様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「地方の貴族の方々は間に合うのでしょうか?」

「全員は間に合わないでしょう」

 葬儀後には次の皇帝を決める貴族議会の開催もあるので、議員になっている貴族などはそれに間に合うはず。
 いや、間に合わないような奴は議員に相応しく無いと見なされる。
 だから、一週間後の葬儀でも問題ないのであろう。

「貴族議員に選ばれると屋敷に魔導通信機が置かれるそうである!」

「導師。今まで、どこに行っていたんです?」

「買い食いである!」

「そうですか……」

 他の貴族ならば、遊びに行くと見せかけて実は何か情報種集をとか考えられるのだが、ヴェルに会議の報告役まで押し付ける導師にその可能性は薄い。

 普段は本当に道化に徹するのが、陛下のお気に入りである導師の処世術なのだ。
 ただし、本人は心から楽しんでいるので、気を使う必要は一切無かった。

「携帯用の小型ではなく、過去に地下遺跡から大量に出土した魔導通信機で連絡をしていると聞いたのである!」

 大型の無線機が魔道具化したような物で移動は難しいが、貴族議員に選ばれると貸与されて屋敷に設置されるそうだ。
 緊急の連絡などはそれで受けられるので、彼らは葬儀や次期皇帝選出のための会議に間に合うというわけだ。

「遅れると議員の資格無しで最悪資格剥奪もあるらしいな」

 続けて、ブランタークさんも姿を見せる。
 彼もブライヒレーダー辺境伯の代理として残留組に指名されていた。

「魔導通信機の所有権は帝国にある。議員になると貸与されて、議員から外れれば返還しないといけないからな」

 毎年、数名ずつではあるが議員の交代は発生する。
 家が繁栄して新たに指名される者と逆に衰退して議員から外される者。
 辞めた議員の屋敷から帝国の役人が魔導通信機を回収する光景は、帝国では本に書かれるほどの物悲しい光景なのだそうだ。
 逆に議員に指名されて屋敷に魔導通信機が来るとパーティーやお祭りをする者もいるらしい。
 まさに栄枯盛衰というやつである。

「情報が早いから、議員連中は本葬儀に間に合う。中央の法衣貴族や領地がバルデッシュから近い貴族も間に合うな」

 間に合わない人達は、葬儀終了後も予備葬儀が行なわれるのでそこに参列したり祈りを捧げにいくそうだ。

「そこで、上と下に分かれるんですね」

 俺達は、本葬儀に招待されているのでそれに出るわけだ。

「それで、次の皇帝選出のための議会でしたっけ?」

「議員の投票で決めるわけだな」

 議員の定数は、五百名だそうだ。
 そこから議員でもある皇家と七つの公爵家から立候補者が出て、彼らは決められた時間の中で所信演説を行なう。
 決められた時間内に内政・外交の方針を語り、それを聞いて議員達が一番良いと思った人に投票を行なう。

「過半数を取れば勝ちだな」

 票が割れた場合は、最下位の候補者を外してもう一度投票だそうだ。
 この辺のルールは、地球でも良くある物であった。

「とはいえ、今回は四名しか出ないからそう時間もかからないだろうな」

 亡くなった陛下は、メッテルニヒ公爵家の出だと聞いた。
 その先代は、テレーゼ様の曽祖父なのでフィリップ公爵家も立候補はしないと言っている。
 そうなると六名が出ていないと駄目なような気もするが。

「二人は、老齢だから辞退したのさ」

 当主しか立候補できないし、その当主が六十歳を超えていると辞退するという慣例があるらしい。

「すぐに死なれるとまた選定で手間がかかるし、一人の皇帝の統治期間が長い方が治世が安定するという考え方だな」

 駄目な人が長期間政権を維持して国が衰退する可能性もあるのだが、それを排除するための投票なのであろう。
 必ずしも絶対でないのは、どこの世界でも同じなのであろうが。

「それ、一日で終わるんですか?」

「さすがに三日はかかる」

 演説・質疑応答で一人半日ほど持ち時間があり、四人なので二日間。
 最終日に投票を行なって決めるので三日間の日程らしい。

「長いなぁ。別に参加するわけじゃないからどうでもいいけど」

 どうせ新皇帝が決定するまでは、迎賓館に篭もる事になるのだ。
 新皇帝が即位するまでは、アーカート神聖帝国中が喪中なので身分の上下に関わらず遊び目的の外出は自粛され、劇場や歓楽街なども休業となるのだから。

「いや、俺達も会議場に行くんだけど」

「どうしてですか!」

「隣国の皇帝が選出されるから、普通に情報収集だろう」

 ブランタークさんが、『何を当たり前の事を……』と言った表情を浮かべる。
 訪問親善団は王国が派遣した物なので、その団員が残る以上は新皇帝の政策や人と成りを調べて報告する義務がある。

「この国は、そこまで皇帝の力が強いわけでもない。落選した他の候補者だって、得票数によっては無視できない政治勢力なんだ」

 有力野党のような物だから、これの情報収集も必要なのであろう。

「それはわかるんですけど、なぜそれに俺達が出ないと行けないんです?」

「親善訪問団の一員だから」

 ブランタークさんの当たり前な意見に俺達はガックリと肩を落とす。



「ふわぁーーー」

「寝るなよ。伯爵様」

 皇帝陛下の急死から八日後、俺は皇宮の近くにある貴族議会会議場の見学席で長い演説を聞いていた。
 昨日行なわれた葬儀は、テレーゼ様達の準備によって無事に終わっていた。
 葬儀には貴族から平民まで多くの参列者が訪れ、俺達もヘルムート王国代表としてかなりの上座で神官の説教を聴く羽目になっていた。
 こういう席では、どこの世界や国でも共通して坊主の説教が長い。
 朝の鍛錬で汗をかき、風呂に入って朝食を食べて来た俺達には眠りの魔法の呪文にしか聞こえず、何度も居眠りをしそうになっていた。
 怒られるかと思ったのだが、良く見るとシュルツェ伯爵達も少し眠そうであった。
 彼らは飾りの俺達とは違って、情報収集などで忙しかったので余計に疲れていたのであろう。
 そして、今日の皇帝選出臨時議会でも同じだ。
 まだ一人目のブランデンブルク公爵の時点で、みんな眠たそうであった。
 良く見ると、ただの見学者である俺達とは違って議員なのに、平気で寝ている奴がいる。

 葬儀で忙しかったのであろうが、当事者が寝ているのはどうなのであろうか?

 帝国の政治が、少し心配になってしまう。

「議員が寝ていますね」

「悪い大人の見本だな」

「ブランタークさん。隣にも悪い見本がいるけど」

 ルイーゼの指摘通りで、やけに静かだと思ったら導師が軽くいびきをかいて寝ていた。

「導師はいいんだよ」

「なぜなんです?」

「目が開いているじゃないか」

「こんな事を言うと失礼だと思うけど、本当に不気味ね」

 確かに導師は居眠りはしているが、その目は開いたままであった。
 随分と器用だなとは思うが、イーナの言うようにただ不気味だ。
 その外見と合わさって、子供が見たら確実に泣くであろう。
 シュルツェ伯爵達などは、導師に視線すら送らないで演説を眠気と戦いながら聴いていた。
 導師に面と向かって居眠りを非難するリスクを避けたのであろう。

「別に聞かなくても演説の原稿は貰えるけど」

 後の質疑応答と合わせて、速記官が記載してから紙に纏められて議員や関係者には配られるそうだ。
 こちらにも貰えるそうなので、一応居眠りをしても問題はない事になっていた。

「ただ、重要な事なんですけどね」

「とは言ってもな。誰がなっても、そんなに政策に変化は無いんだよ」

 平和で安定している時代の皇帝選出なので、保守中流に寄って誰がなってもそう政策に変化は無い。
 停戦を続けて、徐々に不戦条約の締結と通商の拡大を進めていく。

 人の出入りも、もう少し解禁しましょうか?

 魔物の領域を開放したり、未開地の開発を進めて、国力を増大させる努力は続ける。
 魔法技術の開発も今まで通りに進めましょう。
 午後からはバーデン公爵が演説と質疑応答を行なうが、二人の政策にそう違いはなかった。
 開発重点地域が違うのは、自分の領地のある地域を優先しているからだが、これはどの候補も同じ事を言う。
 そうしないと同じ地域出身の議員の票を得られないからだ。
 人は、利権がないと動かないのだから。
 それにしても昼食を食べた後なので死ぬほど眠かった。
 前世で居眠りをしている国会議員を『けしからん!』などと言っていたが、これは確かに眠い。 
 議場の議員も、ほぼ全員睡魔と戦っているようであった。 

「明日もあるのかよーーー!」

 リッドは俺の護衛で一日中立っていたので、無駄に疲労していた。
 立ちながら呪文のような演説を聞いているだけなのに、動いている時よりも疲れているようだ。

「眠いし、お腹減った」

「早く帰って何か食べようね」

「うん。はくか」

 ヴィルマも途中で居眠りをしていた。



 翌朝。
 また出かける支度をしてから貴族議会会議場の見学席に入ると早速三人目の候補者が演説を開始する。
 育ちの良さそうで、あまり派手ではないが高価な服を着た落ち着いた感じの三十代半ばくらいの青年であった。
 ブライヒレーダー辺境伯と同じくらいの年齢であろう。

「中央の皇家から立候補したワルター殿だな」

 アーカート神聖帝国は皇帝を投票で決めるのだが、中央で直轄地を管理する皇家が存在している。
 爵位は公爵よりも上の大公爵家という名称で、この家から皇帝が出ないと彼らは皇帝を支える官僚機構と同じ扱いになる。
 皇帝は決められた予算内で自分が使う人材の雇用も可能であったが、それで全て賄えるわけではない。
 帝国の統治には、皇家の協力が必要であった。
 その部分は、皇家が有利な点かもしれない。

「他家から来た皇帝は、皇家に気を使うわけだな。これが」

 彼らは直轄地を管理して予算を捻出する存在なので、かなり気を使うわけだ。
 なるほど、投票で他の家の者が皇帝になっても皇家からすればさほど問題でもないわけだ。

「あまり革新的な事は出来ないんですね」

「そういう事だな」

 どうりで、立候補者達が皆似たような事を演説で言うわけだ。

「それでも皇帝陛下だからな。皇家は取り戻そうとするし、他の家の者も名誉や利益があるから立候補する」

「なるほど」

 中央のエリートであるワルター大公爵の演説は、前日の二人とさほど差は無かった。
 今の政治状況で、斬新な政策というのも難しいのであろうが。

「彼が当選すれば、アーカート十七世陛下になるわけだ」

 皇帝の名前であったが、これは中央の皇家の者が当選するとアーカートの国号に他家の者がなると幾つかの候補の中から選ぶ。
 先代の陛下は、無難に評価が高い皇帝が多いウィルヘルムを選んでいる。
 逆に前者の評判が悪くて二度と選ばれない皇帝名も複数あるそうだ。

「やっと最後のニュルンベルク公爵殿だな」

 かなりのタカ派だと聞いているが、果たしてどんな演説をするのか?

 少し興味があって耳を傾けるが、彼の演説は過激であった。

「我がアーカート神聖帝国は、現在重大な危機に直面している!」

 いきなりの一言に上座の議員席に座るテレーゼ様や他の候補者達、更には立候補していないホーエンツォレルン公爵、マイセン公爵なども驚きで目を見開いていた。

「現在、隣国ヘルムート王国は大きく成長しようとしている! それはなぜか? 英雄たちが現れたからだ!」

 ニュルンベルク公爵がその鷹のように鋭い視線を向けた先は、見学席に座っているものであった。

「その英雄たちは十二歳で伝説の古代竜を倒し、老属性竜を倒してパルケニア草原を開放した。現在、パルケニア草原は大穀倉地帯として開発が進んでいる」

 確かに俺達が開放したパルケニア草原は大規模な穀倉地帯として開発が進んでいる。
 ニュルンベルク公爵は、隙なく情報を集めているようだ。

「更に! 古代の名工イシュルバーグ伯爵の工房に即時に稼動可能な大型魔導飛行船も増えている! 既にその数では、両国との間に倍以上の差がついている! 加えて、この大陸の名を冠した超巨大魔導飛行船の試運転と訓練も行われているのだ! これの正式配属は時間の問題であろう!」

 両国ともそれに見合う大きさの魔晶石が無く、発掘されていても動かない大型魔導飛行船をそれなりの数保管している。
 そのバランスが、俺達のせいで崩れているのは確かであった。

「南端部未開地と東南端部未開地の開発も始まっている! 更に大鉱山地帯ヘルタニア渓谷の開放も成った! この差を埋めなければ、我が国は将来的にヘルムート王国の北征を避け得ない状態となるであろう!」

 歯に衣を着せぬヘルムート王国脅威論に見学席にいたシュルツェ伯爵達も絶句している。
 過去にも、たまにヘルムート王国の貴族達が議会の見学を行なっているそうだが、その席で堂々と我が国の脅威を論った者はいなかったそうだ。

「外交的に無礼になるというか、妙なのを刺激するからでしょう?」

「その通りだ」

 停戦から二百年以上、既に実戦経験者など存在しない。
 喉元を過ぎれば熱さを忘れるというか、非主流派や若い世代などから戦争を望む意見も無視できないくらいには育っていて、両国ともにその鎮火に労力を使っているのだ。

「年寄りや主流派の連中は、今の状態を良しとするからな」

 逆に非主流派でどうにか上に上がりたい者、軍部では出世の糸口にしたい者、商人などでも戦争になれば儲かると考える人達も多い。
 彼らに、全体の利益を考えろと言っても無駄である。
 今の体制では自分達はのし上がれないので、戦争による現状の破壊を望んでいるのだから。
 現に軍部で強硬な意見を言うのは、中堅で燻っているような連中が多かった。

「国内の開発の促進に交易の拡大などは当たり前である! だが、同時に軍の強化も必要と考える! 現実にヘルムート王国の軍予算は微増傾向にある!」

 パルケニア草原の開放で防衛管区が増えた分は兵士の数とポストも増加していたし、空軍は地下遺跡に隠されていた魔導飛行船用のドッグを本拠地にするために人員の増加を行なっている。

 ヘルタニア渓谷も警備隊の仕事とポストが増えた。
 必要な事なので、僅かではあるが軍事予算が増えているわけだ。

「これに対抗すべく、我がアーカート神聖帝国でも軍備はその量と質を充実させなければならない!」

 演説を聴いている中で、軍と関係の深い議員達から歓声と拍手が沸き起こる。
 軍に携わっている者からすれば、予算が増えるのは大歓迎なのだ。
 そこに戦争をどうしてもしたいからという理由はあまり含まれていない。
 軍の上の方にいる連中からすれば、予算が増えるのは結構だが、負けた時のリスクを考えると戦争自体は反対というスタンスの者達が多かった。

「(国力が増えている隣国への脅威論を理由に軍の予算を増やして欲しいと。そういう事だろうな……)」

 扇動的な演説ではあるが、支持を増やす手法はなかなかに強かである。
 皇帝にならなくても、この若き野望家ニュルンベルク公爵はヘルムート王国が注意しなければいけない人物であろう。

「今までが安泰であったからと言って、それに胡坐をかいていては滅亡への一里塚である! 次の皇帝は、大きく変動する両国の関係に対応して、時には痛みを伴う改革を行う必要があろう! 私、マックス・エアハルト・アルミン・フォン・ニュルンベルクこそが帝国の真の繁栄を導くと約束しよう!」

 ニュルンベルク公爵の演説に、かなりの割合の議員達が大きな拍手を送っていた。
 前の三人の当たり障りの無い演説に比べれば、聞く価値はある物であったからだ。
 後の質疑応答でも、ニュルンベルク公爵はテキパキと質問に答えている。
 鋭い目付きと視線は気になるが、それも特徴となって目立っているし、若くて顔も悪くない。
 何より演説が上手い。
 質問への答え方を見ても、彼がとても頭が回る人物なのは確かであった。
 四人の候補者による所信演説が終わったので俺達は迎賓館へと戻るのであった。



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