様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 無事に進路も決まり、俺たちはいつものように森に入り、そこから『瞬間移動』を行おうとする。
 だが、今日は初めてそれを中止する羽目になっていた。
 なぜなら、普段から『瞬間移動』の魔法を見られないように『探知』の魔法もかけて警戒しているのだが、今日、始めてそれに反応があったからだ。

「南西の方角、人の気配が5つ?」

「え?」

 俺の言葉にハクカが驚いた顔をしていた。
 今までに感じた事のない数の人間の反応であった。
 特にこの森はファブレ家に独占権があるので、余計に他の人間が入って来るはずがない。
 それに、他の村人達には他にいくらでも狩猟と採集が可能な森が沢山存在している。

 それだけ未開発地が多いとも言えるが、ファブレ家としてはこの森以外なら、税金さえ納めていれば自由に森に入れる許可を出している。

 なので、この件で領民が不満を述べた事など一度として無かったのだ。

「(では、何のために?)」

 もう既に俺は彼らに視界に入っていた。
 そのくらい距離が近付いていたので、俺は魔法で逃げるわけにもいかず、仕方が無いので、俺の横に並んでいるハクカの前に出て

「だれだ!」

 俺が人の反応を感じた方向に向けて声を荒げると大木も影から反応と同じく5人の人達が姿を見せる。
 良く見ると彼らは顔見知りであった。
 父の妾であるレイナに、その父であるこの近辺の村の名主をしているレイナの父のヒルゼンだ。
 あとはその子供達である俺の腹違いの兄姉達でファブレ家の七男で名主候補のザネ(22歳)とファブレ家の長女でヘレナ(19歳)と3女のヘル(16歳)であった。

 彼らとは、一応は顔見知りである。
 しかし、実際に始めて会話を交わしたのは、ルパンの結婚式と、その後に行われたパーティーの席でだけだ。
 腹違いとはいえ同じ父の子供で兄弟姉妹なわけだが、俺達の母親が貴族出身で、彼らが名主とはいえ平民の子供である事から、この世界ではその扱いが大きく変わる。

 まず、本妻に子供がいなければ相続権など欠片も発生しないし、父親が認めなければ娘ですら政略結婚の道具にもなり得ない。
 大半の庶子達は、家臣筋の家に養子や入り婿として入るか領内の名主や村長の家を継いだりするのが恒例だ。
 そのような事情から、父は自分の子供なので別として、トニーやルパンなども彼らとはほとんど口をきかなかった。
 明らかに俺や自分達の母でもあるハンナに遠慮していているのは明白であった。
 実際、母も邪険にしていると言うか身分差があるからという態度でレイナ達とは口を利いていなかった。
 一方の俺も実の家族とすらあまり会話が無いのだ。
 まだ二回しか顔を合わせていないこの人達とは当然ほとんど口すら利いた事が無かった。
 なのに、今、彼らは明らかに俺に用事があって、こうして目の前に姿を現していたのだ。

「突然の無礼をお許しください。ルーク様」

 5人を代表して、名主であるヒルゼンが俺に挨拶をしてくる。
 彼はもう六十歳近い年齢の人物であったが見た目は十歳以上も若く見える。
 代々、この近辺の村の管理を行う名主の家に生まれ、農民達からも先代の祖父や父からの信頼も篤い男というのが周囲からの評判であった。

 それと相変わらず騎士の癖に碌に漢字すら読めず、税金の計算すらままならないファブレ家の人間とは違い、普通の読み書き計算や領民達からの税の徴収や簿記や会計などを財政面を含めた一切合切まで行えるのだ。
 更に今は引退しているが、若い頃はファブレ家の従士として、数十年前には先々代のブライヒレーダー辺境伯の要請を受けて援軍に赴き、ブライヒレーダー辺境伯と隣接するアインスバッハ子爵との領地境を巡る小規模な戦闘にも参加した事があるらしい。

 なるほど、今もなかなかに油断のならない顔付きをしているように見える。
 それと、まだ11歳の八男坊とはいえ、父と正妻である母の息子である俺への言葉遣いにも隙が無い。
 これがバカだったり無教養だと血筋だけで何の力も無い俺にぞんざいな口の利き方をしたりするのだ。
 俺からすればどうでも良いのだが、この世界における貴族と平民との身分差は大きい。
 俺がまだ貴族籍から抜けていない以上は、この目の前のヒルゼンの口調の方が正解なのだ。

 現に、その後ろにいるレイナも他の兄姉達も余計な口など利かないで静かにしている。

 実際に俺を生んだわけではないレイナはともかく他の3人は俺の兄と姉なのに、気安く口を利いて来ない辺り、それだけこの世界の身分差は大きいという事の証明でもあったのだ。

 特にここが王都近くの中央部であったりすると平民が貴族にぞんざいな口を利いただけで斬り捨てられるケースもある。
 これは別に、その貴族が傲慢というわけではない。

 この身分制度がヘルムート王国のみならず隣のアーカート神聖大国の安定にも寄与している以上、その秩序を破った人間を公式の場で裁かないわけにはいかないからだ。

 たださすがに斬られる平民は少なく、大抵は鞭打ち程度で済まされるのだ。

「それは良いんだけど、何の用事なのかな? 俺たちは、これから狩りに行くんだけど」

「いきなりこの場に現れた事をお許しください。実は、ルーク様にお願いがあって来ました」

「お願い?」

「単刀直入に申します。ルーク様には、ファブレ家を継いでいただきたいのです」

「はあ?」「・・え?」

 突然のお願いに、俺とハクカはその場で目をパチクリとさせてしまうのであった。

「現在、このファブレ騎士領では、静かに領民達の不安と不信が増大しているのです」

 ヒルゼンから出た言葉はとんでもない爆弾発言であった。

「・・・・・!」

「聞かなかった事する」

 俺としては、そうとしか言えなかった。
 ファブレ家には父が健在で、しかも彼は長男のトニーを後継者にすると既に内外に発表している。
 更に、無事に結婚して子供まで生まれているのだ。

 しかも、その子は男の子だ。
 普通に考えれば、ファブレ騎士領を相続するのは、トニー、その子の順番なのは誰の目から見ても明らかであった。

「しかしルーク様」

「あまりに脈絡が無い頼みで、話にもならない」

 そう、いきなりこんな話をされても俺は困るのだ。

 まだ11歳の八男坊をこの場でそそのかしてその気にさせたとして、果たしてこれからどうしようと言うのであろうか?

「今の当主は父上だし、父上は子供が生まれた長兄トニーを後継者として発表している。しかも、俺の上にはまだ継承順位が高い兄の子供達がいるんだ。ヒルゼンの提案を荒唐無稽と呼ばずして何と言えば良い?」

 現在のファブレ騎士領の継承順位は、一位がトニー、二位がトニーの長男ニエル(6歳)、三位がトニーの次男レンツ(4歳)、4位が俺となっている。

 ルパンは分家に婿に行ったため継承権を放棄している。
 三男のリョウと四男のグラムと五男のヘルムートと6男のアンディ兄さんもすでに継承権を放棄しているのだ。
 現時点でトニーが失点を犯していないのに未成年でもある俺を次期当主にするのは不自然過ぎる。
 何より最大の難関である父の説得すら出来ないで何が当主になって欲しいだ。
 ひょっとすると、このヒルゼンは誰かに頼まれて俺を御家騒動の主犯として処分するつもりなのかもしれない。
 そんな陰謀論までもが、頭に浮かんで来る俺であった。

「荒唐無稽な事を言っているのは自覚しています。ですが、ここで手を打たないとファブレ騎士領は将来、確実に衰退するでしょうな」

「衰退?」

 俺には、なぜこのファブレ騎士領が衰退するのか理解できなかった。
 膨大な開発をすれば莫大な富を生み出す未開地があり、もし天地の森の一部でも開く事に成功すれば海とも接する事が可能な領地なのにだ。

「そう、開発できれば未来は明るいでしょう。ですが、それは現状では不可能なのです」

 ヒルゼンは、俺に自分の想定するファブレ騎士領の未来を含めた十一年前に失敗した天地の森への出兵事件以降の裏事情を説明し始める。

「十一年前の出兵は、痛恨の失敗でした」

「それは知っている」

「先々代ブライヒレーダー辺境伯のお願いという名の強権により領民の10分の1を出兵させられたわけです」

 ブライヒレーダー辺境伯領は、その気になれば三万人以上の兵力を動員可能であるらしい。
 とはいえ、領内の治安維持や周辺には領地境で揉めている貴族も数名いるし、もっとも現実的な予算や兵站の問題もある。
 いくら寄子とはいえ、ファブレ騎士領の領民も自分達よりも圧倒的に数が多い他領の軍勢に不安を覚えるだけだ。そのためブライヒレーダー軍を監視するために60名以上もの領民を徴兵して、天地の森に行かせたのだ。60名以上の兵士は、領民の不安を和らげるためなのと寄親であったブライヒレーダー辺境伯に納得させるために必要な動員兵力だったのだ。

「それで、2000人という中途半端な軍勢だったか」

「お館様が出した65人でもありがたかったようですな。そして、ブライヒレーダー辺境伯の真の目的ですが……」

 先代のブライヒレーダー辺境伯には、二人の息子がいた。
 長男のダニエルと次男のアマデウスで、先代ブライヒレーダー辺境伯は頭脳明晰なダニエルを溺愛し、彼を後継者として期待していたらしい。

「ですが、彼は不治の病に犯されてしまいました」

 ブライヒレーダー辺境伯はありとあらゆる手を尽くしたが、彼の死期は間近まで迫っていたようだ。
 そして、そんな彼を治せるかもしれない僅かな希望。
 それが、伝説の魔物古代竜の血から作る霊薬であったらしい。

「天地の森や魔の森には、その古代竜が住んでいる可能性があったのです」

 他の冒険者が出入りしている魔物の領域では、遂に発見できなかったようだ。
 そこで、彼は未知の領域である天地の森に期待したらしい。

「冒険者に頼めば良かったのに」

「失礼ながら、そんな命知らずはおりません」

 まず苦労してファブレ騎士領まで長旅をし、そこからまるで人間が住んでいない未開地を何百キロも横断する。
 そこまでしてようやく天地の森へと到着し、そこから気合を入れて古代竜を倒す。
 確かにこんな依頼、いくら積まれても嫌であろう。

「その後の結果は、以前のお話通りです。先々代ブライヒレーダー辺境伯以下軍は壊滅。五体満足で戻ったのは50人程度でしたな。我がファブレ騎士領軍も同じです。生存者は、二十三名にしか過ぎませんでした」 

 当主を失ったブライヒレーダー辺境伯領は、父の死を聞いた直後に亡くなったダニエルではなく、アマデウスが継いでいる。
 全く跡取りとしては期待されていなかったのに、いきなり跡を継がされたのだ。まず最初に全兵力の10分の1とお抱えの優秀な魔法使いを失った状態からスタートである。
 きっと、物凄い罰ゲームだと考えたであろう。

 大貴族の軍事行動の失敗は、周囲の領地境紛争などで争っている貴族達に舐められる要因となるであろうからだ。
 現ブライヒレーダー辺境伯の船出は、相当に苦労の連続であった事は想像に難くない。
 しかし、失ったのは金と物資ばかりではない。
 働き手も一気に失ってしまい、農地の開墾や用水路工事の働き手を抽出した結果の毎日のパンと野菜スープとサラダのみの夕食であったらしい。
 農地の開墾さえなければ、畑仕事の合間に男手で狩猟に出かける時間くらいはあるのだ。

「こんな閉鎖性の強い田舎の農村です。不満は爆発寸前なのですが、暴発するわけにもいかずというわけです」

 更にヒルゼンからの話は続く。

「現在、お館様に不満を覚える人間は多いのです」

 まずは、十一年前に一家の大黒柱や前途有望な若者を失った家族。
 次に、その援軍を率い、戦死してしまった分家当主である大叔父の親族や家人達とその家族達。
 この家にはルパンが当主として入っているが、彼は現在針の筵状態らしい。
 穿った見方をすれば、ルパンは本家の影響力を強くするために分家に送られたスパイにも見えるであろうからだ。

「さすがにルパン殿も危機感を感じているようです。婿入りで本家との縁も切れたので、今では完全に反本家の立場を表明しています。実は、ルーク様が次期当主になる件でも賛成してくださいまして」

「おい……」

 出て行く家なのであまり気にもしていなかったが、現在のファブレ家はかなりヤバい状態にあるようだ。

「そして、これが一番深刻かもしれませんな」

 ようやく農村の開墾は所定の計画を終えて終了していたが、これは当然人口が増えればまた新たに計画される事となる。

「しかし、お館様や若様が指揮する開墾作業は評判が悪いのです」

 別に農民に鞭を打つわけではないらしい。
 自ら先頭に立って作業を行うし、食事なども皆と同じ物を取って自分だけ良い物を食べたりもしない。
 だが、父が体が丈夫で無理が出来るので、それを他の人間にも無意識に強要する癖があるらしい。
 しかも適度に休憩を取るとか、効率の良い工事を指揮するとか指揮官として相応しい能力には欠けるらしく、作業に参加している領民達からは評判は良くないそうだ。

「トニー様は、そんなお館様に何も言えないので、同じく評判が悪いです」

 ナンバー2なのに、ナンバー1に意見できないで、普通の作業員と同じ仕事しかしないのだ。
 それは、嫌われて当然だろう。

「人口が増えて、あの嫌な開墾作業が再開されたらと領民達が不安になっているのです……」

 開墾の間は食事が嫌でも貧弱になってしまうのもあり、彼らのやる気が激減し、開墾にかかる時間が増えたそうだ。

「更に悪い事にルーク様の魔法の件がバレました」

 せっかくの魔法なのだ。
 これをファブレ領の発展に生かせば良いのに父は爵位継承の秩序を保つため、俺を極力領民と接触させないようにした。
 もし本当に領地の発展を望むなら、跡取りを俺に変えてでも領地のために働かせるべきだと、そういう非情な決断を時にはしなければいけないのが、貴族と呼ばれる者の使命なのではないかと

「領民達は見切ったのですよ。お館様がこの僻地の農村で貴族様として振舞えて、波風立てずに家が続けば他は何もいらないと考えているのだと」

 そこまで見切られると、それは厳しいかもしれない。
 人間とは、欲を抱えた生き物だ。
 過度の欲は良くないが、適度な欲は。
 それも、もう少し自分達の生活を良くしたいなどの欲は、人間には必要不可欠なのだと。

「領民全員を最低限食わせるのは重要です。ですが、お館様はそこで止まってしまわれる。勿論それも大切でしょうが、先に未来を見せる努力も統治者には必要なのでは? と思う次第なのです」

 ヒルゼンは、ここまで喋ると今度は溜息をついていた。

「ヒルゼンの気持ちは理解できるが、ここで俺が次期当主になりたいと宣言して何になる? 余計な騒動が増えるだけだぞ」

 どう考えても本家の人間は一人も支持しないであろう。
 父が俺を後継にしなければ何をしても無駄だし、もし後継争いが中央の耳に届けば。
 なまじ距離感があるだけに中央の官僚が事務的に減封や領地の取り上げを命令する場合もあるのだから。

「騒ぐだけ無駄なんだよ。むしろ、騒いでは駄目だ。父上を説得して、新規の移住者を増やす産業なり、効率の良い開発を進めるしかないだろう」

「ですが、ルーク様の魔法があれば……」

「もしここで俺の魔法でどうにかしたとして、俺が死んだらどうするんだ?」

「それは……」

 魔法使いの素質は、遺伝しないそうだ。
 遺伝していれば、王族や貴族は魔法使いだらけのはずなのだから当然とも言える。
 そのために王家や貴族達は大枚を叩いて優れた魔法使いを囲い込もうとするのだ。
 話を戻して、もし俺がここで魔法を使ってこのファブレ領を豊かにしようとする。
 だが、もし俺が死んだ後はそれをどう維持するのであろう。
 もしかすると徐々に過疎化するよりも恐ろしい衰退が待ち構えているかもしれないのだ。

「それに、もし俺が強引に当主になっても絶対に揉めるからな」

 ヒルゼン達は父に不満を持っているようだが、領内にはそこまで父や兄に不満を持っていない人達だっているのだ。
 俺の当主就任後、彼らが俺に反感を覚えたらそれはそれで意味が無くなってしまう。

「なので、俺はこの話を聞かなかった事にする」

 俺は最後にそう言い残すとハクカの手を握り、急いで森の奥まで走り、すぐに瞬間移動の魔法で姿を消す。
 その様子をヒルゼン達は唖然と見つめていた。

「(というか、どうしろって言うんだよ……)」

 ヒルゼンの気持ちはわからなくもないが、まず順序が間違っているのだ。
 俺を説得する前に話を持って行く人が居るだろう。
 まずは父を説得できないと俺に話をするだけ無駄なのだ。

「(しかし、これは拙いな……)」

 父やトニーが、ヒルゼンの本心をどこまで把握しているのかは不明であったが、下手をすると俺にまで謀反の嫌疑がかけられてしまうかもしれない。
 もしそうなると色々と面倒な事になってしまう。
 いかに出て行く家とはいえ、穏便に継承権を放棄してから家を出ないと実家の継承秩序を乱した者として世間で鼻摘み者になってしまう可能性があったからだ。
 そういう嫌な風聞を背負った身というのも、これからの人生なかなか辛い物があるであろう。
 さりとて、これを父に相談するのも憚られる。

 もし、それを利用して父が俺の処分を狙っているのだとしたら?

 考えれば考えるほど、答えがこんがらがって来そうではあった。

「考えてもしかたない!」

「・・・そうだよね。それに私たちは、冒険者予備校に入学するんだよ」

「あ・・・早めに家を出れば、ヒルゼンたちから逃げることができる」

「・・・たぶん」



 主人公の親族紹介 ファブレ騎士領の住人の紹介

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