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「では、行くか」

 今日は、散々な一日である。
 大量殺人をしないと生き残れない最悪の日だ。
 人を殺した事実を振り返ると精神的にドツボに嵌る可能性があるので、今はとにかく逃げるのを優先する事にしていた。

「みんな。空いている馬車に!」

 すぐ傍に一台、十数名乗りの大型の馬車があるので、それに全員で乗り込む。
 御者席にテレーゼ様の家臣が座り、その隣に前方の敵を排除するためにヴェルが、あとはカタリーナが後方の警戒に当たる事になった。
 走りながら敵を排除するので、ルイーゼや導師よりも向いているからだ。
 ブランタークさんは残りの魔力が少ないので、それを回復させながら予備になっている。

「では、行きましょう」

「その前に……」

 ヴェルは巨大な火の玉を魔法で作り、それを駅馬車の待機場や馬小屋へと放っていた。
 大小数十台の馬車やそれを引く馬達が焼けていく。

「バウマイスター伯爵! あなたは!」

 御者の若い家臣はそれが気に入らなかったようだ。
 ヴェルに食ってかかっていた。

「何か不都合でも?」

「馬車も馬も帝国の大切な資産なのですぞ!」

 馬車も馬もそれほど安い物でもないし、魔導飛行船以外では大切な庶民や商人の足でもある。
 それを全て焼くなど、あなたは所詮は敵国の人間だと他国の貴族相手なので偉そうに人に説教を始めていたが、ヴェルはその胸倉を掴んで静かに問い質す。

「一つ聞いてもいいか? 俺達は脱出に成功したが、フィリップ公爵一行はここで死んだ事にしてもいいのか?」

「どうしてそういう事になるのですか!」

 すぐにテレーゼ様とブランタークさんが馬車の中から顔を出す。

「何事じゃ?」

「テレーゼ様! バウマイスター伯爵は!」

 御者役の家臣は、待機場に置かれた全ての馬車と馬小屋の馬が焼かれている光景を見るようにとテレーゼ様に促す。

「鉄道馬車は帝国の貴重な資産なのにあまりに酷い! これは、ヘルムート王国の我が国にダメージを与える策略なのでは?」

「では、その可哀想な馬車と馬に殉じて死ね」

 ヴェルは、御者役の家臣を馬車から突き落とす。
 それと同時に、テレーゼに宣言していた。

「降りていただきましょう。テレーゼ殿」

「いきなり無体な話じゃの」

 テレーゼは、特に動揺するでもなくヴェルを興味深そうに見ていた。

「あなた達が邪魔になりました」

「フィリップ公爵領で匿うつもりじゃがの」

 一見良い考えに見えるが、これには罠もある。
 もしこの窮地を脱すれば、テレーゼはニュルンベルク公爵を討つ兵を挙げるはずで、俺達はその戦力として期待されているはずだ。
 中央政府に雇われている高位の魔法使い達は、あの四兄弟を見るにクーデター軍に合流している者が多いはずだからだ。
 彼らに対抗するために俺達をフィリップ公爵領に引き摺り込もうとしているのだ。

「偶然とはいえ、他国の貴族であるあなた達を助けたはずなのですが、それが気に入らない方がいるようで」

 馬車から突き落とされた家臣を見ると彼はヴェルに反抗的な視線を向け続けている。

「そこまで行かなくても普通にニュルンベルク公爵領を避けて南下すれば脱出は可能ですから」

 ニュルンベルク公爵はクーデターを成功させるために何らかの魔道具で移動と通信の魔法を使えなくしている。
 新皇帝が決まった直後なので、バルデッシュに滞在している貴族の当主は多く、これを抑えていれば多くの貴族領はトップの不在に連絡不可能が重なって機能不全に陥っているはず。

 フィリップ公爵は、そこを突いて素早く全土の平定作戦を行なうつもりであろう。
 ならば、俺達だけで南に逃げた方がヘルムート王国に逃げられる確率は上がる。
 平定作戦を考えるとフィリップ公爵もそう俺達にだけ兵は割けないし、多少の兵力であれば力技で排除可能である。
 むしろ、テレーゼ達がいる方が困難が大きいであろう。

「我らは自力で戻りますので悪しからず。フィリップ公爵殿は、自らの実力で領地に戻られるが良かろう。迎賓館の裏門から出られた件とあの四兄弟の始末については祝儀だと思ってくれればいい」

 ヴェルとテレーゼの間に緊張が走る。
 導師もブランタークさんも、止めには入れないと思っているようだ。
 口を閉じたままであった。

「聞いたか? エッボ」

 テレーゼは、馬車から落とされたままの家臣に声をかける。

「この緊急事態に帝国の資産がどうこうとは瑣末な問題じゃ。見よ。我らが無能なせいで、ニュルンベルク公爵とそれに賛同するバカ達がクーデターゴッコで大騒ぎじゃぞ」

 クーデター軍は、兵力を分散して重要拠点の占拠や貴族達の捕縛か殺害を行なっているようであったが、既に各所から火災の炎が立ち上っているのが確認できる。

「妾達だけでは、裏門の前で殺されていたの。どうやら、ニュルンベルク公爵は新皇帝の権力が大きい国を作りたいようじゃの」

 来る南進に備えて、強大な軍備とそれを皇帝が一手に指揮する国家を造る。
 そのためには皇帝を選挙で選ぶなど無駄であるし、大きな力を持つ選帝侯などは潰して中央の力を増したい。
 だから、テレーゼは命を狙われていたというわけだ。

「ここまで助けて貰った恩人に、お門違いも甚だしい発言じゃぞ」

「テレーゼ様! 他国の貴族に借りなど作ってはいけません!」

 作るというか、それを表明するなという事のようだ。

 その貸し一つが、後でどれだけ利息を付けて圧し掛かってくるのか?

 わからなくはなかったが、彼は今の状況を理解しているのであろうか?

「平時ならともかく、今は非常時である。いいか? 妾達はバウマイスター伯爵達に縋らねば領地に戻れないのじゃぞ」

「我らがいれば!」

「気合や忠誠心だけで、それが出来るかどうかを判断するでない。今、妾達が一番成さねばならない事は何か? どれほど無様でみっともなくても、生きて領地まで逃げ帰る事である」

「テレーゼ様……」

「わからねば、バルトルトに代われ。時間が惜しい」

「いえ。私が御者を務めます」

「家臣が無礼な口を利いてすまぬ。妾達を領地まで連れて行って貰えぬか。お礼はいくらでもしよう」

「帝国の資産に道を塞がれたら、保全するのが当たり前なので?」

「そんな余裕はないの。それどころか全滅させないと駄目じゃ」

「どうしてですか?」

「逃走ルートが知られると追っ手が厳しくなるからの」

 北方の大街道は、フィリップ公爵領へと直通するルートだけではないらしい。
 途中で幾つもの支線に分かれていて、他の都市や貴族領を経由してフィリップ公爵領へと続く。 
 中央のルートを使えば一番距離は短いが、当然追手はかかるであろう。
 それならば、どこかの支線に入った方が追手は少なくなる。
 いくらニュルンベルク公爵でも、どの支線経由でフィリップ公爵領に戻るかはそう簡単に予想がつかないからだ。
 支線ならば、自然と追手の数が減るというわけだ。

「だそうだ。エッボ。お前の無駄な話で、前を塞ぐ国家資産が増えていない事を祈れ」

「ぐっ!」

「ムカついて裏切りたくなったらいつでも言えよ。その場で焼き殺してやるから」

「そう虐めてくれるな。エッボは、少し正義感が強い男なのじゃ。しかし、実戦のせいか高ぶっておるの」

「こういうテンションにでも持っていかないと人なんて殺せないでしょう?」

「そうじゃの。では、沈静化と報酬の前払いじゃ。頑張ってくれよ」

 そう言うやいなや、テレーゼは自分の唇をヴェルの唇に重ねてくる。
 俺たちは、驚きのあまり膠着した。

「では、早く行くぞ」

「俺は何も見ていない。俺は何も見ていない……」

 とんでもない物を見たと思ったのであろう。
 小声で繰り返し呟きながら、エッボは馬車を発進させる。
 暫く街道を進むとやはり検問をしている部隊が存在するようだ。
 俺達の馬車を見付けて、すぐに阻止行動にはいってくる。

「国家の資産だけどどうする?」

「テレーゼ様の命令が全てに優先する!」

 エッボという家臣は馬に鞭を強く入れて馬車のスピードを増し、強硬突破を図るようだ。

「止まれ!」

 完全武装の兵士達が前を塞ぐが、抵抗は排除して逃走ルートを特定される危険を残すわけにはいかない。
 彼らが立っている範囲全てから魔法で『火柱』をあげていた。
 兵士達はすぐに体に火が付いて全員が悲鳴をあげながら地面を転げ回る。
 熱された金属製の鎧を脱ごうと暴れる者達もいたが、すぐに静かになって炭のように真っ黒になって体から火をあげていた。
 彼らは、黒焦げになって全員が焼け死んでいた。

「生き残りはなしだ」

 続けて馬車の通行の邪魔にならないように炭のようになった兵士達の死体を風の魔法で道の外に吹き飛ばし、馬車はそのままのスピードで進んでいく。

 エッボはまた何か言いたいようであったが、今度は口を閉じて馬車を走らせる事に専念しているようだ。

「文句があるなら、皇帝になれないからと言ってクーデターを起こす狂犬に言え」

 狂犬とは、ニュルンベルク公爵の事である。

「それで、どのルートで行くんだ?」

「『ミズホ伯国』経由です」

「『ミズホ伯国』?」

「独自の文化を持つ古の民族が運営する自治領です。過去に何度も帝国の侵攻に対抗して大打撃を与え、敵に回すと厄介な事から領主に上級伯爵の爵位が与えられた経緯があります。外交権のみを帝国に委ねた保護国の扱いですね」

 ヴェルに含む物があるエッボであったが、ミズホ伯国については丁寧に説明をしてくれたようだ。
 仕事だと割り切っているのであろう。

「そこで一旦休憩をしてから、フィリップ公爵領を目指します。あの国は半独立国なので、まだニュルンベルク公爵も手を出さないはずですし」

 バルデッシュを脱出した俺達は、一路馬車で北方のミズホ伯国を目指すのであった。



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