様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「さすがに、軍勢は連れて来ませんでしたか」

「集めるにもお金がかかりますしね」

 翌日の朝。
 ブランタークさんの報告通りにブロワ辺境伯家は裁定交渉を行う使節団を送り込んでいた。
 占領地が増えたので、味方が駐留している最前線の草原に交渉用の大型テントを建てて待っていると、そこに百名ほどの護衛と共に使節団が到着する。

 だが、いきなり交渉は大きく躓く事となる。

 躓くというか、その入り口にも入れなかったのだ。

「フィリップ・フォン・ブロワである!」

「クリストフ・フォン・ブロワです」

 ある程度予想はしていたのだが、ブロワ家側のトップが二名存在しているせいで、ブライヒレーダー辺境伯がどちらと交渉すれば良いのか聞いたところ、双方が言い争いを始めてしまったのだ。

「長男である俺が交渉する!」

「何を言っているのですか! あなたの失態が、この状況を招いたのでしょう。私が交渉します!」

 二人だけでなく、双方が連れて来た家臣達も言い争いを始めてしまう。

「バカな戦争など企てたお前らに、交渉に出る資格などないわ! その前に、みんな捕虜になって随伴が小物ばかり。そんな面子では、ブライヒレーダー辺境伯様に失礼だろうが!」

「お前達こそ、最初は碌に反対もせずに予算や物資の準備をしたではないか! それが、戦況が不利になった途端に掌を返しやがって! 文弱の徒は黙っていろ!」

「剣を振るうしか脳の無いアホに交渉? 寝言は寝てから言え!」

「インテリぶるだけの低脳が! お前らの頭の良さは、見せ掛けだけだろうが!」

 色々と問題はあったのであろうが、ブロワ辺境伯が健在ならばこんな醜態は見せなかったのかもしれない。
 もう一つ問題もあって、交渉に参加できるのはどちらも二十名までである。
 ところが、フィリップもクリストフも両方が二十名の随伴を連れて来たので、互いに譲らずに争いになってしまったのだ。

「半々にしたら如何です?」

 さすがに見かねたブライヒレーダー辺境伯が助け船を出したのだが、それすら新たな争いの原因にしかならなかった。

「諸侯軍幹部の多くが捕虜になっているフィリップ様には、十名も使節団はいらないでしょう」

「事は軍事行動に関する裁定なんだぞ! 諸侯軍を纏めるフィリップ様の随伴を減らしてどうする! お前達こそ、書類にサインするしか能が無いんだ! 十名も随伴はいらないだろうが!」

 このまま放置しているといつまで経っても交渉が始まらないので、見かねたクナップシュタイン子爵が半分ずつの随伴を連れてテントに入るようにと勧告していた。

 彼はどちらの人数にもカウントされない王国から送られた中立の立場に立つ人物である。 
 彼を怒らせると交渉が不利になると感じた二人は、素直に十名ずつの随伴を連れてテントに入っていた。

「交渉の前に調停書のサインですが……」

「父は、五日前に亡くなりました。両者で連署すれば有効かと」

「そうですね」

 クリストフの返答にクナップシュタイン子爵は納得したような表情を浮かべていた。
 しかし、ようやくここに顔を出した理由が父親であるブロワ辺境伯が死んだからとか。

「それで、交渉の続きですが……」

 当然、前に出した裁定案などは全て無効である。
 何しろ、前提条件がまるで変わってしまったのだから。

「実は、今回ブロワ辺境伯家側で参軍した貴族達ですが……」

 ブロワ辺境伯家のあまりの無責任ぶりに寄親を俺たちに変える旨を宣言していた。
 紛争案件の和解金や身代金の交渉は終わっていないが、このまま紛争が長引くと領内の経済が破綻するので、先に解放して貰って領地に戻っていたのだ。

 それと紛争案件の状態も戦前に戻しているし、占領扱いなのでブロワ家側からの商隊などを入れるわけにもいかないので、通商なども南部から受け入れている。

「もはや条件が変わっているのです。その辺をご理解ください」

 戦前にはブロワ家の寄子達であった彼らは、今では南部の寄子になっている。
 紛争案件も全て戦前に戻しているし、捕虜になっていた貴族や兵士達も全て解放されている。
 つまり、東部の統括領域が大分北上してしまった事を意味していた。
 そして、更に残酷な現実を突きつけられる。

「とはいえ、侵略されたうちの寄子達は、和解金の権利を放棄したわけではありません。うちが、請求を一括して行う形にしたのです」

「一括してですか?」

「だってそうでしょう。この書類があるのですから」

 ブライヒレーダー辺境伯の手には、元ブロワ側の貴族に渡していた紛争で発生した損害は全てブロワ家で負担するという契約書が四十枚以上も握られていた。

「彼らは紛争相手に利権を戦前の状態に戻すために和解金を支払わないといけない。ですが、それはこの契約書によるとブロワ家が負担してくれると書いてあります。交渉の効率上、私が纏めて請求する方が宜しいでしょう」

 その前に、既にブライヒレーダー辺境伯が和解金を貴族達に前払いしているので、取り立てないと赤字になってしまうのだ。

「うちの寄子達が……」

 更にブロワ家側が救われない部分は、この和解金を支払っても四十家を超える貴族家が二度と寄子として機能しない点だ。
 金だけ損をして、自らの支配領域を減らしてしまう。
 ブロワ家は、間違いなく戦争に負けたという事になる。

「あとは、主にバウマイスター伯爵とファブレ伯爵が得た捕虜に対する身代金もです」

 こちらも既に解放してるし、預かっていた味方の貴族達には先に捕虜の管理費用を先払いしている。
 当然この分も合わせて、俺はブロワ辺境伯家に請求する事になっていた。

「加えて、ブロワ辺境伯軍の捕虜が一万とんで五百六十七名。かなりの東部領域と村や町なども占領状態です。これの返還にも和解金が必要ですね」

 最初の裁定交渉時には、クナップシュタイン子爵が四億セントと算定していた。
 だが、今の状態で同じ金額のはずがない。
 大幅な金額増となっているはずであった。

「いくらなのだ?」

 ようやく口を開いたフィリップがブライヒレーダー辺境伯に尋ねてくる。

「計算によりますと40億セントですね」

「バカな!」

 あまりの金額に二人の後継者候補達は絶句してしまう。
 だが、あの無謀な夜襲の前でも五億セントだったのだ。
 増額は仕方が無いであろう。

「いくら何でも高過ぎる!」

「ですが、あれだけの大失態です。増額はやむを得ないでしょう」

「特使殿は、ブライヒレーダー辺境伯の肩を持つのか!」

 クナップシュタイン子爵の意見にフィリップが噛み付いて来るが、彼は顔色一つ変えずに静かに反論していた。

「肩を持つですか? あなたの仰っている事の意味がわかりません。王国が黙認している『紛争』を無意味に長引かせ、最初の裁定が不利になると実戦用の武器を装備して夜襲を目論む。ハッキリと言わせて貰えば、王国はブロワ家への不信感を募らせています。後継者争いも結構ですが、せめて他の貴族に迷惑にならないようにしてください。それと、もしここで和解金無しで戦前の状態に戻せとか言うつもりなら、それはブロワ家側への一方的な肩入れになるので承知しかねます」

 淡々とした口調であったが、クナップシュタイン子爵の容赦ない反論に二人の後継者候補達は黙ってしまう。
 彼は、俺達が夜襲を防げなければ戦死していた可能性もあったので、余計に頭にきていたのであろう。

「多少の値引きは可能かと思いますが、他の案件では交渉しても無駄かと思います。寄子達の離脱も同じです。ブロワ家はあの契約書に従って彼らの損失を支払う義務がありますが、彼らがブロワ家の寄子に戻る事はありません」

 彼らが断れないのを利用して強硬占拠を行わせ、自分達は後継者争いに夢中で前線に顔すら出さなかったのだ。
 まさに自業自得としか言いようがない。

「今日は顔見せと条件の提示が目的でしたので、これで終わりにしましょうか?」

 和解金の減額交渉にしても、ブロワ家側での話し合いも必要であろう。
 ブライヒレーダー辺境伯が今日の交渉の打ち切りを宣言し、そのまま両者は解散するのであった。



Menu

メニューサンプル1

メニューサンプル2

開くメニュー

閉じるメニュー

  • アイテム
  • アイテム
  • アイテム
【メニュー編集】

編集にはIDが必要です