様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 帝国最終日の夜は、帰宅前日なので普通にハクカとヴィルマを伴いベッドの中でいたのだが、不意に聞きなれた音がして目を醒ましてしまう。
 時間はまだ夜中で外は真っ暗であったが、窓の外からカチャカチャと何かの金属が擦れるような音が聞こえる。
 ベッドから起き上がって外を見ると皇宮に沢山の兵士達が駆け込んでいる様子が確認できた。
 それと同時に、この迎賓館も金属鎧を着た騎士や兵士達に囲まれているようだ。

「どういう事だ?」

 まさか、親善訪問団を抹殺して宣戦布告とか?

 いや、それよりももう一つの可能性が予想できる。

「反乱か」

「このタイミングで?」

「たぶん」

 ハクカとヴィルマが起き上がり、最悪の事態を口にする。

 この国では皇帝が選挙で決められるくらいだから、その結果に不満を抱いた他の候補者が定期的に反乱を発生させるのであろうか?

 別に好きにして欲しいが、隣国の親善訪問団が訪ねている時には勘弁して欲しいと思ってしまう。

「支度を」

「うんっ!」

 いつ敵兵が雪崩れ込んでくるかもしれない。
 俺とハクカとヴィルマは素早く衣服に着替え、全ての荷物を魔法の袋に放り込み、浄化の魔法で身を清める。

「外は敵兵だらけかよ」

「敵というか反乱軍だな?」

「捕らえようと言うのなら反撃する」

 続けてリッド、ファラ、セイ、リーリン、クララ、コレットも支度をして入って来るが、さすがは慣れているというか既に完全武装をしていた。

「荷物を纏めて逃げよう」

 全員で集まるために部屋を出ると廊下には気絶している数名の騎士と兵士達がいた。

「そういえば、シュルツェ伯爵達は?」

「隣館にも兵が入ったようであるな。シュルツェ伯爵達は文官なので捕らえられたであろう」

 護衛はいるが、一人につき数名では抵抗しても無駄であろう。
 となると彼らは殺されたか捕らえられた事になる。

「まさか、助けようとは思っていないであろうな?」

「いや、無理でしょう」

 導師の問いをヴェルはすぐに否定する。
 迎賓館と皇宮を囲う兵の数を見れば明らかである。
 それに親善訪問団に加わった時点で、こうなる覚悟はどの貴族でもしないといけない。
 俺たちが助けなかったのが悪いと言うのは、完全に筋違いな意見なのだ。

「まあ、『瞬間移動』ですぐに逃げられますけどね。っ!」

「どうした? 伯爵様方?」

 全員が支度をしたのでその場で『瞬間移動』の魔法を使おうとすると突然、頭に激痛が走る。

「魔法が阻害されている?」

 もう一度『瞬間移動』の魔法を使うが、また頭に激痛が走っていた。
 発動するように念ずると頭の中にまるで切り裂かれたように痛みが走るのだ。 

「まさか、魔法が使えない?」

「魔法がであるか? 某は使えているが」

 突入して来た兵士達を倒した導師は、普通に拳に魔力を込められたそうだ。

「どういう事だ?」

「バウマイスター伯爵とファブレ伯爵がいたぞ!」

「やっぱり標的になってるな……」

 先に突入した仲間が戻って来ないからであろう。
 続けて数名の騎士と兵士達が、剣を抜いてこちらに迫って来る。  

「正当防衛だからな」

「うぐぅ……」

 俺は『エリアスタン』ではなく、容赦なく『電撃』の魔法を放って彼らの意識を奪う。
 威力の加減をしていないので死んだかもしれないが、そこまで気を使う余裕などなかった。

「あれ? 魔法が使えますね」

「どうやら一部の魔法限定らしいな」

「一部だけ?」

 頭に激痛が走ったようで、ブランタークさんが頭を手で押さえていた。

「試しに、『飛翔』で浮いてみようとしたんだがな……」

 移動系の魔法が全て阻害されてるらしい。
 魔法が発動せずに、頭に激痛が走ったそうだ。  

「うーーーむ。通信系の魔道具も使えぬな」

 緊急事態なので導師が携帯魔導通信機を使って陛下に連絡を取ろうとしていたが、これも全く繋がらないらしい。

「全部の魔法ではなく、限られた種類の魔法を阻害する魔道具か?」

 阻害する魔法の種類が少ない代わりに、ある程度の広範囲で作用しているのではないかとブランタークさんは予想していた。
 物凄いオーパーツなような気がするが、ヘルムート王国にも古代魔法文明時代の遺産が多数眠っているのだ。
 アーカート神聖帝国に、同様の物が無いはずがなかった。

「それって、つまり……」

 アーカート神聖帝国の首都のど真中で、移動・通信系の魔法や魔道具が一切作動していない事になる。
 これでは、乗って来た魔導飛行船も飛行は出来ないと考えた方が良いであろう。

「その前に既に制圧されているのでは?」

 エリーゼの言う通りであろう。
 ほぼ事実であろうが、精鋭であるニュルンベルク公爵家諸侯軍と国軍のかなりの勢力が通信を阻害してバルデッシュ中の重要拠点や人物を制圧している。

 既に皇宮にも兵が入っているようで、新皇帝アーカート十七世の所在や生死なども不明であった。
 俺は他所の国の詳しい政治・軍事事情など良く知らないが、良くもこう見事にクーデターなど起こせた物である。
 多分、皇帝選挙に負けた時に備えて密かに準備をしていたのであろう。

「伯爵様たちよ。所詮は、他所の国の人間だ」

 ブランタークさんが言うように所詮は他所の国の人間。
 彼らの無事などよりも自分達の安全の方が優先なのだ。

「逃げるしかあるまい」

 足が無いのは辛い所であるが、とにかく逃げるしかあるまい。
 このまま捕まると首謀者が俺に警戒感を抱いているので、間違いなく碌でもない目に遭うはずだからだ。

「言いたくは無いけどな。女性がいるからな」

 皇帝になれなかったからと言って反乱の首謀者になるニュルンベルク公爵に理性など求めるだけ無駄であろう。
 俺達など、新しい国造りのための生贄くらいにしか思っていない可能性がある。
 ニュルンベルク公爵がもし理性的だったとしても末端まで彼の考えが伝わっている保障も無いのだ。

「とにかく、この妙な魔法妨害がない場所まで逃げましょう」

「エリーゼの嬢ちゃん達もわかったな? 殺せ」

「エリーゼの治癒は逃走に一番必要な物である。最優先で守り、最悪他の人間が犠牲になるしかないのである」

 ブランタークさんと導師の表情が鋭くなった。
 二人は、現役冒険者時代などに人を殺した経験があるのかもしれなかった。

「エル。大丈夫か?」

「ヴェルこそ大丈夫か?」

「さあな」

「リッドは、大丈夫か」

「ルークも大丈夫かよ」

 実は、もう既に百人近く殺しているのだが、あの時は死体など見ていないので罪悪感などは感じていなかったのだ。

「イーナは?」

「やるしかないわ! 捕まったらどうなるかわからないし」

「ルイーゼは?」

「魔闘流は、戦場格闘技が元になっているんだよ。躊躇う理由が無い」

「ファラは」

「やるわよ」

「ヴィルマ」

「私がルーク様の妻になる理由は、こういう時のため。やれる」

「カタリーナは?」

「ここで死んでしまっては、せっかくのヴェイゲル家復興が泡と消えてしまいますわ。やるしかありません」

「ハクカは?」

「頑張る」

「セイさんは?」

「私なら平気よ」

 みんな、それぞれに覚悟を決めたようだ。

「今は時間が惜しいです。早く行きましょう」

「わかった」

 俺達は周囲を警戒しながら、迎賓館の裏口からバルデッシュの市街地に逃げ込む事にする。
 下の階に降りると既に他の廊下は敵兵に占拠されていた。
 数名の使用人やメイドが倒れていて、彼らは抵抗した際に斬り殺されたようだ。

「トーラスめ! 失敗したのか!」

「そりゃあ、するだろう。俺達相手に、あの人数では不足だぜ」

 そう言うや否やブランタークさんが小さなウィンドカッターを複数発動させる。
 標的となった兵士達は首を切り裂かれ、血の噴水をあげながら倒れ伏していた。

「酷い有様だな」

 下の階は全滅であった。
 少しだけ部屋を覗いてみるが、魔導ギルド本部などから来ていた魔法使い達が数名死んでいた。
 いくら強力な魔法が使えても不意を突かれれば意外と呆気なく死んでしまうのだ。

「ニュルンベルク公爵は、本気のキチガイかもな」

 普通ならば、ヘルムート王国の人間は移動を制限するとか軟禁するとかして、手を出さないのが常識であろう。
 なのに彼は、我が国の貴重な魔法使いを複数殺してしまった。

「戦争になったら、強力な駒になるからであろう」

「クーデターに成功しても、いきなり戦争は無理なのに……」

 大方、導師の考え通りなのであろうが、こんなキチガイに付き合っている時間が惜しい。
 味方の救出は諦めて、すぐに外に出る事にする。

「バウマイスター伯爵だ!」

「手柄首だ!」

「大人気であるな」

「アームストロング子爵もいる! 殺せ!」

「導師も人気ですね」

「某は、女性と子供に人気がある男なのであるがな!」

 冗談なのか、本気なのか?

 そう言うのと同時に魔力を纏わせた拳で次々と兵士達を倒していく。
 良く見ると全員の首を一撃で圧し折っていて、彼からおかしな方向に顔を向けて倒れていた。

「ひぃーーー!」

 その強さに恐れを成した兵士が剣をメチャメチャに振り回すが、その剣も導師の拳による一撃で簡単に折られてしまう。
 剣を失った兵士は逃げようとするが、背中を向けた瞬間に頭を掴まれて首を圧し折られてしまう。

「某にも家族があるのでな。許せよ」

 導師に掴まれたままの兵士の死体は、首が折れているのでマリオネットのようにダランとぶら下がっていたが、すぐに廊下の脇に投げ捨てられる。

「急ぐのである」

 それからは、俺とブランタークさんがウィンドカッターで、導師は魔力を拳に込めて、ヴェルは鉄の塊を魔力で飛ばして兵士達を排除していた。

「意外と数が多いな」

「メインターゲットの皇宮の隣だからでしょう」

「厄介だな」

 一緒に剣と槍を振るっていたリッドとエルとイーナの得物も既に血の色で染まっている。
 3人は得物の切れ味を戻すために倒れている兵士が着ている服で素早く拭っていた。

「粗方始末したな。外に出よう」

 物資や食料を入れるための裏口から裏庭へと出ると、そこには今まで姿を見ていなかった人物がいた。
 テレーゼ様が五名の家臣と共に逃がさんとする敵の兵士達と小競り合いを続けていたのだ。
 テレーゼ様の方には既に二名の犠牲が出て倒れていて、敵側は四名の兵士が倒れている。
 奮戦してはいるようだが、敵側の兵士が多くて外に出して貰えないようだ。

「助太刀します」

 ブランタークさんのウィンドカッターとヴェルの魔法で、裏門を中心に集まっていた兵士達は全て倒されていく。
 首を切られ、顔や体に穴を開けられ、生存者は一人もいなくなっていた。

「助太刀すまぬの」

 ナイトガウン姿のテレーゼ様は、血の付いた剣を持ったまま俺達にお礼を言う。

「自ら兵を斬ったので?」

「本来あってはならぬ事じゃが、妾も数に入れないと厳しい状況であったからの。剣は、幼少の頃より最低限の鍛錬を受けておっての」

 血が付いているという事は最低でも一人は斬っているはずだ。

「エリーゼ殿とそこのお嬢さんたちも済まぬな」

「いえ。まだ助かるでしょうから」

 ハクカとエリーゼとコレットは、倒れていたテレーゼ様の家臣達に治癒魔法をかけていた。

「助かりました」

「テレーゼ様。申し訳ありません。思わぬ不覚を取りまして」

「良い。妾を守るために盾となったのじゃ。名誉である」

 彼らは無事に起き上がってから、ハクカとエリーゼとコレットにお礼を言う。
 テレーゼ様には不覚を取った件を謝っていたが、それを彼女は名誉だと逆に褒めていた。
 やはり彼女は、貴族として侮れないカリスマと能力を持っているようだ。

「さてと逃げるとするかの。ヴェンデリンは魔法で逃げぬのか?」

「テレーゼ様。実は……」

 通信や移動系の魔法が封じられていると話すと、彼女は一瞬だけその表情を曇らせる。
 一瞬なのは、今一番偉い自分が不安そうな顔をすれば家臣達に動揺を与えてしまうからであろう。

「妙な物を……。では、味方の応援は当てにできぬな」

 連絡不能で孤立している時に、クーデター軍が奇襲をかけてくる。
 この攻撃のせいで、バルデッシュ内にある重要拠点は全滅であろうとテレーゼ様は予想していた。

「じゃが、数多ある重要拠点に兵を分散した。事前に通信不能なのは知っているし、ニュルンベルク公爵家諸侯軍は精鋭が多い。伝令などで連絡は万全であろうが……」

 バルデッシュ全てを抑えられるはずがない。
 上手く街中に逃げ込んでから、北方のフィリップ公爵領に逃げれば成功の目はあるとテレーゼ様は述べていた。

「では、俺達は南に」

「残念ながら、南はニュルンベルク公爵領じゃぞ。南部の貴族も怪しいのぉ」

 今回のクーデターに参加している可能性があり、徒歩や馬で逃げるのは難しいであろうと説明していた。

「我がフィリップ公爵領ならば、逃げ込めれば安全じゃ。駅馬車でも奪って逃げるかの」

 ここバルデッシュにはフィリップ公爵領へと続く北方街道が整備されていて、更に大型の駅馬車もあるそうで、これを使えば脱出も可能であろう。

「それしかないか……」

「では、行こうぞ」

 方針が決まったので迎賓館を出るとテレーゼ様は俺達を下水道へと案内していた。



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