様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 バウマイスター伯爵家領主館の広大な庭で『大お見合い会』が始まりかけていた。
 なぜこのような行事が開催されるのかというとこの世界では多くの人が親の決めた人と結婚するか、お見合いをして結婚相手を決めるからだ。恋愛結婚も存在するが、上に行けば行くほど希になる。
 この世界では、個人よりも家が重視されるから、家のためになる人と結婚する。

 バウマイスター伯爵家領主館で行われている『大お見合い大会』は、バウマイスター伯爵家とファブレ伯爵家以外にもブライヒレーダー辺境伯家の人たちも参加していた。バウマイスター伯爵領とファブレ伯爵領と隣接する形で開発特需に忙しく、新たな職が得られた者も多い。
 となると職を得られた者は結婚してその子供に職を継がせようとする。
 ところが、今のブライヒレーダー辺境伯家には、若い家臣たちを結婚相手の紹介やお見合いの斡旋をしている時間がない。これ以上の過密スケジュールは、ブライヒレーダー辺境伯の健康を害しかねないからだ。

『一人二人はいいですけど、人数が多いですし、私も暇ではないのです』

 という経緯で『大お見合い会』が開催されたわけだ。
 参加資格は俺が認めた者達で、実は既婚者も含まれている。
 大身の家臣になるのだから複数の妻は当たり前だと言われて強引に参加させられている者も多かった。俺が言ったわけではなく、実家の当主や親達から言われたそうだ。尚、ファブレ伯爵家の家臣の中で結婚している人間は10人しかいないのである。ほぼ、全員が独身であるわけだ。

 屋敷の中庭には、テーブルが置かれ、野外パーティ形式でのお見合い会である。
 すでに会場には、多くの若い男女が集まっていた。

「結構年配な人間がいるな」

 ブライヒレーダー辺境伯家側に複数いる若くない家臣たちがいる。

「側室狙いじゃないか?」

 俺は、リッドの疑問に答えた。
 金持ちで女好きの人間もいるが、半分以上は義務で複数の奥さんを娶るのだ。
 それだけの資産があるのだから、複数の奥さんを娶って、その資産規模に応じた義務を果たす。
 義務とは、女性を養うことである。女性が一人で生きていくのにつらい世界だし、いつまでも実家が面倒を見られる保障もないのだ。女性が見捨てられた場合は、冒険者になるか借金娼婦になるかの2択しか存在しない。

「女性にもいるな」

 女性の大半は10代半ばから20代前半ぐらいであったが、中には20代後半や30代前半の人たちも混じっていた。

「子供が産めないので離縁させられたり、若くして夫を亡くしたりする方々もおられるのです」

「ローデリヒさん」

 俺の疑問にローデリヒさんが答えてくれた。

「そういう女性の方々の救済の側面もありますな」

「あれ・・?ローデリヒさん・・・その姿は」

「はい。参加者でございます」

 ローデリヒの正装姿を、見た瞬間でもあった。

「そうか」

 俺とリッドは、スズネ達と合流した。
 スズネは、白いドレスを着ていた。
 ハクカは、薄青のドレスを着ていた。
 ミュウは、白銀のドレスを着ていた。
 セイは、薄水のドレスを着ていた。
 ヴィルマは、淡黄のドレスを着ていた。
 アスナは、薄ピンクのドレスを着ていた。
 キャロルは、濃黄のドレスを着ていた。

「皆、似合っているよ」

「ルーク様、語彙がない」

「俺に長い言葉を言えと」

「合わない」

「だよな」

「しかし、凄い参加者だな」

 王都〜ブライヒブルク〜バウルブルク間の魔導飛行船の経費をバウマイスター伯爵家とブライヒレーダー辺境伯家とファブレ伯爵家の負担にしたので、沢山の若い女性が参加していた。

 少しするとヴェルが壇上に上がり

「えーーーっ、頑張ってください」

 俺達は、ヴェルの一言でずっこけそうになった。
 遅れて拍手がなったので、俺達も拍手することにした。
 周囲を見てみると女性達に囲まれているエル、ローデリヒ、エドガー軍務卿からの手紙を持参した少女達に囲まれているトリスタン、ヘルタニア渓谷の開発で忙しいブライヒレーダー辺境伯からの手紙を持参した少女たちに囲まれているモーリッツとフェリクスたちも参加していた。

 彼らは日帰りで、俺が瞬間移動でここまで連れて来ていた。
 ちなみに帰りは確実に奥さんになる人を連れて帰れと親から釘を刺されているらしく、若干顔を引き攣らせながら女性達と話をしていた。

「あの二人は、暫くヘルタニア渓谷から動けないからな」

 大規模なミスリル鉱床があるファブレ伯爵家の金蔵なので、その開発と防衛に責任重大であったからだ。
 今日中に奥さんを決めて、現地で式をあげる。
 これが既に決まっていたのだ。

「アスナは何か食べたい物あるか」

「ルーク、フルーツが食べたい」

 俺は、アスナのためにフルーツを取ってきて、食べさせた。
 俺は、恥ずかしさから頬を赤くし、アスナも頬が赤くなっていた。
 それを見ていた

「ルーク様・・・あ〜ん」

 スズネがフルーツを差し出してきた。
 俺は、スズネのフルーツを食べた。俺もお返しにスズネにフルーツを食べさせた。

「ルーク」

 ハクカもフルーツを差し出してきたので、食べた。
 お返しにハクカにフルーツを食べさせた。

「ルーク君、はい」

 セイもフルーツを食べさせてきた。
 俺もセイにフルーツに食べさせた。

「ルーク様」

 ヴィルマも参戦し、フルーツを食べさせあった。

「ルーク、あ〜ん」

「あ〜ん」

 ミュウもフルーツを持ってきて、食べさせてきた。
 俺もミュウにフルーツを食べさせた。

「仲がよろしいですね」

「・・・ん?」

 振り返ると髪をミツアミにしている茶髪の少女がいた。
 少女は、色白で青い瞳をしていた。

「君は・・・・」

「コリンナちゃん!」

 スズネの言葉で思い出した。そういえば、あの時、挨拶してくれた少女か。

「お久しぶりです。スズネちゃん、ルーク様」

 コリンナがスカートを少しだけ持ち上げ、一礼をした。

「はい」

 スズネも同様にコリンナに挨拶を交わしていた。

「ああ・・・コリンナも参加者なのか?」

「ルーク様、コリンナちゃんの参加は難しいです」

「そうなのか?」

「ルックナー財務卿の孫娘」

 ヴィルマが端的に言った。

「家格か」

 侯爵家の孫なので、下は、伯爵家、上は公爵家か王族である。

「その通りです。今日はお爺様のご命令で、このお見合い大会の様子を見に参りました。すでにバウマイスター伯爵様にはご許可を頂きました」

「そうか」

 なら俺から言うことはあんまりない。

「それとお爺様からこのお手紙を預かってまいりました」

「・・・ん。家紋か」

 正式な手紙のようだ。

「どうぞ。お使いください」

「ああ」

 俺は、コリンナから借りたペーパーナイフを手に持ち、封を開けた。
 そこには、コリンナと結婚してくれたら子供にルックナー男爵家を引き継がせることが可能と書かれており、弟とカグラザカ家の改易について謝っていた。

「・・・利権狙いか?」

「冷却期間を解除して欲しいのでは?」

「冷却期間ね」

 カグラザカ家のことがあり、ルックナー財務卿とは、距離を置いているのだ。
 具体的に言えば、財務関係の家臣や職人の登用は、ブライヒレーダー辺境伯家やラングレー公爵家やザフト準男爵家の推薦してきた人間を登用しているのだ。この三家の人材が不足したら、登用するだけである。要するにルックナー財務卿は優先順位が低いのであった。当人が悪いわけじゃないので、せいぜいがアスナの子供に爵位を分与したら冷却期間を解除する予定である。一応、その旨は当人に伝えておいたのだ。

「それは違います。ルーク様」

「違うのですか?」

「はい、スズネちゃん・・・お爺様は、男爵家を失いたくないそうです」

「・・俺より、エドガー軍務卿やアームストロング伯爵家やブロワ辺境伯とかいるだろう」

 新興の俺より付き合いのある貴族家と結婚して男爵家を引き継がせたほうがいいと思うのだ。

「ルーク様、難しい」

「難しいの?ヴィルマちゃん」

「うん・・・ルックナー侯爵派閥に所属していると見られる。後は、男爵家が所属変更したら評価が下がる」

 寄子が寄親を変えるような話である。
 しかも男爵は、一応、本物の貴族だからである。

「下手に力のある貴族家より、開発で忙しい俺かヴェルなら所属変更なんて真似しないということか」

「アンディさんがいるから余計にじゃない」

 アンディ兄さんは、ルックナー侯爵派閥に所属しているからである。

「ヴェルの所は・・・あ・・・無理か」

「エリーゼ様が正妻」

 エリーゼを差し置いてコリンナを側室でもいいので置いておけば次世代がコリンナの子供になるのだ。

「ファブレ伯爵家としてはどうだろう」

 ファブレ伯爵家とルックナー侯爵家の婚姻の場合は、ザフト準男爵家やブライヒレーダー辺境伯家やラングレー公爵家がいるのでファブレ伯爵家に利点はない。

「カグラザカ家の手打ちで貴族として、評判が落ちていますから、ファブレ伯爵家と婚姻することで冷却期間解除でルックナー侯爵家が貴族としての評判が回復します」

「今までルックナー侯爵派閥の家臣推薦窓口が、ザフト準男爵家だったよね。それじゃあ、ダメだったの?」

 ハクカが首をかしげながら言う。
 
「・・・ダメですね。貴族としては寄子の寄子に家臣推薦の窓口になってもらうのは、力がない貴族だと思われます」

「ルークと結婚したら評判が回復するどころか上昇するのよね」

「はい」

 後は、コリンナの子供を男爵家に継がせることが可能で、ファブレ伯爵家の後ろ盾も得られる。

「利点も欠点もあんまりないな・・・家としての婚姻をする意味がないな」

 俺の言葉に困った顔をするコリンナであるが、事実、あんまり利点も欠点もない婚姻である。ルイーゼやイーナと婚姻する代わりに子供に道場の管理人になるのと似たような話である。

「後は個人としてどうかな?」

 魔法を使えるわけじゃないので開発には使えない。
 武芸を習っているわけじゃないので冒険者としての同行は絶望的である。

「イーナちゃんやルイーゼちゃんより利点がないのかな?」

「そうだな」

 腰まで届く茶色の髪をミツアミにしている青い瞳の色白の可愛い系の少女である。
 スズネやハクカとの仲は割りと良好そうだ。

「・・・他の貴族家に嫁ぐのは絶望的」

「・・・はい、その通りです。ヴィルマさん」

 侯爵家、財務卿の孫なので引く手あまてそうだが、実は条件とタイミングが悪くて婚姻を逃してしまう貴族の女性が一定数いるのだ。代表的なのは、アンネリーゼ(39歳)、ディアーナ(33歳)、ヘルミーネ(31歳)、ヒルデガルト(29歳)であるが、養う経済力があるためそのまま一生独身で通し、周囲から白い目を向けられることもある。今回の場合だと男爵家の継承と派閥に加わることである。ルックナー財務卿としては、家格がつりあい、自分の派閥から別の派閥に変更しない貴族だと俺かヴェル以外いないそうだ。

「しかし別に男爵家を継承する必要性ないだろう?」

 ルックナー財務卿の弟の代での継承なのでさほどこだわる必要性があるとは思えなかった。

「・・・他の財務を司っている御家の方々と話し合って決めたそうです」

「すでに男爵家継承は規定路線と・・・」

「多分、利権も減らしたわよね」

 セイが答えた。

「あ・・・はい」

 余計にコリンナが子供を産んで男爵家継承しろということか。
 俺は、スズネの入れてくれたマテ茶を飲んで一服していた。隣には、スズネとハクカが座っていた。俺に向かい合うようにコリンナが座っていた。周囲にはコリンナのお世話係の人たちが割りといて、人避けを形成していた。この中に入れるのは、バウマイスター伯爵か俺かヴェルの婚約者か妻ぐらいしか存在しない。

「貴族にも色々だね」

「はい、ハクカさんのように平民でしたら条件やタイミングは緩いのですが・・・」

「私たち貴族の場合は・・・・」

 条件とタイミングが必要だそうだ。
 これから数十年、コリンナの婚姻の条件とタイミングが合う貴族家が現れる可能性は絶望的である。コリンナを平民身分に落としても待っているのは娼婦しかないので一緒独身で白い目で見られる人生である。

「えっと・・・」

 スズネとコリンナの言葉に困った声を上げるハクカ。

「序列には関与しないとお爺様が言っておられました」

 序列に関与しないなら最下層でも問題ないのだ。

「・・・・ハァ・・・仕方ねえな。ファブレ伯爵家の利権に手を出さないことが追加条件だな」

 さすがにスズネと仲のいい友達を見捨てるのもどうかと思い、引き取ることにした。
 これが赤の他人なら見捨てるんだけどな。

「お爺様に聞いてみます」

「ああ」

 利権に手を出さないということはファブレ伯爵家と婚姻させる意味があんまりないのだが、男爵家継承に拘るならさせるいみがあるのである。
 コリンナが貴重な『魔導通信機』を取り出していた。

「そこまでやるんだ」

「死活問題」

 俺、ハクカ、ミュウ、キャロル、リッド、ファラは、呆れていたがヴィルマの言葉が全てである。

「しかし……」

 何気に若い神官も多かった。
 神官が結婚禁止なのは極一部の宗派だけなので、ここで結婚相手を見つけて教会の仕事を手伝って貰うつもりなのだ。
 あとは、結婚式の予約を取るという商売上の話もあった。
 大変に商売熱心と言えよう。

「何とも欲に塗れたお話だな」

「ブランタークさん。残念ですが、人ごとではないのでは?」

「わかっているけどよ……」

 ブランタークさんの後ろには、多くの若い女性が待ち構えていた。
 ブライヒレーダー辺境伯家の人間も多数混じっているので、彼らを引率するリーダーは、今をときめくブライヒレーダー辺境伯家の筆頭お抱え魔法使いであり、家臣としても地位が高く、しかも未だに独身のブランタークさんであったというわけだ。

「俺。このまま、死ぬまで独身でいたいんだけど……」

 半世紀も独身でいたので、今さら結婚などしたくないのであろう。
 それに彼は、文字通り独身貴族なのだ。
 元々資産家なのに俺達と組んで色々と仕事をしたらまた資産が増えている。
 仕事を終えて家に帰ると、そのまま家でノンビリと酒を飲むか、ブライヒブルクの歓楽街に遊びに行ってしまう。
 一応、屋敷は持っているが、年配の女性をメイドに雇って掃除と洗濯を任せているだけらしい。

「気楽なお一人様生活がなぁ……」

 そんなブランタークさんの生活についにキレたのが、その主人であるブライヒレーダー辺境伯であった。



『いいですか。ブランターク……』

 年下ではあるが一家の主としては先輩の主君にブランタークさんは説教をされていた。

『仮にも我が家の筆頭お抱え魔法使いが歓楽街の常連では色々と風聞がですね』

『お館様だって、たまに行くじゃないですか』

『あれは、付き合いですから……。それに、私が行くのは綺麗なお姉さんがお勺をしてくれるレベルのお店でしょう?』

 大貴族ともなればそういう付き合いがあって当然だとブライヒレーダー辺境伯は説明する。
 ブライヒレーダー辺境伯によって、その先の娼館まで行っているのを咎められたようだ。

『あなたほどの身分の人間が娼館の常連って・・・そもそもそういうお店はこっそりいくものでしょう。しかも、エルヴィン君まで連れて行って……』

 王都でも、ブライヒブルクでも、エルまでそんな場所に連れて行った事を問題視していた。

『さすがに伯爵様は連れて行けませんからね』

『絶対に止めてください! 変な娼婦とかが、この子はバウマイスター伯爵の子ですとか言って騒ぎ始めたら、私が困るんですから』

 ブライヒレーダー辺境伯による謀略だと周囲の貴族が騒げば、せっかく良好な両家の仲に皹が入りかねないからだ。

『病気とか避妊とか、ちゃんと対応している高級店ですよ』

『そういう問題ではないのです。おっと、話が逸れましたね……』

 ブライヒレーダー辺境伯は、ブランタークさんに結婚をして子供を作り、その子に家を継がせるようにと命じたそうだ。

『あなたは気楽でいいかもしれませんが、あなたの死後が面倒なんですよ』

 ヴェルの師匠が死んだ時に、その財産を巡って多くの有象無象の詐欺師達が出てきた。
 それよりも資産が多いブランタークさんの死後となると、どれだけ手間がかかるか怖くて堪らないとブライヒレーダー辺境伯は語ったそうだ。

『今なら、子供が成人する頃でもあなたは元気でしょう?』

『さあて? どうなんでしょうかね?』

『魔法使いは、長生きな人が多いじゃないですか』

 確かに魔法使いには長生きの人が多い。
 大量の魔力が体に影響するからという説が有力だが、体力が資本の剣士や武道家と違って、年配の人の方が魔法の精度などが上がる人も多く、100歳を超えても現役の人も一定数存在していた。
 普通に生きるだけなら、150歳を超える人も珍しくないそうだ。
 ボケなければ仕事も出来るので、魔導ギルドや魔道具ギルドの上が詰まっている原因にもなっている。

『とにかくですね。家臣家として相続を認めますから、結婚をして子供を作りなさい。大お見合い会ではうちの団長を任せますから、率先して奥さんを探すように』

『わかりましたよ。ところで、一ついいですか?』

『何です?』

『アニータ様は、どうなのですか?』

『子供が産めないじゃないですか。その前に本当に叔母上を妻にしたいのですか?』

『すいません。ただ言ってみただけです……』

『じゃあこうしましょう。もし今回のお見合い大会で相手が見つからなかったら、叔母上と形式だけでも結婚して、子供は養子を迎え入れる。私からすれば、厄介な相続問題が起らなければいいのですから。叔母上には、毎月お小遣いだけでも渡していただけたら・・・』

『絶対にお相手を見つけます』

 以上のような経緯があり、ブランタークさんは大お見合い会のブライヒレーダー辺境伯家団長兼参加者として今日はローブの胸の部分に名札を付けていた。
 この名札はヴェルのアイデアで、これを付けている人は参加者ですよという合図でもある。

「なら、俺と話をしていても仕方がないですよ。ちゃんと奥さんを見付けないと」

「伯爵様には、妻1人と婚約者様が5人もいるからなぁ……。言い返せない・・・しかも一人増えそうだな」

 ブランタークさんが俺のそばにいるコリンナを見て言う。

「ルックナー財務卿の孫娘で、男爵家を失いたくないそうです」

「・・・ああ、なるほどな」

「後は、コリンナ次第」

 スズネたちと暮らして、関係が悪化するならこの婚姻はなしにするという条件である。
 ルックナー財務卿だけ得して俺にひとつも得がないからいくらかの条件を付け加えたのだ。別に損をするわけでもないから全て了承してくれた。
 ほぼ十代と二十代の参加者しかいない会場内で、一人だけ五十歳を超えているブランタークさんが名札を付けている。
 この光景がツボに嵌ったようで、イーナ達は突然の婚姻命令で困惑しているブランタークさんを見てテーブルに突っ伏して笑っていた。

「ブランターク様の御家の一大事なのですから」

 唯一常識的に窘めるエリーゼやセイですら、ブランタークさんから視線を外している。
 まともに見ると一緒に笑ってしまうからであろう。
 かく言う俺も名札を付けた彼を見ないようにしていた。

「お前ら、覚えとけよ……」

 とは言いつつも主君の命令なのでブランタークさんはお見合いに戻っていた。
 多くの女性に話しかけられるが、その中には二十代前半くらいの女性が多い。
 そろそろ賞味期限切れと呼ばれる年齢の人達が、資産家で年齢が高いブランタークさんに殺到していたのだ。

「助かったぁ……」

 同じく年齢が高めで、そういう女性が群がっていたトーマスが安堵の溜息を漏らす。
 彼は、二十二〜三歳くらいの綺麗な女性と端のテーブルで楽しそうに話をしていた。

「トーマスは、こういうところが如才ないよな」

「そうね」

 ファラも俺の意見に賛同していた。
 もう一方のブランタークさんは、砂糖に群がる蟻の群れのように多くの女性達に囲まれる。
 年齢は高めだが、資産家で、魔法使いで、実は彼もヴェルの師匠と同じく孤児出身で家族がいない。
 嫁ぐと問題になる舅・姑・小姑などの問題が無いので、それも人気を加速させているのだ。

「主君命令だから、何とか選ぶと思うけど……」

 続けて周囲を見渡すと同じく強制参加させられている俺の4人の兄達もいる。
 父上、ルックナー財務卿、エドガー軍務卿に言われて参加している。
 断るというのは貴族としては不可能である。

 アンディ兄さん、グラム兄さん、リョウ兄さん、ルパン兄さん。

 みんな、多くの女性に囲まれていた。
 側室になる人を探しにきたのだ。
 
 近場を見るとカルラに話しかけるエルたち男性陣がいたのだ。
 カルラは、社交辞令で笑顔だが困ったと物語っていた。
 仕方なしにカルラを右手で抱き寄せ、俺の腕の中に匿い男除けをする。

「いいなあ」

「そうですね」

「うん」

 ハクカとスズネとアスナとミュウとコリンナが羨ましそうな声を上げる。

「ありがとうございます」

 カルラが深々とお辞儀をしていた。

「しかし、参加者じゃないのに話し掛けられるとはな」

 カルラの胸元に名札がないのを再度確認をした。
 カルラも白いドレスを着ていた。
 この白いドレスは、ホーエンハイム子爵家から譲ってもらった物だ。
 元々エリーゼの母親の物であるが捨てるぐらいなら誰かに譲った方がいいのだが、胸が合う人がいなかったのでお蔵入りしていた物である。

「・・・エルが悪いんじゃ」

「ところで、エル」

「何だよ、ルーク」

「カルラさん、恋人がいるぞ」

「マジか。ルークまさかお前か」

「嫌、違うぞ」

「ルーク様、なぜそのことを」

「彼女から聞いた」

 カルラが俺の一言で納得したようだ。
 母親までごまかせるはずもないのだ。
 エルは崩れ落ちた。

「パーティー開始から三時間か……」

 時間が経つに連れて、次第にカップルも生まれてくる。
 たまに男子1人に女子2〜4人というグループもあったが、これもこの世界の貴族や家臣の仕様だ。
 余裕のある人ほど奥さんの数が増える。
 地球の一夫一妻制を信奉する人達からは攻撃されそうであったが、金持ちや政治家が非公式に愛人を囲うのを考えると、ある意味潔いとも言えよう。ちなみに日本に一夫一妻制が世間に定着したのは、今から40年前と割と最近の出来事である。

「みんな。フットワークが軽いな」

 ある程度相手が決まると会場から外に出かけていくカップルも現れ始める。
 まだ建設途上であるが、バウルブルクの町でデートのような事をしたり、自分の家や建設予定地に案内したりと。
 更に凄いのは、既に結婚するのを前提で荷物持参で来ている女性の多い事だ。
 相手が決まると、すぐにその人の家や官舎で一緒に生活を始めるつもりなのだ。

「おいおい。大丈夫なのか?」

「それなりの家の人は知らないけど、大半は『もう実家に帰って来るな。次に会うのは結婚式で』という人なのよ」

 イーナの言う通りで、うちやヴェルの血筋が良い幹部連中狙いの貴族子女はともかく、そうではない人を狙っている家臣や一代騎士の娘などは排水の陣でもあるわけだ。排水の陣とは、『お見合い』で数多くの子女たちが荷物を抱えて排水される様子から名づけられた。

「可哀想だとか思って、ルークのように囲わないようにね」

「一人も囲わないよ」

 もしそんな話が漏れたら、架空可哀想話を持つ若い女性が殺到しかねない。

「イーナの中で俺がどれだけ好色扱いなのかは知らないけど、絶対にないから」

「本当に、心当たりはないのかしら?」

「さあてね」

「もし囲うんだったら、俺のように条件をつけて囲った方がいいだろう」

「あの条件で同意する貴族家ってほとんど下級貴族家の三女あたりしかいないと思うのよね」

「まあ、そうだな」

 生活が厳しいので、金持ちの貴族家に嫁がせるのである。
 序列は、平民の下じゃなかったらさほど気にしないのが貴族である。

「もしそんな女性が殺到してきたらどうするのよ」

「娼館の推薦状を出すぞ」

「まあ・・・女性だとそれしかないわよね」

 要するに娼婦として身体を売ればという話である。
 大お見合い会初日は無事に終了し、翌日は初日に仕事があった者へのフォローと自由行動日になっていた。
 参加者はみんな、それぞれにデートなどを楽しんでいるようだ。
 そして、早速、神官達と式の予定を相談している者達もいた。
 脅威のフットワークの軽さであったが、そう感じるのは地球の知識がある俺だけのようだ。

「ブランタークさんも相手を決めたみたいだな」

 一人の若い女性を連れて、彼はバウルブルクの町に出かけていた。
 若干目が死んでいるようにも見えたが、今までの夜の帝王生活ができなくなるので色々と思うところがあるのであろう。
 そして、失恋したばかりのエルであったが……。

「いかん……」

「まだ意識が半分飛んでいる!」

 ルイーゼの指摘通りにパーティー会場内の昨日と同じ場所で一人佇んでいたのだ。
 いくら女性が話しかけても全く答えず、目の焦点が合っておらず完全に目が死んでいた。
 あまりの異様さに話しかける女性がほとんどいないくらいだ。
 エルは今回のお見合い会のメインなのに、それが全く機能していないのだ。

「ヴェル。どうする?」

「今回はさすがに無理強いできない……。少し時間を置こう……」

 今回の大お見合い会によって、ファブレ伯爵家&バウマイスター伯爵家&ブライヒレーダー辺境伯家の家臣と職人の独身率は大幅に下がる事となる。
 だがその中に、エルは入っていない事だけは明記しておこうと思う。

「俺は、カルラさんよりも素晴らしい女性と結婚するんだぁーーー!」

 失恋から7日後、ようやく現実に戻ってきたエルが一人絶叫する。

「そういう夢のような高望みは、独身期間を長くしますわよ」

 そんなエルに、カタリーナが冷静にツッコミを入れていた。



 主人公一行紹介

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