様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 それから数時間後、再び俺達は南下を続けていた。
 道案内役としてポッペクという騎士の爺さんが付いて来たのだが、一時領地に戻ってから連れて来た軍勢も爺さんばかりであった。

「余剰の食料はニュルンベルク公爵に安く買い叩かれてしまいましたし、若い者には畑仕事がありますからな」

 三十名ほどの軍勢の大半は、老人という編成になっていた。

「ファブレ伯爵殿。私の近所の領主達も合流させたいのですが」

「フィリップ殿?」

「集めた方が面倒が無くていい」

 フィリップの賛成により次々と近辺の領主が軍勢を率いて合流してくる。

「彼は、直轄地の代官です。細切れで狭い場所の代官なので、ほぼ世襲貴族みたいなものですがな」

 見た目は普通の爺さんであるポッペクは、意外と顔が広いようだ。
 彼の参加から一週間で、多くの貴族や直轄地の代官たちが手勢を率いて参加し、軍勢は三倍近くの四千人ほどにまで増えていた。

 しかしながら、兵士の大半は老人であった。

 動けないような者は参加していないので問題は無いと思うが、クリストフの予想が実現しつつあったのだ。

『食料がギリギリなので、老人が率先して兵役を務めているようですね』

 体の良い姥捨てのような気がしなくもないが、思ったほど弱そうには見えない。
 みんな若い頃に領地や利権争いで紛争には参加しているので、隊列を整えて歩くなどの行動には慣れていたからだ。

「後方からの補給も予定通りに来ていますし、軍勢として機能しているの問題ないでしょう」

 軍勢の数が増えると、それが目立ってまた他の貴族の参加を呼ぶ。
 ただし、老人が多い事を見抜くと、その貴族も老人兵ばかり連れてくる。

「戦闘にならない事を祈るしかないな」

「それはわからないな。それに新兵よりはよほど使えるから」

 老人兵達は、食事の支度も寝るためのテント作りにもとても慣れていた。
 更に二週間ほど南下を続けてアルハンスの東側に到着した時、老人達のリーダーのようになっているポッペクがとんでもない事を言い始める。

「サーカットを落としましょう」

「サーカット?」

 俺達が慌てて地図を広げて探すと、ここから十キロほど南にそういう名の町があるのを見つける。

「こんな町を落としてどうするんです?」

 エルの疑問ももっともであった。
 むしろ、これ以上の南下を止めてアルハンス攻めに参加した方が楽であろう。
 こちらは老人ばかりなのだから、後方で待機させてくれるであろうし。

「この町の隣には、廃棄された砦がありましてな」

「廃棄された?」

「ほれ。昨今のアレですよ。予算節約のために軍事施設の統廃合を行ったと」

 サーカットの町に隣接する砦は、昔は重要防衛拠点として機能していた。

「大昔、まだ帝国が小国で中央北部領域に敵国がいた頃に重要防衛拠点だったのですよ」

 その後、帝国の北伐は無事に進んでサーカットの町に隣接する砦はその価値を大幅に減じてしまう。
 そして、破却の話が持ち上がり、既得権益を持っている帝国軍上層部と数百年という交渉の日々を経て統廃合は実現した。それが実現したのは三十年ほど前だそうだ。

「そんなに長い間、帝国軍がコスト削減に反対したのか……」

「誰しも自分がつけるかもしれないポストが減るのは嫌ですからね」

「そうかもしれないな」

 俺もこの前、パルケニア草原で工房を破棄したから王国軍の警護を大幅にやめようとしたら、なぜか他の軍上層部から反対運動が起こったんだよね。

『たかが数百名のポストなのによく起こるな。ってか臨時だと説明したはずだが』

『それで納得しないのが人間であるな』

『アームストロング伯爵派閥やエドガー侯爵派閥が反対運動するなら分からんでもないが、他の派閥が何で反対運動をするんだよ』

『自分がつけるかもしれないポスト削減に反対しているのである』

『後は、王国と話し合えばいいだろう』

『そうであるな。王国としても空港の警備とこの辺の巡回警備あるのであるな』

『工房の警備員がそちらに配備されるような物だから定員的には問題なさそうだが』

『それでもひとつでも利権を狙うのが貴族の性でもあるである』

『アホらしい』

 後のことは、王国に任せて一抜けた。
 しかし、この爺さん、えらく帝国軍の事情に詳しいな。
 軍施設の統廃合なんて王国でも良くある話であったが、徐々に萎む軍に危機感を覚えてニュルンベルク公爵の反乱に参加したのではと個人的には下種な勘繰りをしてしまうのだ。

「でも破却したのでしょう?」

「予算が無いとかで、商人とかに貸していますよ」

 頑丈で防犯性に優れた石造りの倉庫があるので、これを町の商人達が借りているそうだ。
 浮浪者や犯罪者が入り込まないように定期的に警備の人間を動かして管理しているらしい。

「サーカットの町にはたまに買い物に行くので、知っているのですよ」

「一つ質問!」

「何でしょうか? ルイーゼ殿」

「サーカットの町って、アルハンスのように栄えなかったの?」

「人口が五万人はいるはずですから、中堅の商業都市ですかね。色々と理由があって、アルハンスに繁栄を奪われたと聞きます」

「ルーク。どうするの?」

「そうだな?」

 俺は地図を見ながら、これからの行動をどうしようかと悩んでいた。
 アルハンス攻めは主力に任せるというテレーゼの話なので、このまま無視してアルハンス攻めを後方から見学しているだけでも手柄は十分であったからだ。

 俺に付いて来ている貴族は五十名近いので、これで十分に功績になるのだ。

「偵察して、駄目ならアルハンスに行けば?」

「それが無難かなぁ……」

 試しに行ってみようという事になり、王国軍組とポッペク達が出す老人兵を組ませて偵察部隊を前に出しながらサーカットの町へと進んでいく。

 三日ほどで偵察部隊が戻り現地の状況を伝えてくるが、反乱軍は百名ほどの駐留部隊を残して全て後方に下がってしまったそうだ。

「また食料の買い取りとかしてそうだな」

「しているでしょうが、サーカットの商人なら隠匿も上手でしょうし、無理強いも出来ませんでしょう?」

「反乱軍が強要するかも」

「不可能じゃないかな?」

 ポッペクの意見にエルも賛成のようだ。

「どうしてそう思う?」

「確実に食料を引き揚げるために反乱軍は弱いポッペクさん達を狙い撃ちしたのだろうけど、サーカットの住民は五万人もいる。千や二千の軍勢で食料を買い取ろうとすると反抗するんじゃないのか?」

「五万人の半数は男性で、子供や年寄りを除いても万はいるな。どうせ大量に食料を消費をして足を引っ張る存在だし、少数の守備兵だけ置いて放置したんだな」

 フィリップも二人の意見に補強を行い、部隊内の意見はサーカット攻めで一致していた。

「サーカットの住民が敵に回らない事を祈るよ」

「バウマイスター伯爵殿。こういう内乱などの時には、庶民は冷静に勝者へ付くだけです」

 反乱軍が居座っていれば反乱軍だが、俺達が追い払えば解放軍につく。
 ただそれだけなのだとポッペクは言い切る。

「それを卑怯だと言ってはいけませんよ。彼らには彼らの生活があるのですから」

 別に俺は、嫌悪感は抱いていない。

「つまり、勝てばいいと?」

「サーカットの砦を補修しながら粘れば、アルハンスとのラインで帝都にプレッシャーを与えられますぞ」

「ポッペクさん。あんたは……」

 間抜けな奇襲をかけたかと思えば、降伏してからは有能な参謀に早変わりしている。
 軍の事にも詳しいようだし、田舎の騎士にしてはかなり違和感のある人物だ。

「私はただの貧乏騎士ですよ。昔は帝国軍にいましたけどね」

 次男なので帝国軍に勤めていたが、兄が早死にしたので領地に戻ったのだそうだ。

「兄には娘がいたので、私の息子と結婚させて領地を継いだわけです。昔は、これでもエリートコースに乗っていましてね」

 簡単に自分の事を語ってから、ポッペクさんは俺の肩に両手を置く。

「最初は反乱軍に組せざるを得ませんでしたが、良い時にファブレ伯爵が来てくれました」

「えっ?」

「他の貴族と兵士達もみんなジジイで、失敗して死んでも跡取りはいますから、頑張ってサーカットを落としましょうか。フィリップ公爵閣下へは良い手土産でしょう?」

 元は帝国軍のエリートであったが、兄の病死のせいで貧乏騎士になった男ポッペクさんは、ここで功績を稼いで最後の一花を咲かせるつもりらしい。

 彼の後ろにいる貴族達も全て同じ気持ちのようだ。
 だから、みんな死んでも惜しくは無い年寄りばかりなのかもしれない。

「ファブレ伯爵殿におきましては、公正な手柄の報告をお願いしたい次第でして」

「はあ……」

 俺は、爺さん達の迫力に辛うじて返事をするしか出来ないでいた。



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