様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「なぜ協定書にサインを行う人を決めるように言ったら、戦争になるのか理解できない。クナップシュタイン子爵の勧告には、彼らを挑発する何かが含まれていたとか?」

「ただ単に追い込まれた故の暴走と言いますか……」

「ブライヒレーダー辺境伯が、追い込み過ぎたとか?」

「あれで追い込み過ぎたのなら、裁定などする意味がありませんよ」

 その日の夜中、俺は突然モーリッツに起こされていた。
 何でもブロワ辺境伯本軍に動きがあり、全軍に緊急対応指令が出たそうだ。
 モーリッツに軍を整えるように命令を出してから、急ぎブライヒレーダー辺境伯の元に行くと、そこでは軍の指揮官達が厳しい表情で伝令達に指令を出して戦の準備を進めていた。

「数十年前の悪夢再びですか」

 魔法の袋から出した望遠鏡でブロワ辺境伯本軍の様子を探ると彼らは大量の松明を炊きながら軍の隊列を整えていた。
 多分、それが終われば全軍で突撃を開始するのであろう。

「奇襲でなくて良かったですね」

「うちも向こうも、そこまでの練度はありませんから」

 音も立てず、火もほとんど炊かずに夜中に軍の隊列を整え、相手に気が付かれないように突撃を行い、同士討ちをしないようにする。
 この二百年で、そこまでの練度を持った軍はこの大陸から消えたそうだ。
 精鋭を訓練するにも維持するにも、とてつもないお金と手間がかかるからだ。

「その代わりに今まで見えていなかった予備がいたようですね」

 後方にまだ軍勢を隠していたようで、ブロワ家本軍は合計で一万人ほどにまで増えているらしい。
 数が倍近くになったので、先制すれば勝てると思っているのであろう。

「その代わりに、とんでもない犠牲が出ますけど」

 もしここでブロワ辺境伯側が勝ったとしても、とんでもない禍根を残すはずだ。
 本当に戦争になってしまえば、もう王宮も介入を躊躇わないであろう。

「ブロワ家の連中、何を考えているんだ?」

「誤魔化す事でしょうか?」

 ブライヒレーダー辺境伯は、交渉で代表代理を務めていた諸侯軍の幹部が企んだのではないかと予想していた。

「貴族同士の戦争ですから、勝てば一定の評価は得られるかと」

「その前に損害が多過ぎて総スカンになりますよ。まだ何もしない方が……」

「ですから、このまま何もしないと彼らは破滅なのです」

 どの程度長男フィリップの意向を受けて兵を出しているのかは知らないが、ボロ負けしたので不利な裁定案を受け入れる未来は避けられないであろう。

 そうなれば、軍を率いている彼らは揃って失脚である。
 なぜなら、後継者は次男クリストフに決定してしまうからだ。
 このまま何もしないで失脚するのなら、いくら犠牲が出ても万が一の可能性に賭ける。
 どうせ、死ぬのは他人なのだからと。
 随分と無責任な考え方であったが、人は特権を失いたく無いもの。
 陪臣でもブロワ辺境伯家ほどの大貴族だと、下手な法衣男爵などよりもよほど力を持っている。
 それを失ってしまうかどうかの瀬戸際なので、無理をした可能性は高かった。

「軍人って、そんなに血の気が多いんですか?」

「血の気というよりは、追い込まれたが故の無謀な強硬策ですかね?」

 先に奇襲をした挙句に、勝手に兵を出して紛争を招いたのに、それで負けそうになるとルールすら無視して本当の戦争を企む。
 恐ろしいほどに、自分勝手な連中であった。

「戦争は論外ですけど、私も今日はこちらで泊っているのですがね。巻き添えで死んでも構わないと思っているのでしょうか?」

 クナップシュタイン子爵も困惑した表情を崩せないでいた。
 中立の特使なので、彼は双方の陣営に一日交代で宿泊をしていたからだ。

「クナップシュタイン子爵が殉職されると、もう少し自分達を贔屓してくれる特使に代わってくれると期待しているのでは?」

「面白い冗談ですね」

 クスリとも笑わずに、クナップシュタイン子爵はヴェルのジョークに反応していた。
 王宮から派遣された特使が巻き添えで戦死などすれば、それは王国すら敵に回してしまうからだ。

「それで、どうしましょうか?」

「攻撃を防ぎつつ、援軍待ちですね。もう援軍の要請は出してあります」

 今から撤退をしようにも兵の練度の関係でそれは難しい。
 背中を見せたところを攻撃されれば、大敗は必至だからだ。
 一糸乱れぬ退却など不可能なので、防戦して援軍を待つしかなかった。

「ただ、私の指揮能力ですとねぇ……」

 こう言っては悪いが、ブライヒレーダー辺境伯は戦が上手ではない。
 後方支援などの軍政面は得意なのだが、軍の指揮能力が大分低いのだ。
 当然家臣頼りになるわけだが、数の関係で支えきれるかは微妙だと答えていた。

「なら、やるしかないですね」

 もし戦争になれば、うちの合計百人以下の諸侯軍などひと揉みにされてしまう可能性がある。
 女性も複数いるし、このまま蹂躙されるわけにはいかないのだ。

「トーマス」

「は」

「ハクカ、ヴィルマ、ファラ、セイ、ミュウ、キャロルを連れ、魔導飛行船に避難させてくれ」

「それは・・・!」

「もしもを考えるなら最善だ」

「もしもなんだよね」

「・・あ・・ああ」

 ハクカの言葉に頷く。
 いやな予感がする。

「私も残る」

「しかし」

「あくまでもしもだよね」

 俺は、ハクカの瞳をまっすぐに見る。
 意見を曲げそうにないので、俺が折れることになった。
 俺は、ハクカを抱きしめた。

「魔導飛行船の中で後方待機だ・・・負傷者がいたら治療の手伝いを頼む」

「・・・・うん」

 ハクカが頷いた。

「ミュウもだ」

「治療と護衛でいいんだよね」

「ああ」

「ファラ」

「分かったわ」

 ファラにハクカとミュウの護衛を任せた。

「所で、魔法で吹き飛ばすのですか?」

「いえ、エリアスタンで戦闘不能にします」

「難しくないですか?」

 一万人もの広範囲に渡って押し寄せる敵軍をエリアスタンで全軍戦闘不能にする。
 俺の魔力を全部使っても、まず不可能であろう。

「そこで、工夫するのです」

 まずは、ブライヒレーダー辺境伯本軍の最前列から二十メートルほど前進し、草原にドカっと腰を下ろし座禅を組む。
 魔法の袋から、魔晶石を全て取り出して両手に握れるだけ握り、残りは全て組んだ足の上に乗せる。

「魔力全開ってか」

「ブランタークさんとルークも協力してください」

「そうだな。それしかないよな」

「分かった」

 ブランタークさんも俺のすぐ横で座禅を組み、やはり大量に準備していた魔晶石を両手に持ち、余った分を組んだ足の上に載せていた。

「それだけの量の魔晶石も用いて、広範囲のエリアスタンですか?」

 俺とヴェルとブランタークさんの様子を見に来たカタリーナは、その無謀そうな作戦を知り、顔を引き攣らせていた。

「こうなったら、伯爵様たちの魔力の量に賭けるしかないな。俺は、自分で出来そうな範囲だけ担当な。暴風殿はどうする?」

「何を聞かれるのかと思えば。当然、参加いたしますわ」

 少し恐れもあったようだが、自分なりに計算して勝算有りと思ったのであろう。
 俺を挟んで、ブランタークさんとヴェルの中間に座禅を組んで座る。
 更に自分の魔法の袋から大量の魔晶石を取り出していた。

「魔力のコントロールが難しいですわね」

「無理そうなら、辞退しても良いぞ」

「せっかく受けた特訓ですので、成果は確認したいですわ」

 広範囲にエリアスタンを発動させるわけだが、4人で被らないように範囲を分担する必要があるし、体内の魔力が一気に消費されるので、その補填を上手く意識してコントロールしないといけない。

 せっかく大量の魔晶石があるので、全部使い切るのが最大の目標であった。
 体内から魔力が完全に尽きれば気絶するので、その前に意識して次々と準備した魔晶石から魔力を吸収するのだ。
 もしコンマ一秒でも対応が遅れれば、魔晶石の魔力を吸い上げる前に気絶する。
 もしそうなれば、それほど広い範囲にエリアスタンがかけられない。
 前に出ている俺達は突撃する敵軍に押し潰されるであろうし、本格的な戦闘で死傷者も膨大に出るであろう。

「体内の魔力を細く長く搾って使うのではなく、体から一気に無くなるのをなるべく素早く持っている魔晶石から次々に吸い上げるんだ」

 4人で持っている魔晶石の数は、合計で40個ほどだ。
 ブランタークさんの計算によると全ての魔力を気絶する前に全て使い切れれば、全員を戦闘不能には出来るそうだ。

「担当は……」

 時間が無いので大雑把な説明であったが、ブランタークさんとカタリーナは端っこの五分の一ほど。
 最後に俺とヴェルは、中心部の大半が担当になっていた。

「残念ながら、魔力の量の関係で俺とカタリーナの嬢ちゃんはこのくらいが限界なんだよ」

「ですわね」

 俺たちがしくじると、そのまま作戦の失敗に繋がる。
 もし二人が失敗しても、軍勢の数では上回れるので援軍が来るまで十分に持ちこたえられるからだ。

「出来れば4人共成功して、犠牲は減らしたいものですわ」 

「失敗したら、他から文句を言われようとヴェル達を担いで逃げるぞ」

 広域エリアスタンの準備を終える。

「他の魔法使いの人たちは?」

「あいつらは他に仕事があるから」

 ブランタークさんと話していると前方数百メートル手前から地響きが鳴り響いていた。
 先頭には、馬に乗った騎士たちやさらに後方に駆け足の歩兵たちが、こちらを蹂躙しようと突撃していたからだ。

「本気で戦をしてどうするんだか」

「勝てば何とかなると思っているのでしょうな」

「広範囲エリアスタンの発動は、距離が百メートル以内になってからだ」

 恐ろしいほどの地響きが徐々に増すなか、俺達は魔法をかけるタイミングを探っていた。
 数秒後、敵軍から大量の弓が飛んできてこちらにも迫って来る。

「他の魔法使いは、味方を矢の雨から守るので精一杯だ。俺達も『魔法障壁』に張る魔力を惜しい。分かったか、嬢ちゃんたち」

「分かりました」

「はいっ、ヴェルは魔法に集中」

「ここからは私たちの仕事」

 一番前にいる俺達にも平等に矢が降ってくるので、イーナ、ルイーゼ、ヴィルマ、リッド、キャロル、ミスミ、ミリィはそれを防ぐのが仕事である。

「夕立みたいね」

「当たると、血まみれだけどね」

 俺達の前に立った7人は、リッドとミスミとミリィは、剣で矢を落とし、ルイーゼも拳と蹴りで矢を落とし、イーナとキャロルが槍を大車輪のように振り回した。
 ヴィルマは、斧を振り回すごとに風を起こし、俺達にあたりそうな矢の軌道を風で全て逸らした。

「ブロワ辺境伯軍、弓部隊の練度が低い」

「ちょっ! 演習用の矢じゃねえぞ!」

「本気で、私達を殲滅するつもりなのね……」

 更にルールを無視して、連中は本物の武器を使用していた。
 もうこうなると完全に箍が外れているとしか言いようがない。
 当然、味方側からも大量に矢が放たれ、当たって落馬している騎士もいるようだ。

「坊主!ルーク! 嬢ちゃん!」

「行くぞ!」

「エリアスタン!」

 俺達はそれぞれに分担したエリアに向けて、エリアスタンの魔法を発動させる。
 広大な範囲を指定しているので、自分でもわかるほどに魔力が消耗していく。
 急ぎ、意識して持っている魔晶石から魔力を吸い上げていく。

 一つ、二つ、三つと魔晶石が瞬時に空となり、最後の一つが空になった瞬間、五十メートル前まで迫っていた敵軍が一斉に地面に将棋倒しとなった。

 騎士などは馬ごとその場に倒れ、歩兵なども同様なようだ。

「上手くいったか?」

 『頼む』と言い切る前に、俺はそのまま完全に意識を失ってしまうのであった。



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