様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「(ようやく跡取り息子が結婚か……うちも色々と事情があったからなぁ……)」

 今年で30歳になるトニーがようやく結婚をすると父が報告をした翌日。
 僕はアンディ兄さんと共にいつも狩猟と採集に出かける森の中に幼女とともにいた。

 なぜかと言えば、もう数日中にはお嫁さんがこのファブレ騎士領に到着して結婚式が行われるからである。
 小なりとはいえ、一応は貴族の結婚式である。
 更に、こんな何も無い僻地の田舎村での冠婚葬祭ともなれば、それは普段は娯楽に飢えている領民達も一緒に祝いたいわけだ。
 実際には、我がファブレ家が全て負担する結婚式に出す料理や酒が目当てだと思うのだ。
 まあ、そんな本音と建前の話は別にして、数百人にもなるはずの結婚パーティーに顔を出すであろう面子が飲み食いする食料や酒ともなれば、これは膨大な量になる。
 かと言って、この地を治めるお館様ともあろうお方が、その部分をケチってしまうと問題になってしまう。
 領地の治める貴族が、その領民達にケチ臭いとか貧乏臭いと思われてしまえば、それは後に大きな禍根の原因となってしまうであろうからだ。

 普段は白パンと塩・胡椒の野菜のスープと果物で凌ごうとも、こういう時には食べ切れない飲み切れないほどの酒やご馳走を準備しないといけないのだ。

 衣装やアクセサリーなどは嫁の実家が準備するとしても嫁の実家に払う持参金に旦那の方の衣装なども新しく作らないといけないし、今、話をしたパーティーで出すご馳走や酒の件もある。

 普通、男でも貴族は二十歳くらいまでには結婚するのが普通なのに、なぜトニーが30歳まで独り身だったのか?

 それには、涙無しは語れない厳しい現実が存在していたのだ。

「(トニーが結婚するのは良いんだ)」

 正直、こんな田舎の寒村しかない領地。
 僕は、八男なので元々継げないが、継ぎたいとも思わなかった。
 早く独立して、冒険者として生きる。
 これこそが、僕の目標であったからだ。
 今回、アンディ兄さんが家を出て独立する。
 ルパンは、まだ結婚していないトニーが万が一にも急死した時のための予備として、もう数ヵ月後には彼も親戚筋の家臣の家に婿に入るようだ。
 ちなみにその家臣の家とは、父の叔父の実家で、先の天地の森への出兵で我がファブレ騎士領軍を率いた人物であるらしい。
 当然、その時に彼は戦死していたし、同時にその跡取り息子である父の従兄弟も戦死している。他にも残された男性相続者も不幸が重なって、今は大叔父の孫娘にあたる人物が、辛うじて家を維持しているようだ。

 ルパンは、その孫娘と結婚してその家を継ぐのだ。

 そんな我がファブレ家の方針が色々と決まり、結婚式の準備に忙しいはずなのに、僕とアンディ兄さんが森の中にいる理由。
 容易に想像がつくわけだが、要するに結婚式で出す料理の食材を獲って来るようにとの、父からの命令であったのだ。
 しかも、僕はなぜかアンディ兄さんと組む羽目になってしまう。
 人前で魔法を見せたくないのに、なぜか付けられた同伴者。
 しかもそのパートナーが、僕が一番話をするアンディ兄さんなのが意地悪だ。
 一番仲が良いので無碍にも出来ず、かといって魔法を使わなければ僅か5歳の僕の収穫など、もしかしたら皆無という可能性もある。
 さてどうしようかと思っていると、アンディ兄さんが僕に話しかけてくる。

「彼女は、僕たちの祖父の弟の孫だよ」

「ハクカです」

 アンディ兄さんのズボンを握りながら不安そうな目でこちらを見ている幼女。幼女は、肩まで伸ばした茶髪、黒い目に健康的な肌をしていた。

「ルークだよ。よろしくねハクカちゃん」

「うん」

 ハクカの満面な笑みに見惚れた。

「ルーク、遠慮しないで、魔法を使っても良いんだよ」

「ええと……」

 突然のアンディ兄さんからの『魔法を使っても良い』発言に口を篭らせてしまう僕であったが、実は僕自身、自分が魔法を使える事を他人に秘密に出来ているとは思わなかった。
 普通に考えて、まだ6歳の子供が一人で狼や熊の出る森に入って、下手な大人顔負けの狩猟や採集の成果を得ているのだ。
 魔法には、普段は非力な人が筋力や速度を強化するための物があり、しかもこの魔法は程度の差はあったが、比較的ポピュラーな魔法でもあった。
 僕が一人で森に入って心配されなかった理由の一つには、最低でも魔法を使っている件に対して黙認というか家族の間で緘口令が敷かれているのであろうと想像していたのだ。

「ルークは、6歳とは思えないほど賢いね。そう。父上も母上もトニー兄さん達もルークを除く家族全員が知っていたのさ。ルークに魔法の才能があるという事を」

 何となくそんな予感はしていたが、そうなると一つ疑問が出て来る。
 なぜ、僕の魔法をもっと領地の発展に生かさないのかだ。
 するとアンディ兄さんが僕の疑問に気が付いたらしく、すぐに僕の疑問に答えてくれた。

「もし、ルークが幼くして魔法の才能を領民達に発揮したとしよう。そうなれば、これはお家騒動の発端となるだろうね」

 この世界における貴族を含めた家の相続は、基本的には長男が優先される。
 これに加えて王族や貴族ともなると今度はその子を産んだ妻の身分が重要となる。
 貴族でない名主の娘である父の妾レイナの子供達には相続権が基本的には無い。
 あるとすれば、それは本妻に男子が生まれなかった時の事だ。
 本妻の子供が女子だけであった場合、これはその貴族によって判断が分かれる。
 長女に婿を取って跡を継がせるケースと妾の産んだ長男を継がせる場合だ。
 要するに一応は本妻の子優先、長男優先という風習はあるが、最後には当主である父親の決定が最優先されるようになっていたのだ。
 このせいで、良くお家騒動が発生して双方が刃傷沙汰に及んだり、騒ぎを自力で収拾できずに王家に知られてしまい、罰として領地を減らされたり、果ては改易という処分まで受ける貴族家も数年に一度は必ず発生するそうなのだ。

「ルーク、君は僕と同じく家を出たいんだよね?」

「はい」

「なら良いんだ。父上も、それは把握している」

「そうなのですか」

「漢字は読めないけど、一応は貴族家の当主なのさ」

 父は、僕が魔法を領民のために大々的に発揮した場合を想定し、これによる領内の利益よりも家臣達や領民達が無責任に『魔法の使えるルークこそ、ファブレ家の当主に相応しいのでは?』などと騒ぎ、おかしな派閥でも作られたら堪らないと考えているそうだ。

「そうでなくても五年前の出兵の失敗が糸を引いているんだ」

 5年前。
 先々代のブライヒレーダー辺境伯の命令で領民を従軍せざる得なくなった天地の森の出兵により、多数の領民の死亡。このために亡くなった領民の抜けた穴を補うべく農作業せざる得ず、通常の農作業などにも人手が足りなくてそのやり繰りに四苦八苦していたり、損害を回復するまでという名目で一時的に税金を少し上げていて、それが領民達の不満の芽になっていたりしていた。
 何より、その出兵でファブレ本家から一人も犠牲者が出ていない。
 というか一人も出兵していなかった件で、余計に領民達が不信を抱いている部分があるようなのだ。

「実際、分家で家臣筋の大叔父やその息子三人とハクカの父親と祖父は戦死しているからね」

 しかもそのせいで、大叔父の家には戦死した長男の娘しか残らず、彼女はもう少ししたらルパンを婿に入れて家を継がせるわけなのだから、これで、大叔父の家人達に不満が無いと言ったら嘘になるであろう。

「だから、ルークの魔法を大っぴらに宣伝しないのさ」

 間違いなく、僕こそがファブレ家の次期当主に相応しいと騒ぐ人間が出て来るはずだ。

「もうそれとなく気が付いている人もいるだろうけどね。別にルークが皆の前で魔法でも披露しない限りは証拠がないからね」

「それで森行きの黙認を」

「十五歳になって成人したら、遠慮しないで家を出て欲しいんだろうね」

「個人的には、もっと早く家を出たいかな」

 ボクはアンディ兄さんから、規模は小なれどお家騒動の芽がある事を知り、早く成人してこの領を出たいと真剣に思ってしまうのであった。

「この森は我が家専用の森だから、遠慮しないで魔法で獲物を獲ると良いさ。僕が同伴なのは、狩りの成果が僕メインであると言う方便のためでもある」

「それで今までに他の狩人の人とかが来なかったんですね」

「うちの専用にしても領民から苦情とか来ないからね。うちの領地、無駄に土地が余っているから、自由に狩猟や採集が可能な森も多いし。天地の森の開拓なんかより、移民でも募って普通の無人地の開発に専念していれば良かったのに」

「そうだよね」

「ハクカが同伴なのは、ハクカの母親から頼まれたからだよ」

「そうなんですか?」

 そして、僕の魔法が家族に黙認されていた話に加わりたくも無い相続争いの原因が僕であるという話を聞き、ますます早く家を出たいと考えてしまう僕であったが、さすがに十五歳にならない者を独立させるわけにはいかないらしい。
 あと、僕が毎日ホロホロ鳥を狩ってくれるので、それがいなくなると夕食のおかずが減ってしまうという。

 冗談なのか?

 本気なのか? 

 いまいち良くわからない理由で、俺は毎日の森行きを黙認されていたようであった。

「パンと野菜スープと果物のみの夕食から、ルークのおかげで肉や自然薯やキノコが付くようになったんだ。こんなに嬉しい事は無かったね」

「あの父上や他に兄さん達は狩りには?」

「五年前の出兵によって多くの成人男性が戦死したからね。彼らの穴を埋めるために、父上ですら自ら農作業をしている状態なのさ。当然、僕らも言わずもがなさ」

「そうだったんですか……」

「とはいえ、来るトニー兄さんの結婚パーティーで、白パンと野菜スープと果物のみというわけにもいかず。ここは、ルークに期待するよ」

 確かに結婚式のパーティーでそんなメニューを出したら、貴族としては終わりのような気もする。

「アンディ兄さんは、弓を構えていてくれればいいです」

「自分で探さなくて良いのは楽だね」

 それから半日ほど、僕はいつもは避けている大物の獲物に探知魔法で探って接近をし、弓の腕前ではファブレ家一のアンディ兄さんが放つ矢を魔法で強化する。

 どうやら本当にアンディ兄さんの弓の腕前は優れているらしい。

 矢の方角や進路の修正は全く必用なく、魔法で威力の上がった矢は容赦なく猪、鹿、穴熊、ホロホロ鳥などの急所に命中していく。

 僕とアンディ兄さんは、心臓か脳天に矢の一撃受けて絶命した獲物の血を急いで抜いた。ハクカには、皮を後でなめせるように植物などを集めてもらっていた。

 正直、6歳児には辛い仕事なのだが、さすがは身体強化の魔法。
 特に問題なく、獲物の処理を終わらせていく。

「やっぱり今までは遠慮していたのか」

「猪とかを一人で狩れる6歳児って変でしょう?」

「実は、優秀な魔法使いだとそうおかしくもない」

 アンディ兄さんの話によると生まれ付き大きな魔力を持って生まれた魔法使いの中には、下手をすると僕よりも下の年齢で魔物まで狩ってしまう猛者も少なからず存在するらしい。
 最低でもソフトボール大のファイヤーボールが撃てれば、魔物化した大型動物やゴブリンや動きの遅いゾンビなどは簡単に殺せるからだ。

 あとは、僕のように自分の身体能力を強化して弓や槍などで戦うタイプもいるらしい。
 何と言うか、地球とは違って子供が大活躍である。

「魔法というのは凄い物だね。僕の放った矢の威力をここまで強化できるなんて」

「アンディ兄さんの場合、狙いが正確だから威力だけ弄れば良いので楽でした」

「お褒めに預かり光栄だね。さて、今日はこの辺で良いかな」

「はい」

 3人の前には、既に血抜きを済ませた獲物が大量に積まれていた。
 何しろ、普段は僕くらいしか出入りしていない森である。
 その気になれば、この荒らされていない森はいくらでも獲物を恵んでくれるのだ。
 しかも領内にはこのような平原や森がまだ多数存在している。
 魔物は住んでいないが、熊や狼などの凶暴な野生動物がいるので、女子供達や戦闘力のある男でも一人では狩猟・採集には行けない。
 だが、父が陣頭指揮を執って人手を集めれば、農地や居住地の開発はそう難しい事ではないはずだ。
 実際に、今でもそれを行っているのだ。

「今日は、もうこんな所でいいかな。まだあと三日間も狩りをしないといけないんだ。根を詰めるのは良くない」

 僕もアンディ兄さんの意見に賛同し、急ぎ二人で獲物を載せたリアカーモドキを引きながらハクカの家に行き、ハクカの母親に挨拶をした。ハクカの母親は僕とアンディ兄さんに複雑そうな顔をしながらも獲物を受け取っていた。
 そして、僕達は屋敷へと戻るのであった。
 なお、僕とアンディ兄さんは他の兄さん達や村の狩人達よりも沢山の獲物を獲って来たらしい。
 それから5日間も、なぜか物凄く狩りの成果を期待されるようになる。
 そして五日後、ようやくにして長旅をして来たトニーの嫁さんとその護衛一行が到着し、教会の老神父が取り仕切る結婚式が行われる。

 前の世界のキリスト式と同じく、やはり結婚式は教会がで行われるらしい。

 お嫁さんであるフェイトは、今年で15歳。

 些か年が離れているような気がしないでもないが、この世界ではさして気にする人間はいない。
 身分の高い王族や貴族や成功した大商人ともなると連れ合いを亡くしたとか、純粋に若い嫁が欲しいと。
 このくらいの下級貴族の娘と再婚したり、妾を増やしたりする事が良くあるからなのだそうだ。
 それと、この年で結婚するフェイトであったが、貴族の世界ではほぼ平均的。
 男顔負けの活躍をする女冒険者などは結婚が遅れる風潮があるようであったが、庶民も貴族なども女性は二十歳前で結婚するのが普通らしい。

 それでも個人差があるので、二十代前半くらいまでは周りが余計な陰口を叩くような事はしないようだ。
 ただし、二十五歳を過ぎると、これはもう世間では大年増扱いされるらしい。
 フェイトの実家であるテスタロッサ家は、うちよりは財政状態はマシな騎士爵家であり、彼女は一生に一度の晴れ舞台に相応しく高そうなドレスをあつらえて貰っていた。

「きれいだよ」

「・・・・そうだな」

 ハクカがフェイトさんのドレスを見ながら、言うので僕も同意した。
 他にも引き出物の家具なども質は良さそうに見え、それだけこういう時の貴族の見栄の張り方は重要という事なのであろう。
 ボクは貴族ではなくなるので、そんな見栄とも縁は無いはずであった。

「あと一週間……」

 式の間にアンディ兄さんがふとこう漏らしていた。
 一週間後、今度はルパンが分家に正式に婿入りをする。
 それを見届けてから、アンディ兄さんとヘルムートは父から支度金を貰い、ようやく家を出る事が出来るのだ。
 アンディ兄さんは、王都で下級官吏の試験を受けるらしい。
 合格出来れば独自に生計を立てられるので、空いた時間に必死で勉強をしているようだ。

「……」

「ルークは、まださすがに独り立ちは無理だろうからね」

 やろうと思えば出来なくもないであろうが、如何せん今のボクは見た目がまだ6歳のガキでしかない。
 この状態で家から出せば、最悪、父や母が『貴族の癖にいらない子供を捨てた』などと非難されかねない。
 僕は、あと最低9年くらいは我慢するしかないのだ。
 それから一週間後、ルパンの結婚式も無事に終了し、それを見届けたアンディ兄さんとヘルムートはファブレ家から相続権放棄の謝礼も込めた支度金を貰い、うちに商売に来ていた隊商の帰路に同伴して王都への旅に出ていた。

「大きくなったら、王都に遊びに来ると良い。歓迎するから」

 優しいアンディ兄さんは、僕に気遣ってそのような言葉をかけてくれた。
 僕は、次第に遠ざかるアンディ兄さんの姿を視界に入れながら、これからの事を考え続けるのであった。



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