様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「中立都市宣言ですか?」

「そうだ。戦時には俺達は砦に立て籠もるから、そちらに配慮とか出来ない。治安維持は警備隊、行政は代官殿に任せます。今まで通りだろう?」

「はあ……」

 犠牲も出さずに占領したサーカットの町の役所で、俺は代官に軍政は敷かない旨を伝えていた。
 理由は、そんな人手があったら砦の強化工事でもしていた方がマシだからである。
 サーカットの町の南部には川が流れているし、砦の方も思ったよりも傷んでいなかった。
 それでも一秒でも早く補修や改築を行って防衛能力を強化する必要があったのだ。
 尚、この町の代官の名前は、ペンツェといい、掴みどころのない人物であった。

「あとは、商人の方々へ」

「倉庫の食料と物資でしょうか?」

「ええ。出来れば相場で売って欲しいですね」

「相場でですか?」

 商人達は渋っていた。
 今は戦時なので、粘れば相場以上で売れると思っているからであろう。

「この町と解放軍との補給ルートが繋がれば、そこまで値上がりはしないと思いますけどね」

 後背に領地がある貴族達も味方なので、食料の不足は無くなるはずだ。
 それに俺達に高値で食料を売って一時の利益を得ても、あとでテレーゼに睨まれれば意味が無い。
 ニュルンベルク公爵のように安値で買い叩くわけでもないので、俺は相場で売る事を強く希望していた。

「無理強いはしませんが」

「……」

 商人達は、渋々といった表情で余剰の食料を相場で売ってくれた。

「それと、わかっているとは思いますが……」

 反乱軍側への情報提供や密偵の匿いなどを行えば死刑だという脅しをかけてから、四千人までに膨れ上がった軍勢は砦に入る。
 砦は、規模が大きく全員問題なく入ることが出来た。

「不要な部分だけ壊して、町の拡張に使えば良かったのに」

「お上からの意向で、有事の時に使うかもしれないからそういう使い方や改装工事は止めてくれと言われたそうですよ」

 いつの間にか、老人達のリーダーになっていたポッペクさんはその辺の裏事情に詳しかった。
 何にしても助かったのは事実だ。
 すぐに長期籠城に備えて、全員がテキパキと動き始める。

「急ぎ作業を始めましょうか」

「平均年齢が高いよな、よく働くけど・・・・」

 エルがボソっと漏らすが、老人達は物凄く役に立っていた。
 紛争レベルではあるがみんな従軍経験があり、田舎の領地で生活しているので色々な事が出来る。
 早速、長年放置されて崩れかけていた壁と塀を漆喰で補強し始めたり、捕虜の管理なども自発的に開始していた。

「俺やエルやヴェルやリッドよりも役に立っているみたいだぞ」

「内部は任せるか」

 フィリップは王国軍組を警戒に回し、残りの老人達に砦の補修を頼んでいた。
 俺とヴェルとカタリーナとセイも近場の岩山に出かけて、使える石材の確保を行う。

「サーカットの町が発展できなかった理由がわかりましたわね」

 南の川は良しとして、残りの周囲に点在する湿地帯と岩山、小規模ながら魔物の領域もあって、町の拡張がこれ以上は不可能だった。
 その気になれば開発は可能であろうが、多分アルハンスの方が優先されて放置された物と思われる。

「ヴェンデリンさんやルークさんなら、短期間で埋め立てられそうですが」

「土砂が無いから。取りに行くのに移動魔法も使えないし、ここは他所の国だからな。面倒なのでパス」

 4人で石材を採集してから砦の拡張と強化を行う。
 作業者の大半が老人なので石材の積み上げは俺とヴェルが魔法で行い、他の作業は、手慣れている老兵が行ったので予定よりも早く作業が終わった。
 もし反乱軍が攻めてきても、俺達だけで防衛可能なように砦の工事を行うのだ。
 サーカットの町にいる代官には、その時には俺達と中立であると宣言するようにと言っている。
 物理的に町まで防衛できないし、反乱軍も同じ帝国人なので住民の殺戮や略奪などはしないであろう。
 それを行えば、悪評を利用される事くらいはニュルンベルク公爵も理解しているはずだ。

「何いうか慣れているのな……」

 エルが城壁増築工事の監督を行っているのだが、老人達は故郷で家や道の修復くらいは自分でやっているので、積んだ石材に器用に漆喰などを塗っていた。
 力仕事に難があるが、これは若い者達に任せるか、石材の積み上げはほぼ俺たちが魔法で行っている。
 作業は順調に進んでいた。
 砦の中でも老人達は器用に丸太小屋などを建設していた。

「老人パワー恐るべし!」

 前世の日本のみならず、この世界にも元気な老人は多いようだ。

「とにかく、いつ反乱軍が再奪還を図るかわからない。警戒を続けながら作業だ」

 主だった者達の意見が一致したので、早くに砦の強化工事を終えようと懸命に作業を進める。
 ただし、老人が多いので定期的に休みをちゃんと入れつつだ。

「なあ。反乱軍が来なくねぇ?」

 サーカットの砦に居を置いてから一週間。
 なぜか川の向こうに反乱軍の姿は見えなかった。
 二十四時間体制で警戒を続けているのに一向に姿を見せないのだ。

「ルーク。ここって本当に重要拠点なの?」

「地図だとそうなんだが……」

 帝都との間を川が遮っているが、直線距離でいうとアルハンスと距離でもそう違いは無いのだ。
 俺はミュウに地図を見せながら説明をする。

「それよりも町の代官がまた来ているわよ」

「またかよ……」

 イーナの視線の方向には、また代官ペンツェの姿があった。
 軍政を敷かないと宣言しているサーカットの町であったが、南との交易が途絶えたので数日で苦情は入ってきた。
 そのために俺たちは砦の工事をフィリップ、クリストフ、ポッペクさんに任せて北部との街道整備を行う羽目になる。

「ファブレ伯爵様。北方との交易が始まらないと我らは飢え死にですぞ」

「わかった」

 既に街道はあるのだが、実はサーカットの町の北部は広大な湿地帯である。
 それを避けて曲がりくねった道なので、回り道の分だけ北部との交易が落ちるらしい。

「南部との交易が途絶している以上は、北部との交易を……。砦にいるポッペク様達領主連合との交易の促進を進めませんと……」

「そういう理由なら仕方がないか」

 俺たちは、サーカットの町から真っ直ぐ北に伸びる街道の整備を行う。

「ここって、何で湿地帯なんだ?」

「南を流れる川の水が流れ込んでいるようですわね」

 共に駆り出されたセイとカタリーナとヴェルと共に工事を始めるが、まずは湿地帯をどうにかしないと道など作れるはずがない。
 先に川の治水・護岸工事をして、湿地帯に川の水が流れないようにする工事から始める羽目になっていた。
 洪水対策で土による堤防を作り、続いて湿地帯に次々と『ファイヤーボール』を撃ち込んで強引に乾燥させていく。

「あまりエレガントではありませんわね」

「じゃあ、カタリーナが華麗で手間がかかる方法でやる?」

「さあて。工事を続けましょうか」

 カタリーナは、自分も次々と『ファイヤーボール』を連発して強引に湿地を乾燥させ始める。
 道を作る部分だけ念入りに乾かし、

「1.5mですか」

「ああ」

「そこまでやるものなのですか?」

「内乱にどれ位かかるか分からないからな」

 土を1.5mほど取り除き

「転圧は任せていいか」

「ああ」

 というわけで、大量の小石を敷き詰めて先ほどの土を入れて、ヴェルが土を転圧したのであった。
 そして、石材を敷いてこれで完成だ。

「いやあ。予想以上に素晴らしい道ですねぇ」

 ペンツェは褒めてくれたが、それよりも気になるのは道の端で排水避けの溝を掘る作業員達の存在だ。

「あくまでもついでに街道の完成度を高めています」

「ついでねぇ……」

 代官が独自に人を雇って工事させているらしい。

「あの連中は?」

 ある程度乾いた湿地を耕し、雑穀の種を撒いている農夫らしき人達もいた。

「この湿地帯は地下水由来の水が原因ではないので、バウマイスター伯爵様とファブレ伯爵様が河川の工事をしてくれたおかげで、じきに住宅地の開発が進められます。ありがたい事で。ただ、地面の完全な乾燥には時間がかかると思いますので、食糧確保の観点からも雑穀を栽培しておこうと水分も作物に吸収されますしね」

「そうなんだ」

 この代官、地味に農業などにも詳しいようだ。

「バウマイスター伯爵様とファブレ伯爵様のお手は煩わせません。私達が勝手にやっている事ですので」

「はあ……」

 そんな経緯もあり、1週間ほどで北方へと続く石畳の街道は完成していた。

「それで、今日は何か用事で?」

「実はですね……」

 湿地帯のため、無駄に西に迂回している街道の整理をお願いしたいのだそうだ。

「ファブレ伯爵様は、西にあるアルハンスとの連絡を強化して、そのラインで帝都に圧力をかけるそうで」

「申し訳ないですが軍事機密です」

 とは言ってみるが、少し知識があれば子供にでもわかる作戦方針である。
 このペンツェが気が付かないわけがない。

「ええ、わかりますとも。ファブレ伯爵様は、この方面の軍勢を任されている指揮官様でございますからね。軍事情報の秘匿にご熱心でいらっしゃる事は重々承知しております」

 この方面の指揮官というのは誇張であろう。
 メインはアルハンス攻略の大軍で、俺達は遊軍みたいな扱いなのだから。
 サーカットの町に来たのもポッペクさんの入れ知恵のせいであった。

「つまり西にも真っ直ぐな街道を作れと?」

「実は、町の人間も西の開発を切望しておりまして……。南部との交易が絶たれましたでしょう。北部はファブレ伯爵様とバウマイスター伯爵様のおかげで良い街道が出来ましたので、交易も進むでしょうが……」

「西ね」

「アルハンスとの交易が促進されれば、この町の戦略的な価値も上がりますでしょう?」

 この代官、ローデリヒさん並みに優秀かもしれない。

「……」

「ヴェンデリンさん、ルークさん、私たち体よく利用されていませんか?」

「カタリーナ、それは口にしてはいけない」

 俺は、またセイとヴェルとカタリーナを連れて町の西へと向かう。
 そして、なぜこの町の規模が小さいのかを理解してしまう。

「北は湿地で、西は丘陵地帯になぞの岩山か……」

 とにかく、平坦な土地が一平方メートルも存在しない。
 町を拡張しようにも場所が無いのだ。

「湿地よりは楽か……」

 俺とセイとヴェルとカタリーナは、地面を平らにしながら西にも道を広げていく。
 丘を削って出た土は川の西側の堤防の材料に、石材は堤防の強化に、町でも需要があるとかで商人が購入していった。
 あとは……。

「砦の第二期工事?」

「なぜ?」

「人員が増えたから」

 北の街道が完成した直後から、町に北方の貴族で解放軍に軍を出していなかった貴族が兵を送ってきたそうだ。
 他にもサーカットの町からも義勇兵が志願してきたらしい。

「志願兵? それはまずくないか?」

 戦闘時にはサーカットの町は中立を宣言するのに、そこから兵士が出てはまずいと俺は思ったのだ。

「だからこその義勇兵なのですよ。個人で志願しているから、町は関係ありませんよというスタンスです」

 クリストフは、そういう事情なので受け入れたと事後報告してきた。

「扱いが面倒なので、もしここに反乱軍が攻めてきたら防衛戦には参加する。ただし、我ら進軍後には、ここを守る防衛軍として再編成するですか。それは、ご老人達も同じですね」

 確かに思ったよりも役に立つが、ニュルンベルク公爵が率いる精鋭達との決戦には使えない。
 彼らも、この時点で十分に功績を挙げているので無茶をしないはずだ。

「テレーゼが軍政官を送ってきたら、そいつに指揮させてここの防衛を任せるさ」

「その前にファブレ伯爵とバウマイスター伯爵が見事にこの町の代官に利用されていますが、ここは精々利用されてください。我らの安全のために」

「ちくしょう! 十分に自覚していたよ!」

「分かっているよ」

 そんなわけで、俺とセイとヴェルとカタリーナはまた1週間かけて町の西に石畳で立派な街道を整備した。
 さすがにアルハンスまでの街道全てに工事は行っていないが、余計な迂回路が減って距離は大分短縮されたはずだ。
 他にも町の西に広大な平地が広がり、川の堤防も西に伸び、平坦にした町と隣接している箇所では、代官が大工達に住宅地を作るように指示していた。

「住宅地の造成?」

「この町では、最近、住宅の不足が問題になっておりましてですね。土地も無いので困っていたのですが、大変にありがたい事です」

 俺とセイとヴェルとカタリーナの工事のおかげですとペンツェは嬉しそうにしていた。
 大工達も早速、土台から工事をしている。
 ちなみに家の材料は俺達が切り出して売った石材がメインになっていた。

「お礼と言っては何ですが、フィリップ様とクリストフ様が砦の拡張工事を行っておりますので有志者を送り出しておきました」

 クリストフが言うまでも無く、俺たちは代官に利用されている。
 だが、そのおかげで食料などは適正価格で売って貰えるし、工事用の人足達も町が日当負担で出している。
 統治に手間もかかっていないし、お互いのために俺たちは魔法で工事を続けないと駄目なのであろう。

「こうなれば、どんどんやるぞぉーーー!」

「ヴェンデリン様。あまり無茶をしないでくださいね」

「エリーゼは優しいな。戦闘じゃないから全然無茶じゃないけどね」

「ヴェル・・・やめろ」

「ヴェル君・・・やめたほうがいいわよ」

 俺とセイの制止の声は、エリーゼの応援とヴェルが闘志を燃えたため届いていなかった。
 ヴェルは、道を整備して、東側の河川の堤防工事も行っていた。
 これら全ての工事が終わるまでに1ヶ月、なぜか反乱軍は再奪取に向けて攻めて来ない。
 おかげで、工事は予定通りに全て終了していた。
 三方が開けたサーカットの町には建設の槌音が響き、周辺の解放軍に帰順した領地から多くの人達が交易や建設工事で仕事を行うためにやってくる。

 そしてその頃になるとテレーゼから定期的に最新の情報が届いていた。

『アルハンスは包囲中じゃ。暫しそのサーカットの町で待て』

 ニュルンベルク公爵の子飼いではないが、反乱軍二万人ほどが籠城しているので包囲して犠牲を減らして落とす方針にしてしまったそうだ。

 すると包囲中の解放軍にニュルンベルク公爵が別働隊を編成してちょっかいをかけてくる。
 解放軍を消耗させるつもりなのは目に見えているので、テレーゼも援軍を率いてアルハンスの包囲戦に参加していると手紙で知らせてきた。

『ニュルンベルク公爵はこちらに夢中で、ヴェンデリンにちょっかいを出せぬようじゃの。油断せぬように、サーカットの強化を頼むぞ』

「強化って、何をすればいいんだ?」

「もうしているじゃないか」

「もうしていますね」

「代官殿が、旧下町の取り壊しをファブレ伯爵殿とバウマイスター伯爵殿に依頼してきましたが」

「あのクソ代官。俺たちを利用し尽す腹だな!」

「ルークは断ってたよね」

「俺たちは王国人だからな。西と北は補給や軍事の関係で仕方ないだが、東は関係ないんだよ」

 依頼を受ける事は身の安全にも繋がるからやるしかないのだ。
 軍や貴族の管理は、フィリップ、クリストフ、ポッペクさんにお任せなので、あとは飯を食べて風呂に入ってハクカやミュウやヴィルマやセイと久しぶりに励んだり、ハクカやヴィルマやセイやミュウと4人あるいはハルカを入れて5人でお店をめぐったり食事をしたりしたのだ。

「町人達がありがたがってこちらにえらく協力的だし、砦の拡張に川の船着き場の整備も終わっている。軍勢も六千人まで増えたし、フィリップ公爵閣下の期待には応えているぞ。良かったな。あとで沢山褒美が貰えるぞ」

「所でエルは?」

「あいつなら今日は非番だから、町に行ったぞ」

 それから1週間後。
 ようやくアルハンスの反乱軍が降伏したという連絡が入る。
 アルハンスとサーカットを繋ぐラインを確保し、その後背を解放軍の勢力圏にする事に成功したわけだが、アルハンスの商人が仕事を再開してサーカットに来ると、みんな驚いた表情を浮かべていた。

「西の街道が真っ直ぐで、石畳で舗装されていて、町の拡張工事が進んでいる! なぜだ!」

「理由は簡単だ。俺が工事担当なのと、ここの代官の人使いが荒いからだ」

 ついでに言うと、ここの代官でもあるペンツェは帝国の官僚で、反乱軍が勝とうが解放軍が勝とうが代官職を世襲しているサーカットの町が栄えるためなら何でもするという事なのであろう。

「ヴェンデリン様は、頑張りましたものね」

「うん。人様の国で頑張った」

 驚く商人の声を聞きながら、俺とハクカは休暇を取って買い物に出かけるのであった。



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