様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 結局、俺達王国軍組とミズホ伯国軍は、帝都周辺から追い出されるようにサーカットの町に移動していた。
 皇帝陛下の下の、そのまた更に下の腰巾着が偉そうに事情を説明しに来たが、来る収穫後のニュルンベルク公爵討伐に備えて統治体制の強化と準備が必要なので、帝都周辺に怪しげな外国人がいては困るのだという。

「親善大使一行が怪しげな外国人ですか?」

 親善大使一行とミズホ上級伯爵にそれを言うとはバカの極みであろう。
 その使者が帰った後、彼は先に真っ二つにしてから御用職人に修復させていた昔の皇帝陛下御愛用の兜を再びミズホ刀で真っ二つに切り裂いていた。
 相変わらず、惚れ惚れするほどの刀の腕前である。

『その兜。直していたんですね……』

『イーナ殿よ。直さねば、また真っ二つに出来まいて』

『それはそうですね……』

『さすがに四つに割ると修復が困難なのでな』

『はあ……』

 イーナが再び真っ二つになった兜を見て顔を引き攣らせ、ミズホ上級伯爵の方は満面の笑みで答えていた。
 兜を斬って、ストレスが大分緩和したのであろう。
 しかし、ミズホ上級伯爵家お抱えの職人は優秀だ。
 短い期間で、真っ二つになった兜を完璧に修復したのだから。
 さすがに皇帝から下賜された物を壊すのは風聞が悪いので直させているのであろう。

 いや、正確には壊れているのを外部の人間に見られると風聞が悪いというのが正解であろうか?

 それを俺達の前で見せるとは、どうやら仲間扱いしてくれているようだ。

『でも、いくら真っ二つにしても安心だね。優秀な職人さんが直してくれるから』

『確かに継ぎ目がわからないほど完璧に直してありますが、そういう問題ではないでしょうに……』

 ルイーゼからすると直せるのであればミズホ上級伯爵がストレス発散で兜を真っ二つに切り裂いても問題ないと思っているわけだ。
 カタリーナからすれば、皇帝から下賜された品に何て事をという考えなのであろうが。

『私達には優秀な職人がいないから、その上着を真っ二つに出来ない』

『そうか。それは残念であるな』

 ヴェルへの名誉の下賜品は、少しボロい上着一着である。
 確かに素材は良いのだが、もう古いのだ。

『ミズホ伯国から衣服の修理専門員を借りてくれば、いけると思うがな』

『その手があるな、では、早速』

 導師がボロい上着を手に

『ヴィルマさんも、伯父様も、ルークさんも。こういう品はちゃんと保存しないといけませんよ』

 エリーゼの注意を受けた。
 昔から、金の無い貴族や王様などが名誉だからと言って愛用の品を渡して褒美を誤魔化すケースがある。
 江戸時代に商人から借りた金を返せない大名がそれを帳消しにするために殿様が着ていた服や愛用品を渡すのと同じだ。

『今は価値がありませんが、後世では名誉になるかと』

 貰った方も、まさかくれた相手の前でガッカリするわけにもいかない。
 ここは喜んで貰っておいて、今は損でも何世代か後に屋敷に飾って名誉だと言って自慢したりするのだとエリーゼは説明していた。

『長期的には、少しは取り戻せるのか?』

『あなた。その考え方は商人の物ですが……』

『しかし、この上着をヴェルへの褒美として渡したのはな。せめて導師とかに渡してくれれば』

『渡してくれればなんだよ』

『外交上、大きな失点になるんだが、ヴェルに渡したのだから小さな失点にしかならない』

 皇帝は、夏の収穫後にニュルンベルク公爵の討伐軍を起こし、その戦利品で俺達に褒美を支払うという考えを持っている。
 今は出せないので、こんなボロい兜なり上着で誤魔化しているのであろう。

『テレーゼやミズホ伯国から食料の補給はきているが、これもギリギリの量だし、フィリップ公爵家の財政も相当に厳しいはずだ』

 こういう時に備えて普段から節約に励む貴族だが、数か月も帝国北部の諸侯を率いて内乱を戦ってきたのだ。
 内情は火の車のはずだ。

『夏の収穫まで兵を動かさないのであれば、我がミズホ伯国軍も兵数の削減をしないと財政が厳しいな』

 1万8千人ほどを連れていて、その内847人を戦死させたそうだ。
 ニュルンベルク公爵に攻撃手段をかなり防がれたとはいえ、その精強さで犠牲は少ない諸侯に数えられる。
 ミズホ上級伯爵は、何かあった時のためにこのサーカットの町に五千人ほどを残して一時領地に戻ると宣言していた。

『職人達に発破をかけないとな。鹵獲したゴーレムの残骸の解析もある。魔大砲も出来る限り改良して数も増やさなければ』

 ミズホ上級伯爵は、ニュルンベルク公爵を討てなかった事が相当に悔しかったようだ。
 夏までにミズホ伯国軍の戦力を更に強化すると宣言していた。

『俺も鹵獲したゴーレムの残骸の解析があるな。後は、ヘルムート王国の魔道具職人にゴーレムの解析を期待するしかないな』

『まったく期待して無さそうね』

『解析はできても、そこからゴーレムの新規製造やゴーレムの技術を応用したのがないからな。期待は薄いな』

『テレーゼ殿も一度フィリップ公爵領に戻ると聞いている』

 ミズホ上級伯爵からの情報によるとテレーゼと皇帝は対立はしたものの、さすがに内紛ともなればニュルンベルク公爵を利するだけだと互いに妥協点を見い出したそうだ。

『帝都を押さえたとはいえ、皇帝の権威と統治能力は地に落ちているからな』

 今は帝国中央部の統治すら完璧に行えていない。
 そこで、ソビット大荒地以北の統治をテレーゼに一時委託するそうだ。

『一応、領地の加増転封などの布告は出ているそうだ。実際に行うのは、ニュルンベルク公爵討伐後だそうだが……』

 今でも混乱しているのに領地の変更など行ったらそれを助長するだけなので当然であろう。
 ただし、それは褒美の凍結でもあるので解放軍に参加していた貴族達の不満は溜まっている。

『今でも、持ち出しばかりで借金で首が回らない貴族もいるのに……』

『だから、ソビット大荒地以北はテレーゼ殿に任せるのだ。解放軍に参加していた者も多いからな』

 皇帝が、その不満をテレーゼに向けさせようとしている意図は明白であった。

『それって、東部と西部もですか?』

『当然そうなる。何しろ、選帝侯家が碌に機能しておらぬのでな』

 当主を人質にされていたと思ったら殺されていて、家臣や兵員は俺達や解放軍との戦いで擦り減らされている。
 戦費で財政も悪化し、フィリップ公爵家とバーデン公爵家以外はほぼ死に体の状態らしい。

『バーデン公爵家は公子殿が正式に家督を継いだが、あそこも損害を出しているからの』

 反乱軍との戦闘による兵員の消耗に彼は帝都にいる父親を非情の決断で切って解放軍に参加した。
 やはり、帝都にいたバーデン公爵家の関係者は全て処刑されていたそうだ。

『それでもマシだと思うが、彼はテレーゼ派と見られて皇帝に嫌われたからな』

 テレーゼと同じく東部の領地に戻って諸侯の取り纏めをするそうだが、南部寄りの東部諸侯の中にはニュルンベルク公爵に付く事を表明している貴族がいる。

 既に反ニュルンベルク公爵派の貴族との小競り合いが始まっているそうだ。

『大丈夫かな? 新バーデン公爵殿は?』

『前は無理な侵攻作戦のせいで小僧扱いしたが、少し可哀想になってきたな』

 一度失敗してからのバーデン公爵公子は、真面目に堅実に解放軍の一翼を指揮して戦果を挙げている。
 苦労もしているので、もうミズホ上級伯爵もわだかまりを抱いていなかった。

『東部はまだ何とかなるな。問題は西部であろうな』

 西部領域には、選帝侯家が三つも存在している。
 大ダメージを受けた彼らに西部の安定した統治など不可能で、東部と同じく南部寄りの諸侯にはニュルンベルク公爵に味方している者も多い。

 当然、小競り合いは始まっていて、現在一番混乱している地域だそうだ。

『その前に当主争いで揉めに揉めている家もあるからな』

 亡くなった当主が次期後継者を指名しないまま、ニュルンベルク公爵に殺されてしまった公爵家もあるそうだ。 
 複数の候補者が『自分に継がせろ!』皇帝に直訴し、他の貴族達と組んで醜い家督争いを始めてしまった。
 当然、自分の領地も混乱しているのに西部の統括など不可能である。

『皇帝が当てにならないから、テレーゼ殿に後ろ盾を頼む後継者候補もいてな。それを知った皇帝がお冠なのだよ』

 自分に調整能力が不足しているからなのにテレーゼが差し出口を利いていると激怒しているそうだ。

『頭が痛くなってきた。ニュルンベルク公爵は恐ろしい人だな』

『ああ。目的のために手段を選ばぬ』

 帝都を放棄した時点で、普通ならば不利になるはずなのに逆に有利になっている。
 なぜ選帝侯とは違って皇帝を生かしていたのか、彼の策士ぶりが今になって理解できてしまう。

『バウマイスター伯爵。これはもうひと波乱あるぞ』

『ですね』

 皇帝は、じきにニュルンベルク公爵に叩き潰される。
 帝都、帝国中央部、西部の大半も再び彼の手に落ちるであろう。

『魔法使いの不備を古代魔法文明時代の遺品で補って強化された軍勢を持ってしてな』

 それは、俺も、テレーゼも ミズホ上級伯爵もわかっている。
 だが、帝都に皇帝がいる以上は対策が取れない。
 それこそ、クーデターでも起こして彼を皇帝の椅子から引きずり降ろすしかないであろう。
 それをすれば、ニュルンベルク公爵と同じく反逆者の汚名を背負う事になる。

『よって、ワシは領地で準備を整える』

 色々と準備が必要であるし、全軍をここに駐屯させるとサーカットの町への負担が大きいからだ。
 ただ、元から五万人しかいない町と砦に二万人の軍が駐屯すれば問題になる。
 うちは減らせないので合計で一万人、半数にしてあとはテレーゼと共同で補給を送るそうだ。

『食料と交易品を持ってくるから、その販売益で一万人を夏まで養って欲しい』

『何とかしますけどね』

『バウマイスター伯爵殿やファブレ伯爵殿は、我らの文化や気質に理解が深い。家臣や兵達にも人気があるので、安心して任せられる。こうなれば夏以降に暴れてやるわ』

『そうですね。もう少しこちらに行動の自由があれば』

 どうせ命がけなのだから、もう少し自由に動きたい物だ。



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