様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「ダンゴ! ダンゴ食べたい!」

「伯爵様よ。お前は子供か!」

「ヴェル。後で食べればいいでしょう」

「イーナの言う通りではあるか……。あとでクサダンゴも、ミタラシダンゴも両方食べるんだ。俺……」

 無事にミズホ伯国へと到着した俺達は、国境沿いにある砦で身分を証し、そのまま国内に入る事を許される。
 魔刀を装備したサムライは、バルデッシュの異変を察知して急遽砦に派遣されていたようだ。

『テルアキ・ムラキと申します』

 いかにも侍といった風貌の若い青年は、丁寧な口調で挨拶をしていた。

『やはり、首都の異変に気がついておったか』

『えっ? どうやって?』

『これを使ってです』

 ムラキというサムライが示した場所には、止まり木で休んでいる一羽の鳥の姿があった。
 小型の鷹にも見えるが、大型のツバメにも見える。
 見た目だけで、速く飛びそうに思える鳥ではある。

『ミズホ人は、帝国中に在住しておりますから。彼らの情報伝達網を侮らない事です。通信の魔法と魔道具も駄目みたいですが、ミズホツバメならばバルデッシュの異変も二〜三日で届きます』

 速そうな鳥は、ミズホツバメという名前らしい。 
 ミズホ伯国で品種改良が盛んな伝書鳩代わりに使う鳥なのだそうだ。

『こういう時のために通信手段は複数確保しています』

 ミズホツバメの品種改良と繁殖とレースがミズホ人の間で趣味として広がっていて、確保も容易なのだそうだ。

『馬車よりは速いよな。やっぱり』

『そういうわけです。フィリップ公爵様におかれましては、やはりお館様との面会をお望みで?』

『然り。出来れば、すぐにでもじゃ』

『お館様もそれを望んでおります。拙者もお供します』

 ローデリヒ以外で初めての一人称が『拙者』な人間の登場であったが、ムラキさんは侍その物なので違和感がない。
 先頭の彼が馬に乗ってミズホ伯国内へと山道を進み、それに馬車がついていく。
 暫くは山道を登っていたが、三十分ほどで山頂に到着していた。
 するとそこには、時代劇などで良く見る峠の茶屋その物が建っていて、店先では和服風の服を着たミズホ人達がダンゴを食べながらお茶を飲んでいたのだ。

 当然、元は日本人である俺は立ち寄りたかった。
 ダンゴを食べながら、お茶を飲み干したかったのだが、今は領主館へと向かう必要があるため涙を呑んで諦めた。

 あの狂犬殺す。

「エッホ。ダンゴをダッシュで買って来い」

 ヴェルは、馬車内にいるエッホに命令した。

「私はテレーゼ様の家臣なのでお断りします」

「……」

 俺たちは、ヴェルをあきれた顔で見ていた。
 他国の家臣だぞ、まず命令できるはずもない。

「その前に両替をしないと買い物が出来ませんよ」

「独自通貨なのかよ!」

 ミズホ伯国が未だに独立国である証拠でもあった。

「ただ、帝国に従属する際に通貨改定は行っているのでな。そう面倒でもないぞ」

 テレーゼが、もう一言加える。
 ヘルムート王国とアーカート神聖帝国の間では、あまり貨幣に差などない。
 単位も同じセントで貨幣のデザインは違っていたが、重さや金などの含有量は条約で決められていたからだ。

「ミズホ伯国では、一セントが『一モン』。百セントが『一シュ』一万セントが『一リョウ』となっておる」

 貨幣の形も違うそうだ。
 ただ重さや金などの含有量に変化はなく、換金比率に違いはないらしい。

「なら、ダンゴは買えるのでは?」

「大商店ならともかく、茶店くらいだとミズホ貨しか受け取らぬぞ」

「そんなぁーーー!」

「妙な事で我侭を言うの。そういう男は可愛げがあって好きじゃがの。両替所で手数料を支払えば換えてくれるから安心せい。ヘルムート王国の貨幣でも両替してくれるぞえ」

 山道を下りると人里が見えるが、どう見ても昔の日本の農村である。
 田んぼには、今は冬なので裏作の麦が植わっている。
 家屋は木製と石造りで萱葺きは無かったが、造りが和風なので帝国の外の地域とはまるで違っていた。
 農村から町に入り、更に馬車を進めると、ようやく領主館が見える。

「凄いお城ですね」

 エリーゼが驚いているが、領主館というよりは三重の掘りに囲まれた巨大な天守閣を備えた星型の要塞であった。
 大阪城と五稜郭を合わせたような物に見える。

「ミズホ城はいつ見ても大きいの」

「難攻不落なのでは?」

「落ちない城や館はないが、落とすとなると犠牲が多そうじゃの」

 篭城側の数倍の兵力で攻めても、この城を落とすのに甚大な被害が出そうではある。

「過去にはかなりの犠牲が出たのでしょうね」

「いや、このミズホ城を攻める事が出来た者はおらぬな」

「えっ?」

「攻め入られると国土が荒れるので、ミズホ軍は常に領地境で迎撃するからの」

 山を越えて少数で大軍を迎撃する。
 犠牲も多いが、大半は帝国軍が大敗して敗走するので、それを追撃しながら周辺領域で略奪に勤しんでいたそうだ。
 犠牲が多いので、損害の補填のためらしい。

「略奪は帝国軍も勝てば行うし、先に攻めた帝国が負けたのが悪い。戦うとほぼ負けで、追撃されて略奪を受ける。帝国軍の物資だけなら文句は無いのであろうが、ミズホ伯国の周辺にいる貴族達は堪ったものではない」

 普段は交易すら行っている温和な相手なので、中央の帝国軍が攻めなければ略奪などされないのだと遠征の度に非難轟々であったらしい。

「一度、強引に周辺諸侯に動員をかけて数箇所から同時に攻め入った事もあったらしいの」

 結果は、ミズホ伯国軍も動員戦力の半数を失う大損害を受けたが、帝国軍はその八倍以上の兵を失ったそうだ。

「領地が隣接する諸侯軍では、全滅した所もあったそうじゃ。フィリップ公爵家も兵を出したが、三分の二が帰って来なかったと当時の領主の日記に記載されておる」

「全滅じゃないか」

「どう糊塗してもエルヴィンの言うように全滅じゃの」

 フィリップ公爵家諸侯軍が、北方攻め口を単独で担当したが故の悲劇であったらしい。

「なのに彼らは領地を広げぬ。アキツ大盆地から出て来ないのじゃ。そんなわけで、ミズホ伯国は保護国化の道を辿ったというわけじゃな」

 テレーゼの説明が終わると馬車はミズホ城の外苑入り口へと到着する。
 先導しているムラキさんのおかげで、ノーチェックで三層の掘りを通り抜けて天守閣のある本丸へと到着する。
 馬車を降りると裃姿の初老の男性が現れる。
 ムラキさんよりも偉い上級の陪臣だと思われる。

「イエノリ・キラ・ミズホと申します。お館様の元に案内いたします」

 さすがはテレーゼというべきか。
 そのまま顔パスで、領主に会えるようだ。

「ミズホ? ご一族の方ですか?」

「分家ですが」

 ミズホ伯国の人間には、庶民も全員姓があるのだそうだ。
 そして、イエノリさんのようにキラの後にミズホが付いている人間は分家の人間か、功績が著しいのでミズホ家から名誉姓を与えられた人間らしい。

「(本当、戦国時代とか江戸時代みたい……)」

 功績があったので豊臣の姓を与えられたとか、松平の姓を与えられたとか、そういう話に良く似ているのだ。

「お館様の元に案内いたしましょう」

 イエノリさんの案内で城内に入るのだが、やはり土足厳禁で中は畳敷きであった。
 久しぶりに見る畳からは、懐かしい匂いがする。

「布のブーツ?」

 全員、靴やブーツを脱ぐと裸足だったので、イエノリさんが足袋を貸してくれたのだが、初めて履く足袋に全員が違和感を覚えているようだ。

「でも、蒸れるのを防げるな」

「ブランタークさんは、水虫防止に良いのでは?」

「伯爵様よ。俺は水虫じゃないからな」

 ブランタークさんは、殊更自分が水虫でない事を強調していた。

「冒険者や軍人の職業病とも言えるのである。ブーツの中が長時間の移動や行軍で蒸れるからな。これは買って帰るとしよう」

 導師は、自分が水虫である事を否定しなかった。 

「草を編んだ床敷きですか? 変わっていますのね」

 その上を歩きながら、カタリーナは畳を興味深そうに眺めていた。

「引くと開くドアなんだ」

「木枠のある紙を張ったカーテン? 本当に不思議」

「変わった花瓶」

 ルイーゼは襖を、イーナとファラは障子で、ヴィルマは飾られている生け花を見て不思議そうな表情を浮かべていた。
 他にも欄間や床の間とそこに飾られた掛け軸や焼き物など、今までに見た事が無い物に興味深々なようだ。

「多分、ヘルムート王国人でミズホ伯国に入ったのは、我らが最初であろうな」

 導師の言う通りで、ヘルムート王国の人間はバルデッシュから出る事を禁じられていた。
 中には破っている人間もいるかもしれないが、ミズホ伯国はまた別国扱いなのでそう簡単には入れなかったはずだ。

「うちのお館様の書いた紀行記にも書いてなかったな」

 ブライヒレーダー辺境伯によるミズホ伯国への記述はほとんどない。
 バルデッシュで見かけたミズホ風の建造物などを見た感想が書かれていただけだ。

「こちらでございます」

 天守閣の最上階に謁見の間があり、イエノリさんの案内で室内に入ると、まるで時代劇で見たかのようにミズホ上級伯爵が畳敷きの上座に座っていた。

 年齢は五十歳くらいであろう。
 姿勢良く上座に正座していて、いかにも出来ると言った感じの男性だ。
 後ろの床の間には、高価そうな壷や墨で書かれた山水画に似た掛け軸もかけられていた。
 主君の刀を預かる小姓もいて、まるで時代劇のようである。
 まさに日本の殿様といった風貌だ。
 パっと見た感じで違うのは、誰もちょん髷を結っていない点であろうか。

「久しいの。フィリップ公爵殿よ」

「一年ぶりであろうかの? 妾がバルデッシュ詰めになった時に会ったキリであろうか」

「そうだったような気がする。帝都詰めの時にクーデターとは不幸だったな。我が伯国には、そんな義務は無いがな」

 皇帝を支えるために七名の公爵の内最低三名はバルデッシュに詰める義務があり、テレーゼの当番の時に先帝の崩御とクーデターが起こってしまったらしい。
 もっとも、陛下の葬儀があったので選帝侯は全員が帝都に詰めていたのだが。

「羨ましい限りじゃ。妾などは命からがら逃げ出して、このように無様を曝しておるぞ」

「逃げ出せただけで合格であろう。おっと、お隣の客人達を紹介して欲しいものだな」

「妾の恩人達じゃ」

 テレーゼによって俺達がミズホ上級伯爵に紹介され、続けてミズホ上級伯爵も自己紹介をする。

「ミズホ上級伯爵トヨムネ・ミズホである。ヘルムート王国の最終兵器殿に竜殺し殿たちであるか。なるほど、フィリップ公爵は運が良いようだな」

「でなければ、脱出は困難であったの。それでじゃ」

「兵なら出すぞ」

「早い回答じゃの」

 今まで一度も外征の経験が無いミズホ伯国軍による初の出兵となる。
 考慮する時間を想定していたテレーゼは、ミズホ上級伯爵の素早い決断に驚いていた。

「あのニュルンベルク公爵は、我が国が憎いらしいからの」

 強固な一つの帝国とは相反するミズホ伯国であり、愛国者でもある彼に言わせると今まで散々に帝国軍に損害を与えたミズホ伯国は滅ぼすのが当たり前という考えらしい。

「いくら犠牲を出しても、ここで潰しておけば帝国の未来に繋がると考えているのであろうな」

 元々ニュルンベルク公爵領では、ミズホ人とミズホ資本は彼の愛国政策によってかなり被害を受けている。
 平時でも対立しているのに戦時ならば余計にそうであろう。

「ニュルンベルク公爵領内にあるミズホ伯国の資産は全て没収。ミズホ人もほとんど捕らえられて、女子供でも収容所送りだそうだ」

「徹底しておるの」

「ツバメ便による最新の報告だ。帝都でも同じ事が起こっている」

 他にもフィリップ公爵領の主要民族であるラン族の資本と人間も同じ被害を受けていて、外の少数民族なども同じ扱いだそうだ。

「狂ってますね」

「あの男には正義なのだよ。バウマイスター伯爵」

 しかしまあ、帝国も良くこんな危険な男を公爵として飼っていたと思う。 

「あの男は、フィリップ公爵領もうちも蹂躙する予定だ。各個撃破されるくらいなら、最初から手を組んだ方がマシだ」

「であろうな。しかし、あの男は本当にわかっておるのかの?」

「何がですか?」

「強い一つの帝国とは片腹痛い」

 帝都バルデッシュ周辺にいる人達を便宜的にアーカート人と呼んでいるが、細かく言えば多数の民族の集合体であった。
 言葉と宗教が同じなのであまり差が無いのと帝国が統一感を見せるために勝手にアーカート人と呼んでいるだけなのだ。

「だからだよ。黒い髪のミズホ人と肌の色が違うラン族が狙われた」

 徹底的に滅ぼして、そこから取り上げた利益を自称アーカート人達に配分する。
 そうすれば、日和見な連中の忠誠も期待できるはずだと。

「(生粋の国粋主義者というか……)」

 どう考えても友達付き合いは遠慮願いたい人であった。

「兵の準備を進めておく」

「妾もフィリップ公爵領と北方諸侯に動員をかけよう」

 同時に、東部や西部の諸侯にも声をかけておくともミズホ上級伯爵に説明していた。

「駄目元でも、少数の参加は見込めるからの」

 みんながみんな、過激なニュルンベルク公爵に賛同するはずなどないのだ。

「互いに軍を整えて殺し合い、生き残った方が勝利か。わかりやすくはある。それで、導師殿とバウマイスター伯爵殿とファブレ伯爵殿はどうするのかな?」

「そうですね。どうしようかな?」

「(今は、ヘルムート王国に帰ることを考えるべきだしな)」

「(それでいい)」

「(某も賛成である)」

 ブランタークさんと導師も同じ意見のようだ。
 内乱だからな。

「バウマイスター伯爵殿は、他国の貴族だからな。そうすぐに参戦してくれといわれて困って当然か」

 ミズホ上級伯爵は、俺達の立場を理解してくれた。

「ヴェンデリン、報酬ははずむがの」

「気持ちはわかるが、どうせ軍を集めるには時間がかかる。フィリップ公爵殿も一晩くらいは泊まってゆっくりしていけ。北方の山道を抜ければ、すぐにフィリップ公爵領に到着するのだから」

「そうですね。ここでテレーゼ殿に倒れられても困りますし」

「ほれ。バウマイスター伯爵殿もこう言っておるぞ」

「わかった。遠慮なく休ませて貰おう」

 テレーゼも了承し、俺達は、ミズホ公国で休憩することにした。



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