様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 初日の裁定交渉は一時間ほどで終了して俺達も自分の陣地へと戻ったのだが、その帰りにブライヒレーダー辺境伯から一つ忠告のような物を貰っていた。

『バウマイスター伯爵やファブレ伯爵は気を付けた方が良いですよ』

『若造なので、搦め手でいけると?』

『そんなところです』

 交渉でブロワ家側が支払う和解金のかなりの部分は、俺たちが捕らえた貴族や兵士達の身代金である。
 あの無謀な夜襲によって、ブロワ辺境伯本軍の精鋭と多くの幹部が捕らえられている。
 これも合わせるとその金額は莫大であり、二人の後継者候補達はまだ若い俺たちを単独で狙って和解金の額を減らそうとするであろうと。

『うちに支払う和解金の減額はかなり難しい。あなたたちなら、上手く誑かせば可能だと思っているかもしれません』

『成人直後の若造ですからね。ですが、あの後方かく乱の件を忘れていませんか?』

『だからですよ。それを非公式ながら謝罪して、代わりにある条件を出すのです』

『カルラさんか……』

 年齢も近いブロワ家の末の娘を俺かヴェルの妻に差し出す。
 ブロワ家内には『例の工作への謝罪を込めて』と言えば済むし、もしカルラが俺かヴェルの妻になると都合の良い点も浮かんでくる。

『未開地開発利権に加われます。妻の実家に融通しないのは変でしょう?』

『まあ確かに』

『俺は、彼女を妻にするつもりなんてありませんよ』

 悪い娘ではないのだが、その親族が悪過ぎた。
 そうでなくとも成立したばかりの領地なので、そういう輩の介入は防ぎたいのが本音であった。

『彼女も困惑するでしょう』

 弓を教えてくれるし、ハクカ達と一緒に食事の準備なども手伝ってくれていてカルラ自身は良い娘だと思うのだが、それと結婚とはまるで別であった。

 話すと人に気遣いなども出来る良い娘なのだが、逆に言うとそれがエルのような勘違い君を生む土壌になっている。
 どういうわけかエルは勝手に熱を上げているようであったが、あいつに惚れているわけではなく、大人の対応をしているようにも見えてしまうのだ。

『引っかからないでくださいね』

『勿論です』

『自信はないですが了解です』

『本当にお願いしますよ』

 ブライヒレーダー辺境伯と別れて、俺は自軍の陣地へと移動する。
 合計で百五十名ほどのブロワ辺境伯家交渉団は、ブライヒレーダー辺境伯本軍に近くに陣地を張っていた。
 これから毎日交渉なので近場を選んだのと、ここまで状況が悪化すると逆に自分達を襲撃や暗殺などしないであろうと読んでいると思われる。

 良い度胸だとは思うが、その判断力をもっと早く発揮して欲しかったものだ。
 俺は、情報を仕入れるためにハクカとヴィルマとセイと共に王都に瞬間移動した。
 王都にいるスズネに会いに行った。

「ルーク様・・・紛争でお忙しいのでは」

「忙しいのは変わらないけど、ようやく裁定交渉が始まりそうなんだ。エドガー軍務卿に会う前にスズネに会いに来たわけ」

「ありがとうございます。私も一緒に行っていいですか」

「構わないよ」

 俺の言葉でスズネが笑みを浮かべた。

「エドガー軍務卿」

「ああ・・・・たぶん知っているはずなんだよ」

 エドガー軍務卿の屋敷を訪問した。

「久しぶりだな。ファブレ伯爵、紛争していたと聞いたのだが、終わったのか」

「お久しぶりです。エドガー軍務卿。紛争は終わっておりませんが、お聞きしたことがあってきました。実はフィリップについてです」

「フィリップか? あいつは、優れた将軍候補だぞ」

 俺たちは、エドガー軍務卿と夕飯を食べながら情報を仕入れたのだが、彼の口からフィリップの悪口はあまり出てこなかった。

「ただ、領主となるとなぁ……」

 軍系の法衣貴族としてなら彼はとても上手くやれるそうだが、領地を統治するのは難しい。
 本人もそれは重々承知しているのだが、自分を次期領主にと望む外戚や家臣達の前で言うわけにはいかないので、表面上は異母弟と争っている風に見せるしかない。
 それが真相なのではないかとエドガー軍務卿は推察していた。

「それで、あの大事件ですか?」

「アレは、コドウィンが焦ってバカやらかしたんだろうな」

 コドウィンとは、最初の裁定の時に責任者になっていた初老の重臣の事であった。
 従士長で、娘がフィリップの正妻なのだそうだ。

「外戚として、ブロワ辺境伯家で権勢を振るうですか?」

「大貴族家の重臣にはありがちな夢だよな。それどころか、今の職を失いかねない大失敗を犯して、それを何とか誤魔化そうとしたんだろうな」

 それで、百名近い死者を出していれば意味が無い。
 いくら外戚でも、あの大失態では彼のキャリアはここで終了なわけだし、今は捕虜になっている。
 ブロワ家に戻れば処分されるであろうが、こちらがそれをどうこう言うつもりはなかった。

「王都にいると俺が積極的に仲介に入れとか無理を言うバカがいて困るよな。ここで、俺がフィリップを手助けなんてしたら総スカンだっての」

 領主になれなくて領地を出たとかなら再就職先の世話などで力を貸すが、この状況で下手に介入などしたら、自分にまで火の粉が降りかかってしまうからだ。

「デカい和解金になると思うが、払うしかないだろう。最悪、資産整理命令もあり得るだろうな。どうせ潰せないんだから、素直に受け入れるしかない」

 『資産整理命令』とは、簡単に言えば一度破産してしまう事である。
 負債が著しいが、王国としても潰すわけにはいかない貴族家に第三者の管財人、この場合は王国から派遣される財務系の法衣貴族を入れ、ある程度借金が消えるまでは予算の執行などに大きな制限がかかるのだ。

 この制度がある理由は、いきなり大物貴族が消えると現地が混乱するからである。
 甘いような気もするが、『資産整理命令』を受けたその地方の大物貴族など、ただの王国の飼い犬でしかなくなる。
 それに、これが適用されるという事は、『お前は、領主として無能だ』と言われたに等しいのだから。

「次期領主の座は、クリストフに譲るしかないだろう。勝手に自爆したんだから。義父である家臣の暴走にしても、それを抑えられなかった時点で同罪だ。俺が引き受けて、面倒見るのが一番良い手なんだがなぁ……」

 ただ、その手だとフィリップは良いのだが、他の彼を支持してきた家臣達は最悪失業の危機に見舞われるわけで、それを口にしようものなら明日にはフィリップの息子を『摘孫なので』と後継者に立てて騒がない保障はないとエドガー軍務卿は思っているようだ。

「みんな、頭を抱えているんだよ」

 ブロワ辺境伯家を潰して、そこを直轄地にするなり、他の貴族を転封するにしても暫くは混乱が避けられない。
 利益どころか持ち出しの方が多いはずなので、中央の大物法衣貴族ほど実は取り潰しが嫌だったりする。
 これが小物なら、躊躇無く取り潰しなのであろう。

「エドガー軍務卿は、領地貴族になりたいとか?」

「ないよ。統治できない」

 侯爵と辺境伯。
 呼び方は違うが、同じ階位を持つはずなのに法衣貴族しかいない侯爵の方が、財力も抱えている家臣の数でも負けている。
 なので転封を命じられても統治できるはずがないのだ。
 むしろ土着化した元家臣や兵士達に反抗されでもしたら、余計に混乱が広がる可能性があった。

「(物語みたいに主人公がいきなり大きな領地とか下賜されても無理だよな)」

 うちだって広大な未開地の開発なので、常に人材不足で困っているのだから。

「和解金が高くて嫌とか言うのなら、鉱山とか、税収とか差し押さえてしまえ」

「強硬な意見ですね」

「向こうが完全に悪いからな。俺達はある程度の規模のブロワ辺境伯家が残って、東部を統括してくれれば良いわけだ。多少の縮小と負債には文句は言わないよ」

「ブロワ辺境伯領の鉱山とか分かりませんけど」

「ちょっと待ってろ」

 エドガー軍務卿が執事に命令を下すと紙を持って来てくれた。

「これは・・・?地図ですか・・・見てもいいのですか?」

 エドガー軍務卿が見せてくれたのが軍用の地図だったからだ。

「ああ・・・軍のだが、貴族なんかだと大概持っている。お金さえ払えば領主なら問題なく入手できる」

「なら1冊は購入したほうがいいですね」

「ああ」

 地図を見ると、どれもブロワ辺境伯領にあったのだがひとつだけ飛び地があった。

「・・・これは?」

「これか。ヘルタニア渓谷だ」

「ヘルタニア渓谷って、あの?」

「ああ・・・有数な鉱石が取れるので有名なあれだ」

「でも確か」

「そこも間違ってない。ことごとく全滅している」

 こんな話をしたのだが、実はエドガー軍務卿からフィリップ本人に言わないで欲しいと言われていた。
 彼一人だけの問題ならとっとと継承権を放棄して終了だが、家臣達が絡んでいるので、下手な外部からの誘導は命取りになってしまうからだ。



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