森などで狩りを行う。
 ブライヒブルクとまるで同じであった。

「校長に挨拶に行こうぜ」

 ブランタークさんの案内で、俺達は校長室へと向かう。
 校内を歩いていると、すれ違う生徒達が騒ぎ始めた。

「ブランタークさん、有名人ですね」

「俺も有名ではあるよ。だが、それ以上に上級伯爵様たちだろうが」

「皆さん、ルーク様やヴェンデリン様を見て驚いていますね」

「そうなんだ。俺の顔なんて知っているんだな」

 校長室に入ると数年前と同じ校長が出迎えてくれた。
 六十歳くらいでロマンスグレーが格好いい、片腕が義手の男性だ。

「ヘリック殿、連れてきたぞ」

「すまんな、ブランターク」

 彼の名はヘリック・クレーメンス・ハインケスで、元は高名な冒険者である。
 片腕が義手なのは、若い頃、魔物に腕を食い千切られたからだそうだ。
 彼が凄いのは、そこで引退しないで義手で冒険者を続け、腕を食い千切られる前よりも活躍した点にあろう。

 『義手のヘリック』は、冒険者列伝にも載っている有名人であった。

 引退後に、その知名度を買われて冒険者予備校の校長に就任している。
 ブランタークさんは駆け出しの頃に彼に世話になっていて、だから臨時講師の依頼を俺たちに持ってきたのであろう。

「実は、ヨハネスの爺さんが引退してしまってな」

 ヨハネスの爺さんとは、この予備校で魔法の講義を担当していた正規講師であるが、年齢は九十歳を超えている。
 いかに王都の予備校でも、魔法を教えられる人材を確保するのは難しいので、教えられる限りは引退しない魔法使いは多かった。
 本人が辞めたくても予備校側が引き留めるケースが多いのだ。

「遂にボケて、魔法を忘れ始めてな。講義に支障が出るからと孫が来て退職届を置いていった」

「そこまでいくと、さすがに引き留められないか」

 そんな老人でも正規講師が消えてしまったので予備校側は困った事態に陥ったようだ。

「講義が可能な老魔法使いの大半は、他の儲かる仕事を受けるからな。ヨハネスの爺さんは貴重だったんだよ」

 次の正規講師を探し続けてはいるが、時間がかかる。 
 そこで、王宮から臨時講師扱いで魔法使いを派遣して貰ったりして凌いでいるようだ。

「だから一か月でも……一週間でも助かるから」

「奥さん達が妊娠して冒険者稼業もお休みですから、開発の合間になら」

「俺も似たようなものだ」

「ありがとう。バウマイスター上級伯爵殿、ファブレ上級伯爵殿」

 というわけで、週に2回ほど臨時講師を引き受ける事になった。
 まあ、こういう経験も何か人生の役に立つはずだ。

「ところで、王宮には暇そうな人がいるではないですか」

 誰とは言わないが、最近講演で忙しい人である。

「導師殿か? 彼は駄目だろう」

「なぜです?」

「将来がある魔法使い達を壊すわけにはいかないからな。私も訓練は厳しい方がいいとは思うが、何事にも限度があると思う」

「あの……ここに2名、直接導師から二年半も訓練を受けた人間がいますが……」

「それは、バウマイスター上級伯爵殿とファブレ上級伯爵殿が強いから何とかなったんだ」

 元凄腕の冒険者にまで、導師と同人種だと認定されてしまった俺たち。
 表面上は笑って誤魔化したが、内心では物悲しさを感じてしまうのであった。
 初授業は、俺とヴェルの合同になった。
 時間短縮のためである。

「ルーク様、緊張していますか?」

「思えば、こういう経験ってないからな」

 校長への挨拶を終えると早速魔法使いが集められている教室へと向かう。
 ブランタークさんは顔合わせを終えると王都に用事があるとかで俺達と別れた。
 教室に入ろうとしたのだが、俺に教師の経験など無いわけで、急に胃を締め付けられるような緊張感に襲われた。
 一方のカルラは、平然としているようだ。

「ええいっ! 別に取って食われるわけじゃないんだ!」

「まあ、そうだな」

 覚悟を決めて教室に入る。
 中には、十二歳から十五歳くらいの少年少女が四十名ほどいた。
 さすがは王都、魔法使いの数が多い。
 未成年ばかりなのは、魔法使いは成人直後、即戦力としてに使えるように早目に訓練に送り出されるからだ。

「みなさん、初めまして。臨時講師のヴェンデリン・フォン・バウマイスターです」

「同じく、臨時講師のルーク・フォン・ファブレです」

 少し声が上ずったような気がするが、何とか挨拶はできた。

「ミリィ・フォン・バウマイスターです」

「お手伝いのカルラといいます」

「ええと……」

 ヴェルが口を開くと生徒達の視線が一斉にヴェルに集中する。

「(ルーク、こういう時って何をすればいいんだ?)」

「(質問でもしたらどうだ)」

 結局その日は、俺とヴェルは次々と手を挙げる生徒達に質問に答えて終了した。
 質問の中身も今までの骨竜退治や地下迷宮攻略、内乱時などの質問ばかりであり、まったく魔法の修練にはならなかった。



「次からの講義はどうしますか?」

「そこは師匠からの教えを参考に臨機応変に行くよ」

 講師としての仕事は週に2回の約束なので、それから明後日。
 俺とカルラは、再び教室へと向かった。
 さすがに俺の話ばかりしていられないので、自分なりに講義を行う事にする。 
 だがその前に以前に講師をしていたヨハネスさんの講義内容を聞いてみた。

「ヨハネス先生って、どんな講義をしていたんだ?」

 生徒達に質問をすると、みんなで見合ってから黙り込んでしまった。

「えっ? 秘伝の魔法とか理論を教えてくれたのか?」

 だから、他人には教えられないとか? 

「いえ、違います。先生」

「先生? ああ、俺か。ええと……君は?」

「はい、アグネス・フュルストと言います」

 ざわめく生徒達の中から、一人の少女が手をあげた。
 身長百五十五センチほどで、ライトブラウンの髪を内巻きにしている眼鏡をかけた美少女である。
 ぱっと見た感じ、学級委員長キャラに見える娘だ。

「(眼鏡っ娘だ!)」

 眼鏡をかけても美少女なので、外すともっと美少女かもしれないなどと俺はくだらない事を考えてしまう。

「ヨハネス先生なんですけど……」

 一年ほど前から彼のボケは始まっていたらしい。

「何度も同じ事を言ったり、魔法を教えていたのに途中で話が昔の冒険譚になったりで、みんなほぼ独学で魔法を……」

 元から魔法は独学でやるものだが、せっかく高名な講師がいるのだから新魔法や鍛錬のコツくらいは聞いて参考にしたい。
 その希望を打ち砕くボケ講師なのに講義をサボるわけにはいかない。 
 ここで単位を取らなければ卒業できないのだから。

「全講義数の三分の二は出ないと駄目なので……」

 本当は、生徒数は六十人近いらしい。
 ただ、みんな出席日数はギリギリで構わないと思っているので、常に三分の二くらいの生徒しか出席していないそうだ。

「なるほど」

 ならば、昨晩考えた通りに最初は基礎からで構わないか。
 そう考えた俺は、早速自分なりの講義を始める事にする。

「まずは、基礎中の基礎、毎日の瞑想について」

 これは、世間に大量配布されている本に書かれている内容だ。
 毎日、魔力の流れをイメージしながら、魔力路と魔力袋を広げる。
 これによって、魔力量と魔法の威力が上がるから毎日行う必要があった。

「確実に毎日してる人は?」

「半分ですか……」

「毎日しないと駄目だよ」

「ですが先生、俺は魔力の上昇がもう止まっているのです」

 一人の男子生徒が反論してくる。
 魔力は初級レベル、このクラスでは低い方であった。
 ちなみに、このクラスで一番魔力量が多いのは委員長キャラのアグネスであった。
 あくまでも、今のところはという条件がつく。

「それでも魔力路は広げられるから」

「魔力路をですか? 俺の魔力では魔法の威力もたかがしれていますし」

「魔力路が狭いと使用魔力量と魔法威力のコントロールが甘くなるよ」

「えっ? そうなんですか?」

 その男子生徒は、その話を初めて聞いて驚いたようだ。

「大量の魔力を使って魔法を使う時でも、少量の魔力を使って魔法を使う時でも、魔力を流す魔力路は広い方が有利です。特に前者は魔法の発動時間に影響します」

 魔力路が狭いと必要な魔力が流れ終わるまでの時間が長くなるからだ。

「それは、わずかな差なのでは?」

 別の男子生徒が、俺に質問をする。

「わずかだけど、実戦だと致命的だよ。相手に先に魔法を撃たれたら終わりだし、発動する前に魔物に突進されたら死ぬだろうね」

「……」

 俺の返答に、その生徒のみならず全員が黙り込んでしまう。
 そう、コンマ一秒も差はないであろうが、それが致命傷になるケースが多いのだ。

「先生っ!」

「何ですか?」

「その瞑想なんですけど……」

 もう一人、下限年齢ギリギリであろう黒髪をオカッパ頭にした美少女が質問をしてくる。

「魔力を流して魔力路を広げるイメージって本には書いてあるのですが、そのイメージの具体例がよくわからなくて……」

 イメージだけしか書いていないので、具体的にどうイメージするのかわからない。
 だから適当に座って瞑想しているだけで終わってしまうと、その少女は言う。
 他にも同じような悩みを持っている生徒は複数いた。

「(それも仕方ないか……)」

 俺が魔力路を広げるイメージに利用したのは、日本で見たテレビ番組などである。
 学校で見させられる教育テレビなどでは血管に血が流れる映像とかがあって、それと似たイメージを脳裏に浮かべればよかった。
 ところが、この世界では人体の仕組みなど医者や教会経由でないと学べない。
 それも本が主流で、資料映像など存在しないのだ。

「それを予想して、こんな物を準備しました」

 別段大した物でもなく、王都の店でも売っている猪の腸を横に吊るす。
 これは、詰め物に使うので安く購入できるものだ。
 横に吊るした腸には傾斜がついていて、俺は高い位置に吊るした右側の入り口から魔法で水を出して腸の中に流していく。
 水量を増やすと腸は膨らんでいき、流れ終わった水は低い位置にある左側の出口から下に落ちる。
 落ちた水は、助手のカルラがタライを準備していて、そこに落ちて溜まった。

「水を魔力で、この猪の腸が魔力路という考え方です。大量の魔力で腸を常に膨らますイメージを浮かべる」

 俺は水量を強くして、水が流れる腸を膨らませる。
 破れてしまうと駄目なので、そこは慎重に水量を微調整していく。

「自分の魔力路がこのように広がるイメージを一日一回は瞑想しながら行うといいでしょう。次に……」

 魔力袋であるが、これはもっと簡単だ。
 猪の膀胱も腸詰の材料として安く売られている。
 これに水を限界まで入れて膨らませた。

「先生、魔力路と魔力袋とはこういう形なのですか?」

「あくまでも想像の範囲ですけど、先生はこれで毎日訓練しています。魔力を大量に流して膨らむというイメージですと、これが先生には最適なのです。勿論イメージなので、自分なりのイメージを考えて実行しても構いません。それで効果があれば、その人には最適な方法なのです」

「なるほど……」

 生徒達は、俺の解説を聞き懸命にメモを取っていた。

「先生ほどの魔力を持っていても、まだ基礎訓練をしているのですか?」

「先生の場合は、まだ魔力が増えていますから」

 まだ二十歳前なので不思議ではない。
 だが、俺の魔力量は既に大陸随一、勝てるのは魔族やヴェルや導師やハクカやスズネやアスナくらいなのでみんな目を丸くして俺を見つめていた。

「魔力量が上がらなくなっても魔力路を広げるイメージ訓練はした方がいいです。広げておけば、魔法の手早さや威力の調整などで有利になりますから」

 魔法を使うために魔力を使う時に魔力路が広ければ素早く魔力が流れるというわけだ。

「精度などにも影響が出るので、これは毎日する事をお勧めします」

 他にも師匠から教わったり、俺が独自に考えて行っている基礎訓練などを生徒達に伝えていく。
 一回目は自己紹介で、二回目は基礎の基礎。
 妥当な講義内容であろう。

「ファブレ上級伯爵殿、私も講義を見ていましたが感心したぞ」

 講義を終えて校長室に向かうと俺とカルラはヘリック校長からお褒めの言葉を頂いていた。

「基礎の基礎ですよ?」

「そうなんだが、意外と教えてくれる人がいないんだ」

 ヨハネスの爺さんは、今のクラスを編成した時からボケが始まっていた。
 本当ならば教えているはずなのだが、それが不明確であったそうだ。

「名のある魔法使いに臨時講師を頼むと、これも当たり外れが多くてな」

 講義を受けている魔法使いの大半は、初級から中級レベルの魔力しか有していない。
 それでも貴重なのだが、臨時講師で来るような魔法使いは確実に中級の上以上の魔力を持っている。
 彼らは有能ではあるが、天才で唯我独尊な部分もある。
 自分の派手な魔法を披露して、『これを参考にしな!』で終わる人も珍しくないそうだ。

「参考になりませんね」

「そうなんだ、カルラ殿。派手な火炎魔法とか、竜巻の魔法とか、クラスの半分以上は使えないから」

 というわけで、魔法使いはますます自己研鑽か、師弟制度に偏る事になる。
 ところが、師弟匠制度には臨時講師と同じような罠も存在していた。
 弟子が、必ず師匠の真似を出来るわけでもないのだ。

「俺は魔法使いじゃないけど、たまにここの魔法使いは本当に全ての実力を発揮できているのかと不安になってしまう」

 ちゃんと形式立った訓練を受ければ、もっと使える魔法使いになるのではないかと思ってしまうそうだ。

「ええと、お引き受けした時期までは努力して教えますので」

「ありがたい!」

 というわけで、俺はヘリック校長に気に入られたようであった。

「体系的な魔法の指導……確かに師匠次第、自分の実力次第な部分が大きいですね」

 家に戻り、夕食を取りながらセイさんにその話を振ると彼女はそれを否定しなかった。

「治癒魔法の才能があれば、教会が指導してくれるみたいだよ……」

 ハクカがそういった。
 魔法使いは数が少ないので忙しい。
 指導に時間をかけるくらいなら、自分で働いた方が儲かる。
 魔法くらい、自分で何とかなるだろうと。
 それでも一応有名になった事だし、社会貢献の意味も込めて二〜三人は弟子を取るか。
 こんな感覚なようだ。

「それも面倒な方は、予備校の臨時講師などでお茶を濁しますね。それすらしない変わり者の方も多いですし」

 それでも、お上や各種ギルドは何も言わない。
 相手は実力も実利もある魔法使いなので、下手に怒らせてヘソを曲げられると困るからだ。

「なぜ予備校の魔法使い講師陣が貧弱なのかよくわかる話ではあるか」



 翌日。
 予備校で講義を行い、ヴェルに講義の内容を教えておいた。

「助かるが、基本がなっていなかったのか」

「そのようだ。魔法使いは基本的に独学だからな。2日目は瞑想と生徒がどの程度の魔法を使えるのか教えてもらったな。これがその情報だ」

 翌日。
 3日ほど魔道具開発に勤しむことになった。
 遺跡は、アリオストに丸投げしておいた。
 今は、アリオストが遺跡についての考察を進めている段階だ。

 2日ほど。
 ハクカ、スズネ、ヴィルマ、アスナとデートをすることにした。
 といっても山の景色を見たり、キスしたりその程度である。
 夜中は、ハクカと夜の営みに励むのであった。

「〜〜〜っ」

 ハクカの嬌声が部屋に響く。
 久しぶりのハクカの肉体におぼれることになった。

 翌日。

「講義の前には瞑想を行います。魔力路を広げていくイメージで」

 今日も講義が始まる。
 とは言っても、もう3回目くらいなのであとは師匠が俺に教えてくれた基礎や理論に自分なりにアレンジしたものを加えただけだ。

「同じ量の魔力を使用した『ファイヤーボール』でも、このように効果範囲がまるで違います」

 一つは、標的の板に直径一メートルほどに軽く焦げ跡がつくだけ、ところが大きさをパチンコ玉程度にすると板に穴を開ける事に成功した。

「最初の効果範囲が広いが威力がいまいちな『ファイヤーボール』、これにも使用が推奨されるケースはありますが、魔物狩りではほぼ使いません。その理由は?」

「はいっ!」

 俺の質問に委員長キャラのアグネスが手をあげる。
 眼鏡っ娘で真面目な彼女はこのクラスでは一番魔力が多く、学業成績も優秀で、生徒達の纏め役になっている。
 予備校のクラスに学級委員長制度は存在しなかったが、周囲からも実質委員長のような扱いをされていた。

「威力が圧倒的に足りないからです。目晦ましくらいにしか使えないと思います」

「ほぼ正解ですね。当たっても倒せない魔法など、放つ意味もありませんから。パーティを組んで討伐する際に目晦ましに使うという事はたまにありますが、これも止めた方がいいかな?」

 その理由は、二つ存在している。
 一つは、その程度の『ファイヤーボール』では野生動物ならともかく、魔物にはさして目晦ましにはならない事。
 魔物は動物とは違って、あまり火を怖がらないからだ。
 二つ目は、実は一番重要である。

「毛皮が焦げると商品価値が落ちるからね」

 ジョークだと思ったのか?

 教室中に笑いが広がる。

「実は冗談ではなくて、獲物の状態は冒険者にとっては大切なので」

 一日に倒せる魔物の数など決まっているので、あとはいかに綺麗に殺すかにかかっている。

「全身黒焦げ、切り傷だらけ。こういう素材は毛皮や皮が使えないので買い叩かれます」

 ただ倒せばいいというものではない。
 倒した状態が悪ければ、いくら沢山倒してもなかなかお金にならないのだ。

「つまり、火系統の魔法は魔物討伐に不利だと?」

「全身をこんがりは止めた方がいいね」

 再び質問したアグネスに回答する。

「でも、火系統しか使えない魔法使いだっていると思いますが……」

「俺がそうです」

「私もです」

 数名の生徒が手をあげる。
 こればかりは相性なので、練習してもどうにもならないケースがあった。

「そこで、魔法の圧縮が役に立ちます」

 大きな『ファイヤーボール』など撃たないで、パチンコ大ほどの大きさに圧縮した『ファイヤーボール』を獲物の急所に向けて撃つ。
 少ない使用魔力でも圧縮させれば威力は増えるという理論だ。

「魔物の急所に一撃する」

 見本として、米粒大までに圧縮した『ファイヤーボール』を次々と板に当てていく。
 板には、十か所以上も焦げが付いた穴が開いた。
 平均一秒で一発、このくらいは出来ないとブランタークさんに怒られてしまうようになった。

「この程度の穴と焦げなら、そう買い取り価格も下がらないでしょう。素早い魔法の発動と急所へ当てるコントロールは要訓練です。魔力路を広げる瞑想は、魔法の素早い発動に役に立ちます。練習しておくように」

 俺の言葉が途切れると生徒達は懸命にノートを取り始める。

「ちなみに、この圧縮は……」

 続けて、小さく圧縮した『ウィンドカッター』を多数発生させる。
 これも木の板に三日月形の穴を十か所以上も開けた。
 次に水と土を圧縮した者をぶつける。

「凄い……」

 生徒達が驚きの声を上げる。

「魔物はなるべく損傷なく殺すのが一番ですが、そればかり狙って逆に魔物に殺されるのも問題です。魔法を使える才能を得た以上は、自分がいかに効率よく獲物を倒すのかを研究するといいでしょう。冒険者になってあまりソロでやる人はいないかと思います。他のメンバーの得意武器や戦法も加味して、なるべく安全で効率のいい狩りを模索する。魔物を撃退だけして高価な採集物のみで稼ぐという手もありますし、そこは頭を使ってください」

 同じ戦闘能力でも、頭を使ってない人よりも使っている人の方が収入が圧倒的に多いのだから。

「冒険者稼業は長い年月は出来ません。君達は魔法使いなのですから、引退後も仕事に困るケースは少ないかと思いますが、将来の事をよく見据えて冒険者稼業を行ってください」

 三回目の講義も、どうにか無事に終わらせる事に成功するのであった。
 この日も講義が終わったので、俺達はヘリック校長に挨拶をしてから昼ご飯を食べに外に出た。
 手間の関係で予備校には食堂はなく、生徒達は外食か弁当を持ってくる。
 周辺には予備校の生徒目当てに飲食店が多数立ち並んでいるので、その中からある一軒のお店を目指していた。

「このお店か……」

 見た感じは普通の食堂にしか見えないが、実はこのお店、導師推薦のお店である。

「おおっ! 待っていたのである!」

 中に入ると奥のテーブル席から導師が俺達に声をかける。
 最近、講演活動に忙しいのであまり顔を合わせていなかったのだが、今日は午後から一緒に狩りをしようと誘われていたのだ。
 その前に、このお店で待ち合わせて昼食を取ろうという寸法だ。

「この食堂は、モツ煮込みシチューが名物なのである」

 導師お勧めのメニューを注文してから話を続ける。

「先生役はどうなのであるか?」

「それなりに何とかこなしていますよ」

「ルーク様は結構上手にできています」

「そうかな?」

 カルラに褒められたが、自分ではあまり実感が湧かない。

「ヨハネスの爺さんは丁寧に指導はしてくれたけど、わからなければ練習を続けろというタイプの人だったぜ」

「努力は実を結ぶですか?」

「今、カルラ嬢が言った、『努力は実を結ぶ』が口癖だったな」

 ただし、魔法の理論的な説明などはあまりなかった。
 自分の魔法を見せて、それをイメージしながらひたすら練習だったそうだ。
 注文した料理が届いたので、早速食べる事にする。
 魔物の内臓を煮込んだビーフシチューはとても美味しい。
 長時間煮込んでいるのであろう。
 食べると内臓肉なのにとても柔らかく口の中でとろけるのだ。

「臭みもないし、美味しいですね」

「ファブレ上級伯爵よ。こうしてパンをシチューに浸し、その上にモツを載せて食べると美味しいのである」

 導師お勧めの食べ方をすると口の中に至福の味が広がる。

「お客さんで一杯ですね」

 カルラは、店内の客の多さに驚いていた。

「セットで七セントはお得だな」

「故に予備校の学生達も多いのである」

 予備校には食堂がないために、その周辺の飲食店は学生を目当てに安くてお腹一杯になって美味しい料理を研究している。
 だから美味しいのだと導師は説明した。

「某も昔は予備校の学生だったのである。このお店は、某がまだ十二歳くらいの頃にオープンしたのである」

「美味しかったな」

 食後は、みんなで狩りに行く事にする。
 場所は、導師がよくアルバイトで狩りをする王都近くの魔物の領域であった。
 そこはあまり広くもないし、険しい丘陵地帯なので開発せずにそのままになっている場所だ。

「魔力も増えて、戦闘力も上がったからな」

「頼もしいではないか、ファブレ上級伯爵」

 この3人で苦戦するほど強い魔物など出ないので、夕方まで狩りに勤しんだ。
 導師は相変わらず強かった。
 おかげで多くの魔物を狩れるようになった。

「久々の狩りであるな。最近は講演ばかりで疲れたのである」

「どういう事を喋るのですか?」

「真面目な話などしてもみんな退屈がるのでな。戦の話もするが、バウマイスター伯爵がテレーゼ様に迫られて大変だったと」

 追うテレーゼに、かわすヴェル。
 みんな笑いながら聞いていたそうだ。

「なぜ、ヴェルの話なんです?」

「まあ、この程度の話で笑えるのであれば王国も平和ではないか」

 その日の狩りは無事に終わり、今日も無事に平穏なままで一日が終わるのであった。



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