様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「それで状況は?」

「北部の国境寄りの地域で、魔導通信機及び魔導飛行船が使えません」

「何とも不思議な現象よの」

 更に同時刻、ここ王都スタッドブルクの王城では、ヘルムート三十七世が北部から届く報告に首を傾げていた。
 一昨日の晩から、突然通信の魔法や魔道具が使用不可能になり、魔導飛行船も動かなくなった。
 王国で管理している大型船はその時刻に浮いていなかったので無事だったが、貴族などが運用している小型船は墜落している。

 今のところ集まった被害報告によると七隻が墜落して多くの荷物を失い八十九名の死者を出している。
 あの重量の物体が、上空数十メートルから数百メートルで突然制御を失ってそのまま落下するのだ。
 普通の人間が生き残れるはずがない。
 加えて痛かったのは、二名の魔法使いの死亡報告である。
 彼らは『飛翔』の魔法で墜落する船からの脱出を試みたが、それが発動しないで墜落死していた。

「通信系と移動系の魔法が妨害される範囲の特定は終わっています」

「原因はアーカート神聖帝国であろう?」

「その通りにございます」

 帝都バルデッシュを中心に半径7000キロメートルほどが同様の障害を受けている可能性が高い。
 効果の大半は帝国側であったが、一部王国北部領域にもその影響が及んでいるのだ。

「被害を受けている地域へのフォローは確実に行うように」

「畏まりました」

 不幸にも墜落してしまった魔導飛行船以外には直接的な損害は無いのだが、通信と魔導飛行船による交通と流通が潰されたのが痛い。
 これをこのまま放置すると効果範囲内で経済の停滞が起こる可能性があった。

「馬車便を増やす必要があるの。あとは、書簡や馬による伝令者の増員か……」

 急に増やせるわけがないので、他の地域の魔導飛行船での輸送を増やして、余った馬車などを北部に割り振るしかない。
 ところがそれをすると今度は現状でも高稼働率を誇る南部方面への交通と輸送に影響が出かねなかった。

「思うに間接的な被害の方が多いの」

「アーカート神聖帝国の謀略でしょうか?」

「その可能性は高いが、妙ではあるな」

 国家に真の友人は存在しないが、アーカート神聖帝国も今はヘルムート王国との戦争など望んでいないはず。
 だからこそ、今回の親善訪問団には交易拡大交渉を担当する役人や貴族を送り込んだのだから。

「もっとも交易担当者の大半は既に帰国しておるがの」

 皇帝が死去して新皇帝を決める選挙が始まるので、一部情報収集を担当する人員と新皇帝の即位式典に参加する人員数十名を残して帰国させていた。

「残留組とも通信が途絶しました」

「通信が不可能だからの」

 通信が妨害されているエリアからされていないエリアへの通信も、またその逆も不可能になっている。

「大使館との通信も途絶しています」

 そこにも据え置き式の大型魔導通信機に『通信』の魔法が使える魔法使いを置いていたが、これも連絡が取れていない。

「現地連絡員とも通信は取れぬか?」

「これも駄目なようです」

 お互いに外国人は首都から外に出る事を禁止されているが、非合法なスパイや彼らに組織された現地人によるスパイ網は当然存在している。
 彼らとの連絡も当然不可能というわけだ。

「陛下は、導師と連絡可能かと思いますが……」

「これであろう」

 ヘルムート三十七世は、小型携帯魔導通信機を懐から取り出す。
 高性能で重宝していたのだが、やはり連絡がつかない。
 向こうが通信に出ないのではなくて、明らかに通信自体が妨害されているのだ。

「大丈夫なのでしょうか?」

 王宮筆頭魔導師に南部の経済発展の要であるファブレ伯爵とバウマイスター伯爵との通信途絶。
 もし彼らに何かあれば、王国南部は混乱状態に陥ってしまう。

「大丈夫であろう。それよりも王国軍の警戒体制を準戦時レベルに上げておく必要があるの」

 ヘルムート三十七世は、3人の安否をまるで心配していなかった。
 彼らを殺せる者の存在が、どうしても想像できなかったのだ。

「準戦時レベルですか?」

 いつ戦争になっても大丈夫なように準備をする。
 このレベルが発動されるのは、実に二百年ぶりであった。

「状況を見るに、この通信の阻害は人為的な物であろうな」

 高度な魔法使いにでも難しいし、持続時間の問題もある。
 帝国の地下にも古代魔法文明時代の遺産が無いはずもないので、誰かがそういう物を発掘して使用した可能性があった。

「何のためにですか?」

「決まっておろう。反乱のためにとしか思えん」

 新皇帝の即位直後だ。
 誰かがそれを不服に思って兵を挙げた。
 帝国軍との兵力差などを考慮すると相互の連絡を絶つためと外部の貴族の情報収集を遮断してその動きを封じる。
 その間に帝国中枢を占拠しようと目論んでいるのは間違いないはずだ。

「なるほど。今がチャンスなのですね」

「お主は、何を言っておるのだ?」

「帝国の中枢が麻痺しているので、碌な手も打てずに勝利が可能です」

 ヘルムート三十七世は、目の前の貴族に向けて呆れたような表情を向けていた。
 その貴族が、帝国との全面戦争を考えていたからだ。

「なぜ、火中の栗に手を出さねばならぬのだ?」

 呆れつつも、これから帝国の情報が流れればこういう輩は増えると予想していた。
 今から千年前から二百年前の停戦時まで、実はヘルムート王国はアーカート神聖帝国に劣勢であると言われていた。
 成立と統一が早かった帝国は、ギガントの断裂南部、今の王国北方領域を占領支配していたからだ。
 停戦時には帝国はギガントの断裂の北部にまで追いやられていたが、南部占領時代を不名誉な事だと捉えて、今度はギガントの断裂の北部領域を占領しようと言い始める貴族が増える可能性があった。
 感情的には理解できるが、実は過去の帝国によるギガントの断裂南部占領は帝国自身の国力を奪った。
 ギガントの断裂のせいで、ほぼ魔導飛行船による補給しかできないのだ。
 占領した領域には、既に大物貴族の子弟や功績のあった者を貴族として任命していたのでこれを放棄するわけにもいかず、もししていたら議会で皇帝が糾弾される可能性もあった。

 結局、戦争に負けて撤退するまで占領地の維持で無駄に予算と物資と人員を消耗したとも言える。
 もし王国が、ギガントの断裂を越えて帝国南部を占領したとする。
 占領した領域には、大物貴族の子弟や軍で功績があった者を貴族にして任命するであろう。
 そして彼らがピンチになれば、王国軍はその度に援軍として出動するわけだ。

「その予算を考えて言っておるのか? そなたらは、次男以降を在地領主に押し込めると大喜びであろうが、王国の財政が傾く可能性には考慮しないのか?」

「しかしながら、今の空軍の戦力であれば」

「魔導飛行船か? 今そなたが、使えぬと報告してきたでないか」 

 そもそも今の状況でどうやって兵を送るのかという問題がある。
 ギガントの断裂を越えるのに有効な魔導飛行船は使えない。
 無理矢理橋をかけて進むという手もあるが、もし戦況が不利になって撤退をしようにも困難を極める。
 通信も妨害されているので、碌に指揮すら執れない可能性も高かった。

「補給はどうするのだ?」

「現地調達にて……」

「本当に可能だと思っておるのか?」

 占領して統治しないといけない土地で略奪を行う。
 現地に派遣した軍勢は、帝国の軍勢と地元の抵抗運動によって無意味にすり減らされていくであろう。

「机上の空論であるな」

 ヘルムート三十七世は、この貴族の使えなさに心の中で溜息をついていた。
 やはり、閣僚をしている貴族達よりも相当に劣る。
 それでも、こんなバカでも何とか使うのが王の仕事である。

「準戦備体制は、向こうが何かをして来ないという保障もないからだ」

 通信が阻害されているので、向こうの様子がわからない。
 いきなり通信の阻害が回復して、それと同時に敵の軍勢が攻め入ってくる可能性もゼロではないのだから。

「それとな。今攻めるのは政治的にもまずい」

「そうなのですか?」

 やはり使えないと思いながら、ヘルムート三十七世は目の前の貴族に対して解説を始める。

「これが反乱だったとして、それに便乗したような形で兵を進めたら反乱者を利する可能性がある」

 現在の戦況は不明であったが、今の時点で反乱者が帝国の全てを抑えたとは考え難い。

 暫く帝国内では混乱が続くであろうが、そこに他国であるヘルムート王国が兵を出したらどうなるのか?

「『外敵には対抗しないといけない』と言って、一つに纏まるのを手助けする事になるやもしれぬ」

 ヘルムート王国によって奪われた土地を奪還するためにという大義の元、反乱者に同調する貴族が増える可能性があるのだ。

「もしそうなると、また戦争の時代になる可能性が高いの」

 反乱者は、外敵を利用して国を一つに纏めようとするはず、この辺の話は昔から良くあった事だ。

「そして我が国は、わずかに抑えた占領地の保持で国力を奪われていくの」

 当然、南部の開発も停滞するはずだ。

「さて、バルデッシュにいる同胞は無事なのかどうか……」

 使者として滞在している他国の貴族達に手を出すはずがないという考えは、今までの考察が事実だとすれば無意味になる。
 なぜなら……。

「犠牲者があった方が、我が国の出兵論を補強するからの」

 魔導飛行船の墜落による犠牲者もいる。
 帝国への報復を唱える軍人や貴族が増えれば、出兵を抑えられない可能性もあるのだ。

「それを狙っているとすれば、反乱者が居たとしても厄介だの」

 無法をしているように見えて、実はこちらの動きをコントロールしようとしているのだから。

「今は出来る限りの情報収集に順番に対症療法を行うしかないの」

 少しすれば出兵論を唱える貴族達も増えるであろうが、救いは軍の主流派が出兵を望まないという状況であろうか。
 エドガー軍務卿、アームストロング伯爵共に南部とヘルタニア渓谷の開発利権の手伝いで忙しい。
 勝てるかどうかもわからない戦争に、そう容易に賛成するとも思えなかった。
 寄子や親族に言われて出兵論になる可能性もあるが、そういう連中も利権のお零れを保持するのに忙しい。
 人間とは、満ち足りていればそう簡単に戦争などしない生き物であった。

「(バウマイスター伯爵とファブレ伯爵のおかげか……)」

 全て結果論であったが、冷静な支配者であるヘルムート三十七世はこう考える。
 やはり、バウマイスター伯爵とファブレ伯爵は使える男だ。

「(クリムトも一緒におるし、そう簡単にバウマイスター伯爵とファブレ伯爵が死ぬはずもない)」

 むしろ、彼らが帝国内にいる内に反乱を起こしてしまった首謀者に同情する。
 その反乱者は、バウマイスター伯爵やファブレ伯爵に何か特別な感情を持っているのかもしれないが、あの男たちが青臭い理想論を掲げた反乱に手を貸すなどありえない。

 出来れば係わり合いにならないようにするし、もし危害を加えられそうになったら手厳しく反撃するはずだ。
 それは、経済力などが以前の5分の1にまで落ちたと報告されるブロワ辺境伯家の末路を見れば明らかだ。

「(それでもブロワ辺境伯家は自国の貴族だからあの男たちは配慮している。家臣の取立てはしておらぬが26万人規模の東方の職人の派遣で経済が巡回しており、人員や経済的に閉鎖感のあった東方貴族たちも希望が持てるようになっておる。他国の貴族や人間になど容赦はすまい)」

 追い詰めようとした者は、その度合いに比例して手痛いしっぺ返しを食らうであろう。

「(さて、今後アーカート神聖帝国はどうなるのか……)」

 ほぼそうであろうと自分が予想している反乱が成功するか、それとも失敗するか。
 どちらにしても、アーカート神聖帝国の国力は落ちる。
 ならば、我がヘルムート王国は南部の開発を進めて国力を増せばいい。
 バウマイスター伯爵やファブレ伯爵がいればそれが可能だし、国力比に差が付けばいつかはアーカート神聖帝国の併合も可能であろう。

 別にヘルムート王国は戦争を完全否定する平和主義国家ではない。
 現実的に可能ならば、リンガイア大陸統一戦争に躊躇いを見せたりはしないのだ。

「(とにかく、今は正確な情報をどうやって集めるかだな)」

 ヘルムート三十七世はひとしきり考えた後。

 やはり、あの男に頼らねばいけないか。

 と結論を出したところで、丁度いいタイミングで姿をあらわしおった。
 教会の有力者であり、油断ならぬあの老人が・・・。

「陛下、大変なことになりましたな」

「そなたも孫娘が心配じゃな」

「心配は心配ですが、婿殿がおりますれば。それで・・・」

「余も個人としては、親友や気に入った若者達の身が心配じゃが、残念ながら余は国王でもある」

「理解しておりますとも。やはり手を打たれますか?」

「そうだな」

 今まで均衡を保っていた両国だが、片方で政変が発生した。この先どうなるか不明だが、相手が勝手に転んだのだ。
 我がヘルムート王国としては、そこから少しでも利を得るために動くべきだろう。

「ほほう、どさくさにまぎれて帝国を併合、陛下はリンガイア大陸を統一した偉大な王として、歴史にその名を刻むのですな」

「ふん、思っておらぬことをよういう」

 誰が火中の栗を拾う物か。
 内乱で荒れ、新しい支配者に反抗的な領民ばかり領土などいらぬ。

「この老人に何かお役に立てることがありますかな?」

「教会のルートでバウマイスター伯爵たちと連絡が取れるのか?」

「なんとかしてみましょう。ただし頻繁には無理です。こちらの簡単な指示を伝えるだけで限界かと・・・」

 この老人が所属しているカトリックの教会は帝国にも多数ある。余は、その教会網を使ってバウマイスター伯爵たちとの連絡を試みようと思う。

「手紙は危険か・・・」

「はい、エリーゼには、話していたのですが、今回の騒ぎ、かのニュルンベルク公爵が関わっている可能性が高いと」

「あの危険な若者か」

 相変わらず、情報が早い老人だ。
 ニュルンベルク公爵か・・・確か、皇帝選挙に落選したという情報だったな。

「通常、移動中の神官の荷を検められることなどないのですが、ニュルンベルク公爵が関わっていると油断できません」

 やはり、神官を伝令として使うしかないか。問題は、その伝令が到着する前にバウマイスター伯爵たちが帝国国外に出てしまう危険性だな。

「ご安心をとっておきの伝令がいますので」

 教会が密かに抱える伝令か・・・。こちらも人を出すが、確率を考えるとルートは2つあったほうがいい。

「ならば、伝令だけでよい。さすがに頭の中までは検められまい」

「して、どのような伝言を?」

「『可能な限り、ヘルムート王国の利となるべく動くべし』だ。バウマイスター伯爵領やファブレ伯爵領の開発は1年や2年の停滞は仕方あるまい。家宰のローデリヒやハインがおるから停滞はないと思うが」

「私もフォローに入ります」

 お気に入りでもある伯爵の領地だ。留守中に魑魅魍魎の餌食になるのは見過ごせぬか。

「バウマイスター伯爵やファブレ伯爵の兄達にも手伝わせる。かの者たちは優秀で、ファブレ伯爵やバウマイスター伯爵と仲がいいと聞く」

「それはいいですな」

 帝国の状況が落ち着くまでは、バウマイスター伯爵領やファブレ伯爵領の開発が少し遅れても仕方あるまい。
 それよりもバウマイスター伯爵達が帝国内乱中に何を得るのか・・?
 もちろん、彼らの利益は王国の利益でもあるが、余は不謹慎にもバウマイスター伯爵たちを子供の頃にワクワクしながら読んだ戦記の主人公と重ねてしまったのだ。



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