様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「テレーゼ様。お茶をお持ちしました」

「すまぬの」

 ヴェルがフィリーネを受け入れて一週間。
 テレーゼが言うにはそろそろニュルンベルク公爵が軍勢を集めて攻め寄せて来るはずであったが、なぜかその気配が無い。
 俺の拠点にやってきたテレーゼを水色の着物で給仕をしているミカンがお茶を入れていた。

「これは、極秘情報なのじゃがな……。ヘルムート王国派遣軍とやらが、壊滅したようじゃぞ」

「はあ?」

 最初、俺はテレーゼが言っている事の意味がわからなかった。

「例の装置のせいで、ヘルムート王国北部も魔導飛行船の運行と通信が阻害されておるようじゃな。『ヘルムート王国の王宮は、出兵論を抑えられなかったのでは?』というのが、妾と他の貴族達の推論じゃの」

「陛下……」

 手柄や領地欲しさの貴族、予算増を狙う軍部、通信が不可能なので諜報網が不全で情報もほとんど手に入らず、不安に思った貴族から限定的な出兵論が出て、それを抑えられなかった可能性もある。

 ただ、これらの意見は全て推論である。
 通信が不可能なだけで、ここまで何も情報が入って来ないとは困った物であった。
 テレーゼも従来の早馬や伝書鳩による諜報網の構築でどうにか情報を集めているが、その速度と精度の劣化は著しかったからだ。
 お互いの密偵が殺し合っている事もあり、時には全く情報が入って来ない事もあった。

「完璧な情報ではないがの。様子見と隙あらばギガントの断裂北部の占領でも狙っていたのであろう」

 即席のロープウェーによる人海戦術で、推定五千人から八千人ほどのヘルムート王国軍が帝国領内に侵入したが、夜襲をかけてきたニュルンベルク公爵自ら率いる騎馬隊によって王国軍は壊滅したそうだ。

「王国軍。弱いなぁ……」

 味方とはいえ、情けなくなるほどの弱さである。

「ニュルンベルク公爵は、普通に軍で活躍しておれば名将じゃからの」

 足の遅い歩兵を後方に置き去りにしてでもギガントの断裂を渡ったばかりで疲れていた王国軍に速攻で夜襲をかけたかったようだ。
 騎馬隊のみで戦力に不安があっても、時の利を逃したくなかった。
 ニュルンベルク公爵が名将である証拠とも言えよう。

「それで、王国軍は?」

「かなりの貴族が討たれたようじゃな。誰かまでは情報が不足しておるが」

 王国軍の指揮官に北部の貴族でも兵を出していた者がいたのかもしれない。
 何にせよ、聞くまでも無く王国軍は壊滅だ。
 戻ろうにもロープウェーを渡らないといけないし、敗走してもギガントの断裂を渡らないと安全圏など無い。

「敗残兵狩りでやられるか、落ち武者狩りでやられるか、諦めて降伏するかじゃの」

「でしょうね……。それで、こちらに攻め寄せるのが遅れていると?」

「ヘルムート王国による次の出兵があるのか? 全滅したので萎縮して様子見するか? 見極めてから、こちらに攻め寄せてくるであろうな」

 あとは、あまり敗残兵を放置すると治安が悪化してしまう。
 ヤケになった敗残兵が、食料欲しさなどに村や町を襲う可能性があるので、ニュルンベルク公爵はそれらを掃討する義務があるからだ。

「クーデター政権だからこそ、民衆の支持を得られるように動くと?」

「どの程度が逃げおうせたのかは、全くの不明じゃからの。意外と手間取るかもしれぬ」

 数千人の王国軍を一撃で粉砕したとなれば、ニュルンベルク公爵は己の武勲を高々に語り始めるであろう。
 それにより彼に付いて行ってしまう貴族や民衆が増える可能性があるのだ。

「主戦派を抑えきれなくなって、ニュルンベルク公爵に抹殺させたのかな?」

 帝国内乱の情勢がほとんど入ってこない事で、王国で無謀な出兵論を唱える貴族が増えた。
 そこで、『じゃあ、お前らだけで先遣隊を組んで行け』という話になったのかもしれない。
 確率は低いが成功すれば万々歳で、失敗しても帝国軍が始末してくれるとか考えたのかもしれなかった。
 王国政府にいる怖い方々が。

「ギガントの断裂から、ここまで直線でも約1万キロですよ。反乱軍と解放軍の現在の勢力図と軍の配置状況を掴んで、ここまで組織的に敗残兵を纏めて逃げてくる指揮官の存在は期待薄ですね」

「そんな凄腕の指揮官がいたら、そもそも最初から全滅せぬであろう」

「それを言われるとなぁ……」

「ニュルンベルク公爵による適切な夜襲で、王国軍はホウセンカの種のように一撃で飛び散ったようじゃの。ただ、その夜襲で討たれた兵力は半数にも満たないらしい。よって反乱軍は、バラバラに別れて敗残兵狩りをしているようじゃ」

 テレーゼからの情報はそこまでであった。
 帝国南部に潜伏・逃走している敗残兵を壊滅させるまでは、ニュルンベルク公爵は動かない。
 そんな事情もあって、俺達はソビット大荒地の野戦陣地に籠る事になる。
 また手薄だからと城塞や町を占領しても、そこを占領した軍勢がモグラ叩きのように叩かれてしまうので、今度は素直に籠っているようだ。

 軍勢が増えたので、陣地、土壁、防馬用の溝などの工事が進み、軍団の編成と訓練なども行われる。
 兵士が増えたので、彼らの目当てにした商人が集まって町のような物も出来ていて、他にも戦地では付き物である色町などの管理も必要であった。

 当然、その負担は全てテレーゼに行く事になる。

「妾に色町など必要ないのじゃがな。放置すると密偵が入ってくるし、病気でも蔓延させられたら戦力が落ちる。全く、未通女である妾がどうして……」



 王国軍の潰滅からおよそ1ヶ月。
 望遠鏡やスコープの解析が完了したのであった。
 新たな魔道具としては『遠見鏡』という遠くを見渡せる鏡を製作したのだ。

『便利であるな』

『便利は便利だが魔法使いの『探知』には負けるんだよな』

 『遠見鏡』の使い手にカエデを指名したのだ。

『私ですか』

『ああ・・・・他に適任者がいない、ミズホ上級伯爵にはこちらから伝えておく』

 消去法でカエデが選ばれたのである。

『俺達に軍勢がいないからな』

『分かりました』

 錬金術にあたる物としては、鉱石の上位鉱石の開発に成功したのであった。銀からミスリルに変化することは割と知られているので他の鉱石類も似たような変化をしないのか試したら変化したのであった。例えば、鉄+無の属性石を組み合わせたら『魔鉄』に錫と無の属性石を組み合わせたら『魔錫』といった風に変化したのだ。硬度などもミスリルの例があるように相当上昇していた。上位鉱石から武器製作依頼をミズホの武器職人に出したのであった。現時点で信頼できるのがミズホしかいないのだから仕方ない。

『それでどうだ』

『そうですね。研究してみないと分かりませんがお時間をいただければ』

『いいだろう。存分に研究するといい』

 外が騒がしくなったので行ってみたら俺は野戦陣地の正面門近くの土壁の上へと登る。
 眼下には、髪も髭も伸ばし放題で、汚い服装の男性が多数集まっていた。
 ヴェルたちもいた。

「お代り!」

「私も!」

 野戦陣地に押し寄せた山賊のように汚い集団は、敵中を突破してきた王国軍の生き残りであった。
 念のために反乱軍の密偵がいないかを数時間かけて確認してから彼らは収容され、髪を切り、髭を剃り、風呂に入って出された食事をマナーも忘れて貪るように食べている。
 他の兵士達も他の場所で食事の最中であった。

「まさか。元ブロワ兄弟とは……」

「バウマイスター伯爵。過去の因縁はともかく、その呼び名は止めてくれ」

「私達の今の家の家名は、フレーリヒなので」

 辺境伯の次期当主候補から、王都の名ばかり法衣騎士家の当主と家臣へと転落した兄弟は、あまり貴族同士の交流にも呼ばれず、エドガー軍務卿などのツテで軍や役人の仕事をしていたはずだ。

「で?こんなとこで何をしているの」

「ああ、内乱に乗じてニュルンベルク公爵領を襲ったのだ」

「それで大惨敗したわけです」

 元ブロワ兄弟は簡潔に説明した。

「魔導飛行船が使えないのに?バカなんじゃない」

 大軍がギガントの断裂を魔導飛行船なしで超える。
 まず不可能といっていい。

「独断」

「違うわ!命令が出たんだよ」

「エドガー軍務卿がよく許したな」

「それはですね。兵を集めたのがレーガー侯爵だからです」

「誰?それ」

「軍務閥の重鎮で、エドガー軍務卿の政敵です。対帝国主戦論者でもあります」

 クリストフによると、レーガー侯爵が強引に出兵案を通し、諸侯軍と王国軍の一部を連れてギガントの断裂をロープで横断。当然、ニュルンベルク公爵が気がつかれないはずもなく、横断直後にニュルンベルク公爵自らが率いる軍勢により攻撃され壊滅したそうだ。
 レーガー侯爵は、ニュルンベルク公爵に直接斬られたらしい。
 フィリップと共に逃げてきた兵士がじかに目撃している。

「あれ?二人はエドガー軍務卿の派閥では?」

「レーガー侯爵は、控えめに言っても凡人です。まあ、お目付け役です」

「危険な分、生き残れば評価も上がると頼まれてな。結果は、ご覧の通り貧乏くじだ」

 ニュルンベルクがこっちにこなかったのは、南の王国軍に対応していたという理由もあるようだ。
 そして、生き残りの王国軍を率いて、元ブロワ兄弟は逃げてきた。

「事前にエドガー軍務卿から、バウマイスター伯爵たちのことは聞いていたんだ。まさか、ニュルンベルク公爵の襲撃を受けながら断裂にロープを張りなおして渡すのは無理だからな。一縷の希望にかけて北上したわけだ」

「なるほど、いい判断じゃの」

「えっ?敵地を横断って無謀では?」

「今の帝国は、混乱の局地にあるからの。あながち間違った判断ではない。それに・・・」

「それに?」

「そなたたちには手勢がないという弱点があったが、これで解決したの。同じ王国人同士、無用な諍いもなくて最高ではないか」

「そんなぁ」

「大変に心苦しいが、俺達だけの問題じゃない」

「兵士1500名を見捨てるのは王国貴族としてはどうかとおもいますよ。大半が王国軍兵士ですから」

「とりあえず、どちらが代表になるか決めるか」

「そんなものルークに決まっておる」

 テレーゼが横から口に出してきた。

「なんでだよ」

「ヴェンデリンは、解放軍の参謀じゃ。ワラワの近くにいてもらわねば困る」

「ハァ・・・」

 こうして俺は、傭兵部隊の代表になった。

「あと、兵士達にも武器や防具の支給を・・・・皆逃走する時に邪魔なので捨ててきたのです。着替えなどもありませんし、過酷な逃避行で辛い目にも逢いました。多少の小遣いくらいは渡していただけませんか・・・」

 クリストフが、申し訳なさそうに俺に言う。古来より軍隊を維持するのに金がかかる。
 テレーゼの報酬が戦後にしか期待できないというのに俺は、兵士の衣食住全ての面倒を見る羽目になった。

「テレーゼ様、鹵獲品を補修した物がかなりありましたよね」

「あるの。それをつかうのか」

「ええ・・・・戦功を消費しますので支給をお願いします」

「そなたも大量に持っておらなかったか」

「あれは、まだ補修していませんからね。補修分の武器や防具の戦功代の消費です」

「補充するわけか」

「ええ・・・テレーゼ様も戦功が消費できますよね」

「まあの、といってもすずめの涙ほどじゃの」

「助かります」

 他にも着た切り雀の者が多いので下着や服も必要である。
 寝泊まりするテントの確保も必要であった。

「これでいいか?」

 俺は、魔法の袋からテントや衣服などを表に出した。

「他のが欲しければ、商人達が市を作っているから、そこで買うしかないな。支度金を一人につき金貨二枚出す。適度に節度を守って羽を伸ばし、決戦時に恥ずかしくないように恰好を整えさせてくれ」

「わかりました」

「王国の金貨でも、商人は受け取るから」

 金の含有量も重さも条約で同じなので、俺達も普通に王国の貨幣で買い物をしていた。
 俺はクリストフに人数分の金貨を渡す。

「色々とすいません」

「すまん」

 俺に二人は頭を下げていた。
 ブロワ辺境伯家の後継者候補の時にはこんな事は出来なかったのであろうが、優秀な指揮官としてなら頭は下げられる。
 もしかすると立場や地位とは俺が思っている以上に重いのかもしれない。

「しかし、意外にも兄弟の仲が良い」

「ここまで落ちぶれれば、争うのも疲れてしまいますので……」

「煽る家臣もいないからな」

 本人達だけなら、あの不毛な兄弟喧嘩は無かったのかもしれない。
 そのくらい今の二人はいがみ合う事もなく普通に仕事をしているのだから。

「お礼にファブレ伯爵の所のリッドを貸してくれ。あいつは、指揮官として物になるはずだ」

 フィリップは、リッドを預かって指揮官としての心得を実地経験込みで教える事を提案していた。

「リッドには、後方で大御所に立って冷静に大軍を指揮するような才能はない。だが、前線や少し後方で自分も汗をかいて一万人くらいまでの軍勢なら上手く動かせる将になれるはずだ。ファブレ伯爵の護衛ならうちから出す」

 フィリップは、リッドを俺の護衛としてではなく指揮官見習いとして教育する案を出していた。
 彼なりに恩を返そうとしているのであろう。

「それならお願いしようかな」

「エルはどうなんだ」

「エルもリッドと同じくらいだとしかいえない。それでも良いのか」

「頼む」

「どのくらいの期間になるかはわからないが、出来る限り教えよう」

 こうして、エルとリッドがフィリップ付きとなって彼から軍の指揮の仕方を実践形式で習う事になる。

「突然な感じもするけど、良い機会ではあるな」

 リッドはフィリップの傍で、彼と共に軍の指揮を学び始める。
 新しい武器や防具の支給が終わり、貰った慰労金で必要な物を購入したり英気を養った王国軍は、俺達の屋敷の周囲にテントを張ってそこで寝泊まりするようになっていた。

 俺をトップとする部隊なので、その中心に纏まったわけだ。

「装備が整えば精鋭か」

「一部諸侯軍の残存兵を除くと普通に訓練を続けていた王都軍ですから。リッドさんやエルヴィンさんにも動かしやすいと思いますよ」

 そのまま王国軍を名乗れないので、今は俺が大将の傭兵軍という扱いになっている。
 千五百名もの人達が部隊として機能すると、その瞬間から大量の書類が発生するのが常で、クリストフはそれを物凄いスピードで処理していた。

 王国軍は衣食住を整えると翌日から訓練を開始していた。
 実地でエルとリッドは百名ほどの部隊を預けられ、慣れない仕事に四苦八苦しているようだ。

「今回はさわりくらいでいい」

「今回は?」

「ああ。時間が無いからな。この一回でケリが着くかは不明だが、決戦が近い」

 フィリップは、自分が指揮する部隊の訓練を見ながら、ニュルンベルク公爵との決戦が近いと予想していた。

「王国軍残党の捕縛と殺害は終わっているはずだ。だから、そう遠くは無い」

 そうフィリップが予想してから三日後、彼の予言通りにソビット大荒地を埋め尽くすかのような反乱軍の大軍が姿を見せる。
 クーデター後から初めて、直接に総大将同士が戦う事になるのであった。



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