様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「前方反乱軍の降伏を確認」

 軍勢を進めていると先行する偵察隊から進路上にいる敵軍の存在を報告される。
 ただ、向こうはこちらに気がつくと戦闘もしないで降伏した。

「またかよ……」

「まただが、無視するわけにもいくまい」

 もうこれで何度目かのフィリップの正論だが、これが最後なわけもないので困ってしまう。
 『敵が降伏した』と歴史書なら一行で済むが、これを処理する面倒臭さを本に書いておいてほしいものだ。

「分かっている。それで、降伏した軍を指揮する貴族の名は?」

 帝国の新しい支配者としてライバルであるテレーゼを強制引退させたペーターは、素早く体勢を整えてからニュルンベルクに対して反撃を開始した。

『来年の春までには片づける』

 そう宣言した彼は、支配下にある全ての領域から軍勢を集め、ジワジワとニュルンベルク率いる反乱軍の領域を削り取り始める。
 所属が曖昧な西・東部の南部寄りの位置に領地を持つ貴族に『今の内に降れば、爵位と領地は保全しよう』と声をかけ、その大半を降らせる事に成功する。

 ペーターは彼らの領地の位置を考えて、反乱軍側に付いた事を不問としたのだ。
 その代わりに彼らも兵を出してニュルンベルク討伐軍に加わる事を条件とした。
 幸いにして、ニュルンベルクが彼らへの援軍などのフォローを行わなかったために、ほとんど戦闘は発生していない。
 一部苛烈に抵抗した貴族もいたが、彼らは帝国軍によって討伐されるか、中には家族や軍勢を引き連れてニュルンベルクに合流している者もいて、西部と東部は短期間で帝国軍の勢力下となっている。

 続けて、先の討伐軍によって荒らされた南部領域北部の占領にも成功していた。
 ここを領地とする貴族や領民達からすれば、帝国軍は自分達の故郷を荒らした敵でしかない。
 当然抵抗も激しく、それでもペーターは復興を支援するなどの条件を提示し、硬軟織り交ぜてどうにか占領と補給体制の確立に成功する。

 段々とニュルンベルクが支配する南部領域が帝国軍の占領下に入り、既にニュルンベルク領の一部地域も占領されていた。
 南部を領地とする貴族は、降爵や領地の減少・没収を条件に降伏する者。
 やはり家族や一部軍勢を連れてニュルンベルクに合流してしまった者と、それぞれに対応が違う。
 それでも、今までに発生した大規模な会戦や死闘に比べれば、そこまで大変というわけでもない。
 俺を総大将とした南部領域を進む王国軍軍人は、隣で一緒に進むミズホ伯国軍と共に前方に立ち塞がる小勢が降伏したのを受けてその処理に当たっていた。

「……誰の軍勢?」

「カシラー子爵の紋章じゃの」

「よくわかるな」

「妾も、そこまで南部貴族に詳しくはないのじゃがな。カシラー子爵家の紋章はたまたま覚えておった」

「たまたまか。俺なんて、王国貴族ですら碌に名前を覚えていないのに」

「紋章官任せか? 別にそれでも構わないがの。第一、帝国も王国も貴族の数が多すぎるのじゃ」

 バウマイスター伯爵家軍には、『暇過ぎるのも困り物じゃの』となぜかテレーゼが押しかけ参謀として付いて来ていた。
 あの引退劇からさほど時間が経っていないので大丈夫かと思ったのだが、彼女はペーターに直接言って、こちらとの合流を決めたらしい。

『ヴェンデリンの軍に帝国貴族に詳しい者を混ぜた方がいいか』

 表向きはそう言って、あっさりとテレーゼの合流を認めている。
 どうせ俺達がニュルンベルク公爵に合流するなどあり得ないし、こちらもミズホ伯国軍も現地での交渉という点では人材面に不安が残る。

 道案内は現地の人間を雇うとしても反乱軍方の貴族や軍勢が降伏などを望んだ時の交渉をする人間がいない。
 そこで、引退して一時は隠棲生活をしていたテレーゼに白羽の矢が立ったわけだ。

『使える者は何でも利用しないとね』

 ペーターからすれば、テレーゼが帝国軍の下で働いているという事実が重要なのかもしれない。
 周囲からすれば、彼女がペーターの軍門に完全に下ったと見られるからだ。
 俺達やミズホ伯国軍と行動を共にしているのは、さすがに帝国軍本軍で働くとギクシャクしてしまうからで、一部にテレーゼが俺達と組んでペーターに反抗すると心配する者達もいるようだが、さすがにそれは心配し過ぎであろう。
 ここでまた戦況を混乱させて戦争が長引いてしまったら、俺は今まで何のために苦労したのかわからなくなってしまう。
 ペーターもそんな事は気にしていない。
 いや、あえて気にしないフリをして自分の豪胆さをアピールしているというわけだ。

『本音で言わせてもらうと人手が足りないんだよね。テレーゼ殿は軍勢を率いなくても出来る仕事は多いし』

 これが、ペーターの語った本音だ。
 テレーゼは、自ら敵兵を斬った事もあるので自分の身くらいは守れるし、指揮、軍政、交渉と何でも器用にこなせる一流の人材である。
 軍勢は任せていないが、今もこうして役に立っているというわけだ。

「フィリップ公爵殿?」

 降伏した小勢を率いている貴族は、テレーゼを見て目を丸くさせた。
 まさか、彼女がこんなところにいるとは思わなかったのであろう。

「色々とあって引退した身じゃ。して、カシラー子爵殿は何を望む?」

「これまでは地理的な条件のためにニュルンベルクに従うしかありませんでしたが、今の彼は極端な防衛戦術に出て内部に引っ込んでしまいました。そこで、帝国の実権を握られた摂政ペーター殿に縋るしかないと……」

 そんなに簡単に所属を変えていいのかと思ってしまうが、これも小領主の悲哀であった。
 下手に片方に義理立てなどをしても、それは滅亡の原因でしかないのだから。

「降伏するのがいいと妾も思うがの。無料というわけにはいかぬぞ」

 東西部の貴族とは違って、南部貴族には降ればそのまま許す事を認めるわけにはいかなかった。

「やはり、何かを差し出さないと駄目ですか?」

「領地の一部か金銭が普通かの。あとは、軍勢を整えて帝国軍に合流する」

 軍勢が消費する食料などは自腹なので、小領主にはかなりの負担になる。 
 それでも、帝国軍によって滅ぼされるよりはマシであろう。
 可哀想だとは思うが、これも小領主の宿命であった。

「領地の縮小は勘弁して欲しいので、何とか金銭で交渉を纏めるしかないですな。分割払いは可能なのでしょうか?」

「そこは、要相談じゃの。支払いが滞るような事がなければ大丈夫であろう」

 貴族にとっての領地の広さとは、世間にわかりやすい力のバロメーターであった。
 それを削られるというのは、例え収益が落ちないにしても簡単に容認できる話ではない。
 それでも、今回の戦乱で減封・改易された貴族は多数存在していた。

「時にペーター殿は独身でしたよね?」

「カシラー子爵殿、気持ちはわからないでもないが、それは止めておいた方がいいと忠告しておくぞ」

 俺と同じ年のペーターは独身であった。
 なぜか浮いた話題は一切存在せず、彼は普段から傍に置いている魔法使いエメラを寵愛している。
 ペーターがエメラを口説き、それを彼女が冷たく否定する場面ばかり見てるが、それでもエメラはペーターの傍を離れないので、まあそういう関係なのであろう。
 そういう事を細かく詮索するのは野暮というものである。

「摂政殿は、新政権下での自分の立場を高めるために娘や妹を差し出そうとする貴族を快く思っていないからの」

「それは、怒りを買うとそのまま改易とか?」

「いや、そこまではないと思うが、よくは思われないのは確かじゃの」

 ペーター自身は、父親である前皇帝が正妻の一族に配慮して帝国の政治をおかしくしたのを直接見ている。
 俺は、娘を差し出すと言っても碌な結果にはならないとカシラー子爵に忠告しておく。

「わかりました。何とか罰金と従軍で済ませて貰えるように交渉してみます」

「妾が手紙を認めておこう。役に立つのかは不明じゃが、一切の抵抗や戦闘がなかった事は書いておく」

「ありがとうございます」

 カシラー子爵は俺とテレーゼに深々と頭を下げてから、ペーターが指揮する本陣へと向かった。

「テレーゼが交渉役で助かったね」

「そうだな」

 護衛として俺の横に控えていたファラが、カシラー子爵の後姿を見ながら安堵の溜息を漏らす。
 既にフィリップ公爵でもなく、単身で俄か参謀扱いのテレーゼはファラ達に『もう殿や様を付けるな。敬語もいらぬ』と言って、それを実行させていた。



 再び両軍の進撃が始まるが、今度は何も現れないで暇だった。
 防衛戦闘でも仕掛けてくるのかと思ったが、本当にニュルンベルクは戦力を一カ所に纏めているらしい。

「ファブレ伯爵が前にニュルンベルク家の従士長を討っただろう? あの影響もあるな」

 ニュルンベルクが己の右腕と公言していた従士長のザウケン、彼がいなくなりニュルンベルクは一万人以上の軍勢を預けられる人材を失ってしまった。

 これはフィリツプの考えであったが、あながち間違っているとは言えないであろう。

「地の利がありますからね。別働隊での奇襲や輸送路の襲撃など、それを率いるはずだったザウケンの死は痛いはずです」

「それで抵抗が少ないのか」

 一部あるが、それは放置された貴族や領民達で、しかも前の帝国軍の悪行の被害者が大半だ。
 彼らは再び土地を荒らされ全てを奪われると思い、帝国軍に対して絶望的な抵抗を行っている。
 ペーターの説得で降だる者も多いが、人間とは戦争で受けた被害をそう簡単には忘れられない。
 『ニュルンベルクも帝国も信用ならない!』と言って、過酷なゲリラ戦を行う者も存在していた。

「それは少数ですし、ニュルンベルクは選びに選んだ精鋭に大量の資金や食料などと共に防衛を行うでしょう。それを破るのは、ペーター殿でも至難の業かと」

 追い詰めるまではさほど苦戦しないが、追い詰めてからが困難というわけだ。
 クリストフの推論にペーターが気がついていないはずはないので、今は懸命に対抗策を練っているのかもしれない。

「何にしても、もう少しで帝国の内乱も終わるはず。終われば、俺達は王国に戻れるというわけだ」

「兄さん、生徒の教育はどうなのです?」

「初歩くらいは教えたかな」

 現在、先陣に立っているエルとリッドを教育して来たフィリップは、この仕事もあと少しだと感慨深げな表情を浮かべている。
 確かに、この短期間でエルとリッドが千人ほどの軍勢を率いる姿が様になりつつあった。
 指揮官としても教育者としてもフィリップが優れている証拠だ。

「初歩だとまだまだなのかな?」

「ファブレ伯爵、あとはそっちで何とでもなるというか、ここまで教えたら、あとは時間が経たないと指揮官としては熟成されないぞ」

「ワインみたいな事を言うんだな」

「ワインみたいなものだ。若い天才指揮官とかは別として、普通の指揮官には老練さとかも必要だからな」

 指揮官として上にいるのだから、普通は若造よりは中年や初老の人の方が経験を積んでいて安心というわけだ。
 会社で上司が自分よりも圧倒的に若いとモヤモヤして心配してしまうのと同じ感覚なのかもしれない。

「ある程度の軍司令官などは、五十歳前後で働き盛りという感じかな? エドガー軍務卿がそんな感じだろう? アームストロング伯爵でもう何年か先、彼の場合はそれを補う筋肉があるけどな」

 エドガー軍務卿は見たままで、アームストロング伯爵の体の大きさと引き締まった筋肉は、軍指揮官として決して無駄な要素ではないものらしい。

 確かに中年太りのオジサンが指揮官よりは兵士達の安心感を得られそうだ。

「そういう加齢と共に現れる才能もあるから、ワインと似ているわけだな。最初から駄目なのを熟成しても腐るだけという点も似ている」

 フィリップは、最初にその指揮下に入ったレーガー侯爵の事を言ったのであろう。
 そのまま、両軍による進軍は続く。
 たまに降伏する軍勢の処置と後方移送を行い、占領した町や村を軍政専門の部隊に任せて前に進む。
 目の前には晩秋の風景が広がり、両軍はまだ一度も戦闘をしていないので、みんなノンビリと歩いていた。

「今までの苦戦って何だったのかしら?」

 イーナが不思議に思うのも無理はない。
 既にニュルンベルク公爵領にも大分入り込んでいた。
 それでも抵抗は皆無で、占領した村や町の住民は素直に帝国の支配下に入っている。
 働き手の男性が大分徴兵されていたが、それでも家族を助けて欲しいとか、侵略者に反撃などという行動を取る者は皆無だ。
 それが余計に怖く感じるが、彼らはこう思っているのかもしれない。 
 『前回と同じく、どうせ侵略者達はニュルンベルクによって討たれる』と。

「ファブレ伯爵、ニュルンベルクの館と中心街が無血で占領されたそうだぞ」

 最新の報告を持って姿を見せたミズホ上級伯爵は、誰にでもわかるほど渋い顔をしていた。

「どこが防衛拠点なんです?」

「館から南方に五キロほど。岩山ばかりのクライム山脈だそうだ」

「そこは確か、例の魔法無効化装置がある可能性が高い場所のはず」

「防衛施設のメインは地下にあるらしい。元々広大な地下遺跡があって、その施設を利用しているようだ」

「他を全て放棄して、そこでの防衛に全てを賭けているわけですね」

 既に大半の帝国領土はペーターの手に落ちている。
 国力比で勝ち目の無いニュルンベルクは、防衛戦闘で帝国軍に出血と補給不足を生じさせて撤退をさせようとしているのであろう。

「非情の決意とも言えるな」

「となると、そこを攻略する戦闘になるわけですね」

 どの程度の戦力で籠ったのかは知らないが、攻撃側は最低でも戦力が三倍以上は無いと勝てないと聞いている。
 これを落とすのは、間違いなく至難の技となるはずだ。

「それで、ペーターはどう考えているのですかね?」

「まずは定番の蟻の出る隙間も無いほどに囲む……。は、不可能か……」

 山脈の地下にある遺跡を利用した防衛施設なので、よほどの大軍で囲んでもどこかに穴があるはずだ。
 ニュルンベルク公爵領の領民達がえらく従順なのは、密かに食料などの補給や情報伝達を行う地下組織が既に結成されているからとも言えた。

「勝ち目はあるんですか?」

「さあな? 俺達は急いで合流しないでもいいそうだ」

 間違いなく、もう俺達に功績を挙げさせないためであろう。
 既に戦いは終盤であり、あとは生粋の帝国貴族達だけでニュルンベルク公爵を討伐するというわけだ。

「向こうが働かなくてもいいと言うのだから、今日はこの辺で適当に野営でもしようではないか」

「そうですね」

 場所はニュルンベルク公爵家の屋敷とクライム山脈の中間点にあり、適当に開けた平地もあるので両軍で野営を行う事にする。

「野営の準備だ!」

 王国軍組千人ほどを率いるエルによる指示の出し方も大分様になって来たようだ。

「あとは、帝国軍が面倒で犠牲も多い地下要塞攻略戦を行ってくれるんだろう? もうこれ以上は犠牲を出さずに王国に戻れた方がいいさ」

 全軍の野営準備を統率しながら、フィリップも無理にこれ以上は戦おうとは思わないようだ。
 最初は八千人いた王国軍先遣隊も紆余曲折の後に四千人と少ししか残っていない。
 半分近くが帝国で屍となり、故郷である王国に生きて戻れなかったのだ。
 戦争とは、いかに悲惨であるかの証明であろう。

「あっそうだ。今日は宴会でもしましょうか?」

 ただ、いつまでも悲しんでいるのも建設的では無い。
 この世界の人達のメンタルは、地球の人達よりも強いようだ。
 クリストフが、主だった面々による宴会を計画していた。

「一応戦地なので飲酒はなしで、食事をよくしようかと思います」

「いいのかなぁ?」

「少しいい食事を出すくらいですよ。降伏する反乱軍の処理で前に出てみんな疲れていますし」

 ニュルンベルク公爵の館までは先鋒だったのにクライム山脈の地下要塞の存在が知れたら帝国軍によって後方に下げられたという結果になったので、みんな拍子抜けしてしまったのかもしれない。

「兄さんが、奇襲や破壊工作などの防衛体制をちゃんと整えていますから」

「ならいいか」

 ペーター達帝国軍の方が、急いで来なくてもいいと言っているのだ。
 もしかすると後で出番があるかもしれないし、今の内に寛いでおく事にする。

「食事会みたいなものか? 酒がないのは残念だがな」

「某は、料理がよければ十分なのである」

 ブランタークさんと導師の賛成も得て、設営した野戦陣地の本部で食事会が行われる。
 酒は出せないが、ミズホ上級伯爵が食材を提供したので食事は俺にも馴染みのミズホ料理が多かった。
 基本和食なので、これは悪くない食事会だ。

「季節は晩秋、ミズホ伯国では『実りの秋』と言って食べ物が美味しい季節となる。特別に旬の材料を取り寄せたから堪能してくれ」

「こうなると急いでクライム山脈まで急がなくてよかったな」

 元々帝国の内乱だ。
 最後くらいは自分達だけで締めくくると言うのだから、任せてしまえばいい。
 俺達は、目の前にある大量の料理に目を輝かせていた。

「サツマイモ、クリ、カボチャ、米も新米、サンマ、カキ、サケ、イクラ、そしてマツタケもあるぞ」

 ミズホ上級伯爵は、相当気合を入れて食材を集めたようだ。
 日本とほとんど同じ秋の食材がプロの調理人達によって調理され、みんなの前に並んでいた。

「ミズホ上級伯爵殿。このキノコは美味しいのであるか?」

 導師はマツタケを焼いた物を指差し、その味をミズホ上級伯爵に聞いた。

「我がミズホ伯国では、大変に高価とされるキノコだな。外国人にはその価値がわからない者も多いが」

「特徴的な香りであるな。味も悪く無い」

 導師なら何でも美味しく食べてしまいそうだが、マツタケを気に入ったらしい。
 一人で何十本も食べていた。

「導師、高いキノコらしいから遠慮しろよ」

「ブランターク殿、こういうものは豪快に食べると美味しいのである。それに高いとは言っても、一本百万セントもするわけでもなかろうて」

「そうだな。そちらの貨幣で言うと一本五十セントから百セントくらいだな」

 日本のスーパーで見た外国産の物よりも遥かに高い。

 これはやはり、全部ミズホ伯国産の弊害なのであろうか?

 などと元は庶民の俺は考えてしまう。

「そのくらいであれば、食べたくなったら飛竜を一匹倒してくれば沢山食べられるのである」

「そんな事が出来る奴は、導師と極少数だけだよ……」

 その気になれば幾らでも稼げる導師に相応しい発言かもしれない。
 ブランタークさんは、少し呆れているようであったが。

「このキノコ、そんなに高いのか……。実家で秋に取ったキノコとは全然違うんだな」

 エルは、マツタケを恐れ慄きながら口に入れていた。

「あれ? 普通に美味しいけど、そこまで凄い物か?」

「マツタケが高価なのは、その香りゆえですから。味はマイタケ、シメジとかよく言いますね」

 ハルカは、エルに解説をしながら自分は他の旬のキノコを使ったキノコ鍋を食べていた。
 タケオミさんも同じで、この兄妹はさほど裕福な家の生まれではないのでマツタケなど食べた事が無いのかもしれない。

「ハルカさんの言う通りにキノコ鍋美味しいですね」

「これを食べると秋が来たという感じじゃの」

「テレーゼさんは、毎年食べているのですか?」

「フィリップ公爵領は隣じゃからの。キノコ鍋は取り寄せやすいのじゃ。美容にいいと女性に評判だし、マツタケ以外はそれほど高くはない」

 テレーゼは、フィリップ公爵領内の女性にキノコ料理が人気であるとエリーゼに説明していた。

「ただ、キノコは判別が難しいのでな。たまに買うのをケチって自前で採ってきたのはいいものの、毒キノコを食べて死ぬ者がいて、それも風物詩かの?」

「おい……」

 そんな風物詩は嫌だと俺は思ってしまう。

「そういう人は、やっぱりいるのね……。うちの道場の門下生で笑い茸に当たって、一週間くらい笑い続けていた人がいたわね。稽古の間中もずっと笑っていて不気味だったわ」

「ボクの知り合いは、幻覚を見てそれと懸命に戦ってたね」

 キノコは大陸中で採れるので、平民やイーナとルイーゼの実家レベルやそれに近い家だと自分で採りに行く事が多い。
 無料で食べられるのはいいが、種類の判別に失敗して最悪死に至るのはこの世界でも同じなようだ。

「魔法で『キノコ鑑定』とか出来ないかな?」

 試しにマツタケに魔力を送ってみるが、何も起こらなかった。

「駄目か」

「キノコの勉強をしてないと難しいとおもいますよ」

 ミカンが一言そえながら、俺のお椀にキノコ鍋をよそった。

「ミズホ伯国は、シイタケ、シメジ、ナメコ、マイタケなどは栽培技術が確立されているのでな。他のキノコと間違えて中毒になどならぬよ」

 キノコの人工栽培技術まで持っているとは、ミズホ伯国侮りがたしである。
 シイタケは、これは干せば出汁として使える。
 購入はしてあるが、これも俺の食生活には必要であった。

「お魚。美味しい」

「サンマを焼いた物が美味しいなぁ」

 秋といえばサンマであろう。
 さすがはミズホ伯国とでも言うべきか。
 オロシ大根とカボスらしき青いかんきつ類も一緒に付いていた。

「ルーク様、これは付け合わせみたいな物?」

「付け合わせとは違うかな? オロシ大根はショウユをかけてから身と一緒に食べると脂っこさが抜けて美味しいし、この果物は絞って汁をかけるんだ。そうすると、これもサンマがサッパリとした風味で食べられる」

「さすがはルーク様、よく勉強している」

 勉強しているというか、前から知っているだけであったが。

「なるほどそうやって食べるのであるか。妙に酸っぱいとは思ったのであるが……」

「導師、カボスをそのまま食べたのですか?」

「種も多いし、妙だとは思ったのだ」

 導師はカボスをそのまま食べてしまい、その酸っぱさで顔を萎めていた。

「だが、食えない事もないのである」

「ですが、無理にカボスを食べなくても……」

「あははっ、バウマイスター伯爵はミズホ文化の吸収が早いではないか。もしかしたら、前世はミズホ人かもしれないな」

 ミズホ上級伯爵は、宴会に出した料理を気に入って貰えて嬉しそうだ。
 こうして秋の夜更けに俺達は一時内乱を忘れて楽しい時間を過ごしたのであった。



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