様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 裁定案によってブロワ家から譲渡されたヘルタニア渓谷の中には、この魔物の領域ではない不毛な岩山地帯も含まれていたので、その中で俺達が行動しても何ら制約は無かった。

 ヘルタニア渓谷で足を踏み入れると岩製の魔物が出て来るエリアの外側の領域も下手に誰かが足を踏み入れないように侵入を推奨しない地域に認定されている。

 そのほとんどが碌に草さえ生えない岩山や荒野であり、そこでは鉱物資源なども採れないので、危険なヘルタニア渓谷の糊代という扱いになっていたからだ。

 今では、立ち入る人もいないらしい。

「こんな荒野では、山羊すら育たないだろうよ。農業は論外だし、前に山師が入って鉱物資源も探したらしいが……」

 ただの岩山しかなく、ヘルタニア渓谷のオマケとしてうちに譲渡されたそうだ。

「なら、ここが開放された時のために侵入者対策をしないといけませんね」

「ルーク伯爵様は、えらく自信があるんだな」

「でなければ、和解金を減らしてまでここを獲得しませんよ」

 俺は、ヴェルとセイとブランタークさんとカタリーナを連れて他の貴族領との境界線に岩製の塀を魔法で建て始める。

 『ここからはファブレ伯爵家の物なので、余所者は入るな!』という意思表示なわけだが、5人で岩山の岩などを材料に黙々と作業をしていると外で見ていた他の貴族領の住民達が怪訝な目を俺達を見ていた。

「『そんなに強く領有権を主張しなくても、そんな場所はいらないよ』というわけだな」

 いくら沢山の鉱床があっても、そこに入って採掘が出来なければ絵に描いた餅でしかない。
 ブロワ家側があっさりと領有権を譲渡したのには、和解金の減額の方が魅力的に見えるほど、ここが不良物件である事の証明でもあった。

「それにしても、いくら塀を作ってもなかなか終わりませんわね……」

 糊代部分も合わせて、約6万5千平方キロのヘルタニア渓谷を囲う塀なので時間がかかる。そこで5cmの魔晶石を大量導入して魔力回復を行いながら長さ100km、高さ20m、幅1mの広範囲土壁生成である。グレードグランドの時は、長さ15km、高さ20m、幅1mの範囲の土壁生成しかできなかったのだ。

「大量にありますわね」

 カタリーナが呆れた顔をしていた。

「修行にはなるからやってみようと思って」

「まあ、間違いではないな」

 大雑把に囲って領有権を主張するためだけの物であったが、ヘルタニア渓谷解放後には、鉱石泥棒を防ぐため本格的に工事や警戒態勢の強化が必要であろう。尚、使用した5cmの魔晶石は325個であり、375万の魔力容量を誇っている。

「本当に開放が可能なのですか?」

 一人や二人優秀な魔法使いがいて、広域上級魔法を放って数百の岩製の魔物を屠っても、次から次へと湧いてくるので侵入すら難しい事に気が付いたのだそうだ。

「そもそも、あのゴーレムらしき岩製の魔物達の発生原理が不明ですもの」

「それか・・・その説明は助っ人がきてからになる」

「誰が来るのかは、すぐに想像できましたわ……」

 数日後、塀を作る作業がほぼ終了したので本陣に戻ると、そこでは『強力な助っ人』が、エリーゼが淹れたお茶を飲みながらヘルタニア渓谷を眺めていた。

「噂には聞いていたが、不可思議な岩で出来た魔物が跳梁跋扈するヘルタニア渓谷であるか。しかも、某がこれの開放に加われるとは……」

 強力な助っ人とは、勿論導師の事であった。
 ヘルムート王国における『人型最終決戦兵器』の呼び名に相応しい彼に、開放作戦に参加して貰うのだ。

「お久しぶりです。導師」

「本当に、お久しぶりなのである!ファブレ伯爵とバウマイスター伯爵は、ブロワ辺境伯家との紛争で暴れられて良かったであろうが、某は退屈であった故に!」

「(退屈って……)紛争ですから、暇な時間も多かったですよ。それよりも頼んでいた物は持って来て貰えましたか?」

「陛下から許可を貰って持って来たのである。元々ファブレ伯爵たちが見付けた物であるし、既に目を通していた物なので問題ないのである」

「既に目を通していた物ですか?」

 カタリーナが首を傾げていたが、それはみんなで話した方が良いであろうと会議を招集していた。

 参加メンバーは、俺、ハクカ、セイ、ヴィルマ、リッド、ファラ、カルラ、導師、ブランタークさん、ヴェル、エル、エリーゼ、イーナ、ミリィ、ルイーゼ、カタリーナ、モーリッツ、トーマス、クラウス、リョウ兄さん。

「まずは、俺が和解金の減額を条件にヘルタニア渓谷を得たのにはわけがある」

 それは、あの『逆さ縛り殺し』を攻略した後の事であった。
 イシュルバーク伯爵の書斎で本を読んでいると、このヘルタニア渓谷の事も書いてあったのだ。

「当時はブロワ辺境伯家の物だから、あまり興味は無かったんだけど」

 もし開放を依頼されてもよほどの報酬でなければ受けなかったであろうし、その前に開放する気も無かった。
 実際に彼らは、俺に解放を依頼して来なかった。
 まず不可能だと思ったのであろう。
 頼んでもブライヒレーダー辺境伯が妨害すると思ったか、最初から開放する意志すら持っていなかった可能性もある。

「その後に実家への嫌がらせと不毛な紛争へのご招待だからな」

「ブロワ家では不良物件扱いのヘルタニア渓谷をルーク様に格安で譲渡させたのですね」

「そういう事」

「エリーゼは、このヘルタニア渓谷の岩製の魔物達が逆さ縛り殺しのゴーレム達に似ていると思わないか?」

「繁殖する以外はそうだと思います」

「ところが、『その見た目は繁殖』も逆さ縛り殺しにあったゴーレムの無人修理工房と似たようなシステムで運営されているわけだ」

「つまりは、このヘルタニア渓谷から盗掘を防ぐための防衛システムなのである!」

 導師が持って来たのは、一冊の古書であった。
 あの書斎にあった、イシュルバーク伯爵の『自分の作品目録』という奴である。

「遺跡とは違い、ヘルタニア渓谷は広い。しかも自然環境下にあるので、金属製のゴーレムでは経年劣化によって腐食する可能性があるのである!」

 無人工房でメンテしようにも、数が多いので時間がかかる。 
 劣化が激しい部品は交換しないといけないし、年数が経てば次第に防衛システムの稼動率が落ちる危険性があった。

「そこで、岩製の魔物型ゴーレムというわけです」

 稼動用の魔石に体はヘルタニア渓谷内ならどこにでもある岩で出来ている。
 鉱石が混じっているのは、立地上の偶然であるようだ。

「これなら数を揃えられるので、広域の防衛も可能になるのである!」

「はいはいっ! 導師」

「何かな? ルイーゼ嬢よ」

「魔石はどこから出て来たのかな? あとは、ゴーレムなら人工人格の結晶があるはずだと思う。エルが倒した時に、そんな物は無かったような……」

「確かに魔石と鉱石しか回収しなかったな」

 エルは、あの岩製の魔物を倒した時に残骸を調べていたが、人工人格の結晶は欠片すら見付かっていなかった。 

「その理由は簡単である。このヘルタニア渓谷には主がいて、それが全ての岩製のゴーレムを操作しているのである!」

 イシュルバーク伯爵の『自分の作品目録』によると、ヘルタニア渓谷の中心部にある割れ目の中に岩と鉱石で出来た巨大な岩製の竜『ロックギガントゴーレム』が鎮座しているらしい。

「逆に考えるとヘルタニア渓谷のゴーレムはロックギガントゴーレム一体しか無いとも言えるのである」

 岩製で全長が軽く百メートルを超えるロックギガントゴーレムの内部に、岩製の魔物を多数同時に操る巨大な人工人格の結晶が内蔵されている。

 外部からの侵入者を探知するとその規模に応じて迎撃を行い、数が減るとコントロールが可能な数までに回復を行なう。
 その様子が繁殖に見えるのは、イシュルバーク伯爵の天才ゆえの奇妙な拘りなのかもしれない。

「魔石はどうなのです?」

「ロックギガントゴーレムが鎮座しているポイントにヒントがあるのである!」

 巨大なミスリル鉱脈の上に、あえて鎮座させているのだと古書には記載されていた。

「ミスリルが生成されるのは、銀に大量の魔力が添加されるからだとヴェルから聞いたわ」

 イーナの言う通りで、ミスリルの鉱脈は魔力が濃い元は魔物の領域が多い。
 そこにある銀が、時間をかけて徐々に魔力を吸収しながらミスリルに変化するのだ。

「ロックギガントゴーレムは魔力が多いポイントに居座って、そこから人工的に魔石を精製している?」

「そういう事のようである!」

 岩製のゴーレムであったが、これは数が戦力みたいな物なので狼でも猪でも熊でもそう強さに違いはない。
 飛行可能な大鷹やワイバーンなども、飛べてそれなりに動きが似ているだけ、本物ほどは強くないのだ。

「でも、数は驚異的ですね」

「左様、イーナ嬢の言う通りに数が脅威なのである!」

 多少魔法に自信があって一日に数千体を破壊しても、次の日には既にその損害は回復している。

「一般兵士には、一体でも十分に脅威なのである!」

 万の軍勢で攻め込んで数千体を破壊しても、人間の軍勢の方は無傷というわけにもいかない。
 戦死・戦傷で数が減ったところに、また昨日と同じ数の軍勢に襲われる。
 これでは、開放に成功するはずがなかった。

「例の古書に、『ヘルタニア渓谷防衛ゴーレム装置』の性能が記載されているのである!」

 導師が開いた古書のとあるページには、こう記載されていた。
 ロックギガントゴーレムは、魔力が溜まっている渓谷の奥に鎮座していて動く事は出来ない。
 その巨体には、最大で十万体の岩製のゴーレムを制御する巨大な人工人格の結晶が内蔵されている。
 他にも魔力を溜めて岩製のゴーレムの核となる低品位の魔石を製造する装置も内蔵している。
 魔石の製造能力は、一日に五千個ほど。
 ゴーレムの数が減ると人工人格の結晶が減った分を補填しようとする。
 魔石をロックギガントゴーレムが体外に輩出し、それを外のゴーレム達が一旦飲み込んでから、自分を構成している岩を材料に小さなゴーレムを分裂させる。

 見た目には産んだようにも見えるが実際には分裂で、親と同じ形状に生まれた子は、周囲の岩などで体を大きくする。
 同じく見た目には、岩を食べているように見えるかもしれない。

「完全に自己完結している防衛システムなのか」

 だからこそ、今の今まで稼動していたのであろう。

「ようやく謎が解けたわけであるが、だからと言って王国ですぐに開放できるはずがないのである」

 ヘルタニア渓谷を開放する方法は、実はとても簡単ではある。
 ロックギガントゴーレムの体内に内臓されている巨大な人工人格の結晶を砕けばいい。
 この人工人格の結晶こそが、ロックギガントゴーレムと岩のゴーレム達を動かしている元なので、壊せばゴーレム達はただの岩塊になってしまうからだ。

「方法は簡単だなぁ。手段は物凄く困難だけど……」

 エルの言う通りで、最大十万体にも及ぶゴーレム達を突破し、ロックギガントゴーレムの元まで辿り着かなければいけなかったからだ。

「手段も困難ですけど、ヘルタニア渓谷は元はブロワ家の物でしたわよ」

 いくら王国内にあっても、ブロワ家が所有している物件に勝手に手を出すわけにはいかない。
 カタリーナの言う通りであったが、今回の紛争が大きな機会ではあった。
 もしブロワ家がヘルタニア渓谷の価値に気が付かないままであったら、裁定交渉の後半で王国が和解金を一部を負担すると言ってここを取り上げ、後で俺達に開放を依頼する可能性もあったのだから。

「陛下が苦笑いを浮かべていたのである。ファブレ伯爵にまんまと攫われたと」

「今から思えば、あの地下迷宮で死に掛けたのが役に立ったというわけですね。同じ開放するにも、自分の物になるのならやる気も出ますし」

 なので、今回は同じパーティーメンバーでも立場を変えている。
 ロックギガントゴーレムに突入する主要メンバーには、ファブレ伯爵が凄腕の冒険者達に依頼を出してる形にしてある。
 鉱山の利権を分けるのは面倒なので、成功報酬は、凄腕の冒険者に1人1000万セントと予め決めていた。

「難易度は高いが、破格の報酬だな」

 日本円にして10億円なので、まず滅多にある報酬ではない。

「ブランタークさんは、引き受けてくれますよね?」

「お館様から、受けるように言われているからな」

 解放後の事を考えるとブライヒレーダー辺境伯家のお抱え魔法使いであるブランタークさんは引き受けるしかない。
 この広大なヘルタニア渓谷の鉱山地帯をファブレ伯爵家のみで運営できるわけがないので、業務を委託する必要があるからだ。

「某も陛下並びに商・工務卿から密かに後押しを受けているのである」

 王国としては、ヘルタニア渓谷の利権を少しでも得たいわけだ。
 所有権は俺にあるが、採掘・警備・精製・輸送などの利権はある程度は欲しい。
 ファブレ伯爵家としても利権に王家を噛ませておけば、解放後にブロワ家に難癖つけられても良い用心棒になってくれる。
 完全に独占すればやっかみもあるので、皆で幸せになる方法を考えたというわけだ。
 そこにブロワ家が入っているのかどうかは、まだわからなかった。

「魔法を使って飛べない組は、ここで陽動か」

「そういう事」

 エル、イーナ、ミリィ、エリーゼは、あくまでも冒険者として陽動に参加して貰う。
 ハクカ、リッド、ファラ、ヴィルマ、セイはファブレ家臣団として陽動に参加してもらう。

「私がですか?」

「カルラさんを冒険者として参加させるのは不可能だしね。それなら一時的にファブレ家臣団の幹部として参加してもらった方がマシかなと思ってね」

「ブロワ辺境伯の家臣の人たちが文句言わないかな。ルークの妻にとか」

「出ないよ。何せ王宮に弓引いたという罪状があるから、王宮にその旨伝えたら喜んで命令書を作成してくれたからな。はい、これ」

 俺は、カルラさんに命令書を手渡した。
 捕虜であるカルラを一時的に解任しファブレ伯爵家家臣として従事せよと書かれていた。
 報酬は、紛争解決後に1000万セント支給である。

「ヘルタニア渓谷攻略が成功したら、また捕虜になると」

「そうだな。それでどうかな?」

「・・・受けます」

 ロックギガントゴーレムを破壊するメインメンバーは、空を飛んで一直線に目標に突入する。
 その間、地上の陽動組は境界線ギリギリを出たり入ったりして、地上の岩ゴーレム達を引き付ける役割を与えていた。

「ルーク様」

「何だ? ヴィルマ」

「陽動の数が少ない」

 資料によるとゴーレムは地上の物が八万体で、空を飛ぶ物が二万となっている。
 さすがに百名以下での陽動は厳しいとヴェルマは指摘していた。

「応援も呼んでいるから。その前に少し戦闘訓練だな」

 なるべく魔力を温存して、効率良く進路上のゴーレムを破壊する。
 そのためには、あのゴーレム達がどの程度の魔法で壊れるのかを確認したかった。
 陽動組もゴーレム達の強さを把握しておいた方が良い。
 そんな理由で、突入組は空から、陽動組は地上から境界線ギリギリでゴーレムを待ち、それらを倒す戦闘訓練を開始する。

「古書によれば、ロックギガントゴーレムの一日の魔石製造量は五千個! よって、それ以上に倒せば回復が追いつかないのである!」

「導師は、難しい事を言うなぁ……」

 エルは、剣の確認を行い。
 導師は早速最低限の『魔法障壁』を纏うと、わざと挑発して呼び寄せた大鷹型やワイバーン型の岩ゴーレムの群れに突入していた。

「確かに見た目だけでさほど強くないのである!」 

「相変わらず、すげえなぁ……」

 突入と同時に魔力を纏わせた拳と蹴りで次々とゴーレム達を粉砕し、少し離れた目標に向かっては小型の蛇型竜巻魔法を作ってそれを投げ付ける。
 小型の竜巻が命中すると標的のゴーレムがバラバラになり、砕けた破片が散弾のように周囲のゴーレム達も襲って破壊を広げていた。

「魔導機動甲冑は魔力の消費量の点で不採用であるが、竜ほど強くは無いのでなるべく効率良く進路上の物だけを破壊するのである!」

「あまり強力な魔法を放たずに、複数を巻き込むようにして数を減らせ」

「わかりました」

「わかりましたわ」

 俺とヴェルとセイとカタリーナは、ブランタークさんの指導で順番にワイバーン型のゴーレムに小さな竜巻の魔法をぶつけていた。
 命中するとゴーレムは砕けてしまい、破片が周囲のゴーレムに当たって被害を増やす。

「この魔法の連発でいいですかね?」

「他の系統の魔物もいないからな。それだけで十分だ。むしろ、魔力は極力温存しろ。ロックギガントゴーレムに辿り着いた時に魔力が空だと死ぬぞ。悪いが、その前に作戦中止命令を出すがな」

 飛べなくなれば地上のゴーレム達の犠牲になってしまうし、ロックギガントゴーレムを破壊する魔力も残しておかなければいけないからだ。

「ロックギガントゴーレムへの止めは、ルイーゼの嬢ちゃんに任せる。ただ失敗する可能性もあるから、そのための他の突入メンバーも魔力は極力温存だ」

 今回の作戦は、7人で突入を行なう。
 ルイーゼを囲って万全の状態でロックギガントゴーレムまで運び、彼女の渾身の一撃でロックギガントゴーレム胴体に内臓されてる巨大な人工人格の結晶を破壊するのだ。

 そうすれば、他のゴーレム達はその活動を停止させてしまう。
 先に、無理に全滅させる必要は無いというわけだ。

「ルイーゼさん。絶好調ですわね」

 カタリーナの視線の先では、ルイーゼがまるで八艘飛びのように飛行するゴーレム達の頭部を砕きながら空中を移動する姿が目撃されていた。

 生き物と同じで、ゴーレムは頭部を失うと地面に向かって落ちてしまう。
 無駄に魔力を使わないという点では、ルイーゼが一番優れていた。

「あとは……」

「今、気が付いた! 剣が秘蔵のオリハルコンソードなら傷一つ付かない!」

 カルラがいるのでハイテンションなエルは、地下迷宮攻略で得た金で買ったオリハルコン製の剣で、次々と狼型のゴーレム達を切り裂いていた。

 確かに、オリハルコン製の剣なら岩など豆腐のように簡単に切れるはず。

「無茶を言うなよ! そんな業物。よほどの一流冒険者か金持ちでもないと持てるか!」

「俺は持っていますけど」

「マジでか!」

「いいなぁ……」

「俺も持っているな」

 エルとリッドが実際にオリハルコン製の剣で戦い始めるとモーリッツは驚き、トーマスは羨ましそうな表情を浮かべていた。

「エルヴィン。カルラ様が応援しているから前に出ろ」

「本当ですか!」

「もうエルヴィンしか見えないように声援を送っているぞ」

「前に出ます!」

「カルラ様の注目は、エルヴィンが独占だな」

「あはははっ! 死ねい! 雑魚ゴーレム共が!」

「(モーリッツ。えげつねぇ……)」

 モーリッツやトーマス達から、カルラの件を出汁にされて常に前に出されていたが、エル自身の腕前とオリハルコン製の剣の性能によって一人前線で無双を続けていた。

「カルラさん。見ていてくれるかな?」

「大丈夫。物凄く注目されているから」

「頑張ります!」

 ただ、モーリッツもエルが嫌いなわけではないので、ある程度戦わせたら引っ込ませているようであった。

「エル。後ろで少し休んで来い。カルラさんが待っているから」

「はいっ!」

 エルは急ぎ後方に戻り、ハクカとコレットとエリーゼと一緒に負傷者の手当てをしているカルラの元にまるで犬のように戻っていく。

「エルヴィンさん。大丈夫ですか?」

「はい! 全然余裕です!」

 彼女からタオルと水の入ったコップを受け取りながら、楽しそうに休憩をしているようだ。

「モーリッツは、エルの使い方が上手いなぁ……」

 次にイーナの行方を捜すと彼女はあの懐かしい大技を披露していた。

「槍術大車輪!」

 あの空回りしていた頃のローデリヒが見せていた、強いのかどうか良くわからない槍術である。
 いつの間にイーナが会得したのかは知らなかったが、これが思った以上に役に立っているようだ。

「この技って、対多数用の技なのね。何となく想像はつくけど……」

 イーナの周囲には、多数のゴーレムの残骸が散乱していた。

「ヴィルマは、どこにいるのかな?」

 ヴィルマを探すと彼女は前に話していた鉄製の強弓を引いていた。
 矢も全て鉄で出来ているようで、放った矢は何体ものゴーレムを貫通して破壊していく。

「良くあんな弓を引けるよな……」

 俺は、彼女の怪力に改めて絶句していた。
 俺では、その鉄弓を引いてもビクともしないはずだ。

『三年くらい前に、いきつけの武器屋に飾りとして置いてあった』

 飾りで作ったので、主人も看板の代わりにしていて販売は考えていなかったらしい。

『引けるから売ってと言ったら、引けるわけがないと言われた』

 もし引けたら無料でやると言われたので、目の前で引いて手に入れたのだそうだ。

「人相手だと躊躇するけど、ゴーレム相手だから都合がいい」

 ただし、欠点もある。
 矢が通常の物よりも高価なので、すぐに使い切ってしまったのだ。

「戦争って、お金がかかる」

 ヴィルマはこの世の真理を嘆きながら武器を戦斧に交換し、それをを振り回して弓矢よりも多くのゴーレムを粉砕する。
 さすがは、ヴィルマと言った感じであろうか。

「ルークさん。そろそろ」

「ああ」

 人数的にも時間的にも、そろそろ限界であろう。
 カタリーナから告げられた俺は、少しだけ地上の陽動組を下げてからルイーゼを除く6人で巨大な魔力を使って巨大な竜巻魔法を完成させる。

「合体魔法ってか?」

「スピントルネード!」

「みなさん適当ですわね。ここは華麗に」

「テトラゴントルネード?」

「それですわ! ヴェンデリンさん。疑問形は止めてください!」

 6人による合同竜巻魔法によって、視界に見えていたゴーレム達は全て竜巻魔法によって砕かれ互いに衝突し、ただの岩の塊となって地面に落下していく。

 あとには、大量の岩塊や、鉱石、魔石などが残されていた。

「拾えぇーーー!」

 俺の上空からの命令で、下がっていた我が軍の人員は一斉にゴーレム達の残骸を捜索し始める。

「魔石が優先だ! 鉱石はあくまでもついで!」

 とにかく時間がない。
 すぐに、他から援軍が今以上の数で押し寄せるのは確実だからだ。

「ルーク! 今の倍以上の数のゴーレム軍団を発見! こちらに向かってくるよ!」

「全軍、境界線の外まで撤退!」

 目が良いルイーゼが次々と押し寄せるゴーレム達を見付けたので、俺はすぐに全軍に撤退命令を下す。
 こうして、実戦経験を積むために行なわれた戦闘の第一日目は無事に死者ゼロで終了するのであった。

「魔石の数は?」

「3千456個」

「こんな物かぁ……」

 討伐自体が目的ではなかったが、今日の成果を聞くとやはり軍勢による正攻法での攻略は難しいという事実が判明する。
 我が軍が少ないという理由もあるのだが、一日に3千体討伐してもそれ以上の回復能力があるから意味が無いというわけだ。
 それに、この3千体の半数以上は魔法で仕留めたという現実もある。

「魔石はどうするんだ?」

「魔道具の素材に使う」

「なるほど」

 俺の答えに、エルが納得する。
 赤き剣の素材にピッタリなのである。
 どうせ低品位の魔石なので他に使い道もそれほど無かったからだ。

「しかし、魔石の製造装置ねぇ……。 イシュルバーク伯爵って、天才なんだな」

「その天才のせいで、俺達は常に全力戦闘だけどな」

 低品位とはいえ、今では生成過程解明の糸口すら掴めていない魔石の製造装置を作ってしまったのだ。
 出来れば、無傷で鹵獲したいところである。

「あくまでも、出来たらだね」

「だよなぁ」

 ルイーゼの言う通りで、余計な欲をかいて失敗したら目も当てられない。
 まずは、ロックギガントゴーレムの破壊を優先すべきであろう。

「それで、いつまで戦闘訓練を続けるの?」

「お友達が到着するまで」

「はあ?」

 作戦では、俺達7人の魔法使いが突入してロックギガントゴーレムを破壊するわけだが、古書によればロックギガントゴーレム自体はあまり強くない。

 素材が岩なので、7人の内の誰かがある程度の魔力を保持して辿り着けば魔法で破壊可能である。

「問題は、ロックギガントゴーレムが操るゴーレム軍団をどうするかだな」

 全部破壊するなど現実的には不可能なので、最低限の障害だけ破壊してロックギガントゴーレムを目指すわけだ。

「俺達は飛んでいくので、空のゴーレム達だけ相手にすればいい。だけど、ロックギガントゴーレムの傍に地上組がワラワラと居ても破壊の邪魔になるからな。陽動役が必要になるわけだ」

「ファブレ伯爵家諸侯軍だけで?」

「全然足りないから、他にも援軍を頼んでいるよ。だから、導師にも冒険者として討伐依頼を受けて貰ったわけだし」

「それって、もしかして……」

 数日後、ヘルタニア渓谷の上空に大型魔導飛行船によって編成された、合計四隻からなる空中艦隊が浮かんでいた。
 ルイーゼは、その光景に絶句しているようだ。

「これって、ルート運行されている大型魔導飛行船の予備だよね?」

「そうだよ。これじゃないと、数が運べないし」

「経費かけてるねぇ……」

 どうせヘルタニア渓谷を開放すれば、色々と利権を求めてくるのだ。
 ならば、精々王国には力を貸して貰えばいい。

「どうせ金を出すのは俺だし、失敗してもそんなにダメージでもないから」

「ブロワ辺境伯家が、後方かく乱をした理由が良くわかるよ……」

 王国軍は経費をこちら持ちで訓練と実戦の経験が積めるし、参加する指揮官や兵士達はゴーレム相手とはいえ武功を積める。
 実際に、この話をエドガー軍務卿に持ちかけたらすぐに魔道飛行船に軍を積んで送って来ていた。

「エドガー軍務卿の命で参りました。司令官のアロイス・フォン・ヴィリ・アヒレスです」

 合計三千の兵を率いて来たアヒレス氏は、四十歳くらいに見える軍官僚タイプの真面目そうな人であった。
 法衣子爵家の当主で、アームストロング伯爵家とは縁戚関係にあるそうだ。

「なかなかに派手な作戦ですな。ところで……」

「あっ、はい。準備していますよ」

「さすがですな」

 アヒレス子爵が急いで軍を率いて来れたのは、食料や水などの準備をあまりしていないからである。
 港も無いので大型魔導飛行船もちゃんと降ろせず、兵士達は綱梯子で一人ずつ降りている。

「本当に急いで来たのですね」

「我々の仕事は陽動だと聞いていますし、物資は現地で準備されている。ならば、急ぎ開放してしまいましょう」

「なぜです?」

「このヘルタニア渓谷は、裁定案でファブレ伯爵に正式に譲渡されたとはいえ、もし我らの動きが知られてから時間が経てば余計な事を考える輩が増えますからな」

 自身も貴族であるアヒレス子爵は、ブロワ辺境伯家の誠意など微塵も信じていないらしい。
 なるべく早く終わらせて、既成事実化する事が重要だと述べていた。

「それもそうですね。あっそうだ」

 俺は、準備していた大量の物資をアヒレス子爵に渡す。
 昨日の内に、臨時の物資集積所を作ってそこに置いておいたのだ。

「物資が無いと軍は動けませんからな。それの準備がしてあれば、意外と無茶は利くのですよ」

 大型魔導飛行船から綱梯子で降りて来た三千人の兵士達は、すぐに隊ごとに纏まってから物資を取りに行っていた。
 急ぎ、陣地の設営や食事の準備を始めるためである。

「この境界線内に人が入るとゴーレム達が作動して、出ると襲ってこなくなる。事前に報告は受けていましたが、不思議な構造ですな。数日間、訓練がてら効率の良い陽動の方法を模索します」

 アヒレス子爵率いる王国軍三千人は、境界線を出たり入ったりを繰り返しながら、地上にいる岩ゴーレム達をおびき寄せたり、狩ったりを繰り返していた。

「深追いはしないように。数が増える前に、外に出るのを忘れるな」

 アームストロング家の面々やエドガー軍務卿とは違い、アヒレス子爵は冷静に軍の指揮を執る。
 既に死傷者も出ていたが、このくらいは想定の範囲内だとアヒレス子爵は言う。

「死ぬのが嫌なら、軍人や冒険者にはならない事ですな」

 アヒレス子爵は、淡々と本番に向けて陽動の訓練を行っていた。
 彼らの任務は、俺達が突入する時に地上のゴーレム達を引き付ける陽動が任務なのだ。

「それで、お味方の援軍は?」

「今日・明日中には揃いますよ」

 三千人の王国軍だけでは陽動には足りないわけで、他にも近場の貴族達に援軍を要請していた。

「ファブレ伯爵殿。助かる……」

 ヘルタニア渓谷に領地を接している貴族の大半は、今回の紛争でブロワ家に翻弄されて損害を出している。
 ブライヒレーダー辺境伯家側に寝返って損害の肩代わりをして貰ってはいるが、ブロワ家が裁定案を結んで支払わなければ借金は残ったまま。

 懐具合が厳しいので、軍を出して陽動任務に加わっていた。
 ファブレ伯爵家が出す謝礼を目当てに、傭兵の仕事を請けたというわけだ。

「うちは、本当に人手が無いからなぁ……」

「領地貴族で新興ですからな」

 ヘルタニア渓谷には、王国軍と五十家を超える貴族家が到着し、十個の軍団に分かれて陽動作戦の訓練を繰り返していた。
 境界線を越えてゴーレム達をおびき出し、ひと当てしてから外に逃げる。
 ゴーレムが姿を消すと、また線を越えて挑発を行なう。
 なるべく多くのゴーレム達を引き付ける方法を模索しながら、効率良く破壊する訓練も続けていた。
 期間は一週間にも及び、彼らに食料や娯楽品などを販売する商人なども姿を見せ始める。
 ヘルタニア渓谷は、一種の開放作戦特需に見舞われていた。



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