様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「成功ですな」

「多少の失敗はあるがな」

 ちょうど同じ頃、バルデッシュの皇宮にある皇帝の玉座に一人の若者が座っていた。
 彼の名前はマックス・エアハルト・アルミン・フォン・ニュルンベルクといい、このアーカート神聖帝国の選帝侯にして、今はクーデターの首謀者である。

「これも君のおかげだよ」

 クーデターはニュルンベルク公爵家諸侯軍によって決行されたが、当然それだけでは成功の目がない。
 そこで、帝国軍で同じ考えを持つ将校達にも密かに参加を呼びかけ、彼らも拠点の制圧などに協力している。
 あとは、貴族の捕縛や殺害も行っていた。

「小物を殺す必要などない。軟禁しておけ」

「すぐにこちらに付くでしょうからな」

 どうせ当主不在で、その領地は何もできない。
 通信を妨害してるので、頭である当主を失って機能不全に陥っているからだ。

「その代わりに全ての選帝侯には死んでいただきましたが」

 ただし、この事実は隠している。
 ニュルンベルク公爵は、中央集権で皇帝の力が強いアーカート神聖帝国を望んでいる。
 そこに選帝侯など不要なのだが、今すぐ彼らを討伐できない以上は当主を人質に取っている形にしてその動きを封じていた方が楽である。

「第一段階としての、バルデッシュ周辺領域の平定が最優先だ」

 南部の貴族達は、ほぼニュルンベルク公爵家に靡いている。
 元々寄親であるし、ニュルンベルク公爵が新皇帝になれば領地や役職等で優遇して貰えると思っているからだ。
 欲のある人間は利用し易いというわけだ。

「捕らえた貴族達の中にも、既にこちらに靡いている者もいる。連中には領地に帰らせて、兵を整えるように命令しておけ」

 南部と中央直轄地を制圧する第一段階が終わったら、次は最初に倒さなければいけない相手がいる。
 ニュルンベルク公爵の視線は、見ている地図の北方に向いていた。

「テレーゼ。上手く逃げられたか」

 唯一選帝侯で逃してしまったフィリップ公爵その人であった。

「あの女の事だ。北方の諸侯を纏めて逆に攻めてこようぞ」

「ミズホ伯国もですか?」

「あの国は、俺の考えを良く知っている。組まねば、俺が兵を出す事など百も承知だ」

「強敵ですな」

「纏めて潰せば、後々都合が良い」

 ニュルンベルク公爵からすれば、今までの皇帝が甘かったのだ。
 中途半端に兵を出して何度も負けたからといって、あの国の独立を認めているのだから。
 おかげで帝国では、彼らの経済力と技術力によって生粋の臣民達が貧困に喘いでいる。
 ミズホ人等を討ち、その技術や資産を奪って彼らに報いてこそ、真の一つの纏まった帝国が誕生する。
 いや、生まれ変わるのだと。

「しかしながら、今の兵力ですと討伐に不安が……。西部と東部の鎮圧を進めて、その兵力も活用すべきでは?」

「勿論それは試みるが、武力での平定はしない」

 当主を人質に取っている者には、兵を出してフィリップ公爵とミズホ伯国を討つのを助ければ解放すると伝える。
 これで兵を出す貴族だけで十分であると。

「下手に平定を行うと一番信頼できるニュルンベルク公爵家諸侯軍と国軍に犠牲が出るからな。精鋭が一番数が多い内に奴等を討つ」

 現状で自分達に挑んで来るであろう人物は、フィリップ公爵一人だけである。
 逆にいえば、彼女さえ討ってしまえば他は後でどうにでもなってしまうのだ。

「無理に平定して大量の兵を抱えてもテレーゼが健在ならば裏切ってしまう可能性もある。なあに、我が軍は精鋭揃いである。確実に討てるはずだ」

「ですが、一つ気になる事が……」

「バウマイスター伯爵とファブレ伯爵か……」

 ニュルンベルク公爵のバウマイスター伯爵とファブレ伯爵に対する考えは一つである。
 将来、アーカート神聖帝国に対して害を成す存在であろう。
 現に今も両国間の空軍戦力比や経済格差をつけた元凶として知られている。
 もしヘルムート王国を裏切って自分のために働くのであれば良し、駄目なら殺せと命じたのだが現場で齟齬が発生していた。

「あの四兄弟は、本当にバウマイスター伯爵やファブレ伯爵を説得したのか?」

「それがわからないのです」

 現実問題として、迎賓館を担当した部隊は全滅であった。
 全ての兵士と騎士達は、首を圧し折られ、体を斬り割かれ、頭が吹き飛び、お腹に穴が開きと現場は凄惨な状態になっていたと報告されている。

「しかもあの四兄弟は、駅馬車の待機場で殺されていたそうだな」

 四兄弟は屋敷の傍で彼らと戦わずに、バウマイスター伯爵達がテレーゼを連れて逃走したと思われる駅馬車の待機場で殺されている。
 一緒にいた兵士達と共に遺体はほぼ残っておらず、焼け焦げて炭化したローブの切れ端が唯一の証拠となっていた。

「期待の若手魔法使い達ではなかったのか?」

 魔法使いではないニュルンベルク公爵に、その強さを判別する能力は無い。
 報告で聞いている、魔法使いの技の披露会において披露された魔法で判別するしかないのだ。
 あとは、その功績などからであろうか。
 確かに、バウマイスター伯爵やファブレ伯爵には竜殺しの功績がある。
 だがそれは機会の問題で、四兄弟にも竜退治を命じればそれが可能であったはず。
 ニュルンベルク公爵は、そのように考えていた。

「アームストロングの強さは昔からだ。リングスタットも高名な魔法使いであるし、竜殺しのバウマイスター伯爵とファブレ伯爵と『暴風』もいたな。だが、その5人とあの四兄弟にそこまで差があるのか?」

「さすがに全員が無事とは思えませんが……」

 帝国軍の幹部であるこの初老の男も魔法使いではないが、それに詳しい者からヘルムート王国で有名な魔法使い達の戦闘能力予想は聞いている。

 確かに優れてはいるが、帝国にもそれに負けない優秀な魔法使いが複数存在していて、そう一方的に負けるはずはない。

「確かに、お前の言う通りだな」

 それに、いくら魔法使いが多いからとはいえ、たかが十人以下のグループにそこまでの力があるわけではない。
 魔法使いの無双は魔法使いで止めればいいし、もしそうなればあとは通常の軍勢の質でケリがつく。

「上級以上の魔力を持つ魔法使いは民間にもそれなりの数おりますし、中級や初級の魔法使いを集めれば数で圧倒可能でしょう」

「ヘルムート王国の『最終兵器』と『竜殺し』は、数の暴力によって沈むか」

 生粋の軍人であるニュルンベルク公爵からすれば、その作戦は十分に常識の範疇にあった。 
 いくら強くても、個が団体に勝てるはずがない。
 ニュルンベルク公爵の頭の中から、バウマイスター伯爵一行への警戒感が薄れていく。
 今一番の脅威は、テレーゼ率いるフィリップ公爵家諸侯軍であった。 

「フィリップ公爵家諸侯軍は精強なれど、うちはそれを上回る。帝国軍の半数もこちらに付いているし、南部諸侯達やこちらに付くと表明している貴族達の軍勢もある」

 やはり、首都を押さえたのが強みになっている。
 東部や西部の大半の諸侯は迷っていたが、一部は積極的に自分への支持を表明してくれたのだから。

「正統に選ばれただけの皇帝になど意味は無い。皇帝とは、揺るがない意志と力によって臣民達を導く存在なのだから」

 自分は強者であり、だからクーデターに成功した。
 これからすぐに新皇帝『聖アーカート一世』を名乗り、自分の在位中にこの大陸を統べるという目標に向かって邁進するのだから。

「今は帝国中央部の平定と引きこめる貴族達のリストアップが優先だ。それが終われば、いよいよフィリップ公爵とミズホ伯国の討伐である」

 それが成れば、あとは果実が木から落ちるのを待てばいい。
 どうせ、自分とフィリップ公爵以外の選帝侯はもうこの世にはいないのだから。

「テレーゼは女ではあるが侮れない。他のボンクラ選帝侯達とはまるで違うのだ。気を引き締めて兵の準備を行うぞ」

「畏まりました」

 とは言いながらも、ニュルンベルク公爵の頭の中には既に統一された新アーカート神聖帝国の姿が思い浮かんでいた。

「ところで、例の装置ですが……」

「例の装置が何か?」

 せっかくの楽しい想像の時間を邪魔されて内心では頭にきたが、彼は大切な協力者である。
 ニュルンベルク公爵は、笑顔を浮かべながら帝国軍幹部の質問に答えていた。

「アレは、暫く作動させ続ける」

「しかしながら、商人達などから経済行動に支障が大き過ぎると……」

「であろうな」

 だが、ニュルンベルク公爵からすればメリットの方が大きいのだ。
 貴族間の通信手段を奪って孤立させて迷わす事が可能になり、装置を動かしている自分達が優位に立てる。
 こちらは事前に早馬や密偵による偵察や連絡手段を強化しているので、その分有利であった。
 経済活動も、大商人達の首根っこを抑えるのに有効であった。
 それにすぐに気が付くはずだ。
 荷の輸送費などは上がるが、それは大規模商人達を価格競争で優位に立たせる事ができる。
 欲深い彼らは、表面上は文句を言いながら自分に従うであろう。

「しかしながら中小の商人達からは苦情が出ましょう」

「帝国は大陸の統一を目指す。そのためには、大資本の商人達の協力が必要だ。中小の商人などは、潰れてもすぐに別の挑戦者が出る。浮かび上がった者だけ優遇すればいい」

「はあ……」

 そして、あの装置を自分の運命を変えた。ニュルンベルク公爵領内にある巨大地下遺跡から発掘された古代魔法文明時代の技術を用いた『魔法阻害装置』を使用し続ける最大の要因は、戦場における魔法使いの力を落とすためであった。

「竜はなぜ強いか知っているか?」

「強力なブレスを吐くからですか?」

「それもあるが、空を飛べるからだ。人間は飛べないから、上からの攻撃に弱い」

 魔導飛行船の数が、軍事力として計算される要因でもあった。
 あと、ニュルンベルク公爵は軍人である。
 二次元よりも三次元で動く敵の脅威は十分に考慮していた。

「空を飛びながら魔法を放つ。好きな場所に一瞬で移動する。遠くの相手と一瞬で通信してしまう。これらを防いでしまえば、いくら強力な魔法を放つ魔法使いでも、ある程度対処は可能になる。我が陣営にも強力な『魔法障壁』を張れる魔法使いはいるのだからな」

 そのために『魔法妨害装置』の稼働に手間をかけたし、妨害する魔法の種類を限定してまで効果範囲を広げたのだから。

「今頃は、ヘルムート王国北部でも大騒ぎであろうよ。北方で魔導飛行船が動かない以上は、王国の介入など簡単に排除可能だ。多少時間はかかろうが、俺の改革は必ずなる」

 ニュルンベルク公爵は、己の計画に絶対の自信を持つのであった。



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