様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 バルデッシュで起こったクーデターから逃れた俺達は、ただひたすらに北に向けて馬車を走らせていた。
 ニュルンベルク公爵軍による追撃は、北方主要街道を走っている時に一回、ミズホ伯国経由の支線に曲がってからさらに一回受けていたが、これはカタリーナが全て『ウィンドカッター』の魔法で派手に切り裂いていた。

 通信妨害のせいで、味方同士でも連絡が十分ではないのか?

 反乱軍は、あまり有能な魔法使いを追撃に参加させていなかった。
 ファイヤーボールなどを飛ばしながら追撃してきたが、全てカタリーナの『魔法障壁』によって防がれ、反撃されて殺されている。

『高位の魔法使いの方々は追撃に現れませんわね』

『中央の把握に忙しいのだと思う』

 カタリーナは、倒した魔法使いの死体から装備品や魔法の袋などを回収しながらヴェルに話しかけてくる。
 まるで追剥ぎのようだが、これも戦場の習いなのだとブランタークさんは言っていた。

『どんなに偉くて強い奴でも、死ねば首無しで下着だけになって、躯は腐るか獣の餌だ。弱い奴は殺されて全てを奪われる』

『ブランタークさんは、戦場の経験があるのですか?』

『某もブランターク殿も冒険者として長年活動していたのでな。官憲の目が及ばない場所で、海千山千の冒険者が仕事をするとそういう事もあるのだとバウマイスター伯爵やファブレ伯爵には理解して貰うしかないのである』

 どうりで、導師もブランタークさんも何の躊躇いもなく人を殺すわけだ。
 経験者なのだから当然であり、俺達もこの丸一日ほどで随分と人殺しが上手くなった物だ。



「テレーゼ殿。『ミズホ伯国』ってどんな国です?」

「我らとは、かなり文化形態が違う国じゃな」

 馬を休ませる時間以外は全て移動に費やしていたが、もう丸一日も走ればミズホ伯国に到着して一息つけるそうだ。
 ヴェルは馬車内の向かい側の席に座るテレーゼにミズホ伯国の事を聞いてみる。

「古のまだアーカート神聖帝国が成立する前には存在していた古き民族の国よ」

 黒髪・黒目の者が多く独自の文化を持つ独立した国だそうだ。

「フィリップ公爵領の主要民族であるラン族よりも前から帝国にはその存在が知られておる」

 フィリップ公爵領と接しているアキツ大盆地を生存圏とし、人口は百二十万人ほどだ。
 盆地なので夏は暑く冬は寒いそうだが、水が豊富なのと寒暖の差の激しさから水田で美味しいお米が主食として栽培され、特産品としても有名らしい。

 ファブレ伯爵領以北の南方でも米は大量に採れるが、味で言うとミズホ泊国産の方が圧倒的に上という評価だそうだ。
 加えて、手先が器用で工芸品や魔道具の製造技術では群を抜く存在だそうだ。
 アーカート神聖帝国の臣民達の中でもかなり豊かな生活を送っていて、領内を訪れる客は丁寧にもてなす。
 大商会や大工房で領外に進出して稼いでいる所も多く、彼らは地球で言うところの華僑のような存在になっていた。

「(日本人みたい……)」

「着る物、書物、食べ物、建造物と全てが独特で、バルデッシュにも建っておるの」

 最初に到着した時に見えた瓦屋根や寺院風の建物がミズホ風と呼ばれる建築物なのだそうだ。
 俺から見れば、普通に和風にしか見えなかった。

「普段は大人しい者が多いの。じゃが、戦になると途端に凶悪になる」

 サムライと呼ばれる騎士達が、刀という片刃の剣を振るって死に物狂いで己の領地を守るらしい。
 というか、どう聞いても昔の日本その物である。

「ラン族の手前にいた連中じゃ。帝国は何度も討伐の兵を出しておる」

 征服は全て失敗し、彼らも甚大な被害を出したが、帝国の方もその度に洒落にならない損害を受けたそうだ。

「当時の帝国は、東西南北全てで領域を拡大しておった。じゃが、ミズホ派遣軍の損害は毎度酷いので、その度に他の方面の進撃も止まっての」

 それでも、フィリップ家がラン族の地を制圧するまで定期的に出兵は行われていたが、そろそろミズホ人によって冥土に旅立った味方兵士が数百万人に達しようかという時、遂に時の皇帝が折れて彼らの自治権を認めていた。

「彼らは、アキツ大盆地から外に領地を求めないからの。上級伯爵などという特殊な爵位を与え、領地は伯国と呼んで他の伯爵領とは違う扱いにした。年に一度の朝貢と外交権をアーカート神聖帝国に委ねる条件でその存続を認めたのじゃな」

 その外交権も要はヘルムート王国と勝手に交渉するなという物である。

「帝国は、ミズホ人とヘルムート王国に組まれるのを恐れたのじゃ」

 こうしてミズホ伯国は成立したのだが、一度講和を結べばミズホ人は大人しかった。
 観光客も受け入れるし、高品質な織物、酒、食品、工芸品、魔道具などは高級品として人気が高い。

「我がフィリップ公爵領で最初に漁をしたのもミズホ人じゃ」

 海の無い盆地に住んでいるのになぜか海の魚が大好きで、フィリップ公爵領で漁を行う漁師の半分はミズホ人だそうだ。

「出稼ぎの者が多いのじゃ。食べられる魚の知識や処理の仕方や保存・輸送方法にと詳しくての。漁獲量制限、漁礁の設置、養殖などの知識も全て彼らからじゃの。あとは、妙な海藻を干したり、カツオとか言う魚で木のように堅い棒を作ったりと普段は温厚で変わっている連中じゃの」

「(来たぁーーー! 日本的文化来たぁーーー!)」

 王都で人殺しばかりして心が荒みかけた俺に久々のご褒美である。
 この西洋風ファンタジーな世界に日本風の文化を持つ国家があった。
 これは滞在して楽しまねばならないであろう。

「フィリップ公爵領とミズホ伯領は隣接しているからの。一泊くらいしても構うまい。いや、何日か滞在する必要があるかの?」

「援軍の要請ですか?」

「そういう事じゃの」

 突然のクーデターで、他の選帝侯や貴族達の生存や去就が不明なので、テレーゼはまず北方の近隣諸侯達を纏めるという仕事から始めないといけない。

「テレーゼ様。そのミズホ伯国は、ニュルンベルク公爵打倒に力を貸してくれるのですか? お話を聞いたところ、ほぼ独立国扱いなような……」

 エリーゼの懸念はわかる。
 ミズホ伯国からすれば、皇帝がニュルンベルク公爵でも今の待遇を保障してくれれば良いのだから。

「ところが、そうでもない」

 ニュルンベルク公爵は、テレーゼですら殺害しようとした。
 皇帝の権力を一本化するために、選帝侯の排除を目論んだわけだ。

「あの男の国是は、強い一つに纏まった帝国なのじゃ。何千年も帝国に屈しないミズホ伯国など邪魔であろう。実際にニュルンベルク公爵領内では、在留ミズホ人の扱いでトラブルになった事がある」

 貿易収支が大幅な赤字なうえにニュルンベルク領内で展開しているミズホ資本の商会や工房が国内業者の経営を圧迫しているという理由で多額の関税をかけ、双方で対立が先鋭化しているそうだ。

「彼ならば、ミズホ伯国の完全征服を狙うであろうな。そのうえで技術などを手に入れると」

「それって、考え方が甘いような……」

 多分、帝国としても百万の軍勢で一気に攻めればミズホ伯国の完全征服も不可能ではないと気が付いているはず。
 だが、その後に技術や生産力を持つ男手が大量に戦死し、荒れ果てた旧ミズホ伯国の領地の面倒を見ないといけない。
 抵抗が過激なので、無理に征服しても何の意味もない。
 だからこそ、帝国はミズホ伯国の存続を認めているのだろうから。

「ニュルンベルク公爵からすれば、破壊の後の再生をすれば良いと思っているのじゃ。数十年の歳月に多額の予算に手間をかけてミズホ人を屈服させて帝国に組み込めば、長い目で見れば新帝国のプラスになると」

「ガチガチの国粋主義者なんですね」

「自領・自国想いと思われていて、領内外に一定の支持層がおるから厄介なのじゃ」

 国軍にも一定の支持者がいたからこそ、あそこまで鮮やかにクーデターが行われたとも言える。
 加えて、移動と通信系の魔法と魔道具が封じられている。
 帝国政府も貴族達も未だに混乱からは脱していないはずだ。
 それを思う間もなく、クーデター軍の軍門に降っている可能性も高い。

「これは厄介な……」

「前は、そこまで思い詰めているとは思わなんだがの。やはり、アレの報告を受けて危機感を抱いたのかもしれぬ」

「アレ?」

「ほれ。ヴェンデリンが稼動に協力したアレじゃ」

 ヴェルが偶然討伐したアンデッド古代竜の魔石を利用して再稼動に成功した遺跡の発掘品である巨大魔導飛行船、今は船名を『リンガイア』と名付けられていたが、全長四百メートルの巨大船は無事に就役して、現在は大陸外への探索を行うべく訓練に没頭している最中であった。

「通常の百メートル級の大型魔導飛行船の数でも、差をつけられたからの」

 空軍戦力比が2.2対1にまで広がり、これがニュルンベルク公爵にかなりの危機感を抱かせたらしい。

「それは、つまり俺のせいだと?」

「少なくともニュルンベルク公爵はそう思っておる」

 なるほど、だから彼はヴェルを鋭い視線で見つめていたわけだ。
 普段の目付きも鋭いので、ただ見ていただけかもしれないが。

「つまり、俺の将来の安寧のためにニュルンベルク公爵を殺せと?」

「出来れば傭兵扱いで参戦して欲しいと思っておる。ニュルンベルク公爵は殺すしかあるまい。彼は危険じゃ」

 動く過激思想な上に実力行使にまで出たのだ。
 彼の行動で帝国にも大きな損害が出ているし、ニュルンベルク公爵家を潰してその補填に当てなければ、当然周囲から不満は噴出するであろう。

 反乱の首謀者を生かしておく甘い国家など、どこの世界にも存在しないのだから。

「その前にクーデターに成功したニュルンベルク公爵によって妾達が綺麗サッパリ討伐される可能性もあるがの」

「縁起でもない……」

「戦とは、水物な部分もあるからの」

 中央・東西南部の貴族達の去就が気になるところであるが、ここでも通信の阻害が祟っていて、全く情報が入手できていなかった。

「当てにはできまい。新陛下即位のためにバルデッシュに居た連中は、クーデター軍に捕らえられるか殺されているであろう」

 ニュルンベルク公爵が北方に向けて、討伐軍を送る前に北方諸侯の取り纏めをテレーゼが行う。
 まずは、それを急ぎ行う事が肝要であろう。
 幸いにして、北方諸侯の大半は新皇帝が即位した日か翌日には帝都を発っている者が多かった。
 俺が思っているほど、在地貴族は暇ではないのだそうだ。

「しかし、困ったものじゃの。通信の妨害は」

 導師が持っている携帯魔導通信機は、大分帝都から離れたがいまだにウンともスンとも言わない。
 妨害可能な魔法が限定されている分、かなり効果範囲が広かった。
 この分だと、ヘルムート王国でも北部は通信機や魔導飛行船の運用が不可能になっているはずだ。

「バウマイスター伯爵領が心配ね」

「ファブレ伯爵領も大丈夫かな」

 イーナやハクカの言う通りである。
 もし魔導飛行船が動かせない事態になれば、開発に大きな支障が出る。

「ローデリヒだから、何とかしていると思うしかないな」

「俺もハインやハヤテが何とかしてくれと思うしかない」

 通信が出来ないのが、こんなにもどかしいとは思わなかった。
 無謀なクーデターに見えて、実はニュルンベルク公爵なりに勝ち目があるのかもしれない。

「本当、碌な事をしないな。あの目付きの悪い野郎は」

「私は、ヴェンデリン様が一緒にいて楽しいですし落ち着きますから」

「エリーゼの言う通りよ。私もさすがに、ニュルンベルク公爵が旦那様だとしたら息が詰まると思う」

「イーナちゃんが駄目なら、ボクなんて窒息死しそう」

 エリーゼ、イーナ、ルイーゼは、イケメンではあるが雰囲気が怖いニュルンベルク公爵は苦手だと話し始める。

「私も食事の量とかで注意されそう。あの鋭い目付きは、見下されている感じがして嫌」

「そうですわね。自分が正しいのだから、つべこべ言わずに俺に付いて来いという感じの方に見えますわ」

 生まれ付いての独裁者気質とでも言えばいいのであろうか?

 案外、ヴィルマとカタリーナの意見は、ニュルンベルク公爵の本質を突いているのかもしれない。

「わけがわからん。ニュルンベルク公爵からすれば、ヴェルこそ嫉妬の対象だろうに……」

「そういう内面系の複雑な話はパス」

 ヴェルは、ボソっと自分の意見を述べたエルを無言で導師の方に追いやっていた。

「エルヴィン少年よ。男とは、筋肉と甲斐性が全てである!」

 導師は、狭い馬車の中で無理矢理筋肉を強調するポーズを取っていた。
 強引な論法だが、なぜか導師が言うと説得力を感じてしまうのだ。

「いや、年を取った男だけが持てる大人の魅力というやつだな」

 続けて、既に魔力が回復したブランタークさんも話に加わってきた。

「正直、どうでもいいです。そう思いませんか? テレーゼ様」

「そなたの主人には色々と問題も多いようじゃが、今はミズホ伯国で一息つこうではないか」

 馬車の中でそんな話をしている内に、馬車はミズホ伯国との領地境に到着していた。
 ミズホ伯国は、アキツ大盆地とそれを囲う山脈によって構成されている。
 山脈はさほど標高がないので馬車も通行可能なように街道が整備されているが、山道の入り口には検問所が設けられていた。
 簡素な砦のような建物の入り口に、警備兵が立っている。
 黒髪・黒目で日本人に似ているが、体の大きさなどはこの世界の人達の平均と大差が無い。
 良く見ると服装は江戸時代の侍のような格好で、腰には刀を三本差していた。
 左には日本刀に見える長い剣を二本、右には短い脇差のような剣を一本である。

「三本刀か……。『抜刀隊』が警備に加わっておるの」

「『抜刀隊』?」

「帝国では、戦死者量産部隊と揶揄を込めて言われておる」

 通常の兵士は刀を大小二本しか装備していないが、精鋭である抜刀隊には魔道具である『魔刀』を下賜されているので、三本の刀を差しているそうだ。

「『魔刀』は、高度な魔道具での」

 汎用魔道具で、刀に好きな系統の魔力を纏わせて敵を斬り裂くそうだ。

「妾は諸侯軍の合同軍事演習で見た事がある。火の魔力を魔刀に纏わせたサムライが、袈裟斬りで標的の鋼製の鎧を斬り裂くのをな」

「何それ。怖い」

「過去には、千人の抜刀隊に攻撃されて二万人の軍勢が溶けて無くなったとかそういう話も聞く」

 過去のミズホ国討伐で得た帝国侵攻軍の末路らしい。
 二万人の軍勢は、一万五千人が死傷して残りは敗走。
 『抜刀隊』も半数が死傷したらしいが、どう計算しても損害比がおかしい。
 誇張かと思ったが、損害を被った帝国軍側の戦史資料なので間違いないそうだ。

「アキツ大盆地の外の領地には興味が無いが、侵略者には容赦しないというわけじゃ」

「その魔刀を量産すればいいのに」

「無理じゃの」

 帝国とてバカではないので、剣に同じ細工をした魔剣を装備している部隊が存在している。
 だが彼らでは、魔刀の一撃を受け切れないそうだ。
 何でも、装備品の性能に隔絶した差があるらしい。

「魔刀の一撃は避けるか、ヴェンデリンならば強固な『魔法障壁』が張れるであろう? それしか手が無い」

「鹵獲品は?」

「一ヶ月もしない内に使えなくなる」

 ルイーゼの問いにテレーゼは苦笑しながら答えていた。

「構造が複雑なうえに定期的に特別なメンテナンスが必要なようでな」

 火・土・水・風とレバーで切り替えて自由な系統の魔力を纏わせる事が可能で、他にも込める魔力量を調整するレバーも付いている。
 付属している魔晶石に魔力を込めれば暫くは使えるが、一ヶ月もしない内に突然使えなくなって普通の刀に戻ってしまうそうだ。

「刀身自体の手入れもあるらしいからの。帝国の魔道具職人も解析と複製を試みておるが、大した成果もあがっておらぬの」

 その辺の技術は厳重に秘匿されていて、ミズホ人の魔道具製造技術が優れている証拠でもあるようだ。

「そういう部分もニュルンベルク公爵は気に入らないらしいがの」

 国内に巣食う獅子身中の虫なので、ミズホ伯国は排除せねばならない。
 そういう考えを持っているらしく、テレーゼは共闘が可能だと思っているようだ。

「そのミズホ上級伯爵様は、バルデッシュにいなかったのですか?」

「ミズホ泊国は実質別国じゃからの。新皇帝が即位して暫く落ち着いてから、お祝いの品を持って謁見するのが決まりじゃ」

 その場で、新皇帝から今のミズホ伯国の地位が再承認される。
 これも新皇帝が最初に行う仕事なのだそうだ。

「よって、他の貴族のように巻き込まれてはおらぬ」

 クーデターは、新皇帝の即位から三日後に発生している。 
 先に領地に戻っていた貴族は難を逃れていたが、選帝侯で逃げ出せたのは自分だけであろうとテレーゼは語っていた。

「とにかく兵を挙げねばならぬ。妾が死ぬか、ニュルンベルク公爵が死ぬか。これしか、結論は無いのじゃからの」

 俺達を乗せた馬車は、ミズホ伯国の国境沿いにある砦へと無事に入る事に成功したのであった。



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