様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 ブライヒレーダー辺境伯は政務と軍務で疲労の極地にあったが、俺は陣地の馬避けの塹壕と土壁だけを作ったら、ファブレ領の人事採用に目を通し、陣狩り者たちには、政庁からの伝令などをしてもらっている。何せ彼らは、仕官が目的なので、どこの部署でも良さそうなのである。とはいえ、希望する部署がないとはいえ基本的に武力と体力に割り振っているのが陣狩り者たちである。そのため体力と武力を使う部署になってしまうのだ。
 トーマス達は占領地の軍政官の補佐で出向していたし、モーリッツ達は俺達の警護や諸侯軍の細々とした雑務などに没頭していた。
 ヴェルは、陣地の近くに立っている木に弓矢専用の的を設置していた。

「俺もやる!」

「じゃあ、俺もやろう」

「ルーク様、私もやりたい」

「ああ・・・そうだな。書類が終わったからやりにいこうか」

 五十メートルほどの位置から五本の矢を的に向けて放っていた。

「順番はクジで決めよう」

 木の棒を使った簡単なクジで射る順番を決め、最初はエルが五本の矢を放つ。

「まあまあだな」

 五本全部が中心点から三十センチ以内に納まっていたので、エルは弓の腕前にも優れているという証拠であった。

「というか、このくらい出来ないと田舎貴族のガキは肉が食えない」

 子供が弓で獲る獲物はウサギが多いので、このくらいの精度が無いと肉が食べられないというわけだ。

「何羽か獲らないと兄貴達に肉を奪われてしまうからな」

 獲った獲物も、まずは父親や兄達が先に食べてしまう。
 彼らも狩りをするが必ず成果があるわけでもなく、ボウズならエルから奪ってしまうのだそうだ。
 だから、エルは多くの獲物を獲らないと自分で口に出来ない。

「次は、ヴィルマなのか?」

「弓は習っている」

 アスガハン準男爵から、弓の教師も付いていたそうだ。
 ある程度色々な武器をこなせる方が潰しが利くという理由もあり、軍系貴族家同士では教師役を融通し合う事が多いらしい。

「ヴィルマが弓ねえ……。大丈夫か?」

 今まで使っているのを見た事が無かったし、彼女のイメージはパワーファイターその物であった。
 エルからすれば、正確に弓を引くヴィルマというイメージがし難いのであろう。

「上手じゃないけど、下手でも無い」

 そう言いながら立て続けに五本の矢を放つと、それらは全て的には刺さっていた。
 エルよりは分布が広いが、そう俺と実力に違いは無いようだ。

「上手いな」

「でも、本当は自分専用の弓を使う」

「何か想像できたわ……」

 エルに続き、俺もすぐに想像がついていた。
 ヴィルマ専用の弓矢とは、きっと普通の人では引けないような豪弓で、全て鉄で出来た矢を放つとかするのであろう。

「今回は使わなかった」

「人に命中すると貫通しそうだな」

「フルプレートも普通に貫通する」

 豪弓をヴィルマの怪力で引けば、そういう事になるのであろう。
 本当の戦争ならば良い武器なのであろうが、今回のような『紛争』では多くの人死にが出るので使用しなかったそうだ。

「次は、ルーク様の番」

「ああ……」

 5本は的に命中していた。
 ただし、ヴィルマと同じぐらいだ。

「こんなものか」

「お上手ですね」

 突然、後ろから声がしたので振り返ると、そこにはブライヒレーダー辺境伯が立っていた。
 相変わらず目には物凄い隈が浮かんでいて、気分転換に弓勝負を覗きに来たのであろう。

「ブライヒレーダー辺境伯様もやってみますか?」

「いえ。遠慮しておきましょう」

 刺さった矢を的から回収してきたイーナの誘いをブライヒレーダー辺境伯は断っていた。

「私の腕前では、一本も当たりませんし」

「そうなんですか?」

「はい。私に弓を教えた教師はこう言いました『アマデウス様は、人が周囲にいる時には弓を引くのを控えた方がよろしいかと……』と」

「凄いですね。その教師の人」

「一応、親切で言ってくれたみたいですよ。誤射で怪我人や死人が出ると大変ですから」

 そういえば、ブライヒレーダー辺境伯は武芸全般で才能がマイナスだと評価されていた。
 辺境伯だから家臣に任せれば良いわけなので、特に問題でも無いわけだ。

「私よりもカルラさんの腕前が見たいですね」

「あの、本当に宜しいのでしょうか?」

 一番の親玉が顔を見せたので、本当に捕虜が弓を射って良いのか気になったのであろう。

「ここで、私やバウマイスター伯爵やファブレ伯爵に矢など射っても何の得にもならないどころか、余計にブロワ家の立場が悪くなりますよ」

「それもそうですね」

 ブライヒレーダー辺境伯からの返答に納得した彼女は、俺から受け取った弓に矢を番えて集中を始める。

「良い弓ですね」

「田舎貴族の嗜みですよ」

「では……」

 再び集中を始めたカルラが矢を放つと、それはピタリと的のど真ん中に刺さっていた。
 あまりの神業に全員が黙り込んでしまう。

「真ん中に近い位置なら、上手い人ならある程度は当たる。でも、ど真ん中は……」

 続けて二射目を射るとその矢もど真ん中に突き刺さり、前に刺さっていた矢が弾かれて的から地面に落ちていた。

「惜しいですね」

「惜しい?」

 始めは彼女が言っている事の意味がわからなかったのだが、それは第五射目で判明する事になる。
 第三射目も第四射目も、ど真ん中に刺さって前に刺さっていた矢を弾き飛ばしていたのだが、最後の第五射目の矢は第四射の矢尻の真ん中に突き刺さり、真っ二つに割れて地面に落ちてしまう。

「ええと、これは?」

「ど真ん中に当たるのは当たり前で、前に射った矢を弾き落とすのではなくて、真っ二つに切り裂いてから落とすのが一番良い結果なのだと」

 田舎領地で弓を嗜んでいるから上手などと言っていた俺達など、子供に見えるくらいの名人ぶりであった。

「凄いなぁ。俺、弓を教えて貰おうかな」

 俺がカルラに一番感じた感情は、『尊敬の念』であった。
 自分も子供の頃から懸命に弓を練習していたのだが、やはり魔法と武芸と3足の草鞋だったりしたせいもあって、『中途半端に上手い』くらいの評価しか受けていない。
 なので、あの武芸大会で準優勝という実力を持つ彼女を純粋に凄いと感じたのだ。

「でも、準優勝なのに仕官先が無いのね?」

「女性ですからね……」

 それでも結婚前までは、式典要員で武芸に優れた貴族の娘の就職先はあったりする。
 本当に二〜三年間だけで嫁入り修行の一環と見なされるのだが、相応の実力がないと入れては貰えない狭い道だ。
 カルラなら仕官できそうな気がするが、彼女は認知はされているが隠されている娘であった。
 自ら積極的に仕官先を求めるなどは出来なかったのであろう。

「二度目の裁定の使者が来るまで暇だし、カルラさんから弓でも習おうかな」

「それは良いけど」

「良いけど?」

「随分と綺麗な人だからって、奥さんにしようとか考えちゃ駄目よ」

「その気もないし、立場的に無理だろうが……」

 信用が無いのか?

 ヴェルは、イーナから釘を刺されていた。
 ここ1年余りでヴェルの嫁候補が増えたのが原因かもしれないな。
 俺もアスナやヴィルマとセイと増えたので人のことは言えないか。 
 そしてもう一人、彼女の弓の腕に感心している人物がいた。

「カルラ様かぁ……。弓を射る姿が美しい……」

 エルがぼーーーっとした表情で、カルラが弓を射る様子を眺めていたのだ。

「あのね。ヴェル。エルには、絶対に他の感情もあるから」

「みたいだねぇ……」

「カルラ様は、素晴らしい弓の腕前ですね。俺なんて、足元にも及ばないですよ」

「エルヴィンさんも、とてもお上手でしたよ」

「いやあ。それほどでも」

 呆けから回復したエルは、無駄にさわやかな笑顔を浮かべながらカルラに話しかけ、彼女に弓の腕前を褒められて満更でもない様子だ。



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