様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 発見されたトンネルの管理は、オイレンベルク家側の希望により他家に譲渡される事となった。
 この場合は地理的な要因によりブライヒレーダー辺境伯家が管理する事となる。
 王国直轄地にすると王家とブライヒレーダー辺境伯家の対立が噂されてしまうので、妥協点として警備と管理の人材は、王国、バウマイスター伯爵家、ブライヒレーダー辺境伯家が均等に出す。
 王国警備隊の経費は、バウマイスター伯爵家とブライヒレーダー辺境伯家で分担するなどの条件が出されるはずだ。
 生臭い政治的なお話であり、なるほど、オイレンベルク家の人達は嫌がるはずだ。
 他の貴族とは滅多に顔を合わせない彼らに王家やブライヒレーダー辺境伯家との政治交渉など不可能なのだ。
 ただその代わりにブライヒレーダー辺境伯家はオイレンベルク家がマロイモを栽培できる代替地を準備しなければならない。
 今よりも条件がよくて大規模な場所を準備する必要があるし、ファイトさんとの婚姻を希望する貴族達に事情を説明して回る必要もあるであろう。

 どう補佐してもオイレンベルク家の人達にそんな芸当は無理だ。
 海千山千の貴族達に翻弄され、おかしな約束でもされると困ってしまう。
 結局、ブライヒレーダー辺境伯が何とかするしかなかったのだ。

 ヴェルがブライヒレーダー辺境伯を連れてオイレンベルク領へと戻ると過大な仕事を押しつけられずに済んだオイレンベルク卿とファイトさんの表情は明るかった。

「ブライヒレーダー辺境伯様」

「飛竜やワイバーンが飛んで来ず、マロイモの栽培に適した斜面があり、他の作物も沢山作れる代替地ですね。我がブライヒレーダー辺境伯領も大リーグ山脈に接している場所は多いですからね。探せば必ずありますよ」

「よかった」

 ファイトさんは、顔を綻ばせていた。
 彼からすれば、トンネルの管理よりもマロイモの栽培なのであろう。

「すぐに新しい領地で土造りを始めませんと。ようやく土造りのノウハウを獲得しましたが、マロイモが今の甘さになるには十年はかかりますし」

「それでしたら、バウマイスター伯爵に土を運んでもらったらどうですか? その方法で、領地一つ分の畑の土を運んだ事もありますし」

「凄い事ができるのですね。バウマイスター伯爵様は」

 農業で一番面倒なのは、土造りである。
 そして、それが可能なヴェルをファイトさんは尊敬の眼差しで見ていた。

「どのみち、オイレンベルク領は大規模に工事をしないといけませんし……」

 農地と斜面を削って、トンネルに続く広い道路を作らないといけない。
 それを怠れば、トンネルに入る前に大渋滞を引き起こす可能性があった。
 山崩れなどの災害対策もある。
 他にも大規模商家に向けての倉庫群、馬車の待機場、休憩所、宿泊施設、飲食店街、歓楽街など。
 トンネルの両出入り口近くに、これらの施設を大規模に作る必要があった。

「トンネルの管理のみならず、そういった開発も合わせると、ますますうちには無理ですね」

「そういう物を作るとマロイモの栽培は難しいですね」

 オイレンベルク卿は自分達の能力の限界を超えていると嘆き、ファイトさんは建設工事をするとマロイモの畑が消えてしまう事を憂慮していた。

「今、マロイモの畑がある斜面は、土砂崩れを防ぐために補強工事をしないといけません。土は持って行ってください」

「ありがとうございます」

 ブライヒレーダー辺境伯からの好意にファイトさんがお礼を述べる。
 最初は色々とあったが、これでようやく難題が解決した。
 よかったよかったとみんなで喜んでいた時に再びの難題が突然訪れる。
 バタンとオイレンベルク邸の玄関ドアが勢いよく開き、一人の人物が飛び込んできたのだ。

「親父! 兄貴! 正気か! オイレンベルク家大躍進のチャンスなのに何嬉しそうに人様に金の卵を譲ってんだよ!」

「「カチヤ?」」

 飛び込んできたのは、俺達とそう年が違わないように見える少女であった。
 男勝りの口調なのでどんな逞しい女性なのかと思えば、身長は百五十五センチほどしかなく、黒に近い茶髪をツインテールにして膝下まで伸ばしている。

「カチヤ、随分と早い里帰りだね。予定では来月だと」

「カチヤ、前に渡した干しマロイモが足りなくなったのかい?」

「それはまだもう少し余裕が……って! 違うよ! 実家がこんな状態だって噂だから、急いで帰って来たんだよ!」

 カチヤという少女は、口調とは違って家族仲もよく定期的に実家にも帰省しているようだ。
 ファイトさんから干しマロイモの事を聞かれて素直に答えているので、意外といい娘なのかもしれない。
 しかし、干しマロイモか……。
 これは盲点だったな、帰りに買って帰らないと。

「オイレンベルク卿、私の勉強不足で申しないのですが、こちらのお嬢さんは?」

「娘のカチヤです。ファイトの妹になります」

「娘さんですか……」

 ブライヒレーダー辺境伯は、自分の寄子なのにオイレンベルク家に娘がいる事を知らなかったようだ。
 ただ一つ弁解させてもらうと、それを知っている他の貴族家が一つもなかったのでみんな同罪だとは思うのだが。

「カチヤさんは、外で働いていらっしゃるのですか?」

「おうよ、冒険者としてな」

 冒険者だからか、本人の気質なのか?

 カチヤは、相手がブライヒレーダー辺境伯でも口調を変えない。

「カチヤ、そちらの方は……」

「ブライヒレーダー辺境伯様だろう? 生憎と今のあたいは冒険者だからな」

「別に構いませんよ」

 ブライヒレーダー辺境伯は、彼女の口調を気にもしていなかった。
 大貴族でもある彼は、領内の魔物退治などで冒険者と接する機会が多い。
 冒険者の気質などは百も承知である。
 カチヤは一目で冒険者だとわかる格好をしている。
 彼女はスピード重視の剣士のようだ。
 白いタンクトップとデニム地に似た短パン、防御力を補強したブーツと、その上から薄手の防御用の手甲、胸部用のプロテクター、あとはなぜか鉢金もしていた。

 ミズホ公爵領からでも輸入でもしたのであろうか?

 武器は細身の長い剣を背中に二本挿しているようだ。
 鞘についたベルトが、前側で十字にクロスしていた。

「あれはサーベルだな」

「サーベルかぁ……」

 剣の収集を趣味にしているエルが、カチヤが装備する二本の剣がサーベルである事を教えてくれる。

「サーベルって珍しいのか?」

「一応剣の一種だから貴族が使っても問題ないけど、なぜか人気がなくて一段下に見られるな」

 通常の剣のように重厚さがないからだと言われているそうだ。
 重厚感のあるサーベルもあると思うのだが、とにかく剣よりも一段低く見られるので貴族で使っている人が極端に少ないらしい。

「似たような扱いの剣にエストックもあるな。細くて突きが主体だから卑怯に思われるんだよな」

 そのせいで、貴族で使っている者はほとんどいないそうだ。
 確かに王都で挿している貴族をあまり見た事がないし、武芸大会でも使っている人は少なかった。 

「確かに、あの双剣は軽量化重視だな」

 日本刀は違う形の斬るを重視する剣の形というわけだ。
 カチヤは女性で、戦闘方法は軽量化された防具を見るにスピード重視であった。

「あとは、腰の部分を見てみろ」

「短剣? ナイフ?」

 腰のベルトに、小さな投擲用の小剣が十本ほど挿してあった。

「スピード重視の戦闘をするから、遠方から投擲して接近するんだ」

 小さなナイフでも無視すれば自分に刺さってしまう。
 特に顔を狙われる事が多いので、対戦相手はみんな顔を狙って飛んでくるナイフを剣で弾くという動作を強要される。
 それで出来た隙を突いて、接近を図るのだそうだ。

「なるほどな」

 エルの解説に俺は納得した。
 さすがは、剣の才能をワーレンさんに認められているだけの事はある。

「ヴェンデリンさん」

 カタリーナがヴェルのローブを引っ張った。
 彼女の言わんとしている事はわかる。
 それは、彼女が魔力持ちだという事実だ。
 わずかに中級には届いていないが、その魔力を剣の腕前に上乗せすれば相当に強いはずだ。

「ちっ、冒険者ギルドで情報を集めないとな」

 ブランタークさんが、カチヤを見て舌打ちする。
 もしかすると高名な冒険者かもしれないからだ。
 冒険者の情報は防犯上の理由でなるべく秘密にされているが、ブランタークさんなら知己の幹部などから入手可能である。
 『蛇の道は蛇』というわけだ。

「バウマイスター伯爵様の子分達か? 実戦経験有るって感じだな」

「大体合っているけど、子分じゃなくて家臣と呼んでほしいな」

「子分って……私は妻ですけど」

「俺は、一応師匠の一人でもあるな」

「俺は、別家の人間だけどな」

「すまないね。あたいは冒険者なんだ。多少の口の悪さは勘弁してくれないか」

 別にエル達も気にしているわけでもない。
 ただ言っただけであろう。
 エルとブランタークさんは、カチヤに女性としては興味ないといった感じだ。
 カチヤは見た目は美少女であったが、それはハルカも同じだし、内面もミズホナデシコの鑑だとあのシスコン兄貴が褒めているくらいなのだから。

 ブランタークさんも奥さんの方が好みであろう。
 この人は、意外にもおしとやかな女性が好きだし。

「それで、カチヤさんは何が不満なので?」

「何がって……トンネルの利権は誰がどう見てもオイレンベルク家の物じゃないか! それを寄親だか王国だか知らないが、力技で強引に奪い取るなんて!」

「ですからねぇ……」

 どおりで、ブライヒレーダー辺境伯が最初は断ったわけだ。
 この世界にはニュースやネットなど存在しないから、トンネルの利権が零細貴族であるオイレンベルク家の物だという噂が流れるとブライヒレーダー辺境伯家が取り上げるのではないかという憶測が勝手に広がる。
 カチヤがそれを心配して戻ってみれば、自分の父親と兄が噂通りにトンネル利権をブライヒレーダー辺境伯家に譲る相談をしていた。
 慌てて怒鳴り込んだというのが真相であろう。

「ただ無責任に通行料だけ取ってウハウハじゃないんですよ」

「そんな事はわかってるさ!」

「本当にですか?」

「おおっ!」

 トンネルが人との物の流れを加速させる以上は、負の案件も増える。
 違法な薬物や犯罪者などの移動も増えるのだ。
 他にもトンネルはブライヒレーダー辺境伯領とバウマイスター上級伯爵領を結ぶ重要なインフラとなる。
 帝国とは講和を結んだとはいえ、また戦争になればここを塞ぐ破壊工作が行われる可能性がある。
 敗死したニュルンベルク公爵一派の残党が、王国と帝国を争わせて再起を目論むためにトンネルをテロの標的にする可能性もあった。

「だから、王国警備隊も混じっているのです。彼らがいるにしてもバウマイスター伯爵家側に権利がある魔導灯管理室などを除くトンネルの半分を責任を持って警備・管理しないといけない。相応の手間もかかるのですよ」

「それは、オイレンベルク家で準備すれば……」

「それが出来ないから、こういう結論に至ったのですけどね。他にもあります」

 出入り口付近の道や利用者のための周辺設備の整備もある。
 利用者の身分や持ち込む荷などをチェックする税関的な施設の運用も必要になる。

「多額のお金と人材、ノウハウが必要です。出入り口が、バウマイスター伯爵領側が順調なのにオイレンベルク騎士爵領側がいつも渋滞では困ります。もしそうなると王国から職務怠慢で領地を奪われますよ」

「ううっ!」

 ブライヒレーダー辺境伯からの鋭い指摘にカチヤはタジタジとなってしまう。

「それでも兄貴が……オイレンベルク家が管理する方法だって……」

「ない事もないですね」

「あるじゃないか」

 方法があると知って、カチヤの顔に笑みが戻る。

「それは、ファイト殿がこのお見合い話を受け入れる事です」

 ブライヒレーダー辺境伯は、机に積まれた大量の見合い写真を指さす。

「資金、人材、ノウハウを持っている子爵家以上が多いですね。ファイト殿の奥方と一緒に、その実家から資金と人材が送り込まれて彼らがトンネルを維持します。看板はオイレンベルク家ですけど、実態は奥さんの実家に乗っ取られたというわけです」

 実家が乗っ取られる。
 その可能性にカチヤは苦い表情を浮かべていた。

「ブライヒレーダー辺境伯家としては嫌な状況ですが、我慢はできます。王国軍も駐留するから変な事にはならないでしょうし、奥方の実家側も妙な事はしませんでしょう。何しろ、オイレンベルク領はブライヒレーダー辺境伯領に囲まれていますし」

 彼らはトンネルの利権が欲しいのであって、ブライヒレーダー辺境伯家の利権に嘴を突っ込みたいわけではない。
 無用な衝突や対立は避けたいと願うわけだ。

「ちなみにファイト殿に奥方を送り込むという案では我らブライヒレーダー辺境伯家が有利です。何しろ、オイレンベルク家はブライヒレーダー辺境伯家の寄子ですし」

 寄親が寄子の跡取りに奥さんを紹介すると言えば、他の貴族は黙るしかない。
 その結果、ブライヒレーダー辺境伯家の縁戚か仲がいい寄子から資金と人材が入ってきて、実質オイレンベルク家は乗っ取られるわけだ。

「世間への評判が悪いから避けたい方法なんですけど、もしファイト殿が他の貴族家から奥さんを迎え入れると決意するならば、その策を強行する事も考えました。結果は、オイレンベルク卿とファイト殿が堅実で、最良の選択をしてくれたのでよかったですけど」

 こういう事情を聞くと、ますますトンネルの管理をオイレンベルク家が単独で行うのは困難だと感じた。

「一言で言えば、身の丈にあった選択をですな」

「それもありますし、トンネル周辺の工事をすると大半の農地を潰さないと駄目ですから……」

「兄貴! そんな儲からない農業よりもトンネル管理だろうが!」

「農業は人の基本だよ。食べないと人は生きていけないのだから。それにカチヤもマロイモが好きでしょう? 帰郷の際には、必ず大量の干し芋を持って帰るし」

「マロイモなら、トンネル管理で儲かったら他に農地を買えばいいだろうが!」

 農業とマロイモ栽培で細く長くが基本の兄にトンネルで管理でオイレンベルク家の躍進をと考える妹。

 実家に残っている兄は保守的で、実家を出た妹は新しい事に挑戦していきたいみたいな感じであろうか?

「カチヤさん、残念ながらそれは出来ません」

「周囲は全部、ブライヒレーダー辺境伯領だからか?」

「それもありますけど、貴族同士での土地の取引きは王国から禁止されていますので」

「そうなのか?」

「えっ? 知らなかったのですか?」

「ううっ……」

 それはそうだ。
 勝手に売買されて領地が増えたり減ったりすれば、貴族を管理する王国側としても堪らないであろう。
 騎士爵領が土地の買収でいつの間にか伯爵領規模なったりすれば、王国の貴族管理政策において重大な支障が出るであろうし。

「勝手に土地なんて売ったら、王国から罰せられてしまいますから」

「土地の交換はいいのかよ!」

「それは王国が許可しますので」

 貴族法の大本である王国が許可をすれば、法に触れる行為も例外として黙認されるわけだ。
 土地を獲得するもうひとつの方法として、紛争によって勝利して裁定案で土地を獲得する方法がある。

「畜生! ずるいぞ!」

「ずるいって……これは、オイレンベルク卿とファイト殿が現実を見て判断した決断でして、最善に近いと思うのですが……」

「親父! 兄貴! ここは踏ん張れよ! 上手くやれば、男爵どころか子爵にもなれるぞ! ここで諦めてどうするんだよ!」

 ブライヒレーダー辺境伯に論破されてしまったカチヤは、今度は矛先を父親と兄に変えて二人に気合を入れようとした。
 理論的に論破されたので、感情に訴える作戦に出たようだ。

「エリーゼ、これは、故郷を失う悲しさから意固地になっているのか?」

「トンネルの管理が出来れば、オイレンベルク家は躍進する。自分は家を出ている人間だけど実家が躍進してくれれば嬉しい。こんなところだと思います」

「また面倒な……」

 カチヤが出てこなければ、話は解決していたのに。

「兄貴が嫁を迎えると駄目なんだろう? だったら、あたいが婿を取ってそいつを責任者にしてトンネル関連の仕事を任せようぜ」

「(なぜそうなる……)」

 俺は小声で、カチヤの意味不明な判断を愚痴った。
 そんな変則技を使ってもオイレンベルク家が傀儡化する事実に変化はないのにブライヒレーダー辺境伯も露骨に顔を顰めさせていた。

「貴族家の娘としての立ち位置に戻る。おかしくはないのよね……」

 イーナの言うとおりではある。
 どこかの貴族家に嫁ぐべきであったカチヤは、オイレンベルク家の特殊性によって家を出て冒険者になるという自由な行動が出来た。
 それが、本来の立ち位置に戻るだけなのだから。

「というわけで、あたいに有能でオイレンベルク家のために頑張る婿を紹介してくれ。寄親のブライヒレーダー辺境伯様」

「なっ!カチヤさん、そもそもあなたはこの話をどこで聞いたのです?」

「そういわれると、ちょっと変」

「ああ・・・それはね。ちょっと顔見知り程度の冒険者から親切に教えてくれたんだよ」

 話を聞いたカチヤは、慌ててブライヒブルクからオイレンベルク領までは、魔法でスピードを強化して駆けつけたと得意げに話してくれる。
 カチヤは、ユーファと同じことが出来るようだ。

「教会や王国が抱える密偵や伝令みたいに1日千キロとかは無理だけど、200〜300キロぐらいはそんなに大変でもないさ」

 魔力を移動のみに割り振れば、初級の魔力を持っている人間なら難しくないのだ。

「あたいの目の黒いうちは、そう簡単にだまされてやるものかって」

「・・・あのブライヒレーダー辺境伯・・」

「バウマイスター伯爵、みなまでいわずとも」

 カチヤからいきなり無茶なお願いをされてガックリと肩を落としていた。
 そしてもうひとつ、カチヤに余計な情報を漏らしたのは貴族であろう。

「(これ解決するのか、ヴェル)」

「(俺に聞かれても)」

 カチヤの見当違いな策と貴族たちの蠢動によってトンネルを巡る情勢は余計に混乱していく事となる。



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